盲導人

マヤマ山本

盲導人(脚本)

盲導人

マヤマ山本

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盲導人
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〇黒
  私は『器用』だ
  こんな街の中を、たった一人
  足裏の点字ブロックと、手に持った白杖から得られる情報だけで歩いている
  だから『器用だね』と褒められたが、良き事とは到底思えぬ
「危ないですよ」
観音寺 愛「・・・・・・」
「杖のお姉さん、ちょっとストップ」
???「点字ブロックの上に自転車があるんでね、今どかしますから」
観音寺 愛「そうなのか」
???「よし、コレで大丈夫」
観音寺 愛「助かった、何か礼を・・・」
???「そんな、当然の事をしたまでで」
???「では、お気をつけて」
観音寺 愛「・・・・・・」
観音寺 愛「この町も、まだまだ捨てたものではあらぬらしいな」
観音寺 愛「良き事だ」

〇黒
  『盲導人』
  私は『孤独』だ
  数年前、両親と車に乗っていた際
  交通事故に巻き込まれ、両目の視力を失った
  それ以来、私は孤独だ
観音寺 瞳「愛ちゃん、出かけるの? 一人で? ママも一緒に行こうか?」
観音寺 愛「来なくて構わぬ」
  人はいるかもしれぬが、少なくとも私には見えぬ
観音寺 景太郎「愛、少しは周りを頼って・・・」
観音寺 愛「父上、母上、行ってまいる」
  私は、孤独なのだ
「・・・・・・」

〇黒
  でも、それで構わぬ
  私は今、一人でいたい
  何故なら──
少年「へへっ、杖いっただき~!」
観音寺 愛「おい、何をする!?」
観音寺 愛「早く返すんだ!」
少年「返してほしけりゃ、ここまでおいで~」
観音寺 愛「ちょっと待て・・・いや、待ってくれ!」
観音寺 愛「点字ブロックはどこだ?」
観音寺 愛「ここはどの辺りだ? 今のは誰だ? 私はどうすれば・・・?」
観音寺 愛「頼む・・・誰か、誰か助けを・・・」
「大丈夫ですか?」
???「立てますか? 杖のお姉さん」
観音寺 愛「その声、その言い方・・・君はいつぞやの?」
???「少年には逃げられちゃいましたけど、杖は取り返して来ましたから」
観音寺 愛「ありがたき事だ、感謝申し上げる」
観音寺 愛「名前を伺うのは、よろしき事か?」
???「夏目翔、と申します」
観音寺 愛「夏目氏、いきなり不躾な事を尋ねるが・・・」
観音寺 愛「私に雇われてみる気はあらぬか?」
夏目 翔「あなたに、雇われる?」
観音寺 愛「給料なら今の倍・・・いや、三倍出そう」
夏目 翔「さ、さささ、三倍!?」
観音寺 愛「どうだ? 良き話ではあらぬか?」
夏目 翔「一体、何をさせようと・・・?」

〇繁華な通り
  僕の名は夏目翔、最近転職をして──
夏目 翔「あと10歩ほどで、右に曲がりますね」
観音寺 愛「うむ」
夏目 翔「その手前に、ほんの僅かですが段差があるので気を付けてくださいね」
観音寺 愛「うむ」
夏目 翔「あと・・・歩く速さはコレで大丈夫ですかね?」
観音寺 愛「うむ、良きだ」
夏目 翔「何よりです」
  今は盲導犬ならぬ『盲導人』として雇われている

〇大きな日本家屋
  僕の主の名は観音寺愛様、なんとかの観音寺財閥のご令嬢様だ

〇広い和室
夏目 翔「ただいま戻りました」
観音寺 瞳「愛ちゃん、おかえりなさい」
観音寺 愛「ただいま、母上」
観音寺 景太郎「遅かったな、もう食事の支度は済んでいるらしいぞ?」
観音寺 愛「父上、今行く」
夏目 翔「では、僕はコレで・・・」
観音寺 愛「せっかくだ、夏目氏も一緒にどうだ?」
夏目 翔「良いんですか〜」
観音寺 愛「良きだ」
  こんな日々が、ずっと続けばいいと思っていた──

