とある青年の世界見聞録

霧ヶ原 悠

運命の席は夢の中を転がる−ケース5.《黄昏を傷つける獰猛なるもの》の場合(脚本)

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〇レストランの個室
  無貌の店員、グラスを持って戻ってくる。
店員「それでは只今から相席再開となります。ごゆっくりどうぞ」
  鰐の頭と蜥蜴の体と蛇の尾と蝙蝠の羽を持った小さな生き物が席につく。
黄昏を傷つける獰猛なもの「オレは《黄昏を傷つける獰猛なるもの》に名を連ねる一族のもんだ。気軽にエルって呼んでくれ!」
黄昏を傷つける獰猛なもの「ほー、旅人ねえ。人間っていやあ鳥のように空を飛ぶこともできず、馬のように地を駆けることもできない」
黄昏を傷つける獰猛なもの「世界で最も脆弱な生き物じゃなかったか?」
黄昏を傷つける獰猛なもの「他と比べりゃ見劣りする人間族だからと言ってたら何もできない、か」
黄昏を傷つける獰猛なもの「それもそうだな! お前の度胸に乾杯!」
黄昏を傷つける獰猛なもの「で、オレは今来たとこなんだが、そっちは?」
黄昏を傷つける獰猛なもの「はっはっは! 機械人形との一問一答たぁな! そらぁ辛ぇ」
黄昏を傷つける獰猛なもの「で、思わず席替えを頼んだと。まあいいんじゃねえの? ここはそういう場所なんだし」
黄昏を傷つける獰猛なもの「オレは小さくて親しみやすそうだとぉ? 言いやがったなこんにゃろー!」
黄昏を傷つける獰猛なもの「オレらは火の中から産まれ、火を体に宿し、火の声を聞く一族だぞ、もっと畏れ崇めろー!」
黄昏を傷つける獰猛なもの「だいたいオレぁ本当は、もっとでかくて強くてかっこいいんだからな!」
黄昏を傷つける獰猛なもの「椅子に座れねーどころじゃねえさ。オレが元の姿に戻ったら、こんな店あっという間に潰しちまうぜ」
黄昏を傷つける獰猛なもの「どうだ、凄さが分かったか?」
黄昏を傷つける獰猛なもの「ん? オレらの種族名に聞き覚えがない?」
黄昏を傷つける獰猛なもの「あー、でもたしかに、他の種族の奴らはオレらを別の名前で呼んでたな。何だったかは忘れたけど」
黄昏を傷つける獰猛なもの「つか、オレのことばっかじゃねえか。お前のことも聞かせろよ」
黄昏を傷つける獰猛なもの「あー! 面白かった。もう少しお前の話を聞いていたかったが、残念だ」
黄昏を傷つける獰猛なもの「オレはどうすっか・・・。もう少しいるかな」
黄昏を傷つける獰猛なもの「ははっ。閉店時間なんてあるわけねーだろ」
黄昏を傷つける獰猛なもの「ここは夢の中だぜ。夢を見る奴がいるかぎり、ここが閉まることはねえよ」
黄昏を傷つける獰猛なもの「それより、この先もここに来ることができたら気をつけろよ?  色んな奴が集まるここでも、人間は珍しい」
黄昏を傷つける獰猛なもの「もしかしたら、人の肉が大好物って奴と相席するかもしれないぜ」
黄昏を傷つける獰猛なもの「じゃ、その美女が早く見つかるといいな」

〇レストランの個室
  無貌の店員が無機質な声で尋ねる。
店員「本日のご相席はいかがでしたでしょうか」
店員「楽しんでいただけたようで、なによりです」
店員「またのご来店をお待ちしております」

〇黒背景
  無明の黒の中に続く白い螺旋階段を下りる。
店員「おはようございます。どうかよい夢を」

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