あなたのお墓を見つけましょう

萩野 須郷

俺の「お家」はありますか(脚本)

あなたのお墓を見つけましょう

萩野 須郷

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〇水中
  俺は今日、死んだ。
  乗っていた船が沈没。
  なんて、ツイてない人生。
  幼少期から施設に預けられた俺には、
  身寄りが居ない。
  その施設も、今はもう存在しない。
  だから、俺はただ一人、死ぬ。
  誰にも悲しんでもらえず、
  誰にも供養されないまま──

〇黒背景
  あなたのお墓を見つけましょう

〇渋谷のスクランブル交差点
  俺には、まだこの世に未練があるのだろう。

〇草原の一軒家
  行く宛てもなく、ただただ彷徨い続けた。

〇ビルの裏通り
  もう死んでるんだから、
  どこへ行こうが、俺の勝手だ。

〇暗いトンネル
  そう思っていた。
  ・・・のだが。
「──あ! 見つけた! やっと見つけましたよ!」
天国への導き人「こんにちは! いやあ、やっと会えましたね!」
天国への導き人「ずっと、あなたを探していたんですよ!」
  えっと・・・どちら様でしょう?
天国への導き人「も、申し遅れました! 私、魂を天国へ連れて行く案内人です!」
天国への導き人「──ということで、早速ですが」
天国への導き人「あなたが安らかに天国へ行けるよう、 あなたのお墓を見つけましょう!」
  ・・・はい?

〇墓石
「──お墓は、死んだ人がこの世に遺す 「お家」なんです」
天国への導き人「そこは、魂を休める大切な場所になります」
天国への導き人「そして、この世で「お家」を見つけること ──これが、天国へ行く条件なんです」
  お家・・・ねえ
  でも、身寄りが居ない俺には、
  入れるお墓なんてありませんよ
天国への導き人「──問題ありません」
天国への導き人「実を言うと、誰がどのお墓に入ろうが 自由なんです」
天国への導き人「──なので」
天国への導き人「誰かのお墓に入れてもらいましょう! それが唯一の解決方法です!」
  ええ・・・
  そんな他人を自分のお墓に入れる人なんていますかね?
天国への導き人「きっと居ますよ! そんな優しい人が!」
天国への導き人「では早速向かいましょう! 田中さん家へ!!」
  ・・・田中さん?

〇けもの道
天国への導き人「──着きました ここが田中さん家です」
  へえ・・・ちなみに
  あなたと田中さんはどんな関係なんですか?
天国への導き人「私は田中さんとは、 たまにあの世で会うんですが──」
天国への導き人「私のことをまるで 本当の孫のようにかわいがってくれるんです!」
天国への導き人「なので、そんな気さくな田中さんなら あなたをお家に迎え入れてくれるかも!」
  うーん・・・
  そんなに上手くいきますかねえ
天国への導き人「田中さーん! いますかー!?」
田中じいちゃん「・・・おや、アンタかい 久しぶりじゃのう」
天国への導き人「お久しぶりです! 最近いかがお過ごしです?」
田中じいちゃん「最近か? うむ、あの世も人手不足みたいでのう」
田中じいちゃん「昨日まで49連勤してたわい! はっはっは!!」
  ブラックじゃん・・・
田中じいちゃん「・・・おや? 隣にいるのは・・・」
天国への導き人「・・・そうなんです、田中さん 実はお願いがあって・・・」
田中じいちゃん「──すまん、無理じゃ」
天国への導き人「・・・!」
田中じいちゃん「その子をウチに入れとくれ って話じゃろ?」
田中じいちゃん「このウチはな、バアさんと2人だけで 過ごそうと決めているんじゃ」
田中じいちゃん「じゃから、アンタのお願いは聞けない ・・・申し訳ないが、の」
天国への導き人「・・・そう、ですか」
天国への導き人「わかりました! 他を当たってみます!」
田中じいちゃん「・・・悪いのう 良い返事ができなくて」
  いえ、何となく返事はわかっていたので
  大丈夫です
田中じいちゃん「・・・そうか・・・」
田中じいちゃん「なら、覚悟もできておるということじゃな ・・・それを聞いて安心したわい」
田中じいちゃん「・・・それじゃあ、な」
  ・・・「覚悟」・・・って何のことだ?

