ゆいちゃんのかばん

松田エルナ

ゆいちゃんのかばん(脚本)

ゆいちゃんのかばん

松田エルナ

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ゆいちゃんのかばん
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〇水の中
???「・・・さん?」
青年「・・・」
???「お兄・・・さん?」

〇駅前広場
青年「うあっ!!」
青年「やべ、寝ちまった」
青年「キミが起こしてくれたのか」
女の子「・・・」
青年「ごめん、驚かせた」
女の子「い、いえ 大丈夫なのです」
青年「つーか・・・」
青年「愛しの旦那が武者修行から 帰ってきたってのに・・・」
青年「あいつ、迎えもなしか」
女の子「あいつ・・・?」
青年「ああ、嫁のことな」
青年「まあ、チビの面倒もあるし しゃあないか」
女の子「・・・」
青年「・・・(じーっ)」
女の子「え、え・・・?」
青年「それ、いいカバンだな」
女の子「こ、これ?」
青年「ああ、嫉妬するほどいい仕事だぜ」
青年「素朴な意匠だが細部まで丁寧な縫製・・・」
青年「革の発色も見事だ」
女の子「そ、そうなのですか?」
女の子「小さいころからずっと使ってて かなりお古なのです」
青年「いや、手入れも行き届いてるよ」
青年「かなり気に入ってるんだな このカバン」
女の子「・・・」
青年「あれ、根革が傷んでるじゃないか」
女の子「ねがわ・・・?」
青年「カバンと肩ひもをつないでる部分だな」
青年「どれ・・・ 直してやるよ」
女の子「な、直す・・・?」
青年「ああ、俺カバン職人なんだ」

〇黒背景

〇テラス席
女の子「へぇ~」
女の子「それじゃ、いままで海外で カバン職人の修行を」
青年「まあな」
青年「ウチのやつには大反対されたけど」
青年「チビがまだ小さいのにって」
女の子「・・・」
青年「でも、やっと4年間の修行が終わって 日本に帰ってきたんだ」
女の子「あの、なんでそこまで?」
青年「ああ・・・」
青年「俺はもっといいカバンが作りたい」
青年「ホンモノには職人の魂が込められてる」
青年「そういうカバンはさ・・・ 時を超えて持ち主に寄り添えるんだ」
青年「キミのこのカバンみたいにな」
青年「ほれ、直ったぞ」
女の子「すごい・・・!」
青年「応急処置だけどな」
女の子「な、何かお礼を・・・」
青年「ああ、別に気にしなくていいよ」
女の子「そういうわけには・・・」
女の子「あ、あの」
青年「ん?」
女の子「デ、デート1回とか・・・どうですか?」
青年「ブッ・・・!!」
青年「な、なんでそうなる!?」
青年「俺、妻子持ちのおっさんなんだが・・・」
女の子「だ、ダメ・・・なのですか?」

〇黒背景

〇遊園地の広場
青年「・・・」
女の子「あ! 次はあれ乗りたいのです!」
青年「結局来てしまった・・・」
女の子「わー! 風船くれるのです!?」
青年「まあ・・・いいか」
女の子「あっちにクレープ屋さんがあるのです!」
青年「おーい、ちょっと待ってくれ」
青年「おい!だ・・・」
???「大丈夫!!?」
女の子「痛いね?」
女の子「ほら、絆創膏あげる」
女の子「シャツも破けちゃってる・・・」
女の子「ちょっと待ってね」
女の子「うん・・・下手くそだけど これでガマンしてね」
青年「・・・」
女の子「よしよし、頑張ったね アメあげる」
女の子「うん、じゃあね」
女の子「あ・・・お待たせです」
青年「・・・」
青年「幸せなカバンだな・・・」
女の子「え?」
青年「なあ、次はアレ乗らないか?」

