喫茶店での過ごし方

空から落ちてきた野原さん

喫茶店での過ごし方(脚本)

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〇レトロ喫茶
  カランカラン
  ドアを開けるとそこはサイフォンがブクブクと音を出し、コーヒー豆の美味しさを最大限まで引き出した香りで立ち込めている。
マスター「いらっしゃいませ」
  私に気がついたマスターが落ち着いた声で、カウンター越しに話しかける。
マスター「お好きな席にどうぞ。 カップとソーサーは、こちらにあるものからお選びくださいね」
  ぺこっと頭を下げて、ここの店の特徴である100種もの様々なカップとソーサーの中から自分の今日の気分で、
  つるんとした白地の陶器に、金の細いラインが入って淡い花がいくつも描かれたカップを選びマスターに伝える。
  そして、いつもの私の定位置である窓際の
  テーブル席に座る。
  店内にはカウンター席に座って、いつも緑のカバーがされた本を持って読む常連客と、
  その近くには難しい顔をして
  新聞を読む新客がいた。
  私の3つ隣のテーブル席には
  パソコンでカチカチと忙しそうに
  タイピングをするサラリーマンらしき人。
  ここの喫茶店は、雑居ビル内の3階で知る人ぞ知る名店なのだ。
  特にここの小倉バタートーストと
  ブレンドコーヒーとの相性は格別である。
  マスターが、メニュー表を持ってくると同時に注文をして、十数分ほど待つと、それらが運ばれてきた。
  出来立てのコーヒーの良い香りをすぅーっと肺いっぱいに吸い込み、ずずっと空気を適度に含ませながら口にする。
  舌全体にカカオのような舌触りと風味、チェリーのような酸味、そして嫌じゃないコクとほのかな苦味。
  いつも変わらない安心する味だ。
  そして、小倉バタートーストも相まって、
  お口の中でマリアージュされている。
「お待たせ〜、待たせてごめんね〜、 久しぶり!」
  きた、私のトモダチだ。
みすず「久しぶり」
梅ちゃん「いつぶりだろう?一年くらい?」
みすず「うんー、そうだねぇ」
梅ちゃん「それでそれでっ、最近どうなのっ?」
みすず「うーん、、」
  少し考えて答える。
みすず「いろいろ悩んだ」
梅ちゃん「いろいろって?」
みすず「中々、会社でうまく働けなくって」
梅ちゃん「どんなふうに?」
みすず「んー、孤立してる?感じ」
梅ちゃん「そうなの・・・」
みすず「うん〜、私自身あの人達と合ってる実感はないけどね。 ただ、企画は通りやすいし」
梅ちゃん「んー、確かにみすずって 変わってるもんねぇ」
みすず「そんなに私変かな? まー、梅ちゃんのアドバイスのおかげで、 一年前に企画した案通って、 この間新商品出したよ」
梅ちゃん「そうそれ! さっき貰ったけどすごいじゃん! なんか優しく撫でてもらってる感じがしてさ。 デザインも可愛かったし〜」
梅ちゃん「みんなもきっと喜ぶよ〜!」
みすず「あっ、みんなと言えば・・・ この間チャイロー爺さんと話したよ」

〇レトロ喫茶
梅ちゃん「あ、ああチャイローさんね あの人毎回会うたびに身体がうっすくなってて、そろそろポッキリ逝っちゃいそうなのよね・・・」
みすず「存在感だけは段々大きくなってるけどね。 声も大きいしさ でも経験豊富だし、面白いからさ、いろいろ話してて。で、実は・・・」
みすず「私、婚約したの」
梅ちゃん「えっ!!! チャイロー爺さんと!?!?」
みすず「いやっ、いやいや チャイロー爺さんではなくって!」
梅ちゃん「だ、だよね 安心したぁ・・・」
梅ちゃん「で、お相手は?」
みすず「こことは違う喫茶店で、 隣の席だった人なの」
梅ちゃん「へぇ〜! 運命感じちゃ〜う!」
みすず「ここと同じように過ごしてたら、 お店出た後に声かけられて、 それから連絡先交換してやり取りしてーって感じ」
みすず「顔がとにかくカッコよくて・・・」
梅ちゃん「そうなんだぁ、顔はダイジよ、ダイジ」
みすず「で、チャイロー爺さんに話したら彼と会いたいって言われてね。彼のことみてもらったの」
みすず「それで、良いやつだーって気にいっちゃって。彼もチャイロー爺さんと意気投合してたけど」
梅ちゃん「すごい展開〜! で、いろいろ相談もしながら上手くいったんだ。私も今度会いたーい!」
みすず「わかった、彼に伝えとく」
  それから梅ちゃんとはたわいもない話をした。

〇レトロ喫茶
みすず「はー、面白い」
みすず「あっ、もうこんな時間!! 梅ちゃんごめん、 このあと彼と結婚指輪見に行くんだ」
梅ちゃん「わぁ!良い指輪が見つかると良いね! 私も久しぶりにみすずと話せて楽しかったよ。また今度は彼と一緒にね」
梅ちゃん「改めて、婚約おめでとう」
みすず「ありがとう、梅ちゃん。 また彼にも言っておくね、じゃあ またね」
  そう言って私は店を出た。
客2「マスター」
  読んでいた新聞から目を外して聞く客。
マスター「はい」
客2「あの・・・今出てった子・・・」
客2「誰と話してたの? 誰も向かいの席に居なかったよね」
客1「いつものことだよ」
  そう言って答えたのは緑のカバーをした本から目を外さずに答える常連客。
マスター「あのお客様はうちの子たちと話しています」
客2「うちの子たち?」
  マスターの視線の先には壁側の棚いっぱいに
  置かれたカップがあった。

コメント

  • チャイロー爺さんが気になって気になって、夢に出てきそう。喫茶店という場所は、こうした全ての曖昧模糊としたカオスを受け入れてくれるような不思議な安心感がありますね。小倉バタートーストとブレンドコーヒー、最高ですよね〜。

  • まさかのラストに驚きました。みすずさんは、店内やお客さんのことを丁寧に観察しているなーと思っていましたが、彼女もまたその様子を観察される側、しかも面白い常連さんとしてですね!

  • 喫茶店と言われる場所が最近減った。サイフォンで淹れる珈琲が好きで、同じ人種かなーと親しみを覚え読んでいました。
    元の常連さんだった方なのでしょうか?婚約伝えられて良かったね。

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