殿、一大事です!

だんぞう

リビングにて(脚本)

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〇おしゃれなリビングダイニング
  それは、やけに喉の渇く
  ある夕暮れのことだった。
  窓の外から漏れ聞こえる
  自治体が帰宅を促す音楽の
  余韻が夕焼け空に染みてゆく。
  そんな黄昏の
  遠い空を見つめていた男は
  やにわに喉を鳴らし
  視線を部屋の中へと移した。
  男はゆっくりと
  だが確実な足取りで冷蔵庫へと近づき
  静かに扉を開く。
  物語は、ここから始まる。
オット氏「殿! 申し上げます!」
ツマ氏「ふむ どうした? 申すがよい」
オット氏「冷蔵庫の中のびぃぃぃぃぃる! びぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃるがっ!」
ツマ氏「なぬぅ? ・・・ま、まさか?」
オット氏「左様です! ありません! まったくもって!」
ツマ氏「ぬぁぁんと! ど、どうしてくれるっ! 唐揚げをレンチンしたばかりであるぞ!」
オット氏「というか、トースターの中では もう既に ガーリックトーストがいい感じに・・・」
  唐揚げの味付けは塩ニンニク。
  ガーリックバターを塗ったフランスパン。
  胃袋を確実に握ってくる匂いがリビングを占領する。
オット氏「・・・なんで冷えてないんだよ」
ツマ氏「え、それあたしのせい?」
オット氏「最後に呑んだ人ぉー」
ツマ氏「昨日のあたしたち」
オット氏「くっ・・・越後屋っ! お主っ!」
ツマ氏「あ、殿から越後屋に降格された」
オット氏「何か、何か良い知恵はないものかっ」
ツマ氏「そこは、新たに殿をお継ぎになられた貴方様のお力で!」
ツマ氏「つーか、あたしを越後屋にしたの 玄関脇からぬるいビールを持ってこさせようとしてる?」
オット氏「フフフ よくぞわが企みを見破ったっ!」
ツマ氏「見破られたからには?」
オット氏「からには・・・」
ツマ氏「見破られたからには?」
オット氏「くっ・・・無念・・・これまでかっ」
ツマ氏「殿、その胸中ご察し申し上げまする しからば介錯を・・・」
オット氏「ま、待てぃ! 越後屋! 待つのだ! 拙者、これしきのことで諦めたりはせぬ!」
  男はリビングを飛び出し
  玄関脇のダンボール箱から500ml缶を
  二本、手にして戻ってくる。
オット氏「フフフ 見ておれ、越後屋よ! 富士の麓の風穴より持ち運びし 氷なるものを使うのよ!」
ツマ氏「・・・お言葉ですが殿、 それではびぃるが薄まりはしませんかのぅ」
オット氏「たわけ! 薄まる前に呑むのじゃっ!」
ツマ氏「ならば殿、お手本を!」
オット氏「くわっ!」
  冷蔵庫の製氷室を覗いた男は叫んだ。
ツマ氏「どうなされましたっ!」
オット氏「謀反じゃ! 製氷室にて謀反じゃ! なぜ、誰も居らぬのじゃっ!」
ツマ氏「・・・昼のそうめんで全員出払ったものと思われまする」
オット氏「越後屋! さては貴様、気づいておったな! その薄ら笑いっ!」
ツマ氏「すまぬ 今、思い出したところでござる ・・・こうなっては最後の手段しかありませぬな」
オット氏「ふむ なんなりと申すがよい」
ツマ氏「城下町へと赴き 召し上げてくるでござる」
オット氏「なんと! 越後屋、お主も悪よのぅ・・・」
ツマ氏「殿、これをお使いくだされぃ」
  女は男に交通系ICカードを恭しく差し出した。
オット氏「うむ 苦しゅうない では、待っておれ・・・」
  男は再びリビングを飛び出し、
  玄関の向こうへと消えた。
  それから十分と経たず、男は戻ってくる。
  心なしか息が荒い。
オット氏「ひかえおろーう!」
ツマ氏「殿! よくぞご無事で!」
オット氏「うむ うむ くるしゅうない」
ツマ氏「して、ご首尾は?」
オット氏「うわーはは! うわーはは! うわーはは!」
ツマ氏「おおっ! これはこれは見事なこお・・・・・・り?」
オット氏「どうした? なんぞ不満でもあるのか?」
ツマ氏「殿は、コンビニに行かれたのですよね?」
オット氏「いかにも 左様であーる」
ツマ氏「殿は、冷えたびぃるを買ってくるものとばかり・・・」
オット氏「くわっ!」
オット氏「ああああああああああああああああっ!!!!!」
ツマ氏「殿がご乱心! 殿がご乱心!」
オット氏「かくなる上はこの腹かっさばいてお詫びを・・・」
ツマ氏「モツ刺しか? ふぅむ やはりびぃるが必要でござるな」
オット氏「止めてはくれぬのか?」
ツマ氏「辞世の句、はよ」
オット氏「ぬぬぬぬぬ! ないのなら 自ら行けよ ホトトギス」
ツマ氏「ホーホケキョ! ホーホホホ! オーホホホ!」
オット氏「何事ぞ!?」
ツマ氏「びぃるがなければワインを呑めばいいのよ!」
オット氏「そ、そのようなワインをいつの間にっ!?」
ツマ氏「野菜室の奥で新聞紙にくるんでこっそり冷やしていた秘密のワインにてござる」
オット氏「くっ・・・気づかなんだ 完敗・・・ いや、乾杯だっ!」
ツマ氏「かんぱーい!」
  二人の城は今日も平和だった。
  
  <fin.>

コメント

  • 最高のオツマミを用意してあとは冷えたビールを取り出すのみ、という(たぶん)多くの大人が経験した悲劇を、夫婦漫才でコメディに昇華させるこの作品は大好きです。キンキンに冷えたビールを飲みたくなりました(しかし冷蔵庫には…)

  • 日常の一こまを見せられた感が、微笑ましく平和だなーと、最近殺伐としたことが多い中、家庭の中だけでも幸せに過ごしたい。
    ユーモア、大事ですね

  • 二人のやりとりが面白かったです。
    たしかに、コンビニへ行ったらビールを買ってきて欲しいですよね。
    なんかすごく笑いました。
    しっかり氷を買ってくるあたりがなんとも笑
    夏場は氷が足りなくなりがちだよね、と思いました。

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