櫻ちゃんと僕

たくひあい

エピソード1(脚本)

櫻ちゃんと僕

たくひあい

今すぐ読む

櫻ちゃんと僕
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇教室
  いろいろ整理して話したいけど・・・・・・
  何から話せばいいだろう。まず僕には、信じている神様がいる。
  飯田にも、居る。
  
   そしてその宗教の違いにより、まず、結婚は無理なのだ。が。
「ゆっきくーーん!!」
  背中から聞こえる甲高い声。

〇教室の教壇
  ・・・・・・飯田櫻は、ごく普通の女の子。
  ただし実家がインコ教でお金持ちだ。
  でかい城、ではなくて、インコ教のみなさんにあたたかく送り迎えされているのはクラス中が知っていた。
  で。
  なんでこうなったかというと、僕が趣味で、授業中でもノートにしたためていた、
  小説の主人公・・・・・・が
  シンデレラをモデルにしています。
  
  え?乙女チック?
  い、いいい、いいじゃないか。
  とにかく。
  昼休みも没頭しちゃったあげくうっかり寝てしまって。
飯田櫻「お城! お嬢様、これ、私を書いたのよね!?」
  な声で目が覚めたら、
  飯田櫻!!
飯田櫻「ありがとぉー! 柚月君、私たち両想いだねっ!」
  と、まあ。
  急展開を迎えまして。
柚月君「い、飯田さん・・・・・・? あの、ぼく」
  なにかいいかけたぼく。
飯田櫻「結婚式いつにする?」
  肩までの髪をひらひら揺らしながら、櫻ちゃんはにっこり笑う。
柚月君「あ、あのさ。櫻ちゃんの家って、インコを溺愛するインコ教団だよね」
  空に、ばさばさとインコを飛ばすのをよく見る。知性のある鳥だそうだ。
飯田櫻「そーだけど?」
  首をかしげた櫻ちゃん。
  
  僕たちは、結婚できないよ。
柚月君「僕はまず自分の家のとこの神様が大事だから」
  僕の家は、寂れた神社でしたが、取り壊され、今は裏庭の社みたいなのしかない。
  だけど、僕はインコよりずっと、思い入れがある。
柚月君「ぼくの家と、櫻ちゃんの家は互いに反発すると思うな。それにぼくは、神様が――――ッ」
  首にうで!
  
  両腕!?
飯田櫻「改宗すれば済むじゃない? ねえ、私を、私を見てたんでしょう?」
  櫻ちゃんは当然のように言って見せる。
  目は真っ暗で、いわゆるレイプ目だ。
  目覚めたが椅子から立ち上がれぬまま、ぼくは櫻ちゃんの両腕によって、呼吸の与奪を握られた。
飯田櫻「ゆるさないわ・・・・・・ゆるさない」
柚月君「個人の信じるものを曲げてまで押し通して、結婚したとして嬉しいわけ?」
飯田櫻「そんなの・・・・・・ 関係ないじゃないの運命なんだからッ!!!」
  はー、はー、と肩で息をしながら櫻ちゃんは怒鳴った。
  運命ってなんだ。
飯田櫻「ろしてやる・・・・・・」
  ぼそりと呟いて不安定に揺れ始める。
柚月君「櫻ちゃん?」
飯田櫻「殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやるッッ! 許さない許さない!」
飯田櫻「インコ教だってヤクザだってなんだってつかってやるんだから! 柚月君じゃなきゃだめなんだから運命なんだから!!」
柚月君「さく、ら、ちゃん」
  時期チャイムが鳴る。
  みんなが戻ってくる
  それまで、どうにか耐えなくては。
飯田櫻「櫻、一度決めたら曲げないんだぁ。ふふ・・・・・・ふふふ、あーははッ!」
  ぐ、と首に圧力をかけられる。苦しい。
  だがか弱い女子の握力ではなかなか軌道が絞まらないみたいだ。
飯田櫻「おかしいなー? 死なないね?」
  当然みたいに櫻ちゃんは笑う。
  
  死んでたまるか。
  離せよ、もうじき、みんなッ
柚月君「離せよ、もうじき、みんなッ」
  言おうとして、ぐっと首にまた圧力。
飯田櫻「ねーえねえ? きっと真っ白できれいな骨だろうね? 柚月くーん。ウフフ」
  ぼくには、櫻ちゃんを見つめることしか出来なかった。
飯田櫻「私ね・・・・・・好きな人には一途なの。みんなが戻ってきたら二人きりじゃなくなる。なんだか今はそんな気分じゃないわ」
柚月君「ぼくの、気分は・・・・・・っ」
飯田櫻「あなたの気分? 小説に書くほど私が好きな癖にッ!! 嬉しいでしょ死んでも一緒なんだからね!」
  完全にイッている。
  どうして・・・・・・
  
  櫻ちゃんは、おっとりしていて、物静かで。
  こんな。
  こんな風な彼女を、誰も想像できないだろう。
柚月君「そのノートにあるのは、君じゃない、別の、ひとがモデルだ」
  力がわずかに緩んでいるいまのうちにとぼくは弁解する。
飯田櫻「嘘よ! 嘘なんだから!」
  目をカッと見開く櫻ちゃんにぼくは鳥肌が立った。
飯田櫻「私たち、通じあってるの、だから今ここには二人しか居ない」
  それは昼休みだからだ。
飯田櫻「あ、柚月くん、私の好きな『猫顔魚』ちゃんのストラップつけてるー!」
  櫻ちゃんはふと通学鞄に目をやった。
飯田櫻「私がこれ好きだって知っててつけてきたんだよね?」
  知らないんだが。
  
  その後も次々と『私がすきなもの』を挙げていく。
  それは妄想だと言いかけるたびに、
  櫻ちゃんはキツく睨んでいた。
  ぼくは、だんだん諦めにも似た気持ちになっていた。そうか。
  いくら言おうとも彼女の中では、それが真実なんだな。
  櫻ちゃんは一定の力で首に圧力をかけたまままた微笑む。
飯田櫻「なるよね? 私を好きになるよね? 結婚するでしょう?運命なのよ」
  櫻ちゃんの目は真っ黒。黒い制服もあいまって、なにもかもが黒に見えた。
  お昼の賑やかな校庭。
  
   窓際から伸びる影がかかり、ぼくと彼女の気持ちに線をひくような明暗をつけた。

〇教室の教壇
大黒「いやがってるでふよ・・・・・・」
  ふいに、ぼそっと声がした。
大黒「今日のところはやめてあげて欲しいでふ」
  少しぽっちゃりした、髪を金髪に染め、夏に夏休みデビューしたクラスメイト。
大黒「もうチャイムがなりまふ」
  絵のなかの大黒様のような顔で櫻ちゃんの前に出てくる。
  ぼくは、ぽかんとしていた。櫻ちゃんはしかたなさそうな顔でぼくから手をはなした。
飯田櫻「そう、そうね・・・・・・今はやめてあげる」
  それからぼそりと。
飯田櫻「呼ばなきゃ、助っ人呼ばなきゃ・・・・・・」
  と呟く。
  彼女のもくろみは、まだわからなかった。

〇簡素な一人部屋
  人の彼氏を奪ったなあああああ?!!
  寮で寝てたんだが、
  朝からものすごい叫び声で目が覚めてしまった。
  声の主は佐仲 問さなか とい多重人格者。
  
  あと、少し被害妄想があるらしい。
  何があったかはわからないけど見捨てられる不安が強いのか、常に誰彼構わずこの調子。
  部屋の外にも丸聞こえな音量で『悪女! 悪女ッ!』 と騒いでた。
  うるさい。
  ヤンデレやサイコパスはぼくもそれなりに見てきたが、彼は典型的だ。
  ああ・・・・・・、気になったかもしれないが佐仲は男が好きらしい。
  そして女に対抗意識があんのか知らんが
  
  見ると敵意をむき出しにしては、悪女と叫び罵るのが日課。
柚月君「まーた やってんのか」
  ぼさぼさの寝起きの頭のまま、携帯で時間を確認する。まだ5時。
  もう一回寝られるじゃないか。
  どたばた階段を降りる足音がさってから、ようやく、安心して戸を開けることが出来た。
  ぼくにとっちゃ、佐仲は嵐のようなやつだ。
  
  ほっと息をつきつつ廊下に出る。
  下の方ではなにやら、悪女! 悪女ッ!
  が聞こえているがまたか。
永藍「うるさいよね。本当」

〇古い施設の廊下
  隣からふと声が聞こえて見ると、そこには綺麗な子が居た。
  色白で華奢で・・・・・・男か女か一瞬だとわからない。
永藍「ああいうのって、恥ずかしくないのかな」
  周りを見渡したが、やはりこちらに話しかけていた。
柚月君「いつものことだろ」
  ぼくも誰ともない感じを装いながら答える。
  彼は、フッフフフフ! と変な含み笑い。
  危ないやつ?
永藍「きみ、面白い」
柚月君「ウケを狙ったつもじゃないけど。チップでもくれるか」
  適当に返事をする。
永藍「生憎」
  と言ったその人は、ぼくの手に小さな塊を握らせた。
永藍「今、それしかないなぁ。フフフフ」
  緑色をした犬のキーホルダー。
永藍「付録でね! アデュ!」
  とか言って階段をかけ降りて行く。
  ぽかんとしたまま、しばらくその場に居た。
  白く塗られた壁が、空を四角く切り抜いて飾っている。
  雲がゆっくりと広がり、穏やかに流れていく。
  もらったキーホルダーをそこに翳すようにして眺める。
  近所の薬局の名前が入っていた。
  噛み締めるように呟く。
柚月君「・・・・・・あの人。どの部屋だろう」
  会ってもなんの意味もないけれど、また会うような予感がする。
  ちょうどそのときに部屋の内線が鳴った。
  寮長からで、玄関に女の子がいるとのこと。
柚月君「櫻ちゃん・・・・・・」

