第五話『ノート』(脚本)
〇立派な洋館
〇貴族の部屋
レイリィース「・・・」
カキカキ
クロムウェル様 絶対解読本
レイリィース「ふむ」
レイリィース「やりますか・・・」
カキカキ
王子様は―
〇西洋の城
〇上官の部屋
クロムウェル「ああ?俺がどっち利きかって?」
レイリィース「はい。王子様の利き手はどっちですの?」
クロムウェル「なんでそんなこと知りてーんだよ」
レイリィース「そりゃ今度の訓練で―」
レイリィース「ハッ!」
レイリィース「い、いえ、ただの知的好奇心ですわ!」
クロムウェル「ふーん」
クロムウェル「まぁ、別に隠してねーけどな」
クロムウェル「両利きだよ、俺は」
レイリィース「両利き?」
クロムウェル「ああ、どっちの手でも同じように使える」
クロムウェル「見てな」
スラスラ。スラスラ。
レイリィース「あら、ご達筆」
クロムウェル「まぁな」
クロムウェル「利き手を怪我して仕事が出来ないなんて情けねーことになったら困るから」
クロムウェル「どっちの手でも書けるようにしてんだわ」
レイリィース「なるほど」
レイリィース「・・・」
レイリィース「それじゃ、両手を同時に怪我したらどうしますの?」
クロムウェル「両手を?」
レイリィース「はい」
クロムウェル「ハハッ」
クロムウェル「どうすると思う?」
レイリィース「えっ?」
レイリィース「そりゃ、別の人に代筆を・・・」
クロムウェル「外れだ」
クロムウェル「こうすんだよ」
クロムウェル「あむ」
スラスラスラ。
レイリィース「お、お口で!?しかもこれまたご達筆!?」
クロムウェル「ほう、そういうこと」
クロムウェル「死なない限りは仕事が出来るように備えてある」
レイリィース「あの、どうしてそこまで」
クロムウェル「王子だからな」
レイリィース「王子様だから?」
クロムウェル「代わりがいねーんだよ」
クロムウェル「最近は父上も調子が悪くて寝てばっかだし」
クロムウェル「多少は備えて当たり前だろ?」
レイリィース(全然多少じゃないと思いますけど)
―王子様は
〇貴族の部屋
とんでもない頑張り屋さんだ。
両利きぐらいならまだ分かるけど
口でペンを使うなんて常軌を逸してる。
それでも
自分の責務を全うするために
そんな常識外れな準備までしている。
王子様は―
〇城の廊下
レイリィース「ふんふーん♪」
レイリィース「今日のお菓子は♪」
「最低です! あんな小娘を選ぶなんて信じられません!!」
レイリィース「・・・」
ご令嬢B「ど」
ご令嬢B「どきなさい!」
レイリィース「は、はい」
レイリィース「・・・」
〇上官の部屋
クロムウェル「・・・」
スラスラ
レイリィース「失礼しますわ」
クロムウェル「おう」
レイリィース「・・・」
レイリィース「これで4人目ですわよ?」
クロムウェル「あと3人は来る」
クロムウェル「いい加減慣れろ」
レイリィース「・・・」
レイリィース「まるでこうなることが分かっていたかのような口ぶりですわね」
クロムウェル「まぁな」
レイリィース「むっ」
クロムウェル「落ち着けよ」
クロムウェル「誰を選んでもこうなってたんだ」
クロムウェル「俺は人気がありすぎた」
クロムウェル「令嬢連中からだけじゃなく、その親連中からもな」
クロムウェル「娘の方は娘の方で、俺と恋仲になろうと必死だったし」
クロムウェル「親は親で各方面に圧力かけまくってた」
クロムウェル「裏でも表でも、嫌と言うほど工作を受けて来たんだ」
クロムウェル「誰を選んだって文句を言われてたさ」
レイリィース「それでも私を―!」
レイリィース「あっいやその」
レイリィース「ヴィランガード嬢を選ぶのではなく」
レイリィース「もっと波風立たない良い選択肢があったのでは?」
クロムウェル「まぁ、なかったとは言えないな」
レイリィース「なら―」
クロムウェル「でも、それじゃつまんねーだろ」
レイリィース「つまんねーって」
レイリィース「なんですのそれ!」
クロムウェル「フッ、さてな」
レイリィース「むっ!」
一瞬
前のように罵声を飛ばそうとも思ったけど
