異世界転生の秘密

西巣鴨りょう

読切(脚本)

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西巣鴨りょう

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〇荒廃した街
  ここはどこにでもある、ありきたりな剣と魔法の世界のひとつ。「ソアラ大陸」
  この世界はほかのファンタジー的世界の多分に洩れず、魔王に支配されていて、今まさに絶望の淵、破滅の危機にあった。
王様「おお、神よ。 どうか我らを救いたまえ。闇を払う希望を与えたまえ」
  人々は嘆き悲しみ、神に祈った。
  するとどこからともなく異世界からひとりの勇者が転生し、遣わされた。
  勇者の名前はアデル。
勇者「ここは、一体・・・」
  暗闇を切り裂く雷と共に現れた彼は、転生前の一切の記憶を失っていた。
勇者「俺は・・・いったい誰だ?」

〇綺麗な港町
  アデルは他の世界に転生した勇者たち同様、圧倒的俺TUEEEEパワーを発揮。
  旅の途中で美人の白魔道士や、気弱なビーストテイマーや、寡黙なアサシン
  マッチョな武闘家や、老獪な大魔道士なんかをパーティに加えつつ、旅を続けた。
「きゃ〜勇者様〜」
「勇者アデル、バンザーイ」
勇者「お〜ありがとうみんな。頑張って魔王倒すからね〜」
  世界中の人々がちやほやしてくれるので、アデルは完全に調子に乗っていた。実に良い気分だった。
  おまけに彼はイケメンで、仲間たちからの信頼も厚かった。

〇薄暗い谷底
勇者「レッドドラゴンだ!みんな!俺の後ろに隠れろ!」
  「グオオオオオオ!」
勇者「うおおおおおおくたばれえええ!」
  ズバッ!シャキーン!

〇怪しげな酒場
  その夜、村の酒場。
「さすがね、アデル。私の回復魔法なんて、もう出番がないわ」
「ガハハハ! ワシも魔力を無闇に消耗しなくていいから、実に楽じゃ」
「俺たちにももう少し働かせくれよ、じゃねえと身体がなまっちまうぜ」
「この調子なら魔王討伐もあっという間だね! そうだろ、アサシン!」
アサシン「・・・」
勇者「相変わらず無口なやつだなあ」
勇者「ま、今夜はとことん飲もうぜ!カンパーイ」
研究員2「見ろよ、気持ちよさそうに酒飲んでるぜ」
研究員1「ええ、全くいい気なものね」
研究員2「自分が何者かも知らず・・・な」
勇者「ん?今なんか言ったか?」
「いいえ、何も聞こえなかったけど」
「なんじゃアデル、もう酔ったのか? まだまだ寝かさんぞ、ガハハハ」

〇ヨーロッパの街並み
  大陸の半分を開放した頃から、アデルには奇妙な声が聞こえる様になっていた。
  それはいつも突発的に聞こえてきて、しかし周囲にその声の主らしき者は居ないのだった。
研究員1「順調に進んでるわね」
研究員2「そのようだな。 なあ、ところで今夜飲みに行かないか」
勇者「この声、一体なんなんだ? 疲れてるのかなあ」
勇者「まったく、世界を救うのも骨が折れるぜ」
  そんな調子で色々割愛するが、とうとう魔王との決戦の時がやってきた。

〇謁見の間
魔王「おのれ勇者め・・・この私をここまで追い込むとは」
勇者「魔王! 人々のため、今こそお前を討つ!」
  ザシュ!
魔王「ぐわあああああああああ」
「ついにやったわね!アデル!」
「世界に平和が戻ったんだ!」
  世界を覆っていた闇は取り払われ、空から幾筋もの光が差し込んだ。
  人々の歓声が聞こえる。
  皆が勇者アデルを称えていた。

〇謁見の間
勇者「ここまで来られたのは、みんなのおかげだ。 俺1人では到底成し遂げられなかった」
勇者「本当にありがとう。俺たちは、永遠に仲間だ!」
  アデルは差し込む光の中で、仲間達と熱い抱擁を交わした。
  空からは花びらが舞い、どこからともなく音楽が聞こえてくる。
研究員1「そろそろかな」
  またしても例の声が聞こえた。
勇者「なんだ、あれは」
  アデルの前に突如大きな文字列が現れた。
  ソアラ大陸で使われている文字とは違ったが、なぜかアデルにはそれが読めた。
  仲間達は笑顔のまま、時間が止まったように固まっている。
勇者「あ、あれは・・・」
  奇妙に見覚えのあるその文字列には、大勢の人の名前が綴られているのがわかった。
  上から下にスクロールしていくその文字列の中の一行に、アデルは自分の名前を見つける。
  それはかつて、アデルが転生前に呼ばれていた、彼の本当の名前だった。
勇者「そうだ・・・俺の本当の名前は・・・」
勇者「俺は勇者なんかじゃ、ない・・・ それどころか、俺は・・・」
  瞬間、視界が真っ暗になった。
  アサシンがアデルの背中にナイフを突き立てているのが見えた。
アサシン「執行完了」
  そのままアデルの意識は消えた。
  空から差し込む光と、舞い散る花びらの中で。
  例の文字列にはこう記されていた。
  「the end」

〇魔法陣のある研究室
  異世界ではなく、現実世界の、現代。
  薄暗い研究室には若い2人の研究員がいる。
  魔法陣の上に横たわった男の側で、モニターや装置をいじっている。
  男はすでに事切れているようだ。
研究員1「無事に終わったわね、今回も」
研究員2「ああ。しかし政府も妙なことを思いつくもんだ」
研究員1「この”異世界刑”のこと?」
研究員2「極悪な死刑囚を異世界転生させて、最期に希望や友情を信じさせたままあの世に送る・・・」
研究員1「確かに奇妙だけれど・・・みんな良い顔して逝くし、何よりこうして執行人側の罪悪感が苛まれなくて済むじゃない」
研究員2「それはそれは、人道的ですこと」
研究員1「ところで、別のシフトの人たちに聞いたんだけど、装置の不具合で時々こちらの声が彼らに聞こえてるそうよ」
研究員2「ふうん。 だとしても二度と目覚めるわけじゃないし、別に気にしなくても良いだろう」
研究員1「それもそうね」
研究員2「そんなことより、この後飲みに行かないか?」
研究員2「こいつらが酒場でグイグイ飲んでるのを見ると、こっちまで喉が渇いてくるぜ」
  「the end」

コメント

  • 死刑執行に異議を唱える論調もある中で斬新な解決策を見つけたものですね。確かに執行する側の方にかなりの精神的なストレスがかかっていることは素人でも想像がつきます。罪人を擁護するわけではないけど、こういう形で命を締めくくるのも悪くはないと思いました。

  • 一風変わった異世界もので、読んでて楽しかったです。
    死刑の執行の前に楽しい夢を見せるって発想が面白かったです。
    たしかに最高の幸せの中で死んでいくのですから、これはこれでありな気がします。

  • 思っていた自自分が自分でない、私は一体なに?でも実は自分が一体誰なのかわからなくなる時って多々ありますよね、ストーリーの展開が楽しかったです。

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