〇学生寮
  昨日の今日。
  ぼくはあの展開にまだ、頭が追い付いていない。
  いなくならないかなと粘って無駄だった
  朝6時15分。
飯田櫻「ゆーずっきっくーん!!!」
  櫻ちゃんはドキッ!狼だらけの男子寮、でも構わずこの調子で玄関から存在をアピールしまくっていた。
  朝からご苦労な。
飯田櫻「あいらびゅー!」
柚月君「うるさい」
飯田櫻「ねえさっき誰と話してたの?」
  玄関の下駄箱で靴をはく傍らから、黒い制服をすでに着こなした彼女が聞いてくる。
柚月君「さっき?」
飯田櫻「ねえねえ。誰? あ、なにそれー、私への贈り物? そうだよねもらうからね、わーい」
  握りしめたままの緑色犬が、櫻ちゃんの手に。
  なにも言ってないし、それになぜ、彼女は今ぼくが誰かと話すことを気にするんだ。
  どこからつっこめばいいかわからなかった。
飯田櫻「朝ご飯は、カップラーメンだったよね? だめだよ、ちゃんと栄養あるもの食べないと」
柚月君「見ていたの?」
飯田櫻「おむつを履いてるバカ蜘蛛でもわかるよ!」
  どういう例えなんだ。
  ぼくが絶句していると、彼女はうふうふと笑って明日はお弁当つくってきて食べようねと言った。
柚月君「蜘蛛は、おむつなんかはかないよ」
飯田櫻「あ。バカ蜘蛛が嫌だった? なら、おむつをはいたライオンでもいいよ!」
  それより、と櫻ちゃん。ぼくをじろっと睨み、それからにおいを嗅ぐようなしぐさをした。
飯田櫻「他の人のにおいがする・・・・・・嘘でしょ、櫻以外のにおいなんか」
飯田櫻「夢のなかでも、妄想を描くときも、お話を読むときも、相手は櫻じゃなくちゃ許せない許せない許せない!!!!」
柚月君「櫻ちゃん」
  他の人もいつくるかわからない場所だ。靴もはけたしはやく出なければ。
飯田櫻「そういえばあの日見たノート、破いたよ?」
飯田櫻「あれ私じゃなかったんでしょああいうのがいいの!?私じゃダメってこと! たとえ創作であっても、」
飯田櫻「私が相手じゃないものなら潰してしまえばいいッ!!!!」
  ああいうシナリオを、恋愛相手と恋するために書いているわけじゃない。
  夢小説というものもあるらしいけど、ぼくは、そういう目的で書いたりしない。
  櫻ちゃんに言われて、昨日つくったシナリオを書いたノートが、そういえば見当たらなかったのを思い出した。
飯田櫻「わかってよわかってくれる。櫻より大事なものなんか! ないんだから!」
柚月君「櫻ちゃん・・・・・・ あれは、ぼくがぼくなりに心を込めたものなんだ。どうして、どうして破らなきゃならない」
柚月君「それに、きみと結婚なんかしない。 もう来ないで、思い違いだ」
  かあっと、櫻ちゃんの顔が赤くなる。
飯田櫻「運命に逆らうのッ!!!? 櫻は悪くなあああい!!!」
  ぼくには、そんな運命など見えない。
  空想の中でさえ、登場人物が櫻ちゃん以外許してもらえないなんか、冗談じゃない。
  飯田櫻ー--いいださくら。
  佐仲とは別の意味で厄介な人物。
  僕を勝手に運命だと思い込み、自分以外を見ないようにすることを訴えに来る。
柚月君「櫻ちゃん、落ち着いて」
飯田櫻「櫻は悪くないッ! 櫻は、恋してるんだからしかたないの! 櫻を見ないのがいけないんだから!!!」
飯田櫻「このキーホルダーだって櫻が好きそうだからくれたんでしょ! なんで期待させておいて! 私に恥をかかせるようなことするの!!」
  いったい何を言われているのかわからなかった。
  見ないもなにもないのに、恥をかかせたことになるのか。
  彼女の両手が、ためらい無く伸ばされる。
飯田櫻「櫻に謝ってよ!! ねェッ!! 櫻を許すよね?許すでしょ? 愛し合ってるんだもんいいじゃないのやましいことがあるの!?」
  はて、許さないとどうなるんだろう。
  櫻ちゃん、首に圧力をかけるのが好きらしい。
飯田櫻「ヒロインを出すなら、櫻じゃなきゃだめだから! お話でもなんでも! みーーぃんな櫻以外許さないんだから!」
飯田櫻「じゃなきゃ私、何度も破るよ!!!」
  櫻ちゃんが心のそこからどこまでも嫌いであるといえるほど親しくもなく、関わりもないわけだけれど。
  だから、なんて言ったらいいのか・・・・・・
  
  
   少なくとも、破ることはないじゃないか。
  非常識じゃないのか、そんな気持ちの方が大きく、呆然とした。
  
  許す、 ほどにまず相手に心を許してない。
  運命であるという勘違いはまあ可愛い方だ。
  ただ、だからって何もかも捧げると廃人になるだろう。
  そんな関係、ぼくは嫌だ。
飯田櫻「そうね、こんな寮にいるのも不安よね。悪い虫がついたらいけないもの」
飯田櫻「ああそうだ私がお風呂も食事も全部お世話してあげて閉じ込めるのはどうかしら、名案じゃない!!!?」
飯田櫻「私、卒業したら介護の学校に行くから。介護したいわ」
  絶対嫌だ。

〇通学路
  櫻ちゃんと並んで登校する。
  インコ教のおじいさんおばあさんがそこら中に居て、ぼくたちにあからさまに注目していた。
  はずかしいし、落ち着かない。
  ベンチに座ったおじいさんなんか、新聞を広げながらわざとらしそうにこちらを見ている。
  あれって、絶対にらんでるー!!
  曲がり角で病院にさしかかると、看護師さんに連れそわれながらゆっくりお散歩するお年寄りが大量発生していた。
  あそこが、こんなに積極的なリハビリをするとこ、
  今まで見たこともない。
柚月君「この病院、方針変わったのかな?」
  冷や汗を隠して聞くと、櫻ちゃんはにっこり。
飯田櫻「二人の愛が、羨ましいのね・・・・・・」
  ・・・・・・なんだそりゃ。
影A「あ! あいつ、櫻と話してる!!」
影A「いつ付き合ったんだ」
  通学生徒からの違う声も飛んでくるぞ~。
  
   なんでもイチかゼロでしか考えられないようなやつしかいないのだろうか。
モブ2「酷い! 彼女を奪ったなあああああ!!」
  佐仲みたいなやつ出てる!!
  めんどくさい!
モブ3「私って見る目ない・・・・・・!櫻が浮気する人だったなんて!」
  女の子が悲鳴をあげる。
飯田櫻「誰かしら、あのゴミ」
  櫻ちゃんが辛辣ぅ!!
飯田櫻「うふふふふ、知らなーい! 柚月くん、待ってよ」
  ぼくが輪から離れようと走ると、ついてくる。
モブ3「あ、あんなやつなんかブスなんだから! なんて嫌な、そのうち別れるんだから!」
  悲鳴が聞こえる。
  あいつらなんなの?
飯田櫻「いちいち品定めしちゃって・・・・・・見る目とかなんとか、クズのわりには上から目線よね」
  櫻ちゃんが辛辣!!
  