レイリィース「む、むぅ」
でも何も言えなかった。
その時
その一瞬だけ
強くて、賢くて
誰からも尊敬される王子様が
何故か幼子のようにか弱く見えたから
だから
私は何も言えなかった
〇城の廊下
レイリィース「うーむ」
レイリィース「この違和感は一体」
「──」
レイリィース「ハッ!?こ、この声は!?」
パパリィース「私はもう、あのお転婆娘のレイリィースが クロムウェル様に貰われて」
パパリィース「ご迷惑をおかけしないかと心配で心配で!」
サイアス「ハッハッハッ!」
サイアス「まぁ、気持ちは分かります」
サイアス「弟のクロムウェルは兄の私から見ても良くできた奴ですから」
サイアス「かく言う私も頼りっぱなしで、肩身が狭くて仕方ないですよ」
パパリィース「いやいや、サイアス様という素晴らしい兄君がいればこそですよ!」
パパリィース「お二人がいれば、アイリス王国も将来安泰と、皆が口にするくらいですから!」
サイアス「ハッハッハッ!」
サイアス「その期待に応えることが出来るよう頑張らないといけませんね!」
パパリィース「はい!もう家臣一同、一丸となってお支えいたしますので!」
サイアス「よろしく頼みますよ」
「・・・」
レイリィース「ふぅ」
レイリィース「お父様と」
レイリィース「あれはサイアス第一王子」
レイリィース「クロムウェル様のお兄様か・・・」
レイリィース「そんな方にまで頼られるなんて」
レイリィース「王子様ってほんとに凄いお方」
レイリィース「でも」
レイリィース「それじゃ・・・」
王子様は一体誰を頼ればいいんだろう
〇黒背景
王子様は
孤独だ。
兵士B「王子!」
近衛兵「王子」
メイドA「王子様」
ご令嬢A「クロムウェル様!」
多くの人に囲まれて
多くの人に慕われて
多くの人に憧れられて
その全ての想いにしっかり答えて
それで、それなのに
何故か
どうしようもなく孤独だ。
全ての人間に、どこか距離を置かれている
凄すぎる王子様に
何でもできるあの方に
誰もがどこかで壁を作っている
それでも
〇外国の田舎町
それでも
〇養護施設の庭
それでも
〇闘技場
それでも
〇上官の部屋
それでも
〇貴族の部屋
それでも
王子様は
素敵な方だ。
〇黒背景
身分の関係なく誰にでも優しい。
思いやりの気持ちを忘れない。
人を小馬鹿にしたりしない。
職務をいい加減にこなさない。
笑うと以外に可愛い。
呆れて目を細めるような表情も
年相応に焦った顔をする時も
怒った時の凛々しい姿も
全部
全部全部全部全部
素敵な方だ。
〇貴族の部屋
レイリィース「そんなお方が」
レイリィース「私をおもしれーからと選んだ」
レイリィース「・・・」
レイリィース「やはり違和感がありますわね」
それはきっと
レイリィース「おもしれーだけが理由じゃないからですわ」
なら理由は
近衛兵「レイリィース・ジョゼフィーヌ・ヴィランガード!!」
近衛兵「貴様! クロムウェル様の婚約者でありながら、外国と通じて国王陛下の暗殺を企てたな!」
レイリィース「はぁ」
レイリィース「時間切れですわね」
レイリィース「抵抗しないから早く連れて行ってくださいまし」
近衛兵「!?」
近衛兵「チッ!連行しろ!」
〇法廷
裁判長「ー判決は有罪!」
裁判長「国家反逆罪により死刑に処す!」
裁判長「監獄に連れていけ!」
レイリィース「はいはい。手早く頼みますわ」
〇闇の要塞
〇牢獄
執行人「ここで大人しくしてろ!」
レイリィース「はいはいはい。大人しくしてますわ」
執行人「ケッ!」
レイリィース「はぁ」
レイリィース「私もいい加減慣れたものですわね」
レイリィース「はぁ~」
〇城の会議室
おもしれー女じゃねーか。気に入ったぜ!
〇牢獄
レイリィース「・・・」
レイリィース「それだけじゃないんですわよね」
レイリィース(王子様は)
レイリィース(一人ぼっちだった)
レイリィース(人に囲まれていながら、側には誰もいない)
レイリィース(誰かにいて欲しくて私を選んだ)
レイリィース(そう考えると)
レイリィース(前のループで未来が変わった理由は)
ガチャン!
