絵本としおり -Side:E&K

落花亭

第一話(エリカ+カケル編)(脚本)

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〇一軒家
  ──5年前
エリカ「お父さんお母さん、ごめんね! 今日一日、リョーのお世話 よろしくお願いしますっ!」
エリカ「えっ? シオリによろしくって? オーケー!ちゃんと伝えとく!」
エリカ「じゃあ行ってきまーす!」

〇改札口前
エリカ「もおおお! 途中でヒールが折れるなんて有り得ない!!」
エリカ(オシャレとは無縁の生活を 送ってたからなあ・・・確認不足だった)
  ──子どもが生まれてから
  自分のためにお金を使うことより
  家族のためにお金を使うことが増えた
  本当はブランドものが好きだけど
  今ではプチプラのシャツにジーパン
  スニーカーが当たり前と化した
  現状に特別不満がある訳じゃない
  むしろ、日に日に幸せを感じてる
  だけど、独身を謳歌してた
  あの頃が羨ましいというか──
エリカ「・・・今、何時だろ」
エリカ「・・・約束の時間、過ぎちゃった シオリに電話しよう」
エリカ「──あれ、繋がらない? 電源切ってんのかな?」
  ──お客様にお知らせいたします
  只今、■■線の人身事故の影響で
  運転を見合わせております・・・
エリカ「マジ!?」
通行人「嘘でしょう? 急いでるのに!」
通行人「チッ。そんなに死にたいなら 迷惑をかけずに一人で死んでくれよ」
エリカ(うわっ、キッツイ言い方 焦る気持ちは分からなくもないけど・・・)
エリカ(って、今は人のことより 自分のことを気にしないと!)
エリカ(これからどうしよう? いつ頃、再開されるか分からない)
エリカ(地下鉄はここから遠いし バスは激混み、タクシーは交通費が・・・)
エリカ「・・・しゃあない シオリには悪いけど日を改めてもらおう」

〇神社の本殿
  シオリが亡くなったと聞かされたのは
  数日経ってからのことだった
  何度、連絡をしても繋がらず
  不審に思っていた私の元に
  一本の電話が入った。両親からだった
  「シオリちゃんが亡くなった」
  「駅のホームから飛び降りたらしい」
  「スマホは粉々になっていたそうだ」
  言葉の意味が理解できなかった
  
  前日に「楽しみにしてる!」と
  メッセージをくれたシオリが?
  認めたくなかった私は
  旦那にあたるようになっていった・・・
シオリの父「──本日はお忙しい中 シオリの葬儀にご参列いただき 誠にありがとうございます・・・」
シオリの母「シオリは昔から優しい子でっ・・・ うううぅ・・・!」
  ──シオリのご両親から
  家族葬のお知らせ状が届き
  シオリの遺影を見てようやく
  シオリがいない現実を受け入れた
  いや、受け入れたというより
  〈受け入れざるを得なかった〉
  が、正しいかもしれない
エリカ「ねえ、シオリ なんで先に逝っちゃったの・・・?」
  ──この世から友人が去った
  
  生まれて初めて
  私はこの言葉の重みを知った・・・

〇墓石
  ──数ヶ月後
エリカ(天気が曇ってきた・・・一雨ありそうだな)
エリカ(あれ? あの人・・・)
カケル「・・・シオリ、俺のせいだよな」
エリカ(LIMEの待ち受け画面に映ってた 婚約者のカケルさん?)
カケル「お前の親から訃報を聞かされてから 毎日、お前が夢に出てくるようになった」
カケル「大学で出会った時のお前とか 初めてデートした時のお前とか」
カケル「でも、ここ最近は違うんだ」
カケル「『死にたくなかった、別れたくなかった』 そう、血まみれで訴えるお前がいるんだ」
エリカ(別れ話が持ちあがってたんだ・・・)
カケル「葬式にも参加しない最低野郎でごめん」
カケル「俺には耐えられないと思った 本当は弱いんだよ。俺」
エリカ「・・・」

