読切(脚本)
〇開けた交差点
怪人1「・・・」
突如現れた怪人に人々が逃げまどう
男性「どうし‥ぐあ!」
辺りに血と瓦礫が飛び散る
まきと「・・・」
いつしか怪人は消え
雨上がりの空に壊れた傘だけが残っていた
〇見晴らしのいい公園
スミレ「ねえ、まきと君!」
まきと「え、はい?」
スミレ「その折りたたみ傘貸してくれない?」
まきと「えっと、こんな晴れてるのに‥?」
スミレ「もうすぐ降るんだよ〜 ね!お願い」
まきと「そしたら、俺も濡れちゃうじゃないですか」
スミレ「じゃあ、屋根のあるところまで一緒に入れてってくれない?」
まきと「まあ、いいですけど‥」
〇学校脇の道
まきと「本当に降ってきた‥」
スミレ「まきと君も濡れなくて一石二鳥だね」
まきと「まあ、そうですけど ‥くっつき過ぎでは?」
スミレ「いやー絶対濡れたくなくて もうちょっとの我慢だから!」
まきと「そ、そうですか? 裾とか濡れてますけど」
スミレ「うん?服はいいの」
まきと「ええ?」
雨が弱くなる
まきと「・・・」
まきと「あの、」
スミレ「なに?」
まきと「なんで俺のこと知ってるんですか?」
スミレ「そりゃだって‥」
ドドガガガ!!
〇学校脇の道
ズガッ
青年「速く逃げ‥うっ」
少女「うぇええん助け‥」
人々が怪人に喰われていく
まきと「(あれは、プア・・・のキキョウか)」
スミレ「・・・桔梗ちゃん」
まきと「えっ、なぜそれを‥?」
スミレ「傘ありがとう、まきと君 離れてて」
まきと「待って、危ない!」
スミレ「待ってて」
スミレの髪が濡れ
少女だったものが形を変える
まきと「なっ!?」
それを見たキキョウが二人の方へ迫る
〇学校脇の道
まきと「うっ!」
あまりの速さにまきとが目を閉じる
怪人たちが一瞬拳を交える
ドスッ
まきと「うわっ!」
まきとが目を開けると、初めの怪人が足元に倒れている
まきと「・・・お、おい」
まきと「お前プアだったのか」
スミレ「お花の妖精さんと呼んでほしいね」
まきと「・・・」
スミレ「・・・」
まきと「・・・スミレか」
スミレ「全くノリが悪いなぁ この姿も悪くないでしょ?」
スミレ「あなたたちが作ったあの姿より」
〇学校脇の道
まきと「何が目的だ‥」
スミレ「全く、感動の再開なのに他に言うことないの?」
まきと「勝手に脱走したんだろ」
スミレ「私はこの通り、慎ましく生きてるから」
まきと「ふんっ 人に化けて何してるんだかな」
スミレ「みんなの笑顔を守ってるんだよ、ふっふっふ」
まきと「同族を倒してか?」
スミレ「わかってないな〜 桔梗ちゃんを見てみたまえ」
怪人が倒れていたあとに、一輪の桔梗の花が落ちている
まきと「花に戻したのか!? どうやって‥」
スミレ「君がいなくなったあとに私は成長したのだよ(ドヤ)」
まきと「お前の力じゃないだろう」
スミレ「あ、わかっちゃう? さすが元研究員」
まきと「うるさい! ‥それで、なんでそんなことを?」
スミレ「あそこにいた子は望んでこうなったんじゃない」
スミレ「植え付けられた感情を制御できずに、暴れてしまうこともある」
スミレ「だったら戻したいんだ 何もなかった頃に」
〇川に架かる橋
まきと「それでお前は俺に何の用だ?」
スミレ「単刀直入に言うと、私をもとに戻してほしいんだよ」
まきと「お前自身はもとに戻せないのか?」
スミレ「そういうこと! もちろん他の子の後でいいけど」
まきと「俺になんとかできると?」
スミレ「してもらわないと困るの もうあの研究は君しか知らないんだから」
まきと「所長も、亡くなったんだな‥」
スミレ「そう、私に託してね」
ロウバイ「そういうことです」
まきと「うっ!?」
スミレ「おー!蝋梅ちゃん」
まきと「いつからいたんだ‥」
ロウバイ「すみれとは行動をともにしています いつからと言うなら、あなたと接触したときですね」
まきと「そんなに前から‥!?」
スミレ「ということで、二人で協力して皆を戻してるんだ」