  ぼくは、ぐったりしていた。サイコパスってこんな感じだろうか?
  走ると背中から聞こえる柚月くーん!
  に、心の中がなんども404errorを表示する。嫌だなぁ怖いなぁ、助けて欲しい。
飯田櫻「私ね柚月君に近づこうとする人の首は、躊躇わずにたっくさん狩るから!!」
飯田櫻「この前も、出掛けた先のあちこちで嫌な視線見ちゃったからみんな殺すようにするんだぁ。 フフフフフフ・・・・・・」
  櫻は、なんだかおかしい。足元に本当に死体を埋めていそうなくらいに。
柚月君「・・・・・・」
飯田櫻「私が嫌いなの!? 私だけを見てるんじゃなかったの!!!」
柚月君「きみだけを」
  対象物を、
柚月君「見ていたら」
  監視するなら、
  ああ。
   世間のヤンデレに好かれる主人公って、こういう変な責任感があるんだろうなと、ぼくは少しさめた気持ちになる。
  櫻ちゃんが、善良な市民に被害を出すなんて、もししてたら、ぼくの方が罪の意識で死にたくなってしまうだろう。
  これは、自分のため。
  ぼくのためだ。
  自分が好かれたからみんな死んだなんて、そんなの嫌だ。
  そんな身勝手、ぼくは間違いなく引いてる。そんなこともわからないだろうか?
飯田櫻「それは、わからないけど櫻くんがずううっと、見ててくれるんだったら、他のものなんかどうでもいいかも」
  不安な返事。
  クラスメイトならみんな知っていることを口にした。
柚月君「でも・・・・・・ 婚約者がいるんだよね?」
  櫻ちゃんは、言葉を詰まらせた。
  婚約している人がいると自ら触れ回った上でぼくを追い回すというのは、どうなのだろう?
  遊び、ということだと解釈するのは当然ではないだろうか。
  
  まさか、
  嘘じゃあるまいし。
柚月君「婚約者が心配するようなこと、やめた方がいいよ。ぼくはきみを見てるから」
  仕方なく監視するから。
  これだけクレイジーな『妻』が居るんなら夫も相当なはず。
  心配しない、なんて婚約者だとしたら、冷めきってるからぼくに執着してると考えられる。
  なんとふざけた役回り。
  なにをどう前向きにしても、櫻ちゃんを恋愛対象と思い込む自信は持てそうにない。
  そんな想像をしたら、 やっぱりヤンデレは二次元だよなと思えた。
柚月君「ぼくが、櫻ちゃんをヒロインにしてたとしてそれを見た婚約者はどう思うかな」
飯田櫻「やあん、妬いてる~」
  櫻ちゃん前向き。
  まーえむきっ!
柚月君「きみがしてるのは、浮気だ。それとも婚約は嘘?」
  ぼくは、淡々と目が覚めるのを促そうとする。
飯田櫻「櫻、旦那居るよ・・・・・・ このまえ朝御飯にラーメン食べたし。あ、あとねあと学校に傘忘れたりしたし、」
飯田櫻「あと宿題にコーヒーこぼれたりして注意されたし」
  旦那はまるで、こちらを見張っていたかのような姿、行動だった。
飯田櫻「日記もつけてるもん!クラスの子読んでるもん!」
  待て。待てよ。櫻ちゃんの旦那は、つまり、ぼくなのか・・・・・・?
  プライベートを暴路されてまで彼女のリア充アピールだなんて聞いてないぞ。
  「ちょっと勝手過ぎない?」とさりげなく伝えたくて
柚月君(まるで、ぼくみたいだなぁ~)
  、と呟く。
飯田櫻「それって櫻へのアピール、だよね? ねっ?」
  櫻ちゃん、前向き。
  これを他のやつらが見たら、付き合ってるくせにちぐはぐだと不信がり、別れるように言うはずなのに。
飯田櫻「そういえばまだお話書いてるの? 櫻はヒロイン?」
柚月君「うん。可愛い櫻ちゃんにしてる」
  ノートをまた破られたくはない。

〇教室の外
  佐仲 問。
   仲間からは一線引かれている男。
  一目、ではなく一線だ。
  彼のなかでは、目についた女はみんな敵、男であってもたまに敵。
佐中問「奪ったなああああああああ」
  と、叫んで教室まで走った先に今回の『ソイツ』は居た。
  
  今回の相手は中性的なやつで、一瞬ドッチなのかわからない。
  あぁ、ソータが、どうしてこいつなんか・・・・・・!!
  昨日見てしまったんだ。仲良く話してるのを。
  俺のなかでは、話すだけでもはや浮気、いやいや目が合うだけでも浮気。
  許せねェ!
佐中問「返せよッ! なんで、なんで・・・・・・」
  前を、スタスタ歩くそいつの肩を掴み無理矢理振り向かせる。
  いままで太陽が背中にあったのに振り向かせられたそいつは、眩しそうに目を細めた。
??「なに、かな」
佐中問「とぼけんなよ、永藍えいあいッ!」
  永藍は困った顔でぽつりと。
??「とぼけてなんかないけど・・・・・・」
佐中問「嘘だッ! この前二人で居ただろうッ!」
  問の信用は得られなかった。
佐中問「この淫魔!悪童!××××××××~っ!」
  問はキレると止まらない。
   放送出来ない言葉で罵る。
  言い過ぎるくらい徹底的に罵倒しないと気が済まないのは、彼が抱えている発達しょうがいが関係しているらしい。
佐中問「謝れ! 地面に頭を垂れやがれチクショウめが」
??「はあ・・・・・・」
  ぽかーんとしている永藍だった。
??「きみの中では、転んだから手をのばして立たせるだとか、少し物を運ぶのを手伝っただけでもダメなんだね」
佐中問「そんな都合がいい言葉があるか! ははぁ~ん。そうやって男を落としてるんだな? とんだアバズレだな」
??「かつらがずれてた?」
佐中問「なっ、てめえかつらなのか!?」
??「違う」
佐中問「じゃあ、聞くけど!!」
??「はあ」
佐中問「俺は友を大事にしたいんだが。ショウコウをどう思う?」
  佐仲問はインコ教のインコ様と、自分について気にかけている。
??「インコ教のかたと知り合えるなんて世界は広いね」
  はたから見れば口先だけのお世辞を問は喜んだ。
   気分がよくなった問の本性?が現れた。
佐中問「電話・・・・・・させろよっ!」
  え。
   突然のツンデレ?
  怪しんだことを疑われないように永藍は突っ込まなかった。
佐中問「ラインでもいい。今度からはっ直接文句言う!」
  少し話しただけで、害が無いとでも判断されたのだろうか?
  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
??「ラインはやっていないよ」

〇教室の教壇
柚月君「トントントントン♪」
柚月君「なにしているの?」
柚月君「しんぞうさんを、マッサージしてるの」
柚月君「トントントントン♪トントントントン♪トントントントン♪トントントントン♪」
飯田櫻「だれのしんぞうなの?」
柚月君「この国や、この街は生きていて、そのしんぞうよ」
柚月君「へぇ。じゃあ、ぼくも。トントントントン♪トントントントン♪ みんなで、しんぞうさんをマッサージだ」
  放課後。
  ぼくは、櫻ちゃんにせがまれて童話を読んでいる! 隣には、満面の笑みの櫻ちゃん。
飯田櫻「私ね、やっと前を向けるようになったの・・・・・・今まで、学校も行ってなくて、でも貴方がいたから」
  重い重い重い重い。
   前を向いた結果がコレならば、そのまま家に居てもらった方が僕にはありがたい。
  帰りたかった。
飯田櫻「ねぇ~続きは?」
  手を止めると首に圧力をかけてきます。
  ひいいい。
飯田櫻「あっ・・・・・・鏡子を呼ぼうか。 圧迫面接みたいで、 圧迫、苦手だよね? 私、なんで気がつかなかったんだろ。鏡子ー!」
  出来れば櫻ちゃんの前では誰も心停止しないで欲しい・・・・・・
  『しんぞうさんにまっさーじ』を読んでいるだけでぼくはかなりプレッシャーを受けているっ。
  鏡子ちゃんは、なかなか来ない!!
  櫻ちゃんは舌打ち。
  しかしすぐスマイルに!
飯田櫻「柚月くんがそーうなる場面にもし遭遇したら、ドラえもんみたいにどこでもドアでかけつけるねっ」
  要らない。
  超いりません。
  いや、でも死にたくない。うーん。
飯田櫻「あ。 私たちの人工呼吸よりもまず、鏡子を圧迫するのが先かなー? あのメス豚」
  櫻ちゃんの目付きがガラリと変わる。
  鏡子ちゃんの居場所がわかれば、来ないようにサポートに回れるのに。
  それだけでも確実に救命率が上がるはずだ。
  呼ぶだけで終わり、ポジティブな方向に流れて欲しい。
  戸惑っている。
  誰かが動き出せば、連係出来る。
  だから、早く誰か!
  鏡子ちゃんが来ない、
  いや、来て欲しい!
  panic!!?
  あと1、2分したらこっちが失神しそう・・・・・・
  一人でいい、申し送り要員がほしい!
  でも。
  助けがもし来ても『しんぞうさんにまっさーじ』を読みながら状況説明は相当苦しい。
  しかし説明できないとわかって貰えないだろう・・・・・・
  確実に生存率が上がる方法はないものか。
  もし逃げることができなかったら、せめて上着とかで櫻ちゃんに目隠ししてる隙に逃げられないものだろうか。
  頭によぎる深夜アニメ・・・・・・
  本の次のページをめくるとウシを引き連れた新米刑事がしんぞうさんをマッサージしてる絵。
  すげえ話だなおい。
   いや、ちがう現実的に時間を稼がないと。
  できる人が多いのは救命率向上につながるわけで・・・・・・
柚月君「し、しんぞうさんにマッサージ。 やれる人が多くて交代しながらが一番なんだ。 きみも、しようよマッサージ」
  涙目で読み上げるぼく。
飯田櫻「ああ、いい声。食べ物の匂いとかじゃ感じないのに、柚月くんの声だけなんだよなー」
飯田櫻「なんなんだろう? この感情に名前はないのかしら・・・・・・」
飯田櫻「道すがらにいろんなとこから洩れてくる、柚月くんの会話や、ひとつずつの音」
飯田櫻「、それから持ち物の匂いをかぐと、この世界に存在してるのは、私独りだけじゃないって、不思議な安心感を覚えるんだ」
飯田櫻「私だけが柚月くんを求めているわけじゃないっていう、共犯者みたいな、なんて、例えが悪いかな。ふふ」
飯田櫻「鏡子に共感を求めたら「まったくわからない」ってぶったぎられたんだけど、変よね・・・・・・?」
  変です!
  はい、変ですから、だから解放して!!
  
