CH428「渋谷TALK」again

希与実

読切(脚本)

CH428「渋谷TALK」again

希与実

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〇ラジオの収録ブース
曽部家イオナ「はい、はい、そうですよね。はい、はい、ありがとうございます。ではまたお話できる事を・・・はい、失礼します」
  SE「ブツッ!」(回線が切れる音)
曽部家イオナ「ちょっと、何これ?」
  番組スタッフ「すいません、お偉いさんの関係者で。直接お話したいって。すいません」
曽部家イオナ「ったく。大丈夫なの?尺」
  番組スタッフ「はいJustです。じゃいきますよ。Music Time終わりまで、5・4・3・・・・」
曽部家イオナ「お待たせしました。また渋谷から皆さんのお話をお聞きします。428-109迄お電話ください」
曽部家イオナ「誹謗・中傷、冷やかしや番組関係者は厳禁。私の意見が聞きたい方、お待ちしています」
  NA「この番組はCH428統宮放送がお送りします」

〇撮影スタジオ(机あり)
曽部家イオナ「さあ次のゲストは」
奥野秀雄「失礼します」
曽部家イオナ「はい、こんにちは。なんて御呼びすれば・・・」
奥野秀雄「はい、ではオヤジで」
曽部家イオナ「オヤジ?」
奥野秀雄「はい、私は孤児院を経営しておりまして、皆からオヤジと呼ばれています。天秤塾と云います」
曽部家イオナ「そうですか、それはご立派な。皆から愛されているんですね」
奥野秀雄「はい、そう願いたいですが」
曽部家イオナ「そうでは、ないと・・・」
奥野秀雄「・・・」
曽部家イオナ「・・大丈夫・・ですか?」
奥野秀雄「実の娘が家を出てから10日が経ちます。捜索願いも出して方々を探していますが見つかりません」
奥野秀雄「塾生にはいつものように接していますが精神的に辛くて。妻もウツ状態になって」
曽部家イオナ「辛いですね。なにか兆候があったのですか?」
奥野秀雄「置手紙がありました。私と妻宛に。実の子供である意味がないと」
曽部家イオナ「事件性があるニュースは無いし。で、今日はこの番組を通じて協力してほしいと?」
奥野秀雄「はい。それもあります」
曽部家イオナ「そうですか。もし今これをお聞きになっていたら、天秤塾の娘さん、オヤジに連絡してあげてください」
曽部家イオナ「その事情は分かりませんが家族は一緒に居るべきだと私は思います。本音を話合えば解り合える、そう私は信じます」
奥野秀雄「ありがとうございます。裕美。もし聞いていたら連絡ください。お願いします」
曽部家イオナ「オヤジ、ひとつ良いですか」
奥野秀雄「はい」
曽部家イオナ「なぜ、裕美さんは家出をしたのでしょう。どう思いますか?」
奥野秀雄「裕美が10歳の時、今の塾を始めました。妻と娘には塾経営を話して理解してもらえたと思っていましたが、」
奥野秀雄「理解ではなく妥協だったのでしょうか」
曽部家イオナ「十分話し合ったの?一方的じゃなかった?」
奥野秀雄「既に入居の子供も何人か決まっていて・・まだ15歳なのに」
曽部家イオナ「そうですか。結果論ですがいくら理解したと思っていてもそれは人それぞれの尺があります。その尺は一定ではありません」
曽部家イオナ「そして人の気持ち程もろいものはない。積み上げてきたことも一瞬にして崩れる。日々の積み重ね。それは良い事も辛い事も同じ」
曽部家イオナ「オヤジはこの10日間でとてつもない辛さの積み重ねをしている。それは奥様も同じ」
曽部家イオナ「でもそう行動させたのはオヤジ。そして裕美さんも辛いのは同じ」
奥野秀雄「おっしゃる通りです」
曽部家イオナ「私が今云えることは待つ勇気を持つこと。娘さんを信じる事。奥様のケアをする事。今居る子供たちにいつも通り接する事」
曽部家イオナ「娘さんの居ない日々はかえってこないが、帰ってきたら思いっきり抱きしめる事。そして謝る事」
奥野秀雄「ううう・・はい」
曽部家イオナ「これを聞いているオーディエンスの皆様。何か情報があったら天秤塾のオヤジに連絡してあげてください。番組宛でも結構です」
曽部家イオナ「でもフェイクはご法度ですよ。よろしくお願いします」
奥野秀雄「ありがとうございました」
  SE「ブツッ!」(回線が切れる音)
曽部家イオナ「どうなの、これ」
  番組スタッフ「次の回線いきます」

