せまくて広いネットの世界で(脚本)
〇学校の屋上
さよ「ウソじゃないよ。できるわ。 ここから飛び降りる」
私が屋上についた時、
「さよ」は金網の向こう側に立っていた。
さよの彼氏は、必死に止めているみたい。
だけど、彼女はすごく気が強い。
勢いまかせに、校庭めがけてジャンプ。
そんなのは時間の問題だった。
〇まっすぐの廊下
私たちは、バーチャル学生。聖ビスマス学園高等部の三年生だ。
バーチャルだから進路の心配もない。
三年生はただの設定だ。
希望すれば単位がとれるし進学もできる。
昼は働いて、夜にレポートだけ提出する
社会人もいた。
実際にはない学校、なりきりの学生、
しがらみのない友だち。
夢のような世界で、私たちは生活している。
そう思っていたのに──。
〇学校の屋上
oboro_1107「やめろよ、そんな事して、なんになるって いうんだよ・・・?」
彼氏さんは、クラスでも人気のあるほうだ。
eスポーツもうまくて、プロ選手と一緒に
ゲームの配信をたまにやってる。
私から見ても、そんな悪い人ではないように
思えた。
ゲームに熱中しすぎて、ちょっと彼女を
ほったらかしにする以外は。
さよ「私、知ってる。結婚してるんでしょ。 奥さんがいるのに、恋愛ごっこしてる」
さよ「そういうのムリだから。 別れてくれないなら、私が消えるよ」
oboro_1107「ちがうよ! 俺は、ただ学生時代に また戻りたかっただけで・・・」
さよ「学生時代って、女の子と恋愛っぽく過ごす 期間の事なの?」
さよ「今、文字を入力してる指も、既婚男性の 動かしてる指なんだよね?」
さよ「ほんとムリだから」
oboro_1107「さよ・・・」
oboro_1107「黙っていたのは悪かった。 でも、さよが大事なのは本当だよ」
さよ「それ、奥さんの前で言える?」
さよ「無理だよね」
さよ「選んで。私と奥さん、どっちが大事なの?」
oboro_1107「・・・」
oboro_1107「──嫁のほうが、大事だよ」
さよ「よかった」
さよ「私たち、いいお友だちでいようね」
oboro_1107「ああ。また明日、校舎で会おう」
〇学校の屋上
その日の夜、さよは私に
「嫁より大事だなんて言ったら、
その場でキャラを消すつもりだった」
そう教えてくれた。
〇おしゃれなリビングダイニング
ママ「全く、これで少しは家庭にも目を向けて くれたらねー!」
ママ「まあ、「嫁が大事」って言った事については評価しなくもないけどー?」
もう、わかったよね。
彼女が「さよ」の中の人。
私の大好きなママだ。
そしてこれがパパ。
サラリーマンと実況者をやってます。
ママはパパに内緒で、聖ビスマス学園に
キャラクターを作りました。
ネット浮気してないか、何してるのか、
ちょっとだけ監視するつもりだったらしい。
そうしたらパパが「つきあってくれ」
って言ってきたんだって。
バーチャル学園生活にも慣れてきて、
友だちもできた頃だったそう。
「浮気だけど浮気じゃない。どうしよう?」
最近はそんな相談もされていたんだけど
これがママなりのケジメだったみたい。
──ここまでが、ママの知っていること。
実はパパは、ママが「さよ」だと気づいた。
パパ「うちの通信管理はパパがしてるからね。 そりゃ気がつくでしょー」
ゲーム実況者は伊達じゃなかった。
パパ「ママには秘密な? パパとママは職場で知り合ったからさー」
oboro_1107「気づいてないフリして、一緒に学園生活を 送ってみるのも楽しいかもしれないなー!」
パパはそこそこ優秀ではあるけど
女心に関してはちょっとダメみたいだ。
リアルで構ってもらえないから
ママは心配でアバターを作ったのにね。
本当、世話がやけるんだから・・・
〇名門の学校
それから、月日は流れ──
さよ「卒業おめでとう! 4月からは社会人になるんだね」
oboro_1107「頑張れよ! 応援してるからな」
私「2人ともありがとう。 私がいなくても、ケンカなんかしないでね?」
oboro_1107「するわけないだろー? 家でだって仲いーのにさー」
さよ「え?」
oboro_1107「あれ?」
さよ「あ、あれ〜???」
〇おしゃれなリビングダイニング
その後、パパの部屋のドアが急に開いて、
2人分の足音が一階へ降りていった。
私はヘッドホンをつけて「入社前の君へ」と
いう会社から送られた動画を見る事にした。
なので、その後のことは知らない。
恋愛って、夫婦じゃできないのかな?
全く世話が焼けるよね・・・。
〇勉強机のある部屋
その晩、遅くに私のスマホへ通知がきた。
ママからだった。
夜中にごめんね。
パパはきみが心配で、聖ビスマス学園に
アバターを作っていたんだって。
卒業本当におめでとう。
一人暮らしが始まるわけだけど、
困ったらいつでも私たちに相談してね。
だってクラスメイトだもんね!
学園なら、いつでも会える。まってるよ。
辛くなったら、今度は私が助ける番
だから。ね!
私はたぶん、ちょっと泣いた。
もしも、すごく辛いことがあったら
あの屋上へ行こうとおもう。
〇学校の屋上
きっと、せまくて広くてせまい、
ネットの世界で出会えたクラスメイトたちが
キツめのアドバイスをしたり、あわてて
場をとりなしたりしながら、
面と向かっては話せない事でも
相談に乗ってくれるにちがいないから。
〜GOOD END〜
知らない世界を覗き読んで、今そのバーチャル学園というのが理解できたような、もう少しなような感じです。リアルな人間関係しか興味のない私にとって複雑な心境と刺激的な何かを覚えました。
バーチャル学園生活だからただの設定だし、人間関係のしがらみがない、と思いがちだけど実際はそんなことはないのだ、と考えさせられる作品でした。
ネットゲーム家族…、確かにあり得そうな話ですね。
恋人ごっこ、中身を知っていても楽しもうとする姿勢は中々変わってるかもしれませんね笑