君に贈る

市丸あや

君に贈る(脚本)

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〇狭い畳部屋
棗藤次「・・・なあ、絢音(あやね)」
笠原絢音「な、なあに? 藤次(とうじ)さん?」
  ・・・それは、いつものように藤次の自宅で夕飯を作り、2人で仲良く食べていた時だった。
  いきなり改まった表情で自分に話しかけてきた恋人に、絢音は目を丸くする。
棗藤次「・・・ワシら、こうして互いの家行き来して寝泊まりして、もう丸一年やな」
笠原絢音「そ、そうね! 藤次さんと半同棲し始めて、もうすぐ丸一年ね❤︎」
棗藤次「付き合い期間入れたら、ぼちぼち四年か・・・ そうか・・・」
笠原絢音「な、なに? その、改まって・・・」

〇狭い畳部屋
  ・・・自分の態度にあまりにも戸惑う絢音に、藤次はゆっくりと、今日職場であった事を伝える。
棗藤次「・・・ワシな。 見合いの話来てん」
笠原絢音「えっ!!?」
棗藤次「ワシ、もう45やろ? せやから部長が結婚せえて。 いつまでも独り身でフラフラしとったら、検察官としてだらしがないて・・・」
笠原絢音「けっ、結婚て・・・ 第一、藤次さん私と・・・」
棗藤次「こないな中途半端な関係、大っぴらに職場に言えんくて、ワシ、お前の事職場では隠しとったんや・・・ せやから・・・」
笠原絢音「分かった」
棗藤次「絢音?!」
笠原絢音「分かった。 藤次さんにとって、私は恥ずかしい存在なのね? なら、出てく。 荷物は適当に捨てて。 さよなら・・・」
棗藤次「お、おい絢音!!」
  そうして泣きながら部屋を飛び出して行く恋人を、藤次は慌てて追いかける。

〇住宅地の坂道
笠原絢音「うっ、うっ、 藤次さん・・・ 藤次さん・・・」
  離れたくない。
  側にいたい。
  けど、藤次にとって自分は、職場で話せない程、後ろめたくて疎ましい存在なのかと思うと、涙が溢れてきて・・・
  トボトボと泣きじゃくりながら、自宅へ帰る為タクシーを拾おうとした時だった。
棗藤次「絢音!!!」
笠原絢音「と、藤次さん・・・」
  通りに出ようとしたら、藤次が着の身着のままで自分を追いかけてきて、手首を掴む。
笠原絢音「な、なに? もう、話すことなんてないじゃない。 お見合いして立派な検察官になればいいじゃない。 私なんて、邪魔でしょ?」
棗藤次「阿呆!! 誰がそんなん言うた!! ワシが惚れとんのはお前1人や!!」
笠原絢音「でもお見合いするんでしょ?! 私なんて邪魔で恥ずかしい存在なんでしょ?! もう離して!! みんな見てる!!」
  そう叫んだ瞬間だった。
  藤次の大きな腕が、自分を優しく包んだのは・・・

〇住宅地の坂道
笠原絢音「と、藤次・・・さん?」
棗藤次「好きや」
笠原絢音「でも、お見合い・・・」
棗藤次「最後まで話聞け。  せや、先ずは、コレやな」
笠原絢音「?」
  そうして、藤次はポケットから何かを取り出すと、戸惑う自分の左手を取り、それを嵌める。
笠原絢音「と、藤次さん? これ・・・」
  左手の薬指に輝くダイヤモンドの指輪と藤次の顔を交互に見ていると、彼は照れ臭そうに口を開く。
棗藤次「見合い・・・な。断ってん。 したら部長が、誰か付き合うてる人間おるんかて聞いてきたから、お前の事、話した」
笠原絢音「で、でも・・・私は、恥ずかしい、隠したい女なんでしょ?」
棗藤次「早とちりもここまで来るとホンマ可愛い・・・ ワシが恥ずかしい思うてたのは、疚しいからやないわ。冷やかされるのが嫌やってん」
  言いながら、藤次は絢音の左手を取ったまま、人目も憚らずその場に跪く。
笠原絢音「と、藤次さん! み、みんな見てる・・・」
棗藤次「かまへん。 せやから、ワシ・・・いや、俺、言おうて決意したんや。 部長にも、ケジメつけ言われたし・・・な」
  そうして、藤次は戸惑う絢音・・・ずっと四年間苦楽を共にしてきた最愛の女性に、指輪に込めた決意の言葉を伝える。
棗藤次「笠原絢音さん。 俺と、結婚して下さい・・・」
笠原絢音「と、藤次・・・さん・・・」

〇住宅地の坂道
  突然のプロポーズに瞬いていると、藤次の顔がみるみる不安げな色に染まる。
棗藤次「や、やっぱり嫌か? 四年も待たせた挙句、こんな甲斐性無しの、不細工で助平な男の嫁さんなんか・・・」
笠原絢音「そ、そんな事ない!! 私は、藤次さんが好き!大好き!! だから言わせて! 棗藤次さん!! 私と、結婚して下さい!!」
  そうして盛大に抱きついてきた恋人に押し倒され、2人は路上で抱き合う。
  道ゆく誰もが不思議そうな表情で見ていたが、そんなことはどうでもよかった。
  しばらく抱き合った後、2人は半身を起こし、車のライトで照らされた、絢音の涙を拭う。
棗藤次「四年も待たせてごめんな? 愛してる。結婚して、今以上に、幸せになろうな?」
笠原絢音「はい。 藤次さん・・・ 私も、愛してる・・・ 一生、側にいさせてね?」
棗藤次「ああ・・・約束する。 俺らはずっと・・・一緒や・・・」
  そうして見つめ合いキスをして、2人は身を寄せ合って、藤次の自宅へ・・・新たな我が家となる家へと、帰って行った。
  仲良く繋がれた手に光るダイヤモンドの指輪が、2人の未来を明るく照らすように、キラキラと、輝いていた・・・

コメント

  • 既に結婚した後からのストーリーを先に読んでいるせいか、プロポーズのシーンはかえって新鮮に感じました。藤次からだけでなく絢音の方からもちゃんと「結婚してください」と言葉にしているのがかっこいいですね。

  • 長くつきあってだめになってしまうカップルもいると思います。藤次さんのように、その関係が熟すのまってプロポーズするというのは、なかなか大人な男性の感があってとても好感もてました。

  • 恥ずかしい…なんだかとても恥ずかしい!
    でもやっぱりこの二人の関係は憧れます!
    なんだろう…自分も幸せになった気持ちになれます…。

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