〇街の全景
女の子「街があんな小さく・・・」
女の子「自分がどんなに小さい存在か 見せつけられてるみたいなのです」

〇観覧車のゴンドラ
青年「・・・」
女の子「私、お兄さんみたいに一生懸命に なれるものもないし・・・」
女の子「なんの取り柄もない どこにでもいる子」
女の子「そのくせ人の顔色窺ってばっかりで」
女の子「いつもお母さんを 心配させてるのです」
女の子「ほんと、ダメダメな子なのです」
青年「・・・」
青年「カバンってのはさ」
女の子「え?」
青年「人を映す鏡だと思うんだ」
青年「カバンに何を入れてるかで 人柄がわかるってもんさ」
青年「さっきの少年のことでわかったよ」
青年「キミが人を想える優しい子だってさ」
女の子「そんな・・・」
青年「なあ・・・」
青年「唯(ゆい)なんだろ?」
唯(ゆい)「・・・」
唯(ゆい)「え!!?」
唯(ゆい)「やっぱり・・・」
唯(ゆい)「『お父さん』なのですか!?」
唯(ゆい)「本当に!?」
青年「ったりめえだろ?」
青年「言っただろ」
青年「ホンモノには職人の『魂が込められてる』ってさ」
唯(ゆい)「そ、そういう意味だと思わないのです」
唯(ゆい)「でも・・・なんで私のこと?」
青年「自分の娘の顔くらいわかるさ」
青年「それにしても あのチビが大きくなったもんだな」
青年「まあ、まだ小せえけどな ・・・いろいろと」
唯(ゆい)「も・・・もう!!」
唯(ゆい)「普通お年頃の娘に そんなこと言わないのです!!」
青年「はっはは!! わりぃわりぃ!!」
青年「・・・」
唯(ゆい)「・・・」
青年「ごめんな・・・」
青年「父ちゃん、こんなことになっちまってよ」

〇ヨーロッパの街並み

〇観覧車のゴンドラ
青年「そのカバン、届いてたんだな」
唯(ゆい)「うん・・・」
唯(ゆい)「あのときからどこへ行くにも 一緒なのです」
青年「それは俺のカバン職人としての集大成だ」
青年「持ち主の人生にいつまでも 寄り添えるように・・・」
青年「いちばん大切な人を想って つくったんだ」
青年「唯・・・ 10歳の誕生日おめでとう」
唯(ゆい)「お父さん・・・」
青年「って・・・ ずいぶん遅くなっちまったな」
唯(ゆい)「ほんとなのです・・・バカ」
唯(ゆい)「誕生日には遊園地にも 連れて行ってくれるって・・・」
青年「ごめんな、唯」
青年「俺はな・・・」
青年「人とカバンは似てるとも思うんだ」
青年「素材の革の表情や それに合わせた職人の仕事・・・」
青年「ひとつとして同じものはない」
青年「そして、持ち主がそこにどんなモノや 想いを詰め込んで生きてきたか・・・」
青年「すべてが唯一無二なんだ」
青年「そこに刻まれていく物語が カバンを・・・人をつくっていくんだ」
青年「唯、胸張って歩けよ」
青年「俺のカバンがそばにいるからよ」
唯(ゆい)「うん・・・」
唯(ゆい)「これから、お父さんのカバンに いろんなもの詰め込んでいくのです」
唯(ゆい)「この先、私の人生には いろんな出会いがあって」
唯(ゆい)「楽しいことも辛いことも いっぱいあって・・・」
唯(ゆい)「きっと、私の両手じゃ持ちきれないから」
唯(ゆい)「そばにいてね、お父さん」
青年「おう」
青年「唯、母ちゃんによろしくな」
唯(ゆい)「うん・・・」
青年「ちゃんと食えよ」
唯(ゆい)「わかってるのです・・・」
青年「あと、男ができたら連れて来いよ 俺が見てやる」
唯(ゆい)「そ・・・それは余計なお世話なのです!」
唯(ゆい)「・・・」
唯(ゆい)「お父さん?」
唯(ゆい)「・・・」

〇街の全景
唯(ゆい)「う・・・」
唯(ゆい)「うあ・・・」
唯(ゆい)「うああぁぁ・・・!」

〇黒背景

〇見晴らしのいい公園
女の子の声「ねえ」
女の子の声「ママのカバン、そろそろ買いかえたら?」
大人びた女性の声「ううん・・・いいの」
大人びた女性の声「これは魔法のカバンなんだから」
女の子の声「え、なにそれ?」
大人びた女性の声「それはね・・・」
大人びた女性の声「あなたと出会う、ずっと前のお話」

〇幻想2
  愛がたくさん詰まったカバンの・・・
  ちょっと不思議な物語

コメント

  • しろじゃけ様の美少女ちゃんの魅力が溢れていますね…!かばんも物語にしっかり馴染んでいるのがお見事です✨
    お父さんのかばんを持つという事は、お父さんが側で人生を支えてくれるという事……これからも二人は共にあると感じさせてくれるメッセージが素敵でした🥲
    お父さんが帰ってきてたのは、ちょうどお盆くらいの時期だったんですかね…?😂

  • お父さんとデートできた1日は、鞄を大事にしてくれている神様からのプレゼントだったのかもしれないなと思いました。随所に散りばめられたお父さんの言葉に、娘への想いが詰まっていてほっこりと感動的な物語にほろっとしちゃいました。
    イラストに吹き込まれた命、彼女の人生。もう流石としか言えません……。優しい気持ちになれました。ありがとうございました!

  • 徐々に謎が解けてゆく過程が、とても心地良く暖かな物語でした😊

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