魂を狩る女(脚本)
〇宇宙空間
この世の法則をひとつお教えします
増えて欲しいものは簡単に増やせないけれど、逆に増えて欲しくないものは簡単に増やせます
皇子「例えばお金はどうでしょう」
客1「お金?」
皇子「貯金は増えてほしくて頑張って働けど、簡単には増えてくれません。違いますか?」
客1「いえ、その通りです」
皇子「では、借金はどうでしょう?借金はあなたにとって望ましいものですか?」
客1「まさか!?ない方がいいに決まっています」
客1「あっ!! 借金は増やそうと思えば、簡単に増やせます」
皇子「はい。ひたすら怠けて、遊んで暮らせば、簡単に借金は増やせますよね」
客1「はい。確かに」
皇子「それがこの世の法則のひとつです。どう思いますか?」
客1「どうと言われましても・・・。なんとお答えすればよいか・・・」
皇子「そうですね。例えば、その法則が逆転できるとしたら、どうです?」
客1「逆転!?」
皇子「つまりは増えて欲しいものが簡単に増やせるとしたら・・・」
客1「そのほうがいいに決まっています!!」
皇子「ではその法則を逆転できるとしたら、あなたは何を捧げられますか?」
客1「あの・・・捧げるというのは・・・」
皇子「この世の法則を捻じ曲げるわけです。当然、その代償として、何かを捧げなければ理に合わないでしょう」
客1「ああ、なるほど・・・」
皇子「たとえば命はどうでしょう?」
客1「絶対にダメです。せっかく、思い通りになってもそれじゃ、意味がありません」
皇子「その通りです。では、命とまでは言いませんが、数年の寿命はいかがでしょう」
客1「うーん。数年の寿命かあ・・・。少し、寿命が削られるにしても、増えて欲しいものが思い通りに増えるんですよね?」
客1「それだったらいいかもしれません」
皇子「では伺います。思い通りに人生が運ばれたとき、あなたはもっと生きていたいと思いませんか?」
客1「そりゃ、モチロン」
皇子「あなたはそのとき、数年の寿命を捧げたことを後悔しませんか?」
客1「あっ!!」
皇子「それもまたこの世の法則です。手に入れれば、もっと欲が出る」
客1「では、何を捧げればよいのでしょう?」
皇子「もし、何も捧げずに、この法則を逆転できるとしたら・・・」
客1「そりゃ、願ったり叶ったりです」
客1「・・・」
美依「皇子様、狩れました」
皇子「ありがとう。じゃあ、初期化しておいて」
「畏まりました。あまり質のよい要れ物に思えませんが・・・」
皇子「初期化すれば大丈夫でしょう」
美依「なにか追加しますか?」
皇子「そうね。怠惰に対する耐性を足しておいてもらえるかしら」
美依「畏まりました。プログラムT-5ですね」
皇子「そうね」
美依「では早速。魂を待っている者が順番待ちしておりますので、アップデートでき次第、憑依させます」
皇子「今日はこれでいくつ狩れたの?」
美依「3つでございます」
皇子「順番待ちは?」
美依「あと20ございます」
皇子「なかなか追いつかないものね・・・」
美依「欲しいものは簡単に増やせない。それがこの世の法則でございましょう」
皇子「あら、美依。 童の魂を奪うおつもり?」
美依「滅相もございません。私はあなたから命を授かったもの。生涯、あなたにお尽くし致します」
皇子「ありがとう」
美依「では、私は作業にとりかかります」
生きるとはなかなかに難しいものです。油断していると、どこかで魂が狩られてしまうかもしれません
どうか健やかに。そして心は強く
皇子さまと黒猫美依とのコンビが神秘的でいいですね。皇子との問答で、そんな法則があるとも思えないし、あるとしても逆転しなくてもいいというひねくれた客が来たらどういう対応をするのかちょっと興味があります。
皇子さんの納得のご高説、うんうんと頷きながら読んでいたらまさかの展開に!
この法則って、当たり前だけどしっかり認識している人が少ないことに気付かされました。まぁ、一部の男性が「髪の毛」で、一部の女性が「体重」で深く理解しているようですがw
本当にその通りだなぁと共感しました。
増えて欲しいものは増えないですよね…。
世の中上手くできているのか、それともそういう運命なのか。