〇墓石
エリカ(やばっ、雨が・・・)
アユム「──すいません ちょっとどいてもらっていいですか?」
エリカ「えっ? あ、はい・・・」
アユム「アンタがカケルですか?」
カケル「・・・そうだけど、君は?」
アユム「アンタの元婚約者の弟だよ」
エリカ(アユムくん!?)
カケル「あ、ああ、弟さんか。 失礼。記憶になくて・・・」
アユム「顔合わせの場にいなかったんで。 逆に覚えられてるほうが怖いっす」
アユム「まぁ、そんなことはどうでもいい さっきの話、本当ですか?」
アユム「姉ちゃんが死んだのは アンタが別れ話を切り出したからですか?」
カケル「・・・それ以外にないんだ。心当たりが」
カケル「一ヶ月前だったか シオリの様子がおかしかったんだ」
カケル「突然、電話をかけてきて 『会社が辛い』と泣き出して・・・」
カケル「最初は俺も心配したよ 相談できるのはカケルだけだって言われて」
カケル「仕事で忙しい時も 二人で過ごす時間をつくった」
エリカ(あの子、私にはそんなこと一度も・・・)
カケル「・・・でも、シオリは変わらなかった それどころかますます病んでいったよ」
カケル「その時、俺は初めてプロジェクトに 任命されて、失敗は許されなかった」
カケル「君にも彼女がいるなら この気持ち・・・分かるだろ?」
アユム「・・・それで?」
カケル「・・・我慢の限界を迎えた 仕事のことしか考えられなくて 一人の時間が必要だった」
カケル「電話口で怒鳴ったのは悪いと思ってる でも、シオリにも分かってほしかった」
カケル「・・・こんなことを言ったら罰当たりだが 一人の時間は思いの外、快適だった」
カケル「それで・・・」
アユム「──姉ちゃんが重かった それで別れを切り出したんですね?」
カケル「ああ・・・」
アユム「だいたいは分かりました じゃあ、俺からも一つ──」

〇墓石
カケル「えっ?」
エリカ「ちょ、ちょっと・・・」
カケル「痛え・・・!!」
アユム「最初の一発は俺の痛み!! 残りは姉ちゃんと家族の痛みだ!!」
アユム「俺のパンチの痛みより 電車に轢かれた姉ちゃんのほうが 何倍、何十倍も痛かったに決まってる!!」
カケル「・・・その通りだな」
アユム「あれから父さんも母さんも笑わなくなった 遺影の前で自分を責めて泣いてる」
アユム「家族が・・・ 俺の家族がおかしくなってるんだよ!!」
カケル「・・・ごめん。本当にごめん」
アユム「・・・でも。 でもアンタだけが悪い訳じゃない」
アユム「俺にも彼女いるから・・・ 彼女のために色々頑張ろうと思うけど 一人になりたいって思うのも正直分かる」
アユム「アンタの話を聞くうちに 姉ちゃんも姉ちゃんで自信を失って アンタに依存してたんだ」
アユム「自分で自分を助けてやろうとは 思わなかったんだ・・・」
アユム「・・・ちくしょう。姉ちゃんのアホ」
アユム「・・・殴ってすいません それでも手加減したほうです」
カケル「こんな複雑な思いをさせるなら いっそ墓前にも姿を現さない ゲス野郎でいれば良かったな」
エリカ「──あの 話に割って入るようでごめんなさい 私、シオリの幼なじみなんですけど・・・」
アユム「あっ・・・」
カケル「どうも・・・」
エリカ「二人の会話を聞かせてもらって。 多分、シオリが亡くなった原因 私にもあると思うんです」

コメント

  • 人が亡くなるというのは毎日日常的にどこかで起きていることなのですが、周りでは起きるとその辛さを実感します。
    何か優しい言葉をかけてあげれば、そんな後の祭りにならぬよう気をつけていきたいです。

  • アナザーストーリーのおかげで、本編をより重層的に読めますね!
    後悔と自責、後の祭りとなってしまいますがせずにはいられないですよね。丁寧な感情描写で心が打たれました。

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