母と嫁の夫再生計画(脚本)
〇パチンコ店
ここはパチスロ屋店内。高齢の男性が若者に近づき声をかける。
文孝「隆君今日も絶好調だね。何か秘訣があるの?」
隆雄「この前も教えたよ。パチスロの極意は負ける時は傷口を浅く、勝てる時は徹底的に攻める」
文孝「そうだったな。私はスッカラカンになったからもう帰るよ」
隆雄「これで打ち止めにするから少し待ってて。夏は冷えたビ―ルが最高でしょ。この後一緒に飲みに行こう」
〇繁華街の大通り
隆雄と文孝はパチスロ屋を出ると繁華街の飲み屋に向かった。
〇立ち飲み屋
隆雄「ビ―ル最高っすね。文さんも追加注文して下さいよ」
文孝「じゃあ、遠慮なく。でも隆雄君、そろそろ真面目に仕事探したら?」
文孝「私も定年退職して思うけど、やっぱり仕事していた時が一番充実していたから」
文孝「若い時からこんな生活繰り返していると、ここから抜け出せなくなるし、そのうち嫁にも逃げられるぞ」
隆雄「僕は会社勤めを一度失敗しているから、定年まで会社に勤めた文さんは本当に尊敬するよ」
隆雄「でも今は自分を見直す時間がもう少し欲しいから」
〇二階建てアパート
自宅アパートに帰宅した隆雄
〇明るいリビング
テ―ブル上に嫁のスマホと手紙が置いてあるのに気づく
隆雄「んっ?」
手紙を読む
手紙『家を出ていきます。私の意思は貴方のお母様に伝えてあります。私のスマホはお義理母様にお渡し下さい
隆雄「はぁ? 何だよ、これ」
〇二階建てアパート
母親に呼び出された隆雄は自宅アパートを出て実家に向かった
〇実家の居間
実家の和室に入ると、怒った表情の母親が座っている。
隆雄「どういう事?」
佳苗「貴方に愛想が尽きたから離婚も考えているそうよ」
隆雄「そんな様子全くなかったよ。直子どこに行ったの?」
佳苗「教えません。今から直子さんに言われた離婚回避の条件を正確にお伝えします」
隆雄「はぁ?」
佳苗「その一、今後一切ギャンブル禁止」
隆雄「何それ、生活費どうするのよ?」
佳苗「生活費? それは全て直子さんがパ―トで稼いだお金じゃないの」
佳苗「その二、家業を継いで頂きます」
隆雄「何で俺がパン屋だよ」
佳苗「このまま直子さんを失ってもいいの?」
隆雄「それは絶対無理。直子がいない人生なんて耐えられない」
佳苗「だったら条件に従うしかないわね」
佳苗「そもそも何で貴方と直子さんが出会ったか忘れた?」
佳苗「直子さん、うちのパンが美味しくて、高校生の時うちでバイトしていたからでしょ」
隆雄「・・・」
佳苗「そんな純粋な女の子を貴方が口説いて・・・」
隆雄「今その話を持ち出されても・・・」
佳苗「もうこれ以上貴方のわがままは許しませんよ」
佳苗「うちを継ぐのが嫌というから就職を許したのに直ぐ退職」
佳苗「それからずっと無職でパチスロ・・・恥ずかしくて世間様に顔向けできないわ」
隆雄「・・・」
佳苗「その三」
隆雄「まだあるのかよ」
佳苗「今後一切タバコも禁止」
佳苗「以上三つの条件を受け入れなければ即離婚だそうです」
隆雄「それ本当に直子が言ったの?」
佳苗「はい」
佳苗「と、言うことで・・・」
佳苗「貴方の胸ポケットにある物を出して」
隆雄「えっ・・・」
胸ポケットからタバコを差し出す
ゴミ箱を指さす佳苗
隆雄「マジかよ」
渋々ゴミ箱にタバコを捨てる
佳苗「もう帰っていいわよ。明日から徹底的にパン職人として鍛えるからお店に遅れないように」
佳苗「貴方を直子さんに会わせるかは今後の仕事に対する熱意によって判断します」
佳苗「それと、もし離婚になったら貴方と親子の縁を切るから覚悟して」
〇空
自宅を出た隆雄。ため息して夜空を見上げる
〇実家の居間
佳苗「もう出てきていいわよ直子さん」
襖が開き、直子は佳苗の横に座る
直子「お義理母様、お疲れ様でした。名演技でしたね」
佳苗「あのバカ息子にはこれぐらい強く言わないと効かないからね」
佳苗「計画したようにしばらく隆雄と会えないから、直子さんはここで暮らしてね」
直子「分かりました」
直子「でもお義理母様、離婚回避の条件に禁煙まで加えるなんて、聞いていませんよ」
佳苗は笑顔で、直子のお腹にそっと手をのせる
佳苗「当たり前よ」
佳苗「赤ちゃんと直子さんの健康が一番大切だからね」
佳苗「でも直子さんが妊娠した事は」
佳苗「しばらく隆雄に秘密」
佳苗「まずは仕事に没頭させましょう」
直子「はい」
直子「隆雄さん、パパになると知ったらどうなるかな」
佳苗「お腹の中の赤ちゃんは、退職でプライドが傷ついた隆雄を救うために、神様が与えてくれたのよ」
直子「うまくいきますかね?」
佳苗「そのために考えた再生計画。親になるという事はそれだけ責任を伴います」
佳苗「隆雄にはバリバリ頑張ってもらうわ」
佳苗「だから直子さん、バカ息子を見捨てないでね」
〇パチンコ店
そして半年の月日が流れ
パチスロ屋店内
文孝に近づくおばさん。文孝の隣に座る
春江「文さん、調子はどう?」
文孝「ダメダメ」
文孝「スッカラカン」
文孝「もう帰るよ」
春江「冬は熱燗が恋しくなるでしょ」
春江「私は大勝したからおごるよ」
春江「この後一緒に飲みに行きましょ」
文孝「そうかい。じゃあ遠慮なく」
春江「そういえば最近若い兄ちゃん見かけないね」
文孝「自分の居場所を見つけたからね」
文孝「もうここには二度と来ないよ」
1人の男性に向けられた沢山の情を感じました。特に彼のお母さんが言った、生まれてくる子供はプライドを無くした息子への神様からのプレゼント・・という所、とても心に残ります。誰でもが彼のように温かい人達に囲まれているわけではないけど、愛する人の為に自分を取り戻ずことは単調な人生より2倍の価値があると思いました。
たしかに就職活動は大変だと思うのですが、プライドが傷ついたといってそれもやらずにパチンコ…は人としてどうかと思いますよ。
でも、実家を継ぐことになってよかったです!
みんな幸せになってるといいなって思います。
もし自分の夫がそうだったら、絶対に受け入れられないですよね。おじさんの言葉が身に沁みました。充実を目指すには何が一番なのでしょうか。