  と言えればいいのだけど、生憎そうはいかないのだ。
柚月君「ねえ、櫻ちゃんは、今楽しい?」
飯田櫻「楽しいよ? だってだって柚月くんが、居るから」
  ぼくはそうでもない。帰って寝たいな、なんて口が避けても言えない。
飯田櫻「婚約者が居るのに浮気してたと思ってたでしょ、そりゃ言い寄る人はいるし・・・・・・不倫みたいになってて、」
飯田櫻「謝ったりもあったよ。 でも、自分からは無いのよ!」
柚月君「はぁ。でも櫻ちゃん、独占欲強そうなのに、よくそういうの我慢したね」
飯田櫻「相手はねー黙らせたから」
  !?!?!?!?!?!?!?!?!?
  !?
飯田櫻「じゃなかった。お金渡して穏便に裁判を揉み消したの」
柚月君「櫻ちゃん、それ実質謝ってないよね」
飯田櫻「どんな相手だったんだろうなぁ・・・・・・なんかよくわからないけど!」
  謝るどころか赴いてもない疑惑。
  ぼくが唖然としているのに気が付いてないみたいで、櫻ちゃんはにっこり。
飯田櫻「奥さんには申し訳なかったね。 まあいいの、あんなクズ。寂しかった柚月君のために、今日は一日一緒だよ!」
柚月君「お、おう」
柚月君「あ。櫻ちゃん・・・・・・なにを持ってるの?」
  ふと見ると櫻ちゃんの手元には小さめの手帳がありました。
飯田櫻「んー?柚月くん日記~。えへへ」
  見たい?
  と可愛らしく微笑む櫻ちゃん。
柚月君「前の方のページ、なんか汚れてるみたいだけど」
  ぼくのことを書いた部分より前の方は、なんだか、赤黒い染みがべたりとついていました!!
  絵の具かな。
  絵の具でしょ。
  そのタイミングで、誰かが教室に来る音。
飯田櫻「あ、鏡子かも!」
  ぱたぱたと慌ててそちらに向かう櫻ちゃん。
  僕の手元に残った手帳がはらりとめくれ・・・・・・
  るり子るり子るり子鏡子ウザい鏡子ウザい鏡子ウザい鏡子ウザい鏡子ウザい・・・・・・(略)
  とかなんとか羅列された血塗られたページたちがかいま見えた。
柚月君(ヒイイイイ!)
柚月君(穏便に謝るような人がこんな邪念の籠った物を書くとは思えないけど)
柚月君((クズ男、よりも扱い酷くない?) み、見なかったことにしよう)
飯田櫻「あ、ごめん、おまたせ」
  少しして、櫻ちゃんが戻ってきた。
  さっきなら隙を見て逃げ出せたのに。
   本当に、馬鹿な自分を思い知らされる。
鏡子ちゃん「・・・・・・よし、この個数差なら黒は9個位回収できる筈だ・・・・・・いけっ!」
  ゲーム機片手に、鏡子ちゃんも入ってきた。
  肩までの髪をした華奢な、クール美人だけどゲーム好きだ。
飯田櫻「鏡子、柚月君と遊んでるの、ゲームしてていいから居てくれるよね?」
  櫻ちゃんが彼女を揺さぶると、ゲームオーバーらしき音がした。
鏡子ちゃん「櫻ちゃん。無念。 他が使わないであろう武器でそれっぽくというのは失敗だったようだ・・・・・・クッ」
  横長いゲーム機を抱えてわけのわからないことをいう鏡子ちゃん。
鏡子ちゃん「ずっと作業ゲーしてると眠たい・・・ちょっと脳筋してこようかな」
鏡子ちゃん「しかしこれ、先月、引き継ぎに関するお問い合わせを出したけど未だに応答が無いんだよどう思う」
鏡子ちゃん「順番待ち状態なのかはたまた残念、諦めろということなのか」
柚月君「こんにちは、鏡子ちゃん」
  ぼくは慌てて挨拶。
鏡子ちゃん「ああ、柚月君。引き継いでスタートできたら、遺跡内部の背景が描かれるシナリオが見られるらしい・・・・・・」
鏡子ちゃん「ますます欲しくなるが、肝心の入手方法がわからないんだ」
柚月君「それは、すごいね」
鏡子ちゃん「はうっ、達成報酬が牛・・・・・・! 大きい」
鏡子ちゃん「これで、実は30位以内報酬なのだとか言われたらもう何も信じられない・・・・・・っ」
飯田櫻「柚月君、鏡子はこんな子だけど、よろしくね」
  櫻ちゃんに言われ、ぼくはうなずきました。
  正直櫻ちゃんみたいなのが二人居たらキツいなと思ったのが本音ですが。鏡子ちゃんなら安心です。
  カチカチカチと、ボタンを連打する音のなかで、ぼくは「しんぞうさんにまっさーじ」を読みます。
鏡子ちゃん「待つのはいいが。 5時には、宇都宮へと受け取りに行かなくてはならないんだ」
鏡子ちゃん「広田さんが鷹潭(インタン)から帰ってくる・・・・・・!」
飯田櫻「受けとりって、広田さん荷物?」
  櫻ちゃんがクスクス笑います。
鏡子ちゃん「にたようなものだよ」
  クールな鏡子ちゃん。
柚月君「いんたんって?」
鏡子ちゃん「中国華東地方、チヤンシー(江西)省北東部の、信(シン)江中流あたりにある市だ」
  はぁ・・・・・・
  とよくわからない表情を浮かべるぼく。
  まあいいよ、と言う鏡子ちゃんでした。
  本を開こうとしていると、彼女は言います。
鏡子ちゃん「柚月くんさぁ・・・・・・私と友達になりたい?」
  ――――え?
鏡子ちゃん「私、話の成り行きで「友達」と言われるのは嬉しいんだけど・・・・・・」
鏡子ちゃん「友達になろうとか「友達だよね!」って言われるのは苦手なんだ」
鏡子ちゃん「恋人だってそうだよ」
鏡子ちゃん「言葉で縛る関係って結局薄っぺらいような、心でお互い友達だと思ってたらそれでいいじゃないかって思ってしまうから」
飯田櫻「柚子月君になんてこと言うの!」
  ばん、と強く机を叩いたのは櫻ちゃん。
柚月君「別に。そんなこと、ないよ・・・・・・大丈夫、櫻ちゃん。鏡子ちゃんの言う通り、だね」
  櫻ちゃんはなぜか納得いかなさそうな目で鏡子ちゃんをにらむ。
鏡子ちゃん「私は、暇は感じても寂しいって思わなくなってしまったんだ」
鏡子ちゃん「多分深入りしないからかな。 人を心から信用するのって怖くない?」
鏡子ちゃん「友達って言葉で信用が成り立つのも変に思うけど、自分だけ相手のこと好きなのではないかと相手を信用出来なくなることも事実で」
鏡子ちゃん「自分でもどうなりたいのかわからなくなるというか・・・・・・」
  鏡子ちゃんが眉を寄せて補足したので、ぼくは言う。
柚月君「ま、周りに人がいてくれる環境なら大事にすることに越したことないよ。ねえ広田君って、どんな人?」
鏡子ちゃん「あの人は・・・・・・私の中で複雑で、言葉にするのは難しいな」
  とにかく、とても大事な人なんだろう。
飯田櫻「柚月くんは私のものだからね!!」
  櫻ちゃんが主張する。
  ぼくはぼんやりしていた。
  誰かのこと考えるのは疲れる。
  だけど相手のことを好きで考えてしまう気持ちは嫌いじゃない。
  自分が逆の立場でいろいろ考えて貰えるのは嬉しいから。
  まあ、ヤンデレじゃなかったらなあ。
  さっきの血まみれ手帳を思い出してしまった。
  ぼくは、他人にもっと興味が持ちたいし好きになりたいけれど、
  櫻ちゃんたちとの距離感は、ほんとうに難しい。
飯田櫻「柚月くん、気を悪くしたならごめんねっ!!」
飯田櫻「私はね! 人の気持ちはなかなか信用できないけど、セールスマンとか他人の言葉はやけに素直に信じてしまう性格なんだよ」
飯田櫻「他人だから信用して裏切られても大してダメージがないからかなぁ~」
  櫻ちゃんの気持ちって普段はよく分からないけどこうやって話をきいていて分かることがある気がする。
柚月君「ふうん・・・・・・そうなんだ、ぼくは、そうでもないな」
  わいわいと話しながら、ふと、不思議な気がしてきた。
  鏡子ちゃんもいるし、
  櫻ちゃんには、友達が大勢いるのだ。
  なんで、陰キャラに近いようなぼくなんかに、話しかけたのだろうか。

