イブは定時退社で

Akizuki

本編(脚本)

イブは定時退社で

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〇オフィスのフロア
  12月24日、クリスマスイブ。
金藤太陽「なあ、三田。この資料なんだけどさ」
三田流星「それなら訂正しておいたよ」
金藤太陽「マジ? この短時間でもう終わらせたの?」
三田流星「今日はどうしても定時に上がらなきゃ いけない理由があるからね」
  そう言って、三田は素早く身支度を
  済ませる。
三田流星「もし何か間違いがあれば、月曜に直すから」
三田流星「じゃあ、お疲れ~」
  颯爽と帰っていく後ろ姿を見つめ、
  俺はポツリと呟く。
金藤太陽「間違いなんて1つもねーよ。 こんな完璧な資料」
  同期の三田流星はイケメンで仕事ができて
  俺に無いものを全部持っている男。
金藤太陽(しかもイブに定時退社って、絶対彼女と デートじゃん。俺は独り身なのに)
金藤太陽「はぁ、アイツにはマジで何も勝てねー」
金藤太陽「よしっ、今日はとことん残業してやる。 どうせ予定なんてないし」
部長「えー、定時になってもまだ働こうとする 独り身の諸君」
部長「クリスマスイブに予定が無いからといって 無駄な残業はしないように」
部長「今日はさっさと全員帰りたまえ」
金藤太陽「マジ・・・すか・・・?」

〇公園のベンチ
金藤太陽(イブだけ残業なしってどういうことだよ)
  強制的に定時退社した俺は、
  家の近所にある公園で缶ビールを開ける。
金藤太陽(誰もいない家に帰ってもつまんねーしな)
金藤太陽(今ごろ三田は彼女と楽しんでるのかな?)
金藤太陽「あーあ、俺もあんなモテる完璧男に 生まれたかったなぁ!!」
  大きすぎるひとり言を口にした、その時。
「うわぁぁぁ!」
金藤太陽「?」
  空から男性の叫び声が聞こえ、
  慌てて顔を上げる。

〇空
  えっ・・・。
  サンタが・・・落ちてくる。

〇公園のベンチ
  ドサッ!
金藤太陽「っぶねえ」
  とっさに横抱きで受け止め、
  サンタらしき相手の顔を確認する。
金藤太陽「は!?」
三田流星「!!」
金藤太陽「お前、三田かよ!?」
三田流星「なんで金藤が」
  サンタの格好をした三田は、
  俺を見上げて口をパクパクさせる。
三田流星「しかもお姫様抱っこされてるし」
三田流星「これってもしかして夢!?」
金藤太陽「うわっ、落ち着けよ!」
  三田があたふたしながら暴れるので、
  危うくそのその体を落としそうになる。
  思わず自分の方に抱き寄せると、
  三田は恥ずかしそうにうつむいた。
三田流星「ご、ごめん。 大丈夫だから、とりあえず降ろして」
  三田をゆっくり地面に降ろすと・・・。
  ドドドドドド!
金藤太陽「今度は何!?」
  謎の地響きと共に、公園の向こうから
  1匹の動物が現れた。
トナカイ「・・・」
金藤太陽「トナカイ?」
三田流星「サン! 無事でよかった」
  三田は慣れた様子で
  トナカイを抱きしめる。
サン「く~ん」
金藤太陽「このトナカイ、お前の!?」
三田流星「うん、俺の相棒」
金藤太陽(サンタの格好をして、トナカイが相棒で しかも、ソリまで付いて来てるし)
  トナカイの首から伸びる手綱には、
  プレゼントの乗ったソリが繋がっている。
金藤太陽「お前ってまさか、サンタクロース!?」
三田流星「ははっ、バレちゃったね。 正確にはサンタクロースの子孫だけど」
  戸惑う俺に、三田は詳しく説明する。
  何千年も前に実在したサンタクロース。
  その子孫は世界中へと散らばり、
  イブの夜にそれぞれの国の子供たちへ
  プレゼントを届けている。
三田流星「俺もその1人なんだけど、 途中でソリの運転に失敗しちゃって」
金藤太陽「俺の目の前に・・・落っこちてきた」
三田流星「そういうこと」
三田流星「まあ、信じるかは金藤次第だよ」
三田流星「じゃあ、俺急ぐから」
三田流星「って、えぇ!! どうしよう」
金藤太陽「?」
三田流星「落ちた衝撃でソリが壊れちゃったみたい」
  ソリの側面に大きな穴が開き、
  プレゼントが落ちそうになっている。
三田流星「このままだと不安だなぁ。 途中でプレゼント落としたら困るし」
金藤太陽「貸してみ。俺が直してやる」
三田流星「え?」
金藤太陽「サンタとか信じらねーけど なんか緊急事態っぽいし」
金藤太陽「うちの実家、自転車屋なんだ。 ソリは初めてだけど、修理してみるわ」
三田流星「金藤・・・」
  三田の了承を得る前に、
  俺はさっさと修理に取りかかる。
金藤太陽「この辺をこうして・・・」
  ソリを修理しながら、ふとあることを
  思い出す。
金藤太陽「そういえば前もこんなことあったよな?」
金藤太陽「入社してすぐくらいにさ、 三田の自転車がパンクして」
三田流星「覚えてるよ。 一緒にいた金藤が直してくれたんだよね」
三田流星「あの時も今もこうやって助けてくれて 金藤はやっぱりカッコいいなぁ」
金藤太陽「な、なんだよ。急に褒めんなって」
金藤太陽(イケメンにカッコいいとか言われるのは 悪い気がしねーな)
金藤太陽「よしっ、できた」
三田流星「さんきゅ。助かった」
  三田は手綱に手をかけ、
  ソリを宙に浮きあがらせる。
金藤太陽(ここまで見たら信じるしかねーよな。 こいつ、やっぱりサンタの子孫なんだ)
  まだ半信半疑だけど、
  俺は笑顔で三田を見上げる。
金藤太陽「俺、お前のこと誤解してたわ」
金藤太陽「イブに定時退社して、今頃デートでも してんのかと思ってたけど」
金藤太陽「本当は子供たちのために朝まで 頑張ってたんだな。お疲れさま」
  ねぎらいのつもりで、まだ開けていない
  缶ビールを差し出す。
三田流星「とんだ誤解だね。でも、ありがとう」
  缶ビールを受け取り、
  三田はフッと嬉しそうにはにかむ。
三田流星「毎年イブもクリスマスも忙しくて 楽しむ余裕なんてなかったけど」
三田流星「今年は少しの時間でも 好きな人と一緒に過ごせてよかった」
三田流星「特別なイブになったよ」
金藤太陽「は!? す、好きな人って・・・」
三田流星「じゃあね! メリークリスマース!」
金藤太陽「お、おい待てって・・・!」
金藤太陽「なん、だよ。今の・・・マジで」
  何かに期待するように、胸がトクンと
  甘い音を立てる。
金藤太陽(俺にとっても 特別なイブになったかもしれないな)
  胸の高鳴りの意味がまだ分からなくても、
  そう確信するのだった。

コメント

  • キュンキュンです。お姫様抱っこいいです✨続きがあれば読みたいです!

  • 会社設定から始まったので、リアルBLかと思いきや、まさかのサンタさんで、ラストまで楽しく読みました。
    しかも、お互いに意識はしていたようで、今後も気になる2人ですね!

  • 三田と太陽は同期でありながら、仕事の出来や容姿などで二人の間に差がついているんだけど、三田は太陽の事を羨ましく思っている事が意外でした。

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