見えない左目と見える右目

水島 龍

読切(脚本)

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水島 龍

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〇おしゃれなリビング
高岡誠「ただいま・・・さすがにもう寝ちゃったよな」
  部屋の電気は点いたままだが、リビングには誰もいなかった。
高岡誠「食器はそのままでいいって言ってるのに・・・」
  娘の沙耶は妻に似て、とても心優しい子だ。妻にも娘にも、感謝しかない

〇女の子の一人部屋
  ガチャッ・・・
高岡沙耶「・・・」
高岡誠「ただいま、沙耶。 いつも帰ってくるのが遅くてごめんな・・・」
  私の妻はこの子を産んで間もなく病気で亡くなった。
  私は男手ひとつでこの子を育てていくことになったが、仕事の忙しさは相変わらずで、娘と遊ぶ時間さえも十分にとれていない。
高岡沙耶「あ、パパ・・・? おかえりなさい」
高岡誠「あ、ごめんな・・・起こしちゃったか。 今日も一緒にご飯食べられなくてすまないな」
高岡沙耶「ううん。久しぶりにお顔見れてよかった」
高岡誠「明日はパパも休みだから、一緒に遊ぼうな」
高岡沙耶「やった!楽しみにしてるね!」
高岡誠「ああ、おやすみ」
  そう言うと、すぐに寝息を立て始めた

〇おしゃれなリビング
高岡沙耶「パパ!おはよう」
高岡誠「おはよう。今日もちゃんと1人で起きられたんだな。偉いぞ」
高岡沙耶「ねぇパパ、今日は公園に連れて行ってくれるんだよね?」
高岡誠「あぁ、もちろん。準備ができたら出発しよう」

〇開けた交差点
高岡誠「沙耶、いつも言ってるようにパパの右側を歩くようにしなさい」
高岡沙耶「うん!その方が周りがよく見えるからだよね!」
  沙耶は生まれつき左目の視力だけが極端に低く、右目を頼りに生活をしている。
  だから私はいつもこの子の左側を歩くようにしている
  できればずっとそうしてやりたいが、この子もいずれ大人になる。
  私の代わりにこの子を守ってくれる人が現れればいいが・・・

〇おしゃれなリビング
高岡沙耶「パパ、仕事行ってくるね!!」
高岡誠「あぁ、いってらっしゃい。 気をつけるんだよ」
  沙耶も今年で25歳になる。目のことは相変わらず心配だが、立派な娘だと自信を持って言える
高岡沙耶「あ、そうだ。今日って仕事早く終わるんだったよね?」
高岡誠「たぶん18時には帰れると思うよ。 なにかあるのか?」
高岡沙耶「実は、紹介したい人がいるの。 仕事が終わったら連れてきてもいいかな?」
高岡誠「あぁ、わかったよ。ほら、仕事に遅れるよ」
高岡沙耶「ありがとう!じゃあ、いってきます!」
高岡誠(紹介したい人か・・・まあ大体想像はつくが、どんな人だろうか)
  突然の事で少し驚いたが、嬉しさの方が大きかった。
  私はいつもより早い時間に家を出た

〇おしゃれなリビング
篠原直哉「はじめまして。沙耶さんとお付き合いをさせていただいております。篠原直哉と申します」
高岡誠「篠原くんだね、よろしく」
高岡沙耶「彼とは職場で出会って、付き合ってもう1年になるの」
高岡沙耶「それで今日は、パパに報告があって・・・」
篠原直哉「本日は結婚のご挨拶にお伺いしました」
篠原直哉「愛情に溢れた彼女を、僕は一生隣で支えていくつもりです」
篠原直哉「沙耶さんと、幸せな家庭を築いていきたいと思っています」
高岡誠「私からは沙耶を頼む、としか言えないからね。幸せにしてやってくれ。篠原くん」
篠原直哉「・・・はい!!」

〇教会の控室
高岡沙耶「ど、どうかな・・・?」
高岡誠「とても綺麗だよ」
高岡沙耶「ありがとう!!すごく嬉しい」
高岡沙耶「ねぇ、パパ。私の左目が見えない事を直哉さんに伝えた時、彼なんて言ったと思う?」
高岡誠「うーん・・・びっくりしてたか?」
高岡沙耶「もちろんびっくりはしてたんだけど。彼ね、『僕が君の左側に立ち続けます』って言ったの──」
高岡沙耶「なんか、パパみたいだなと思ったんだ」
  そう言う彼女は、心から幸せそうに笑っていた
  沙耶のことを守ってくれる人がようやく現れたことに、思わず涙が溢れた
高岡沙耶「パパ、泣くのはやいよ!ほら、もう行くよ!!」
高岡誠「ご、ごめん。じゃあ行こうか」

〇教会の中
高岡沙耶「ねぇ、実は私ね・・・こっちの方が好きなんだ」
高岡誠「え、そうなのか?でもそれじゃあ周りが見えづらいだろ・・・」
高岡沙耶「こっちに立ってた方が、パパの顔がよく見えるでしょ!!」
  彼女が見ていたのは私越しの景色ではなく、私自身だった
  隣にいる人にしっかりと向き合える。素晴らしい女性が目の前にいた
  またしても涙が溢れかけたが、そんな顔をするわけにはいかなかった
  前を向くと、篠原くんがボロボロと涙をこぼしながらこちらを見ていた
高岡沙耶「ほらね、あの人のこと見ていないと心配でしょ」
高岡誠「そうだな。良い人に、出会ったんだな」
高岡沙耶「ねぇ、ママも見てるかな」
高岡誠「あぁ、きっと見てくれてるよ」
  彼女の目は、まっすぐこちらを見ていた

コメント

  • 登場人物みんなが温かい人ばかり。守り育てた父親。これから守っていく夫となる人。愛されて育った女性。なくなった母親も、見守っているでしょう。
    いつまでもお幸せに

  • なんていいお話!すごくほっこりしました。お父さんの気持ちが娘さんによく伝わってて、すごく気立の良いお嬢さんに育ったからこそ、こんな素敵な彼と出会えたんですね。

  • お父さんの優しさが娘さんにしっかり遺伝しているなと思いました。また左目が見えないと聞いて、驚かずにその発言ができるなんて、ステキすぎました…
    きっと天国にいるママも喜んでいるのでしょうね…!

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