〇教室の教壇
  柚月君は、会ったときからずっといつも一人で物語を書いて机にいる、寂しい子だった。
  一人ってつまらなくない?
  私は不思議でもあったけれど、なぜかいつも彼から目が離せなかった。
  他人が知らない部分を自分が先に知ることができる気がして。
  私はいつもそうだった。
  その子が人気になると離れて元の輪に戻ったり、別の輪を作ったりしていた。
  
  寂しくて。
  人気にならない相手が好きで。
  彼が人気になれば、私にとっては用済みな、要らない存在となる。
  けど、彼ならきっとそんな心配はない。
  そう。私はそういう子。
  自分でもおかしい、気持ち悪いって思うけど、だけど、私は誰も近づかないものが欲しかった。
  周りは、邪魔なのだ。
飯田櫻(鏡子はいいな。広田君との間って第三者が邪魔する隙が無さそうで)
飯田櫻(例えば、どちらかを自分のものにしようと考える奴が現れたとしても、相手にされないイメージ)
飯田櫻(嫉妬もしなさそう・・・・・・・・・)
  相手を舐めきった思考。
  知られたら絶対嫌われて私から離れていってしまう思考。
  わかってる、わかってるよ。
  そしたら、もう諦めて違う輪に行かなきゃならないんだってことを。
  『負け』を認めたくない。
  私は、結局大多数の一人ってこと、海のなかにいた、沢山の鰯の群れと同じ・・・・・・
  だけど、だけどあんなやつ誰も話しかけないじゃないの!!?
  群れのなかの一匹の魚が、ようやく、安全な場所を得られた気がする。
  私は、なぜだか柚月君と親しくならなくてはいけない気がした。
  誰も話しかけない、自分を特別にしてくれる相手。
飯田櫻「柚月くんはぁ・・・・・・、私しか知らない存在になるの・・・」
  どんな手を使ってでも、ね。

〇教室の教壇
  授業も宿題も終わったし帰ろう、と席を立つ。
  普段夜更かししているけれど、それが祟って最近日中はめちゃくちゃ眠い・・・・・・
  眠れるように、放課後はこうやって復習の時間をつくる。
  毎日早く寝ようと心がけているのだがなかなか思い通りにいかない。
??「夕飯は、なにか食べたいな。 三色そぼろ丼とか、ハンバーグ・・・・・・あー、両方・・・・・・」
  コンビニのやつが好きだった。
  僕の得意料理は・・・・・・カレーだろうか。
  これなら失敗すること絶対に無い。具材切って固形のカレー入れるのは手料理と言えるのかは謎だが。
  だが今は、寮なので、手料理、を作るこができない。
  なぜかふと。
  ラインをもってないというと
  「おめえ何型だ!」
  と僕に聞いてきた佐仲問を思い出した。
  自分は血液型診断をがっつり信じてる人間ではなくて、
  面白いなーと思っている程度だけど・・・・・・
  彼はああいうのが好きみたいだ。
  次に、僕が三色そぼろ丼が好きだと言ったとたんに作るように毎日せがんだ母親を思い出す。
??「・・・・・・」
  なんだか、変な気分だった。
  寮の部屋は一人。
  ああ、そうだ、そういえば今朝すれ違った、誰だっけ・・・・・・
  かわいい子だったな。
  朝、同じ寮のなかで、佐仲問が相変わらずやかましかったので、苦笑していたときに会った・・・・・・
??(そうだ、寮の名簿を見せてもらおう)
  佐仲がいる階。同じフロアだ。
??(彼はインコ教のお嬢様と付き合ってるっぽいが、まっすぐ帰るだろうか)
??(個人的な意見だけれど、佐仲とお嬢様は絶対気が合うと思う)
  なんて思いながら走っていたら、人とぶつかった
??「っ!?」
柚月君「ごめんなさいっ!」
  目の前で謝っているのは・・・・・・
柚月君「あ。今朝はどうも」
??「うん。久し、ぶり?」
  あの緑の犬をあげた彼。
柚月君「・・・・・・」
??「・・・・・・・・・」
  不思議な間ができた。
  えーっと、と場をもたせる術を考えていたら、ぐう、と彼の胃が収縮する音。
??「あ。お腹すいてるの?」
  彼は、かああ、と頬を赤くする。
柚月君「朝、あまり食べてなくて」
  はい、と僕は弁当を鞄から出した。
  アスパラとベーコンを一緒に調理したもの。
  いわゆる赤ピーマン、パプリカの肉炒め。サラダにヨーグルトに柑橘系のフルーツ、そしておにぎりだ。
柚月君「うわ、すごい、良いんですか?」
??「うん、育ち盛りなのに不健康なのは心配だから。健康って良いものだし、今を元気にいられるのはいいことだと思うよ」
柚月君「だけど!」
??「今日は、ちょっと食べる暇がなかったんだよね、 お金はかかるけど、今日は僕はあとで買うし・・・・・・平気!」
柚月君「すごい、ありがとうございますっ! お名前は・・・・・・」
??「僕? 永藍っていうんだ。えいあい、ね」
  とても空腹だったのかがつがつと食べている彼を見ながら、僕が隣のクラスということや、佐仲の話をした。
柚月君「佐仲の、一番気持ち悪いのは、やっぱり「いるいる~」ってならないところかな」
??「わかる、フィクション感がある・・・・・・なんていうか」
??「そもそもそういう人だというか、彼はしょうがいもあるし、当然な感じなんだけどね」
  相手をネガティブにあげつらったり、微妙に的を得ていない感が「ん?となるのかもしれない。
柚月君「櫻ちゃんも・・・・・・どんな人間なら正解なんだろう?」
  ぼそり、と彼が呟く。
??「櫻お嬢は、良い子?」
柚月君「仙人と付き合えばいいと、思います。勝手についてるだけです・・・・・・」
??「普段どんな話を?」
柚月君「カレーはあんまり好きな食べ物じゃないけど、スパイになった気分で炒めてる時は、本当に好い香りで滾るだとか」
柚月君「いい香りで家族がみんな喜ぶとか」
??「なにそれ」
  気が合うのか、彼とはずいぶん話し込んでいた。

〇学校の廊下
  昇降口へ向かうべく、二人で階段を降りていたそのとき。
  ある『本』が、踊り場に放置されていた。
柚月君「パンチラ、アイドル、一夫3妻、妹の身体・・・・・・」
  彼が読み上げる。
  真顔だ。
柚月君「今なら99円! 失敗率100%! ポンコツ手品に失敗した時に見えるパンチラ(&パンモロ)姿」
柚月君「新人のジャスミン。 ――人間やめますか、アイドルやりますか?」
柚月君「極道3人組が責任を取るために全身整形してまさかのアイドルデビュー」
柚月君「その後一夫多妻がオッケーな町で、借金に追われる小春には金持ちからハレ婚のお誘いが」
柚月君「しかし交通事故をきっかけに体が入れ替わってしまった」
柚月君「物静かで従順だった妹(身体は兄)は豹変し、「お兄ちゃんの身体は返さない」!!?TS(トランス・セクシャル」
柚月君「・・・・・・うっわなにこれ!?」
  なんていうか、かなりカオスな本。
柚月君「読みます?」
  スッ、と渡されて慌てて拒否する。いや、そんなに焦らなくていいんだけど。
??「い、いらないいらないいらない」
  そういえば、彼は。
  櫻ちゃんを好いているとは言い切れない雰囲気だが。なぜ付き合っている風なのだろうか。
  聞いてみたい気がしたが、なんとなくわかる気もする。
柚月君「ええと、あらすじ・・・・・・宮尾嫌いを豪語する俺は、」
柚月君「学校中の女子たちから嫌われている、クールでイケメンだけれど、なによりもお金を愛する銭ゲバ男子「闇の皇太子」」
柚月君「大人の男が苦手なのに、隣人のエロ漫画家・大友のもとでアルバイトをすることになってしまう」
柚月君「そこで幼馴染みのポジティブ貧乏少女、星宮の秘密を知った──」
柚月君「いくらパンツをはいても“弾け飛んじゃう妖狐(いぬ)のおまわりさん” っていう秘密を──」
  読むの!?
  
