第六話『逃避行』(脚本)
〇黒背景
憎い。
憎い憎い憎い。
憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い──
憎い!!
絶対に
許さない。
〇暗い洞窟
レイリィース「・・・」
レイリィース「あの」
クロムウェル「なんだ?」
レイリィース「もう結構歩きましたけど」
レイリィース「この道、どこまで続いてますの?」
クロムウェル「王都近郊の川の近くだ」
クロムウェル「そっからは隠してあるイカダに乗って海まで行き」
クロムウェル「そのあとは船に乗って国外に逃げる」
レイリィース「でも、あんな大騒ぎをしたのですよ?」
レイリィース「どこかで検問をしかれるのでは?」
クロムウェル「その前に抜ける」
クロムウェル「それにこの道は王族しかしらない」
クロムウェル「今となっちゃ、知ってるのは俺を含めて3人だけだ」
クロムウェル「父上は最近、寝たきりだし」
クロムウェル「兄上はここのことを話したがらないはずだ」
レイリィース「というと?」
クロムウェル「心配性なんだよ」
クロムウェル「こんな状況で、自分が牢獄に入れられた時のことを考えちまうぐらいにな」
クロムウェル「だから追手の心配はしばらく大丈夫だ」
レイリィース「・・・」
クロムウェル「もう聞くことはないか?」
レイリィース「・・・」
レイリィース「まだ」
レイリィース「まだあります」
クロムウェル「なんだ?」
レイリィース「これです」
レイリィース嬢 覚え書き
クロムウェル「お、お前!」
クロムウェル「持って来てたのか!?」
レイリィース「当然です!」
レイリィース「乙女の私物を勝手に読んでおいて」
レイリィース「自分だけ逃げられると思わないでください!」
クロムウェル「・・・」
クロムウェル「はぁ」
クロムウェル「今読むなよ」
クロムウェル「読むならあとで読め」
クロムウェル「出来れば俺がいないところでな」
レイリィース「じゃ、読まない代わりに聞きますけど」
レイリィース「これ、何が書いてありますの?」
クロムウェル「・・・」
クロムウェル「はぁ~」
レイリィース「?」
クロムウェル「お前のことだよ」
レイリィース「私の?」
クロムウェル「ああ」
クロムウェル「お見合いから十日間ぐらいのお前の行動やら」
クロムウェル「その他もろもろ調査したことについてとか」
クロムウェル「まぁ」
クロムウェル「色々だ」
レイリィース「わ、私の行動!?」
レイリィース「ど、どうやって!?」
クロムウェル「ああ?」
クロムウェル「・・・」
クロムウェル「お前まさかあのヘタクソな変装が バレてないと思ってたのか?」
レイリィース「えぇっ!? バレてましたの!?」
クロムウェル「たりめぇだろうが」
クロムウェル「王宮じゃ金髪の見知らぬ変質者がいるって噂になってたんだぞ」
レイリィース「へ、変質者」
クロムウェル「まぁ、それは上手くごまかしといたが・・・」
クロムウェル「とにかく」
クロムウェル「お前が俺のことを観察して 色々書いてたみてーに」
クロムウェル「俺は俺で、お前のことを 調べて書いていたって訳だ」
レイリィース「な、なるほど」
レイリィース「なんだかちょっと照れますわね」
クロムウェル「なに恥じらってんだ、お前・・・」
レイリィース「えへへ~」
レイリィース「・・・」
レイリィース(って、ハッ!)
レイリィース(なんだか流されてここまで来ちゃいましたけど)
レイリィース(私ってば何してるんでしょう!?)
レイリィース(目的からそれていませんこと!?)
レイリィース(今回のループでの狙いは 王子様の調査を行い)
レイリィース(前回未来が変わった理由を調べること!)
レイリィース(王子様と逃げ出すことじゃ―)
レイリィース「・・・」
レイリィース(ない!)
レイリィース(はずですわ!!)
レイリィース(と、とにかく)
レイリィース(一度考えをまとめましょう)
レイリィース(前回、未来が変わった理由・・・)
レイリィース(それはおおよそ分かりました)
レイリィース(その理由は)
レイリィース(王子様の『好感度』によって 未来が変わるという物ですわ!)
クロムウェル「お前さっきからなに顔芸してんだ?」
レイリィース「静かに!」
クロムウェル「おっ、おう・・・」
レイリィース「ふぅ」
レイリィース(続けましょう)
〇黒背景
王子様は孤独だった
そしておそらくは
己に並び立つ人物を探して
あんな大規模なお見合いを開かれた!
そこで選ばれたのがこの私!
この私が!