レイリィース「ん?」
レイリィース「なんのー」
クロムウェル「おう」
レイリィース「・・・」
レイリィース「えええぇ!?」
レイリィース「な、なんで王子様がここにいますの!?」
クロムウェル「いちゃ悪いか?」
レイリィース「わ、悪いでしょう!」
レイリィース「私は貴方のお父上を暗殺しようとした女ですわよ!?」
クロムウェル「してねーだろ、お前」
レイリィース「!?」
クロムウェル「そんなことするような女じゃねー」
クロムウェル「それぐらいは分かる」
レイリィース「なら何故!?」
クロムウェル「まぁ落ち着けよ」
クロムウェル「警備をぶっ飛ばしてここにいるんだ」
クロムウェル「あんまりデカイ声出すな」
レイリィース「・・・」
レイリィース「それじゃ、何をしにこんな所まで」
レイリィース「私の無実を証明するためですの?」
クロムウェル「それは無理だ」
クロムウェル「陰謀に気付くのが遅すぎた」
クロムウェル「『向こう』の用意が周到過ぎたとも言えるが」
クロムウェル「あっという間に連行、裁判、死刑宣告、執行だ」
クロムウェル「一方で、お前の無罪を証明できる物証はない」
クロムウェル「不利な証拠は幾らでも出てくるのにな」
レイリィース「むぅ」
クロムウェル「それに」
クロムウェル「問題が根深すぎる」
レイリィース「根深い?」
クロムウェル「ああ」
クロムウェル「根回しの良さから考えて、複数の大貴族が裏で一枚かんでるのは間違いない」
クロムウェル「お前の疑いを晴らそうとすると、その連中全員の不正を証明しなきゃらならねー」
クロムウェル「仮に出来たとしても、国が傾くレベルの後遺症を残す」
レイリィース「・・・」
レイリィース「つまり」
レイリィース「私に大人しく死ねと?」
レイリィース「それを言うためだけに、ここに来たんですの?」
クロムウェル「・・・」
クロムウェル「違う」
レイリィース「なら何故」
トサッ
レイリィース「そ、それは!」
クロムウェル様 絶対解読本
レイリィース「わ、私の!?」
クロムウェル「悪いが読ませてもらった」
クロムウェル「よく見てんじゃねーかよ、俺のこと」
レイリィース「お、乙女の私物を勝手に!?」
レイリィース「いくら王子様でも許されませんわよ!?」
クロムウェル「なぁ」
レイリィース「なんです!?」
クロムウェル「お前、俺に惚れたか?」
レイリィース「はぁ!?」
レイリィース「きゅ、急に何を!?」
クロムウェル「フッ」
クロムウェル「俺はな」
レイリィース「ん?」
レイリィース嬢 覚え書き
レイリィース「んんん?」
クロムウェル「お前に惚れた、レイリィース」
クロムウェル「俺と一緒に生きろ」
レイリィース「・・・」
レイリィース「・・・・・・」
レイリィース「はぁあああ!?」
クロムウェル「よっし」
クロムウェル「じゃ逃げるぞ。ついてきな」
クロムウェル「王族しか知らない抜け道がある」
レイリィース「ちょ、ちょっと待ってくださいまし!」
クロムウェル「悪いが時間がないんだ」
執行人「お、おうじ」
クロムウェル「そら見ろ」
執行人「な、何故こんな!」
クロムウェル「悪ぃ」
執行人「グハッ!」
クロムウェル「王子はやめだ」
レイリィース「ちょ、ちょっと!?」
クロムウェル「行くぞ、レイリィース。 遅れるなよ」
レイリィース「ちょまっ!」
レイリィース「あ~もう!」
〇要塞の廊下
兵士C「お、王子!?お待っ!?」
兵士C「グホッ!!」
クロムウェル「通るぞ」
クロムウェル「下だ。来い」
レイリィース「ちょ、ちょっと!」
〇らせん階段
レイリィース「あ、あの!」
レイリィース「どういうおつもりなんですの!?」
クロムウェル「何が?」
レイリィース「こんな真似して!?」
レイリィース「大変なことになりますわよ!!」
クロムウェル「分かってるよ、んなこと」
レイリィース「じゃ、何故!?」
レイリィース「あなたが何を考えてるのか、さっぱり分かりませんわ!」
クロムウェル「そうかよ!」
クロムウェル「ならよく聞いて理解しろ!」
クロムウェル「俺はお前に惚れたから」
クロムウェル「国も家族も責務も全部ぶん投げて」
クロムウェル「お前を助けるって言ってんだよ!」
クロムウェル「分かったら黙ってついてこい!」
レイリィース「!?」
レイリィース「しょ、正気ですの?」
クロムウェル「多少はそのつもりだ!」
イッキ読みで来ました!おもしれーお話!!👏👏
レイリィースの口調が『お嬢様ッ』してて癖になります😂
ループ中は理解を深め合うターンで、ループから外れて逃避行…周囲も陰謀も続々動いていきますね…続き楽しみにしてます☺️
一気読みしました!
ループから外れた大展開。愛の逃避行が始まるのでしょうか?
諦めない主人公が好きです!
待ってました、大展開!
王子の方が以前から?それとも婚約者を比較することになってから調査を?
わかりませんが、ついにループを外れました。また特異点ができるのか、それともこのまま進んでいくのか。
敵が貴族各国…でも身分を放棄したら意外と狙われない!?いや、彼で保ってる国だから必死に連れ戻しにくるか。いずれにせよ楽しみです。