〇林道
「・・・はああ」
天国への導き人「結局、どこもダメ、でしたね」
  当然ですよ
天国への導き人「でも、でも、早く見つけないと あなたの魂が・・・」
  ──いいえ
  もう、タイムリミットです

〇黒背景

〇林道
地獄への導き人「死人No.F-1463211 ・・・ですね」
地獄への導き人「あなたが亡くなって、 49日が経過しました」
地獄への導き人「──よって あなたは天国行き不適合者となりますので」
地獄への導き人「地獄へ連行します さあ、私について来てください」
「ち、ちょっと待って!」
天国への導き人「まだ、あと30分だけ待って! それまでにお家を見つけるからッ・・・!」
地獄への導き人「──そう言って」
地獄への導き人「今まで、沢山の魂を救えなかったのは どこの誰です?」
天国への導き人「!!」
地獄への導き人「お墓は、死んだ人にとって 唯一の安らぎの場所です」
地獄への導き人「そこに他人を受け入れる人なんて ・・・いる訳ないでしょう」
天国への導き人「・・・」
地獄への導き人「さあ迷える魂よ、私の手を取りなさい」
地獄への導き人「一緒に、地獄へ堕ちましょう」
  ・・・
  ・・・30分
  それだけあれば、良いんですよね?
天国への導き人「・・・え」
  あなたにはアテがある
  ・・・そうなんですよね?
天国への導き人「・・・は、はい!」
地獄への導き人「・・・良いでしょう 30分、待ってやります」
  ・・・! ありがとうございます!
天国への導き人「そうと決まれば、急がないとですね! さあこっちです!!」
地獄への導き人「・・・私、てっきりあなたは 天国に執着がない人だと思っていましたけど」
  少し前までの俺はそうでした
  ・・・でも
  俺も、憧れを抱いてしまったんですよ
  「天国」ってヤツにね
地獄への導き人「・・・フン、まあ良いでしょう 健闘を祈っていますよ」

〇草原の一軒家
「・・・ここです」
天国への導き人「ここが、最後の希望です」
天国への導き人「・・・では、行きましょう」
「・・・はあい」
アリサ「ふわあ・・・一体だあれ?」
アリサ「こんな朝早くか・・・ら・・・」
アリサ「・・・エリちゃん」
アリサ「隣の人、だあれ? まさかあなた・・・」
天国への導き人「・・・その通りだよ、アリサちゃん」
天国への導き人「お願い、この人を・・・ あなたのお家に、入れて欲しい・・・」
アリサ「・・・!」
アリサ「私はあなたに恩があるから、 その恩を今返せ、ってコト?」
アリサ「昔、私の命を助けるために あなたが死んだから!!」
天国への導き人「・・・ごめん、そういう訳じゃない」
天国への導き人「・・・でも」
天国への導き人「誰にも天国へ連れて行けない私には、 あなたしか頼れる人がいないから・・・!」
アリサ「・・・」
  ・・・あの、エリちゃん、って言ったよね
  良いよ、もう
  ・・・俺、地獄に行くから
天国への導き人「で、でも・・・!」
  別に良いんだ
  天涯孤独だった俺にも、
  こんなに一生懸命になってくれる子がいる
  それがわかっただけで、嬉しかったから
天国への導き人「・・・!!」
アリサ「あなた・・・独りぼっちなの?」
  そうだよ
  親からも見捨てられて、ずっと施設で育ったんだ
  「はばたき園」
  ・・・良い園だったよ、あそこは
アリサ「・・・!! はばたき・・・」
アリサ「・・・わかったわ」
アリサ「私のお家に入れてあげる 私と一緒に過ごしましょう」
天国への導き人「・・・え、良いの?」
アリサ「うん、丁度私も一人で 退屈してたから」
アリサ「この人、何か良い人そうだし」
天国への導き人「・・・や」
天国への導き人「やったあ! ありがとう、アリサちゃん!!」
  あ、ありがとう
  でも何で急に・・・?
アリサ「・・・ふふ 気が向いただけだよ、おにーちゃん」

〇ボロい校舎
「──アリサ」
???「今日からここが、君のお家だ」
???「俺たちは、今日から家族だ ──これから、よろしくな」

〇草原の一軒家
「・・・そう、無事、自分の お墓を見つけたのね」
地獄への導き人「ここが、第二のはばたき園 ・・・ふふ、中々良いお家じゃない」

コメント

  • うわ……、すごくステキなお話!
    緻密な設定で、物語の表面に出ていないストーリーも窺い知れて、色々と想像したくなりますね!そして、ちゃんとお墓参りしなきゃって思えてきましたw

  • お墓はやはり死者の魂が厳かに眠る最良の地であってほしいですね。生前にあまり愛情という存在に接することができなかった主人公が第二はばたき園で安らかに過ごせることを祈りたいです。

  • お墓は魂にとっての家なんですね。地獄に一直線に送り込まれるよりも、他の人からお墓に入ることを断られる方がもしかしたら残酷かもしれない。生前の言動のおかげでアリサに受け入れてもらった主人公は、自分で自分の魂を救ったんですね。

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