美しさと知性と愛嬌と勇気と嗜みを備えた―
・・・
〇暗い洞窟
レイリィース(なんか違うような・・・)
レイリィース(・・・)
レイリィース(いやまぁとにかく)
レイリィース(なんだかよく分からないけど私が選ばれて)
レイリィース(いろいろ行動を共にした結果)
レイリィース(王子様の好感度が上がって未来が変わった)
レイリィース(これはまず間違いございませんでしょう)
レイリィース(しかし)
〇貴族の部屋
変わりはしましたが
結局告発される流れは一緒ですし
『最善』の変わり方をしてはいませんわね
〇黒背景
問題はやはり、王子様でさえ関与出来ない
スピードで広がる陰謀の『根』ですわ
結局のところ、この根をどうにかしない限り告発は避けられない
避けられない以上、私の望みは叶わない
死なずに、これまで通りの日常を歩むという願いは叶わない
結局、今回の調査は無駄骨ということになるのでしょうか・・・
〇暗い洞窟
レイリィース(・・・)
レイリィース(まぁ、落ち込んでても仕方ありませんわ)
レイリィース(王子様のことがよく知れただけでも 今は良し!)
レイリィース(この情報も今後何かの役に立つはず!)
レイリィース(これからどうするかは、また次のループにでも―)
レイリィース「──」
レイリィース「・・・」
クロムウェル「ああ?どうした?」
レイリィース「い、いえ」
レイリィース「なんでもありませんわ」
クロムウェル「?」
レイリィース「・・・」
レイリィース(次)
レイリィース(次のループ)
レイリィース(もし、今私が死んで次のループに入れば)
レイリィース(王子様は今回のループであったことを忘れてしまう)
レイリィース(私たちの関係は一度完全にリセットされて)
レイリィース(また最初からやり直しになる)
〇上官の部屋
あんなことや
〇闘技場
そんなことも
〇暗い洞窟
レイリィース(全部なかったことになって)
レイリィース(また一からやり直し)
レイリィース(それは)
レイリィース(それは)
レイリィース(それは)
〇黒背景
レイリィース「嫌だ」
〇暗い洞窟
レイリィース(・・・)
レイリィース「ふぎゃ」
レイリィース「なんですの!」
レイリィース「急に立ち止まって振り返られて」
クロムウェル「レイリィース」
レイリィース「?」
クロムウェル「先に行け」
スラァッ!
レイリィース「!?」
クロムウェル「何か妙だ」
レイリィース「妙って」
レイリィース「今な―」
クロムウェル「伏せろ!」
レイリィース「ぎゃふっ!」
バガン!
〇黒背景
クロムウェル「チッ!灯りを!?」
クロムウェル「ッ!」
ガキン!
レイリィース「お、王子様!」
クロムウェル「動くな!」
クロムウェル「チッ!」
レイリィース(追手!?)
レイリィース「私も加勢しま―!」
クロムウェル「ダメだ!来るんじゃねー!」
クロムウェル「グッ!」
レイリィース「!?」
レイリィース(血)
レイリィース(血の匂い)
レイリィース(王子様が)
レイリィース(王子様が!)
レイリィース「よくも・・・」
ギュッ!
レイリィース「よくもやりましたわねぇ!!」
レイリィース(音)
レイリィース(音)
レイリィース(音!)
王子様の足音と
もう一つ―!
レイリィース「そこッ!」
「グッ!」
クロムウェル「ッ!」
クロムウェル「せえええや!」
「ンンッ!?」
「チッ!」
・・・
クロムウェル「ハァ、ハァ!」
クロムウェル「無事か レイリィース?」
レイリィース「こ、こちらは無事です」
クロムウェル「そうか」
クロムウェル「すまん。助かった」
レイリィース「いえ」
レイリィース「それより王子様こそご無事ですか!?」
レイリィース「お怪我をされたのでは!?」
クロムウェル「・・・」
クロムウェル「問題ない。かすり傷だ」
クロムウェル「腕を少し斬られた」
クロムウェル「まぁそれはいい」
クロムウェル「とにかく、先を急ぐぞ」
クロムウェル「当てが外れた」
クロムウェル「こんなに早く追手がかかるとはな」
レイリィース「それよりまず治療を!」
クロムウェル「かすり傷だって言ってんだろ」
クロムウェル「ツバでも付けとけば直る」
レイリィース「でも!」
クロムウェル「いいんだよ!」
クロムウェル「どうせここじゃ暗くて 治療なんてろくに出来ねぇんだ」
レイリィース「・・・」
レイリィース「なら早く行きますわよ!!」
クロムウェル「だからさっきから―」
レイリィース「ほら手を!」
クロムウェル「手!?」
レイリィース「暗すぎて見えませんもの!」
レイリィース「はぐれないように手を貸してください!」
クロムウェル「お、おう・・・」
ガシッ!
クロムウェル「ゴフゥ!」
クロムウェル「首だそこは!」
レイリィース「ご、ごめんあそばせ!」
ガシィッ!