〇放送室
曽部家イオナ「じゃ、ありがとうございました」
  番組スタッフ「次の回線いきます」
曽部家イオナ「忙しいな。はい、お待たせしました。なんて御呼びすればよろしいでしょうか?」
「裕美です」
曽部家イオナ「えっ?裕美さん?天秤塾の?」
奥野裕美「同名なだけです」
曽部家イオナ「ああ、驚いた。そうですかヒロミさん」
奥野裕美「さっきの天秤塾の話聞いてました。なんか、娘さんの気持ち分かるかなって」
曽部家イオナ「そう、例えば?」
奥野裕美「置手紙に“実の子供である意味がない”とあったんですよね」
曽部家イオナ「そう云ってましたね」
奥野裕美「嫉妬してたんです。ああ、多分、そうなんだと」
曽部家イオナ「それは?」
奥野裕美「他の子供が来る迄、父も母も独占してたのに急に大勢になって。で、取られるような感覚じゃないですかね」
奥野裕美「まだ10歳だったし。もっと甘えたくて。なんか実の子供じゃないのにズルいって」
曽部家イオナ「大好きなのね、お父様もお母さまも」
奥野裕美「はい。ああ、そうかなって、娘さんの気持ちを考えると・・・」
曽部家イオナ「今はおいくつ?」
奥野裕美「ああ、高校生です」
曽部家イオナ「早く見つかるといいね、ヒロミさん」
奥野裕美「そうですね。でも帰るかな」
曽部家イオナ「それはどうして?そう思うの?」
奥野裕美「彼女、嫌で家出したんじゃないと思うんです。嫌じゃなくて迷惑かけたくないからかなって」
奥野裕美「多分ですけど、オヤジってなんか前から人の事ばかり思って。自分犠牲にして。それで孤児院で8人も面倒みて」
曽部家イオナ「なんか詳しいね」
奥野裕美「ああ、スマホで検索したら記事があったから」
曽部家イオナ「そう、続けて」
奥野裕美「皆の為に頑張ってるオヤジを見て、足手まといかなって」
曽部家イオナ「ううん、それはどうかな。オヤジはその環境を通じて娘さんに何か伝えたかったんじゃないかな」
曽部家イオナ「おそらく不器用そうだし。で、その子は今どうしてると思う?」
奥野裕美「別の孤児院にいます。知り合いを頼って。ああ、多分ですが。元気ですよ。仲間もいるし・・・いや、いると思うし」
曽部家イオナ「そう、それは良かった。人はね、生まれてくる時、絶対に変えられないものが3つあると私は思う」
曽部家イオナ「ひとつは両親。それは時代と場所にも比例する。ひとつは性別。ひとつは持って生まれた才能」
曽部家イオナ「もしかしたら生まれる前に君自身がそれを決めてたかもしれない。だからその環境を受け入れる事」
曽部家イオナ「こんな両親なんか、とか、あっちが良かったのに、とか、それはナシ」
曽部家イオナ「その子は重大な決断をして家出したけどそれはその子の為、ご両親の為、塾生の為、周りの皆の為になったのかな?」
曽部家イオナ「一回リセットしてもいいんじゃないかな」
奥野裕美「・・・そうですね。ああ、そう思うかもしれませんね」
曽部家イオナ「塾生が8人、ご両親と裕美さんを合わせて11人。サッカーできるよ」
奥野裕美「ははは・・・サッカーか」
曽部家イオナ「その時に決断した事は決して間違いではない。その時そう思った事はその時に最善だと思ったから」
曽部家イオナ「でも時と云う薬がまた変化を及ぼすのであれば、また時の流れに身を任せるのも良いかもしれないよ」
奥野裕美「・・・はい」
曽部家イオナ「ありがとう、裕美さん」
奥野裕美「ありがとうございました」
  SE「プツッ!」(静かに回線が切れる音)
曽部家イオナ「・・・・」
曽部家イオナ「ふう~。では最後のMusic Timeに」

〇ラジオの収録ブース
  番組スタッフ「Twitterの投稿流します」
  投稿1「娘が急にいなくなったら・・って思うと恐怖」
  投稿2「ヒロミさんって裕美さんじゃない?」
  投稿3「天秤って不安定な気持ちと一緒。だから身を任せてみようと思います」
曽部家イオナ「イオナ「ねえ、ちょっと休まない?」」
  番組スタッフ「次の回線いきますよ」

コメント

  • 相手を決して否定しないで自分自身で結論にたどり着けるように促すやり方が、イオナさんはプロだな、と感心しました。こうしたさりげない人と人との橋渡し作業は、顔の見えない声だけのラジオならではの効用ですね

  • 危ないリスナーにも神対応のイオナさん、MC技術はさすがですね😆
    良回でした👍また聴きたいです✨

  • すごく共感できるところがいっぱいありました。
    確かに裕美さんは嫉妬してるんだろうなぁと。
    自分もその立場だったら、と考えると。
    後悔先に立たず、悔やむ前に行動しようと思いました!

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