三途駅の邂逅

namayuba

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三途駅の邂逅

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〇広い改札
先輩「こちら切符になります。 3番線からお乗りください」
おばあさん「ありがとうねぇ」
先輩「いってらっしゃいませ」
先輩「こんなかんじで案内するの。 わかった?」
マドカ「うーん・・・」
先輩「まあ、今日が初日だもんね。 そのうち慣れるわよ」
マドカ「はい・・・」

〇外国の駅のホーム
  ここは『三途駅』。
  人の魂は死後、この駅へと送られる。
  そして生まれ変わる次の体へ、電車に乗って向かうのだ。

〇広い改札
  ここはその案内所だ。
  マドカは今日からここで働くことになった。
マドカ「なんだか騒がしいですね」
おじさん「俺は行かない!」
男の子「そうは言っても・・・」
おじさん「絶対に生まれ変わったりするもんか!」
先輩「たまにいるのよね。 生前に未練があって乗車拒否する人」
マドカ「男の子が絡まれてます! 助けなきゃ!」
先輩「ちょっと待って!」
男の子「ハア・・・」
男の子「タアッ!」
おじさん「うわ!」
男の子「他のお客様の迷惑になりますので」
おじさん「スミマセン・・・」
マドカ「!?」
先輩「あの人はうちの駅長よ」
マドカ「あんな子供が!?」
先輩「ふふ。びっくりしたでしょ?」
駅員「事務所まで来てください」
おじさん「俺はただ・・・ 妻と子に会いたいんだ・・・」
マドカ(・・・・・・)
男の子「!」
マドカ(目が合った!)
マドカ「あの、初めまして。私は・・・」
男の子「マドカさんだよね」
マドカ「えっ」
タクマ「僕は駅長のタクマ。 よろしくね」
マドカ「は、はい。 よろしくお願いします」
タクマ「案内するからついてきて」
マドカ「はい!」

〇マンションの共用階段
タクマ「・・・それで、趣味とかあるの?」
マドカ「えっと、ぬいぐるみ収集とかですかね~」
マドカ「小さい頃から動物のぬいぐるみが大好きで・・・」
タクマ「クマのぬいぐるみとか?」
マドカ「よくわかりましたね? クマが大好きなんですよ」
タクマ「なんとなくそんな感じがしたんだ」
マドカ「そうなんですね。はは・・・」
マドカ(仕事の話かと思ったらさっきからおしゃべりばっかりしてる気がする)
マドカ(ゆるい職場なのかな?)
タクマ「さて、着いたよ」

〇高い屋上
タクマ「ここは僕のお気に入りの場所」
マドカ「綺麗!」
タクマ「でしょ? ここからは綺麗な空が見えるんだ」
タクマ「絶対に君も気に入ってくれると思ってたよ」
マドカ「ここに連れてきてくれてありがとうございます!」
マドカ(駅長さんって優しい人だなあ)
タクマ「何事だ?」
駅員「駅長、大変です! 先ほどの男が逃げ出して・・・」
駅員「いました! あんな所に!」
おじさん「来るな!」
  男は手すりから身を乗り出している。
駅員「そこから落ちたら生まれ変われなくなりますよ!」
おじさん「知るか!」
タクマ「・・・・・・」
タクマ「あなたはもう死んだんです」
タクマ「そこから降りても生き返ることはありませんよ」
おじさん「でも・・・!」
タクマ「お気持ちはわかりますが・・・」
おじさん「お前らに俺の何がわかる!」
タクマ「僕たちも同じです」
タクマ「ここの駅員は皆、未練があるから生まれ変わらずにここで働いているんです」
タクマ「そして、大切な人を待っているんです」
おじさん「!」
タクマ「辛さはわかる。 だけど自暴自棄になっちゃ駄目だ」
おじさん「うう・・・!」
  男はしばらくその場で泣き続けた。
  やがて駅員に見送られ、改札をくぐって旅立っていった。
マドカ「あの、聞きたいことがあるんですけど」
タクマ「ん?」
マドカ「もしかして、私も未練があるからここで働くことになったんでしょうか」
マドカ「なぜか私には心当たりがなくて」
マドカ「ていうか私っていつ死んだんですか? それすら記憶がなくて・・・」
マリカ「こんにちは!」
マリカ「今日からここで働くことになったマリカです! よろしくお願いします!」
マドカ「あれ? 新人は一人だけって聞いたのに」
タクマ「・・・」
マリカ「ん・・・?」
マドカ「んん・・・?」
タクマ「・・・ごめん。 実は謝らなきゃいけないことがあるんだ」
タクマ「本当はこのマリカが新人なんだ。 騙してごめん」
マドカ「え?  それってどういう・・・」
タクマ「君は死んでない」
タクマ「手違いでここに来ただけだ。 そこから飛び降りれば元の体に戻れるよ」
マドカ「じゃあなんでそんな嘘を・・・」
タクマ「・・・」
タクマ「ただ話がしたかったんだ。君と」
タクマ「・・・まーちゃん」
マドカ「え・・・」
  その途端、遠い記憶が蘇った。
  自分をそう呼ぶのは一人しかいない。
マドカ「・・・お兄ちゃん?」
タクマ「・・・うん」
  マドカには兄がいた。
  しかし、小さい頃に死んでしまった。
  もう顔も思い出せない。
  だけど、自分を呼ぶ優しい声だけは今でも覚えている。
マドカ「ずっと待ってたの?」
タクマ「うん」
マドカ「私に会いたくて?」
タクマ「・・・うん」
マドカ「うっ・・・」
タクマ「でも、まだ待たなきゃだめみたいだね」
タクマ「まーちゃんがシワシワのおばあちゃんになったとき、一緒に改札をくぐろう」
タクマ「それまで待ってるから」
マドカ「うん!」
マドカ「またね、お兄ちゃん」
  マドカは駆け出した。
  手すりを飛び越えて、屋上から飛び降りる。
  青空の下、マドカは真っ直ぐに落ちていく。
  風の音に混じって、遠くで兄が自分を呼ぶ声が聞こえたような気がした。

〇病室(椅子無し)
マドカ「!」
マドカ「・・・」
マドカ「・・・」
マドカ「綺麗な空」

コメント

  • 三途の川のイメージを駅と列車に見立てるセンスがすごい。ラストでマドカが蘇生して、兄と共有する情景=空を現実世界で見るシーンまでしっかり描き切っていて、構成も素晴らしかったです。

  • 死後の世界のお話、すごく好きです!
    世の中に色々な乗り物がある中で、なぜか電車はあの世と繋がっているイメージがありますね。
    おばあちゃんになってから……のあたりで胸がじんとあたたかくなりました。

  • 死後の世界ってだらも見たことがないからこそ、色々な空想で話が盛り上げられるのはいいですよね。
    なんだか心があったかくなるお話でした!

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