  設定盛りだくさんだね!?
「安く済ませたわね!!」
  怒声が響いた。
  何事かと僕らは慌てて本を投げ捨てて立ち上がる。
柚月君「櫻ちゃんの声だ・・・・・・」
??「みたいだね」
飯田櫻「私の柚月君を釣って・・・・・・あんな安いもので!!!安く済ませていいと思ってるの?」
  振り向くと櫻ちゃんが仁王立ちしていた。
飯田櫻「柚月君が手には入るなら安いものだと思って買ってわざと置いたんでしょ!!」
??「僕は、安いものだなんて考えないし、第一・・・・・・」
  櫻ちゃんはとまらない。変な盲信までしている様子だ。
飯田櫻「安いと思ったの!?」
  だめだ。
  会話にならない。
飯田櫻「柚月君は、櫻を愛してるの!!四六時中櫻のこと考えて、櫻にときめいてるんだから! 告白されて、結ばれたの!」
  彼をちらりと見ると複雑な感じで目をそらす。
  彼女は彼を恋愛脳に仕立てあげたいのだろうか。
??「あ、会いたくて震える?」
  僕が聞くと、櫻嬢は、
飯田櫻「当たり前でしょ!?」
飯田櫻「震えまくっているわよ!! そりゃもうファミリー銭湯のマッサージ機の強くらいは震えてるわ! 見てわからないの!」
??「それ痙攣じゃない?」
飯田櫻「ふん、恋のすごさがわからないなんて! あんた清純そうな顔してるけどほんとはめちゃくちゃ恋人欲しいでしょ?」
飯田櫻「モテない自分をな・ぐ・さ・め・て・る・んですっっ! つって~? そーれをあんな安物本で、誘惑して!」
  この平常心が、な・ぐ・さ・め・てるように見える辺り、櫻ちゃんの妄想爆発ぶりがうかがえた。
??「櫻ちゃんは、どこが好きなの?」
飯田櫻「私を救ってくれたヒーローなの・・・・・・」
  うっとりと頬に手を当てる櫻ちゃん。
  え? みたいな顔をする柚月君。
  じゃあヒーローに迷惑かけんなよ とでも言いたげだ。
??「そ、そう。じゃあ僕はこれで」
  立ち去ろうとした僕の首元を、櫻嬢が掴む。
飯田櫻「柚月君を誘惑してただで済むわけないでしょ?」
  いくらで済むんだ。
??「7つ集めてごはんにのせればいいの?」
  混乱した僕は思わず口に出していた。
飯田櫻「なにとぼけてんのよ? 土下座でしょう」
??「友達くらい、居ても良いと思うけどな」
  ぼそっと呟いたのが耳に入ったらしい。櫻ちゃんの目付きが変わった。
飯田櫻「柚月君に話しかけるやつなんかみんな敵! 柚月君には誰も近寄ってこられないの!」
飯田櫻「しょうがないじゃない、私が守ってあげないと柚月君が、雌豚どもに誘惑されちゃうから!」
飯田櫻「だからっ、私が柚月君のモノってみんなに教えてるの」
  櫻ちゃんには、柚月君の学校生活や他人と会話することを妨げる権利があるんだろうか・・・・・・?
飯田櫻「今日だって、これ、くれたのよ」
  ウフフ、と櫻ちゃんが僕があげた緑犬のキーホルダーを手元で揺らす。
??(い、いえない・・・・・・)
飯田櫻「私に、って~」
??「よかったですね」
  僕が目を逸らして居ると隣から彼が囁く。
柚月君「平気平気、個人で包装開けたみたいな感じで清潔だし」
  そんな問題だろうか?
飯田櫻「ねえねえ、なんの話」
  櫻ちゃんがじろりと僕だけを器用に睨み付ける。
??「今日は、僕がでしゃばっちゃってごめんなさい」
飯田櫻「名前教えて」
??「永藍、です」
飯田櫻「どんな字書くの? 機械みたいだね」
  字の説明をすると櫻ちゃんはやけにいい笑顔を見せた。
飯田櫻「ありがとう」
  ――なぜ嫉妬で狂わない?
  初めて会った人であれ、好きな人、に言葉を交わした相手なんて名前聞いていやだろうに。
  ・・・・・・何か工作があるのか?
  いくら個人で渡したとはいえ、
  緑の犬のキーホルダーを未だに柚月君からもらったと信じてなんのためらいもなく使ってる櫻ちゃんが。
  彼が他者と平然と話しても嫉妬で狂わないのはなんだか不自然だった。
  名前を聞いた途端に向けたあの笑みは、なんだ?
   呆然としてたら、目の前で柚月君が吹っ飛んだ。
??「・・・・・・え」
飯田櫻「酷い! 嘘つき! 私愛してるのに! 柚月君はあんなやつがいいの!?」
飯田櫻「密会するつもり? ねぇねぇ私だけの柚月君でしょ!? 私だけなのおおおおっ!」
  横を見たらすごい形相で睨む櫻嬢が居て、柚月君を投げ飛ばしていた。すぐに近くまで歩いていく。
飯田櫻「ごめんね、いたかった? ううん・・・・・・私が悪いの。束縛したいわけじゃないの・・・・・・」
飯田櫻「私、だって、柚月君も友達ほしいよね? 私以外と話したからって、私」
  必死になっている。
  まさか、嫌われたくないから周りとの会話も許容することにした結果が今なのか・・・・・・?
??「いや、どうだろ・・・・・・」
  櫻嬢の手が力んでいる。
  よく見たら安物本と呼んだ本の表紙に毛糸で出来たマフラーを付けた知らない女性が映ってるが、
  なんか執拗に握られてるのを僕は忘れられなかった。
飯田櫻「でも私はっ! 一番に愛してほしいの!」
  櫻嬢・・・・・・。

〇教室
  理由なんかなかった。
  
  強いていうなら、疲れるから。
  ノートに向き合う時間が好きだから。
  おこづかいを貰わない僕は、買い食いのよさよりも、
  ノリで無くなった財布の中身を気にしてしまうから。
  道の売店の食べ物より、鉛筆やノートを買いたいから。
  誘いが、嫌だった。
  慎重過ぎていただけ。まぁ青春特有の、
  誰かとノリで無くしていくものが、嫌だったのだろう。
  そりゃだから、なくならないように、ノリが悪くなる。クラス委員長は飲酒して騒いでるのに今日も委員長だった。
  誰か呟いちゃえば面白いのに。
  ぐるぐると、シャーペンが円を描く。
  友達を作らないと、
  「あいつ周りをばかにしてる」という被害妄想が、よく一人歩きする。
  僕みたいなガキが、一人、そいつをばかにしたってなんら世界は変わらないのに。
飯田櫻「おはよー!!」
  平穏が壊れたのはいつから?
  少なくともあのノートに、櫻ちゃんが絡むようになってから。
飯田櫻「あ、柚月君、おはよー!」」
  個別に挨拶するな。
  とも言わない。
柚月君「おはよう」
  入学してすぐの頃。
  自席から動かず淡々と作業をする僕に、櫻ちゃんはなにが楽しいのか話しかけていた。
  だけど、意味もわからないからと僕は態度を変えたりもしない。
飯田櫻「そんなんじゃ、友達できないよ!!」
  なんて。
  『一見良い人』そうなことを言う櫻ちゃん。
  を、無視して僕は本を読む。
  心のなかは、みんな友達。
  相手が思ってなくてもね。
  助け合える。
  だから、グループだの定期集会には入れないでくれ。
  僕は困ってたらちゃんと助け合える。
  できる範囲で。
柚月君「友達なんかいらないよ」
  適当なことを言う。
  正確には、定期的に会話するのが面倒だ。
  定期的に食事するのも面倒だ。
  定期的に遊ぶのが面倒だ。
  町内会の集まりかっつーの。
   委員長みたいにふざけて酒を飲み合うグループにはなりたくない。
  
  まぁ、そんなとこ。
  ふざけて危険を犯すのを拒絶してるだけ、くらいなこと。
  ノリ悪い、真面目君。
  なんてナイスな役。
飯田櫻「今ならお安くしておくよ」
柚月君「お高くとまろうよ」
  独りが好きです感を
  演出してるんですがね・・・・・・なぜ、踏み込むの。
柚月君「僕なんかと居たらいじめられるよ?」
  いじめられようが興味はありませんが。
飯田櫻「心配してくれるのっ!! 優しいね!またね」
  会話を切ろうとすると、さらについてくる櫻ちゃん。
  けれど数分で居なくなる。
  授業の準備、が時間を区切るから。
  この合間というのはありがたいから好きだ。
  そんな風に近づく櫻ちゃんをかわす日々だったのに、あの日はチャンスを与えてしまった・・・・・・
  まさか、見てるなんて。
  櫻ちゃんは僕に設定を持っているらしい。
  静かで、大人で、目立たないけど好かれたくて一部にしか好かれなくて同性からは嫌われていて影で泣いている。
  ・・・・・・そういう者に、見えるらしい。
飯田櫻「私、っ、私だけなのおおお!」
  静かな読書の時間、睡眠の時間、適当に校舎をふらつく時間、泣いているなんてことは無い。
  地味な生活を自分に課したんだから。
  