まきと「いや、その前にお前も人になってくれないか?流石に目つだろ」
ロウバイ「基本的には人目につかないようにしていますが、あなたと行動するのであれば変えたほうが良いですね」
ロウバイ「どうでしょうか?」
まきと「俺と同じ服はやめてくれ」
ロウバイ「失礼 では、これで」
スミレ「よしじゃあまきと君の部屋で作戦会議だね」
まきと「たしかに一旦情報を整理したいが、うん?」
まきと「なんで俺の部屋なんだよ」
スミレ「いやー、やっと落ち着けるね」
ロウバイ「場所は把握しておりますので」
まきと「初めからそのつもりだったのか‥」
〇本棚のある部屋
スミレ「うーん!見慣れた殺風景」
まきと「文句があるなら出てけ」
スミレ「文句じゃなくてノスタルジーだよ ね、蝋梅ちゃん」
ロウバイ「ええ、研究室に似た非常に懐かしい雰囲気です」
まきと「いや、そんなとこで懐かしがられてもな‥」
スミレ「人目を気にしなくていいのは楽だね〜」
ロウバイ「私はこちらの方が慣れているので」
まきと「お、おう ‥それで?これからどうするんだ」
ロウバイ「プアの中で残っているのはここにいる二人を除いてあと一人です」
まきと「そうなのか?」
スミレ「素直にもとに戻ってくれる子が結構いたんだよ」
ロウバイ「この体は不安定ですからね 感情というものも我々は持て余します」
まきと「そうか それで最後の一体はどいつだ?」
ロウバイ「鬼灯です」
まきと「そうか‥まあ予想通りだな‥」
スミレ「・・・」
〇荒れた倉庫
1ヶ月前 研究所
ホオズキ「あなたが最後ですね、お母さん」
所長「──」
ホオズキ「ええ、僕もです」
所長「──」
ホオズキ「はい‥ さようなら」
スミレ「・・・」
〇本棚のある部屋
まきと「・・・」
まきと「ふぅ」
ロウバイ「眠れませんか?」
スミレ「明日からまた研究三昧なんだからちゃんと休んでよ」
まきと「お前のせいでな」
スミレ「それは自業自得というのだよ」
まきと「わかってるよ おい、スミレ」
スミレ「なに?」
まきと「時間がもったいない 所長がお前に何をしたか教えろ」
スミレ「え!今からやるの? そんな社畜みたいなことしなくても」
まきと「俺は好きでやってるんだ!」
まきと「お前らがいつまで保つかわからないしな」
ロウバイ「そうですね こちらとしてもその方がありがたい」
スミレ「蝋梅ちゃん‥」
〇本棚のある部屋
まきと「つまり、相手の核を吸収してるのか」
まきと「それならこれで応用できるな‥」
ロウバイ「まきと、一度休憩することをおすすめします」
まきと「うん? ああ丁度いいな、一旦休憩だ」
まきと「なんか食べてくる」
スミレ「うーん 変わらないなぁ」
ロウバイ「そうですねあの頃と全く同じセリフです」
スミレ「でもこれで私も」
ロウバイ「ええ良かった あなたを一人にしなくて済みます」
ロウバイ「では、最後まで我らの問題児さんにお付き合いするとしましょう」
スミレ「・・ありがとう」
〇森の中
ホオズキ「わざわざ来てくれなくてもすみれの邪魔はしないよ」
ロウバイ「私にはあなたと違って時間がないのでね」
2体の怪人が組み合う
ホオズキ「そうか‥ 君は死を受け入れるのか」
ロウバイ「ええ、元々咲いてすぐ散るだけの存在です」
ホオズキ「僕もそれでいいと思っていた でも、そうじゃない選択肢があるんだ」
ホオズキ「あの日わかった 僕らは栄養さえ取れば人と同じだけ生きられる」
ロウバイ「分かりませんね そこに何の意味があるのです?」
ホオズキ「相変わらずだね 無意味なら自分の命すら捨てるのかい?」
ロウバイが体を貫かれる
ロウバイ「ウグッ」
ホオズキ「痛いだろう 君は違う道だって辿れたのに」
ロウバイ「私はあなたたちと違ってあまり感情豊かではないのでね‥」
ホオズキ「それはある意味幸せかもね 僕には得られないものだ」
ロウバイ「グアッ」
ロウバイが倒れる
ホオズキ「核は残しておけば良かったのかな?」
スミレ「平気だよ、もう回収してある」
ホオズキ「なるほど、蝋梅は最初から死に場所を探してたのか」