〇繁華な通り
夏目 翔「あの、ずっと気になっていたんですが・・・」
観音寺 愛「何だい?」
夏目 翔「何で僕だったんですか?」
夏目 翔「既に多くの使用人の方もいますし、僕なんかよりもちゃんとした人を雇うお金だって十分に・・・」
観音寺 愛「夏目氏は私が『観音寺財閥の令嬢』と知らぬまま、助けてくれたのだろう?」
夏目 翔「はい」
観音寺 愛「だから、信用した」
観音寺 愛「目の見えぬ私は、人より騙しやすいだろう?」
観音寺 愛「しかも『観音寺財閥の令嬢』ともなれば、近寄ってくる者も多い」
観音寺 愛「実際・・・」
夏目 翔「実際、何ですか?」
観音寺 愛「少し、場所を変えぬか?」

〇黒
  私は『囚われの身』だ
  今は六畳一間の安アパートの一室にいる
  厳密には『六畳一間』と聞いている
  目の見えぬ私は、その言葉を信用するほかない
夏目 翔「戻りました」
夏目 翔「あの・・・本当にコンビニのお弁当でよろしいんですか?」
観音寺 愛「良きだ」
夏目 翔「それにしても、何で僕が誘拐犯なんて・・・」
観音寺 愛「すまぬとは思う」
観音寺 愛「だが、偽物だらけのあの家に帰る訳にもいかぬだろう?」
  目が見えぬからといって、侮られては困る
  母を名乗る者は若すぎるし、父を名乗る者は年老いすぎだ
  本当の両親はおそらく、例の事故の際に亡くなっているのだろう
  そして、その事に触れぬ使用人達もまた偽物なのだろう
  目的は大方、観音寺家の財産か──
  とにかく、一つだけハッキリしているのは
  私が『囚われの身』だったという事だ
観音寺 愛「夏目氏には迷惑をかけるが、よろしく頼む」
夏目 翔「僕なんかで良ければ、お任せください」
夏目 翔「どうか安心して・・・あっ!」
夏目 翔「お嬢様が寝るための布団がない!」
夏目 翔「今買ってきます!」
観音寺 愛「そんなに慌てずとも・・・」
観音寺 愛「本当に、人柄の良き事だ」

〇古いアパート
  僕の名は夏目翔、最近転職をしたけれど──

〇大きな日本家屋
「やはり、お気づきでしたか・・・」

〇広い和室
観音寺 瞳「もしかして、はじめから?」
観音寺 景太郎「かもしれませんな」
観音寺 景太郎「いくら、旦那様と奥様に声が似てるからとはいえ・・・」
初谷 天児「何やってんだよ、じいちゃん」
初谷 天児「俺が手伝った意味ねぇじゃんか」
観音寺 瞳「これから、どうしましょう?」
夏目 翔「そうですね・・・」
  本来は、観音寺家の使用人だ
夏目 翔「まずは海松さん、初谷さん、今までありがとうございました」
海松 美瑠「いえ、そんな・・・」
初谷 映造「やめてくださいな、夏目さん」
夏目 翔「ですが、お嬢様がお気づきとわかった以上」
夏目 翔「ましてや、良かれと思ってついた嘘がお嬢様を苦しめていた事がわかった以上」
夏目 翔「嘘をつき続ける訳にはいきません」
  僕達は話さなければならない
  旦那様と奥様に何があって、今どこにいるか
  でも、一度嘘をついた僕達の言葉を信じてもらえるだろうか?
  たとえソレが、お嬢様の幸せを願うが故の嘘だったとしても
  コレばかりは仕方がない、何故なら──

〇黒
  幸せとは等しく、誰の目にも見えないものなのだから
  - 完 -

コメント

  • 一般的に「盲導人」ではなく「盲導犬」が使われるのは金銭的な理由もあるけれど、使う側の心理的ストレスもあるのだと感じました。相手が人間だと余計な猜疑心が生じるでしょうから。夏目には何か事情があるとは思ったけれど、悪人じゃなくてよかったです。

  • お嬢様の視点(?)に切り替わるとき、登場人物がシルエットになる演出が面白かったです👍

  • 最後の言葉、すごくグッときました。
    私の周りでは目が見えない方はいらっしゃいませんが、点字ブロックを見かけて障害物があるとどけるよう心掛けています。

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