レイリィース「よし!じゃ行きますわよ!」
レイリィース「・・・」
クロムウェル「・・・」
レイリィース「ところでどっちから来ましたっけ?」
クロムウェル「・・・」
クロムウェル「フッ」
クロムウェル「ハハハハッ!」
クロムウェル「おーし、ついてこい」
クロムウェル「手を離すなよ、レイリィース」
レイリィース「あ、はい」
〇けもの道
レイリィース「ブハッ!ゴホッゴホッ!!」
レイリィース「もう!」
レイリィース「なんで出口が埋まってますの!」
クロムウェル「秘密の抜け道だって言ったろ」
レイリィース「だからってこんな」
クロムウェル「それより急ぐぞ」
クロムウェル「向こうの廃屋だ」
レイリィース「はあ」
レイリィース「ハッ!それより傷の―」
クロムウェル「月が出てて良かったな」
シュルシュルキュッ!
クロムウェル「火がなくてもよく見える」
レイリィース「あの」
クロムウェル「なんだ?」
レイリィース「怪我の手当てを」
クロムウェル「もう済んだ」
レイリィース「・・・」
クロムウェル「行くぞ。遅れるな」
レイリィース「・・・」
レイリィース「このお方はほんとにもう・・・」
クロムウェル「早くしろ」
レイリィース「はいはいはいはい」
レイリィース「今行きますわ」
クロムウェル「・・・」
クロムウェル「ああ」
クロムウェル「急げ」
〇渓谷
レイリィース「はぁ~えんやっこら よっとせ~」
ギィコ。ギィコ。
レイリィース「ふぅ、久しぶりに船を操りますわぁ~」
レイリィース「意外と体が覚えてる物ですわねぇ~」
クロムウェル「・・・」
クロムウェル「レイリィース」
レイリィース「なんです?」
クロムウェル「いいか、もう一度確認するぞ」
クロムウェル「このまま川をくだり港まで出る」
クロムウェル「そしたら町の北端に 黒い屋根の小屋があるから」
クロムウェル「そこに住む人間に―」
レイリィース「それもう5回は聞きましたわ・・・」
クロムウェル「・・・」
クロムウェル「そうか」
レイリィース「王子様、お疲れなのではないですか?」
レイリィース「少しお休みください」
レイリィース「船はこのまま私が操りますから」
クロムウェル「・・・」
クロムウェル「ああ」
クロムウェル「いや」
クロムウェル「もう少し喋らせろ」
レイリィース「そうは言われますが・・・」
クロムウェル「大丈夫だ」
クロムウェル「それより―」
レイリィース「?」
クロムウェル「・・・」
クロムウェル「そうだな」
クロムウェル「お前、何だって櫓(ろ)の使い方なんて知ってんだ?」
レイリィース「それはまぁ、昔習ったことがありますので」
クロムウェル「習った?」
クロムウェル「船のこぎ方を?」
クロムウェル「貴族のご令嬢が?」
レイリィース「ええ」
レイリィース「こう見えてワンパクでしたの」
クロムウェル「フッ」
クロムウェル「どう見てもそうだよ、お前は」
レイリィース「むっ!失礼ではありませんこと?」
クロムウェル「ハハッ」
クロムウェル「褒めてんだよ」
クロムウェル「色々できんだな。 すげーよ」
クロムウェル「剣も、料理も、船こぐのも」
クロムウェル「出来ねーことなんか、ないんじゃねーのか?」
レイリィース「ありますわよ!」
クロムウェル「ほう、なんだ?」
レイリィース「どっかの誰かさんのお考えを読むことですわ!」
クロムウェル「ハハハハッ」
クロムウェル「なるほど」
クロムウェル「まぁ、それは俺も似たようなもんだ」
クロムウェル「だからこそおもしれー」
クロムウェル「そんなもんだろ?」
レイリィース「もう!勝手なことばかりおっしゃって!」
クロムウェル「フフッ」
クロムウェル「・・・」
レイリィース「王子様?」
クロムウェル「・・・」
クロムウェル「悪かったな、レイリィース」
レイリィース「?」
レイリィース「急になんです?」
クロムウェル「あのお見合いの席で」
クロムウェル「お前を選んじまって悪かった」
レイリィース「はぁ?」
クロムウェル「今回の件の責任は全て俺にある」
クロムウェル「俺がお前を巻き込んだんだ」
クロムウェル「うかつ過ぎた」
クロムウェル「責任ある大貴族がこうも徒党を組んで」
クロムウェル「お前を殺そうとするとは 想像も出来なかった」
クロムウェル「さっきの追手にしてもそうだ」
クロムウェル「全て、俺の想定外のことばかりが起きている」
むっ、これは二分割の前半を引き伸ばしてますね。いつもよりワンシーンあたりの台詞のラリーが多く感じます。
今回の見所は斬撃エフェクトをあえて暗闇で使うことで戦いを想像させる場面ですね。あれは斬新です。敵の正体を明かさないまま、熾烈な戦いが描写されてました。
船の表現も実際には見えてないのに船が見えるようでいいですね。
さて、船で着いたその先に何があるのか。楽しみです。