〇古民家の居間
蝶子「ふん。どのツラ下げてって感じだね」
義孝「俺ではない」
義孝「新人ダンサーとして雇っているのだろう。碌でもない連中に家を焼かれたのだ。義によって助太刀いたせ」
蝶子「ブラックロータス。人さまの国で随分好き放題やってくれるわね。そっちこそ、こういう時の官憲じゃないのかい？」
義孝「黒蓮絡みになると何故か大臣からの圧力がかかるのだ。恐らくは財界が動いている」
蝶子「貧乏国としちゃあ、どんだけ如何わしい金ズルでも大事なお客さんってわけかい」
義孝「仕方あるまい。商人共の取り締まりは憲兵の管轄外だ」
ダリア「ゴメンね、親分。新しく住む所が見つかるまでだからさ」
蝶子「ふふっ。家賃ボッたくるいい機会かもね」
義孝「貴様！」
蝶子「冗談だよ。まあ、野郎ばかりのむさ苦しい組だけど我慢するこったね」
ダリア「ありがとうございます！」
燕「ありがとうございます！」
未来子「ありがとうございます！」
蝶子「待て待て待て待て！」
蝶子「何でお前達の面倒まで見なきゃいけねえんだい！」
ダリア「だってジュン君、生活能力ないから」
蝶子「知るか」
蝶子「それにアンタ」
蝶子「どのツラ下げて現れたんだってのはむしろアンタに言ったんだよ」
蝶子「松音未来子」
未来子「お久しぶりです。お蝶親分」
未来子「ずっとシカトしてるから私の事忘れちゃったんだと思ってました～」
蝶子「そのままどっか行ってくれるんなら捨て置くつもりだったんだけど。上がり込もうとするたあどういう神経してんだか」
蝶子「こちとらアンタの新人類っぷりには愛想が尽きてんだよ」
ダリア「知り合いなの？」
未来子「ハレの住人の影にヤミが付き纏うのは当然じゃないですか」
蝶子「付き纏うだって？誰が歌手としてのアンタを育ててやったと思ってんだい？」
蝶子「ある日突然、仕事飛ばしてトンズラして、革命運動ってテイで男漁りに溺れてた痴女ごときにヤミ呼ばわりされるとは・・・」
蝶子「この御堂蝶子を舐めんじゃないよ！」
未来子「こわ～い。純さん助けて～」
燕「お、おい離れろって・・・」
義孝「少し泊めてやるくらいはいいだろう」
蝶子「そうはいかねえ。ウチの連中と顔合わせねえうちにとっとと消えやがれ」
蝶子「下のもんは私ほど・・・」
　　『お、親分！まさかその女！』
蝶子「チッ！見つかったじゃねえか！」
「てめえ！松音未来子かーーーーーッ！」
「おかえり～～～～～～～～～～～～！」
義孝「そうくると思った」
蝶子「下のもんは私ほど厳しくない」
蝶子「というかメロメロだ」
蝶子「大体昔馴染みを頼るよりとっとと元サヤに戻った方がいいんじゃないかい？」
蝶子「自称天才革命家、の御婦人さま」
義孝「確かに。早い所実家に戻るが賢明だ」
義孝「早晩ヤツは捕まる。脅しと言わず真に離縁した方がよい」
未来子「まあそれは、誰かさん次第かな～」
未来子「なんちゃって」
ダリア「ここは寄る辺ない人たちの街なの！恵まれたお嬢様が冷やかしで暮らす場所じゃないのよ！」
燕「そうだ。山の手に戻るべきだ」
燕「僕はもう二度と魔女に騙されたりしない！」
未来子「騙される・・・随分な言い方ね」
未来子「だから貴方は倫太郎さんに勝てないのよ」
燕「ふん。根室清濁など犯罪者じゃないか」
燕「通報すれば君もろとも一撃だ。ははっ」
未来子「火の粉を浴びる前に、お父様が揉み消してくれるわ」
未来子「私の実家を見くびらないことね」
燕「ふん」
未来子「ああ、もういいわ。組事務所なんてこっちから願い下げよ」
未来子「行きましょ」
義孝「・・・」
義孝「え？」
燕「次は君が取り憑かれたようだね」
義孝「・・・へ？」

〇廃倉庫
ヒナ「・・・なるほど」
ヒナ「それでしばらく泊めてほしいってか」
ヒナ「お・ま・え・は・オ・イ・ラ・に・・・」
ヒナ「殺されたいのかーーーーーーーーーー！」
義孝「こら！やめろ！暴力反対！」
ヒナ「うるせえ！とっとと出ていけ厄病神！」
未来子「まあ。そんな言葉遣いしたら、可愛い顔が台無しよ」
ヒナ「なんだと！」
ヒナ「分かってるじゃねえかいお姉さん」
未来子「ここに向かう道すがらヒナさんと義孝さんの数奇な運命もお聞きしました」
ヒナ「まったく余計な話をベラベラと・・・」
ヒナ「憲兵司令だった頃の見る影もねえな」
義孝「もう隠しておく意味などなかろう」
ヒナ「美人歌手との話の種にする意味は、もっとねえけどな」
未来子「お気の毒な方じゃない。それに芸能人たるものご縁は何より大事にしないと。どこでどんなお仕事に繋がるか分からないものよ」
ヒナ「おおっ！さすが国民的歌手！含蓄あるね！」
ヒナ「まあまあ中に入って話聞かせてくれよ」
ヒナ「どけヒモ野郎！」
ヒナ「さあさあ狭い小屋だけどゆっくりしてってくんねい」
未来子「ありがとうヒナちゃん」
義孝「・・・」
義孝「あの・・・俺は？」
ヒナ「ぼけっと突っ立ってねえで松音さんに茶でも出しやがれ！」
義孝「・・・」
義孝「はい」
　　つづく