スミレ「違う、生きる意味を探してたんだよ」
ホオズキ「・・・ やはりわかってくれるのは君だけだね」
ホオズキ「──あそこで待ってるよ」
〇ビルの裏通り
まきと「それでホオズキは倒せるのか?」
スミレ「まあそこは任せといてよ」
昼間にもかかわらず暗い街を二人が歩く
まきと「ふぅ、結局残ったのは優等生と問題児か」
スミレ「その呼び方も最後だね‥」
スミレ「ねえ、まきと君はお母さん、所長のことどう思ってた?」
まきと「優しい人だったと思う その分、あんな実験をしてると聞いたときは驚いたが」
スミレ「優しいか、」
まきと「お前らにとってはそうでもないかもしれないが」
スミレ「ううん、優しいと思う ‥優しすぎるくらい」
まきと「プアの実験は所長一人で始めたんだよな?」
スミレ「うん、それで私が第一号」
まきと「だからお前に他のやつを任せたのか?」
スミレ「うーん、どうだろうね‥」
〇公園のベンチ
ホオズキ「やあ」
スミレ「久しぶり」
ホオズキ「君も来たということは上手く行ったのかな」
まきと「当たり前だ」
ホオズキ「それは良かった 少し話をしないかい?」
スミレ「いいよ」
ホオズキ「君もいいかい?」
まきと「ああ」
ホオズキ「僕らは研究所の人々を採り込んだ」
まきと「何だと!?」
ホオズキ「そして、知識と栄養を吸収し、長く生きることができるとわかったんだ」
スミレ「私も、 私は所長ごと技術を吸収した」
まきと「スミレが所長を‥?」
スミレ「結局私は問題児だったんだと思う 上手くできないくせについ動いちゃう」
まきと「・・・」
スミレ「苦しいし辛い みんなも同じなんだと思った」
スミレ「終わらせたいんだ この気持ちも全部」
〇公園のベンチ
ホオズキ「それは生きることへの弱音だろう だが君らしいね」
スミレ「たとえ弱くて短くても私は生きてる それが私の答え」
まきと「‥俺はお前たちを否定出来ない だから答えはお前に丸投げする」
スミレ「ひどいな でも、ありがとう」
スミレ「この姿も好きだったけど、ここにおいてくね」
スミレが傘から手を離す
まきと「ああ、じゃあな」
傘が地面に落ち、2体の拳ぶつかりあう
〇公園のベンチ
鈍い音が長い戦いに終わりを告げた
スミレ「うっ」
ホオズキ「みんなで生きよう、スミレ」
ホオズキが手をのばす
まきと「うがっ」
ホオズキ「何!?」
ホオズキの手が間に入ったまきとを貫く
同時にまきとがオズキの核をつかんだ
スミレ「まきと‥君?」
ホオズキ「ああぁぁ・・・」
ホオズキが崩れ落ちる
まきと「あとは、お前だ‥」
スミレ「なん‥で?」
まきと「任せるといったが、せっかくの徹夜が無駄になるのも癪だったからな‥」
まきとが倒れながら、スミレの核に手を伸ばす
まきと「あー、お前らが花になっちまったら俺は変死体だと思われるんだろうな‥」
まきと「はは、でも夏のスミレも悪くないな・・・」
「ま、き・・・」
〇水たまり
ああ、声が出ない
腕も動かない
ただ利用しただけだ
いなくなっても悲しくないと思っていた
あれこれ言いながら
自分はあの時間を楽しんでいたらしい
もう君の名前もわからないけど
こんな気持ちで終わるくらいなら
もう少しあのままでもよかった
〇公園のベンチ
怪人騒動も人々に忘れられながら
鬼灯の白い花と
季節外れのすみれが
梅雨開けの風の中で咲いていた
花と怪人という正反対のイメージを融合させたアイデアに驚きました。元が花だと思うと怪人の姿形でいてもどこか儚げに見えるのが不思議です。まきとは死んでも、残された花は道に咲くというラストの余韻が心に染みました。
とてもグッとくるお話でした。
それぞれに様々な想いがあり、それが幸福であるか不幸であるか、選択をする時点ではわかりませんよね。
あの時間をもう少し…という気持ちは私もよくあります…。
読んでいて切なくなりました。花だったのを怪人に変えられ意志を持ったが、ホントはどう思っていたのだろう?すべて結末が物語っていたように感じた。