  ふらついて痛む頭で、櫻ちゃんのよくわからない、僕へのキャラ設定を聞き流す――――
  確か
  「バカなお前
  
  私見つけた
  
  まさにキセキ
  独り占めてたい
  
  実はいつも影で泣いてる
  まさに私
  
  道化師同士!
  」
  みたいな感じだっただろう。あんまり覚えてない。

〇ソーダ
  櫻ちゃんの執着は、妄信的で、正直誰の話してるのかがよくわからなかったりした。
  この話をするとよく、僕が悪いと言われる。
  もっと自己評価が高ければ、僕のことを言うな!と言えたんでしょう。
  だけど、僕は人から直接誉められたことがほとんど無い。
  たとえば頑張った成果があっても「ふーん」と言われてしまう人柄。
  こんなやつが!
  といじめの標的になるだけの弱さ。
  まさかそんなキラキラした可愛いげが、僕にあるようにはとても欠片も共感出来ないのだから冷静に自分とは思いもよらない。
  周りの表情以外では、僕は、まるきり、気づかなかった。
  あまり誉められたりしていなさそうな人が、気付くことなど、無謀に等しい。
  クラスメイトは、櫻ちゃんに好かれているという表面的な妬みで、
  僕を見殺し、売った・・・・・・
  
  誰一人も信用出来ないクラスなのです。
  ある意味、永遠に(櫻ちゃんに絡まれる以外は)一人を手に入れたけど。

〇学校の廊下
柚月君「櫻ちゃん、僕は、もういいから、離れて・・・・・・」
  永藍さんだけは理解者だ。
  こんな話しかけにくいなかで、普通に話してくれる。
  だから巻き込んじゃだめだ。
  なんだか泣きそう。
柚月君「僕のこと・・・・・・櫻ちゃんはまるでわからないよ」
  投げ飛ばされたことを思いだして起き上がり、櫻ちゃんをにらんだ。
  足をくじいたらしくて少しよろけながら歩いた。
  櫻ちゃんは必死に、ごめんねごめんねと言う。
  謝罪には聞こえないような、むしろ単なる媚びなような。
  なにもかもが不快で、僕はついてくるなと言った。
  全部が悪いわけじゃないか。
  こんな状況でも、話しかけてくれるなんて。
  どれだけ特別なのか。
  永藍さんのことを考えたら胸が暖かくなる。
  クラスのやつらには出来ないことを、簡単にしてくれた。
  パンダを思い出した。
   パンダは肉食でもある。だけど、戦いに負け消化に悪い笹を食らうしかないと誰かが言ってた。
  嘘かホントかはわからないけど。
  人間もみんな『笹』を食べて生きているのかもしれない。

〇学校の廊下
  櫻ちゃんは、次の日学校を休んだ。
  櫻ちゃんのインコ教を通じた知り合いの養豚場で、コレラの騒動の処理に大忙しで、どうやらその手伝いに行くらしい。
  昨日の今日での建前なのか、本音なのかは、定かじゃないけれど、少し僕はほっとしてもいた。
モブ3「騒動が収まるまでは、牧場も閉めるみたいだよ」
  クラスの櫻ちゃんファン? の集まりは、そんな話題で盛り上がっていた。
  誰かが菌を持ち込んだりするのも危ないから慎重になっているようだ。
  昨日くじいた足はまだ鈍く痛んでいた。
  幸い歩けないほどではないけど、意識するとどうしても昨日を思い浮かべてしまう。
  頭の中に、数々の台詞が甦る。
  柚月君は、櫻を愛してるの!!四六時中櫻のこと考えて、櫻にときめいてるんだから! 告白されて、結ばれたの!
  震えまくっているわよ!! そりゃもうファミリー銭湯のマッサージ機の強くらいは震えてるわ! 見てわからないの!
  ほんとはめちゃくちゃ恋人欲しいでしょ? モテない自分をな・ぐ・さ・め・て・る・んですっっ! つって~
  マッサージ機の強。
  
  ・・・・・・僕は、そんなに、ガタガタしている?
  自分の両手を顔の前に翳して、ぼーっと考えてみる。

〇学校の廊下
  その日の休み時間にはいつものように教室で本を読んで、いつも以上に羽根を伸ばした。
  なにか飲み物でも買いにいこうと廊下に出ようとしているとガヤガヤと声がした。
モブ3「藍って嫌だわー」
モブ3「わかるわー」
  あれは・・・・・・
  牛乃尾栞愛(しおりい)と牛乃尾(茉愛)まい。
  インコ教の付き合いかなにかあるらしく、櫻ちゃんとも仲が良い姉妹だった。
モブ3「あ。櫻ちゃんのお気に入りだ」
モブ3「うわっ! しおりい怖ーい」
  教室に戻るらしく二人で通路を塞ぎながらきゃあきゃあ騒いでいるから教室から出られない。
柚月君「あの、どいてもらえるかな?」
モブ3「あのさあ櫻ちゃん休みだって! まい、お見舞い行くけど、あんたは行くわけぇ?」
柚月君「・・・・・・行かない」
  家知らないし。
モブ3「しおりい、多田エミリんも嫌なんだぁ」
モブ3「わかるぅ、わかるわ! あの子すぐ嘘つくし、自分がやってること人のせいにすり替えるんだよ」
モブ3「まい、詳しいね」
  二人はきゃいきゃい話始めてしまったので、僕は退いてほしいというタイミングを逃しそうだった。
  櫻ちゃんが居ない自由を今日という日の休憩時間を、少しでも長く堪能したいのに・・・・・・
  ま、まさか、わざとなのか?
  壁に寄りかかり、徹底して二人で退かないつもりみたいだ。
  僕は反対側の出入り口に向かう。
  ひそひそと櫻ちゃんファンがなにか言っていた。
  しばらくしてようやく出られた廊下で、先生とすれ違う。
  この学校はインコ教の息がかかってる噂もあるが、櫻ちゃんびいきな先生も、なんだかつまらなそうだった。
  そりゃ僕にだって言葉が足りなかった部分が多いし、それに相手が好きなだけというのなら、納得は出来る。
  一瞬仕方ないとも、思った。
  だけど最近考えることは、それが理解されて、
  しっかり通用する社会だとしたって──
  それを都合良く、悪用する人が出てくるのは必至だ。
  そうしたら、さらに、居場所が無くなる。立場が悪くなる。
  そうなれば、今度こそそれを騙る人を絶望し、嫌悪してしまうのは自然だ。
  中途半端な理解がある分余計にたちが悪くなってしまう。

〇簡素な一人部屋
??「それは、きみが? 周り?」
  昨夜電話をかけたとき、永藍さんはとても淡々としていた。
柚月君「どちらも」
??「でも、報われないことも多いだろう? なにかを隠して生きるストレスは、大きいだろうに」
柚月君「──それでも、いいんです。嘘を付かなきゃ生きていけないし、隠さなきゃ居場所はないし、誤魔化さなきゃ笑えなくても──」
柚月君「それが矛盾で、論理的にズレていても」
柚月君「ずっと抱えている。今さら、肩代わりなんて、誰にも出来ない。飢餓状態から一気に食べて、死んじゃうようなものだから」
  どこにもいないような人は、案外どこにでも隠れていて、それが、わかっただけでも幸せなのかもしれない。
  軽い気持ちでありがとね、と出来なくもない。けれどそんな中途半端な思いで答えを出したくない。

〇綺麗な部屋
  『櫻は重い』
  だからいつも避けられてきた。
  他人をモノ扱いすることに、なれていた。
  私にとって、他人は物なのだ。物でしかなくて、都合よく動いているとしか思ってない。
  好き、になると、相手って物に変わってしまうんだと思う。
  人権?
  そんなものは恋を前にすれば、ないも同然な乙女の特権だと心のそこから思っている。
  中学のとき彼氏との間に出来た子どもは、随分昔に、殺してしまった。
  ちょっとお菓子を食べさせようとしただけだったのに。
  吐いている姿を見て、苛立って「吐くな」って、強く揺さぶったら死んだ。
  かわいい姿を見たかっただけなのに、思ったように好いてくれないし、全然かわいくなくて。親なのに。
  自分を愛せないその子に、なんの意味があるだろう?
  柚月君を見ていたら、そんな頃を思い出してしまう。
  あのときから、なにひとつも変わっていない私。
  彼が、私にあんな目をするとは思ってもいなくて腹が立っていた。
  私の『物』なのに。
  ベッドから起き上がるも、そのまま呆然としてしまう。
  なんだかんだいっても好きなのは自分自身で、それはわかってる。私は、ただ愛される自分が好きなだけだ。
飯田櫻「朝飯、どうしよう」
  パン?ごはん?
  
