〇大きな木のある校舎
　　学校にはたくさんの幽霊がいることに気づいてますか？
　　少子化の影響で学校の統廃合が進みましたよね。そのとき生徒と一緒に霊達も転校したみたいです
　　おかげで学校の心霊現象発生率はうなぎ登りです
　　そこで文科省は幽霊を指導する教員を配置しました

〇教室の教壇
生徒「話聞いてくれてありがと、夢ちゃん先生」
夢「あまり力になれませんでしたけどね」
生徒「うん、何の解決にもならなかった」
夢「正直すぎませんか？」
生徒「でも一緒に悩んでくれて嬉しかったよ」
夢「ならよかった」
？？？「夢ちゃん、いるの？」
歩「ここにいたんだ。卒業式の準備終わった？」
夢「あっ！」
歩「やっぱりね」
歩「ほら、手伝うからいくよ」
夢「ありがとー」
夢「またね」
歩「教室に誰かいたの？」
夢「はい、私達の大先輩にあたる幽霊でした」
　　私は心霊的教育指導員。幽霊とお話しする先生です

〇学校の廊下
歩「また幽霊？」
夢「はい、またです」
歩「この学校、幽霊多すぎでしょ。どこの心霊スポットよ」
歩「そのうち幽霊で満員になるんじゃない？」
夢「大丈夫ですよ、卒業する幽霊も多いので」
歩「本当に？」
夢「はい、数日前のことですが」
歩「え？　べ、別に詳細までは」
夢「２年前、卒業式を迎える前に病気で亡くなった子なんですが」
歩「お化けの話はやめてー！」

〇屋上の入口
　　彼女は西園寺　桜さん
　　学校が好きじゃないのに、学校に留まる霊でした
桜「私さ、病気で学校にあまりいけなくてね、たまに行っても居場所がないっていうか」
桜「今は同級生が卒業して余計に場違いな感じかな」
夢「じゃあ卒業したいとは思ってるんですね」
桜「そうだよ。でもね」
　　彼女は未練が原因で学校に縛られていました。いわゆる地縛霊です
夢「未練を解消すれば縛りは消えますが、心当たりはありますか？」
桜「私の心残りは学校生活に思い出がないこと」
桜「これでも学校生活に憧れがあったんだよ。ほら、漫画みたいな賑やかなの」
桜「でも現実は真逆でおしまい。もう思い出を作れないし、ずっとこのままかな？」
　　彼女の寂しげな微笑みには、諦めが映っていました
　　もし本当に彼女の言う通りなら、私に出来ることはありません。でも──
夢「本当にそうでしょうか？」
桜「え？」
夢「病気で大変なのに３年間も頑張ったんですよ？　そんな日々に大切な思い出がないとも思えません」
夢「あなたの学校生活を信じてみませんか？」
桜「でも」
夢「きっと何かあるはずです。校内を探してみましょう」

〇説明会場
夢「会議室です。古参の先生がお昼にテレビを見てます。ズルいですよね」
夢「悔しいのでリモコン隠したら即バレでした」
桜「こんなとこあったんだ」

〇女子トイレ
夢「女子トイレです。各個室に花子さんがいることで有名です」
桜「そんな噂あったね」
夢「個室を持てなかった花子さんに職員トイレを貸したら、友達に怒られました」
桜「先生らしいね」

〇図書館
夢「図書室です。たまにサボリの生徒がいます」
夢「静かで日当たりもよく不良もこない隠れ家的なところが魅力です」
桜「詳しいね」
夢「えっと、先生も経験者なもので」
桜「私もです」

〇散らかった職員室
夢「職員室です。今は誰もいないですね」
桜「出席代わりのレポートを提出するのによく来たよ」
桜「英語の先生はね、こっそりお茶とお菓子くれたんだ」
夢「私は今も貰ってます」
桜（餌付けされてる）

〇警察署の医務室
桜「保険の先生にはお世話になったなぁ」
桜「調子が悪い時以外にも、ここに来て色んな話を聞いてもらってね」
夢「ふふっ、楽しい思い出もたくさんあるじゃないですか」
桜「こんなの思い出なんて呼べないよ」
桜「誰かが褒めてくれるようなものじゃないもの」
夢「誰かの活躍なんて一週間もあればみんな忘れますよ。学生は切り替え早いですから」
桜「その発言、教師としてどうなの」
夢「誰かの成功なんてそんなものですよ。だって笑ったことも、泣いたことも本人だけのものなんだから」
桜「そうかもだけど」
夢「桜さんの思い出は、桜さんが好きというだけでいいじゃないですか」

〇教室の教壇
　　そっか、好きだけでいいんだ

〇警察署の医務室
桜「病気で休みがちでも卒業まで頑張った学校生活。好きなら誇っていいんだ」
夢「素敵だと思いますよ」
桜「ありがと、先生」
桜「私はただ学校が好きだったって認めたかっただけなんだね」
桜「不満ばかりで気づくのが遅くなっちゃったけど」
夢「学生なんてそんなものですよ。私も昔はテルミットお焚き上げ事件というのを──」
夢「あ、これは黒歴史でした。やめときましょう」
桜「先生だけずるい。ちゃんと話してよ」
夢「私のことより、もっと思い出を聞かせてください」
桜「誤魔化した」
　　こうして私達は日が暮れるまで学校を歩き続けました

〇体育館の舞台
　　最後に訪れたのは卒業式の行われる体育館でした
桜「先生、ありがとね。思い出探し楽しかった」
桜「私だけの最高の学校生活だったよ」
夢「もう少し残ってもいいんですよ？」
桜「ううん、もう進みたいって思っちゃったから」
夢「わかりました。では壇上へ」
夢（一本貰います。後で返します、たぶん）
夢「卒業証書授与」
夢「楽しいも辛いも含めて学校生活を愛したあなたの旅立ちが素晴らしいものになりますように」
夢「卒業おめでとうございます」
桜「ありがとうございました」
　　誰もいない体育館にたくさんの拍手が鳴り響きました
夢「学校もあなたの門出を祝福してくれましたね」
桜「私ね、生まれ変われたら、きっとここに戻ってくるよ。先生の生徒になるために」
桜「その時はよろしくね」
夢「ぜ、善処します」
夢（クラス担任なれるかな・・・）
「きっとだよ！」
　　彼女は無事、卒業しました
　　巣立ちの後の温かい空気が、寂しさを優しく埋めてくれます
　　だから、先生は笑顔でこう言えるのです
夢「またね」
　　ここは学校。未来を夢見る雛鳥たちが巣立つ場所──