  パンがなければ・・・・・・というあの人の話が頭をよぎる。
  殺す理由が無いから尾ひれがついたデマとも言われてるらしいから実はいいひとかもしれないけど、歴史って苦手だ。
  死んだ人のことを、あれこれ言っても真相なんかわからない。
飯田櫻「私の日常は、パンがなくても、ご飯を食べられる。 柚月君も、私がいなくても、誰かを愛せる・・・・・・」
  こだわる理由なんて、私にしかない。
  私じゃなくたって、別に柚月君は生きていける。
  私は、彼に、別に居なくてもいい存在だ。
飯田櫻「なんの、価値も・・・・・・」
  愕然としそうになる。
飯田櫻「なんの価値も!! 私は価値を高めたいだけだっていうの!」
  柚月君を突き飛ばしたのは私自身。
  どんな理由があったって、そういうことが躊躇わずに出来てしまう子ばかりじゃないことくらい、彼も知ってるはず。
  机から手鏡を投げつける。
飯田櫻「私を認めないから!!」
  はぁ、はぁっ、と荒い息があがるけど、まだ気持ちが収まらない。
飯田櫻「私! なんで私じゃないの!!! 柚月君は他の人とも話せるんだ、そうなんだ!!!」
  ――――お前はどうなんだ?
飯田櫻「うるさい、うるさいっ、うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい」
飯田櫻「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさああああああい!!」
飯田櫻「櫻友達居るもん!! たくさん大量だもん!! マジぱねぇくらいいるもん!! ラインに百億くらいいるもん!!!」
  廊下に飛び出して、私は叫び続ける。
飯田櫻「櫻友達沢山いるの!! 羨ましいんでしょ!? 羨ましいからそんなこと思うんだ!! ちゃんと私柚月君以外とも話してる!!」
  そこは、誰が居るわけでもない、ただの質素な通路。
  最近バタバタしてたから、少しほこりっぽい。
飯田櫻「櫻が独占してるんじゃないのッ! 柚月くんが可哀想だから、櫻は率先して、ただそれだけなのに!」
飯田櫻「なんで私を無視するの!! 私の優しさなんだと思ってるの!!!! リアルアカ百億人なめんな!???」
  ふんっ! と鼻息を荒くしながら、部屋に戻ると、パソコンからTwitterを起動する。
  美少女なので基本的にフォロワーが3000~4000人以上はいるが、いくらかはインコ教関係だ。
  おはよ(´・ω・`)!今日風邪引いたみたい。
  季節のかわり目は気をつけないと('◇')
  朝飯は、○○社の紅茶と昨日作ったマフィンをいただいて、美味~
  カキコミカキコミ。
飯田櫻「うおらぁ、終わったッ、飯食うじょいー!!!」
  ハッ。
飯田櫻「朝食の支度をしなくちゃっ!」
  思いの他図太い声が出て少し恥ずかしい。キョロキョロしたが、幸いそこにまだ誰もいなかった。

〇簡素な一人部屋
  おはようございます柚月です。
  
  寮のベッドから眠くて起きられません。
  結局僕は櫻ちゃんのお見舞いに行くとはいわなかった。
  あそこは苦手なヌシが住んでるからなと笑い飛ばす度胸もなくて
  、ただ用事があると言って、そのあとも普段通りに一日を終えた僕は、それからも日々櫻ちゃんが居ない毎日だった。
  眠い。とても眠いのと、なぜかとてもお腹がすく。
   櫻ちゃんが教室に来なくなって3週間。
  安心したのか最近一日四食。
  五食のときもあった。
  おなかがすくと動けないし眠いと動けないし。
  なんでこんなに二大欲求がやたらくるのでしょうかね・・・・・・
  食べて、また食べて、お風呂入って寝て・・・・・・
  寝て

〇簡素な一人部屋
  おはようございます柚月です。
  
  寮のベッドから眠くて起きられません。
  結局僕は櫻ちゃんのお見舞いに行くとはいわなかった。
  あそこは苦手なヌシが住んでるからなと笑い飛ばす度胸もなくて
  、ただ用事があると言って、そのあとも普段通りに一日を終えた僕は、それからも日々櫻ちゃんが居ない毎日だった。
  眠い。とても眠いのと、なぜかとてもお腹がすく。
   櫻ちゃんが教室に来なくなって3週間。
  安心したのか最近一日四食。
  五食のときもあった。
  おなかがすくと動けないし眠いと動けないし。
  なんでこんなに二大欲求がやたらくるのでしょうかね・・・・・・
  食べて、また食べて、お風呂入って寝て・・・・・・
  寝て
柚月君「あぁ。おなかすいた・・・・・・」
  夜まで寝た。

〇街中の道路
  その日は休日だったのもあって僕は盛大に寝ていた。
  最近御飯を食べる時間が苦手だ。
  作る気がしなくて結局、下に降りてコンビニでパンを買ったけど、猛烈にご飯が食べたい。
柚月君「失敗したなぁ」
  櫻ちゃんの顔をずいぶん見ていなくても案外平気だな。
  なんて思っていたら携帯に着信。
「電気は消したけどギリギリ起きてるので、ノックしてきてね・・・・・・」
  なんて声。
  声。
  女の子の声
柚月君「さ、櫻──」
飯田櫻「今、あなたの部屋にいます」
  さ・・・・・・櫻ちゃん!?
  サクラチャン!?
  ちょっと待ってちょっと待って櫻ちゃん。
  混乱がパニックを極めようとしていた。
  もはやストーカー・・・・・・いや、いやいやいや。首を横に振る僕。何で?
  学校に居ないかと思えば、なにしてんの?
  いろいろ言いたいことはあるけど・・・・・・とりあえず、深呼吸だ。よし。
柚月君「ハァイ メリーさん! お久しぶりです!」
「もしかして、自販機のとこに居る?」
柚月君「なっ」
「もしかして、櫻が来るから気を効かせて飲み物用意してくれたんだ! 嬉しい!」
  通じあってねぇよ。
  
  
  頭の中に、数々の台詞が甦る。
  ――柚月君は、櫻を愛してるの!!四六時中櫻のこと考えて、櫻にときめいてるんだから! 告白されて、結ばれたの!
「――震えまくっているわよ!! そりゃもうファミリー銭湯のマッサージ機の強くらいは震えてるわ! 見てわからないの!」
「柚月君、私ね・・・・・・そうだなー、レモンティがいいかも」
柚月君「なんで、部屋に、いるの」
「サプライズだよ、しばらく会えなくて寂しかったんじゃない?私は寂しくて寂しくて」
柚月君「震える?」
「woo~」
「私ね、柚月君のこと、考えてみたの。私のせいで友達がいないって悲しいなあって」
柚月君「櫻ちゃん・・・・・・」
「柚月君の人生は、柚月君のもの」
  うんうん。
  なんだか、変な回想のせいかこわばる身体が、少しずつほぐれていくような気がした。
「だから、インコ教のみんなからも、徹底して柚月君のよさを宣伝、近所に良いイメージを撒くことにしたの、もちろん私の指示で!」
  はいっ、
  ステマ────────!!
飯田櫻「柚月君の友達なんだから、彼女の私が選ばなくちゃ! 大丈夫、みんないい子たちだよ!」
柚月君「櫻ちゃん、友達ってのはね、 指示されて一斉につくものじゃないんだよ! 心というものが」
飯田櫻「社会的評価もぐんとあがるね! 良かったね、いい彼女がいて!私のおかげだよ」
  僕は理解しました。
  櫻ちゃんと、そのステマたちが僕を幸せにすることなどないと。
  そんな勢いで大きな評価されても、なにか仕組まれてると勘ぐって、みんな離れていくに決まってる。
  ステマと誤解されたら、評価がぐんと下がる。
  
  櫻ちゃんが、僕の人生に影響を与えた人になれてもせいぜい、村人Bだ。
飯田櫻「もちろん、このお話のレビューも、じかにアカウントではなくて、専門バイトによって」
飯田櫻「新着コメント欄を使用するわ!チェックしてね?」
  いや!
  せめて直接送って!!
  でもなんか、櫻ちゃん反省してるみたいだし、評価を手伝ってくれるのかな?
  そう思うと、善意を否定しづらい。
  どう切り出そうか迷いながら、その日は、まあ、いろいろあったなりに過ぎて居た。

〇教室
  次の朝。
  学校中で僕はクスクス笑われていた。
  HR前には普段あまり話しかけて来ないクラスメイトが珍しく、こちらに来てスマホを見せてきた。
  なになに・・・・・・・・・・・・
  見てみると有名小説投稿サイトのものらしい。
  そして圧倒的フォロワーを誇る、櫻ちゃんのアカウント!!?
  大人気小説を連載してるらしい。
飯田櫻「『櫻ちゃん(と彼氏の) 一代巨編。櫻ちゃんの書いた小説だよ!』」
  中身は多少アレンジはあるが、わりと僕が書いたノートの内容じゃないか!!!
  あとがきをみると、櫻ちゃん、の引き立てアシスタントの名前に僕が小さく書いてある。
  『大好きな旦那様♥️♥️』
柚月君「やめろおおおおおお!!!!」
  (たぶんインコ教圧倒的バックアップで)
  今度櫻ちゃんの小説が販売されるらしい。
  URLを教えてもらい、自分の携帯からアクセスしてみると、確かに、旦那様♥️との日記も存在していた。
  《完》
  
  
  
  
  
  この作品はフィクションです
  ありがとうございました。

コメント

  • 柚月くん、こんな毎日を送っていたら正気を失うのも時間の問題なのでは・・・。それにしても金持ち宗教団体の娘っていろんな意味で、本当に誰も口出しも手出しもできないアンタッチャブルな存在なんだと思い知らされました。

  • ヤンデレキャラ...。最高でした😭👏✨
    実現したら少し関わりたくないヤンデレですがご主人様♡と言われたい!笑
    読み応えがあって面白かったです。

  • ヤンデレは怖い…。
    怖いというか、可愛らしさもきっとあるんですが…。
    因みにわたしのうちでもインコ飼ってます。可愛いです。インコ教です!

成分キーワード

ページTOPへ