屋上で待ち合わせ

鍵谷端哉

屋上の出会いと日常(脚本)

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鍵谷端哉

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〇屋上の入口
  屋上への階段を上る綾斗。
綾斗(学校の屋上には幽霊が出る。どこの学校でもよくある怪談話だ。なんでも、昔、屋上から飛び降りた生徒がいたらしい)
綾斗(その噂のせいか、屋上に来る生徒は全くいない。それは俺にとって、都合のいいことだった)

〇学校の屋上
  屋上へ出て、寝転がる綾斗
綾斗「うーん・・・。やっぱ、晴れの日の屋上は気持ちいいよな」
女生徒「・・・独り言なら、もう少し小さい声にしてくれないかしら」
綾斗「うおっ!」
  ガバッと起き上がる綾斗。
綾斗「ビックリした。他に人がいたのか」
女生徒「・・・こっちの台詞よ。せっかく人が来ないようにしたのに」
綾斗「先客だったのか。悪いな。立ち退くよ」
女生徒「いいわよ、別に。屋上は私の所有物ってわけじゃないし、あなたが出ていく必要はないわ」
女生徒「どちらかというと、私の方が出ていくべきだし」
  読んでいた本を閉じ、立ち上がる女生徒。そして、立ち去ろうとする。
綾斗「いや、待てよ」
綾斗「別に屋上の定員は一人ってわけじゃないんだから、お互い移動しなくていいんじゃないか?」
女生徒「まあ、それもそうね」
綾斗「だろ?」
女生徒「・・・ねえ、お互い、ここを使うならルールを作らない?」
綾斗「ルール?」
女生徒「お互い干渉しない。どうかしら?」
綾斗「ああ。いいぜ」
綾斗「っていうか、そもそも俺は、ウザい人付き合いを避けるためにここに来てるんだからな」
女生徒「利害が一致したようで安心したわ。それじゃ、お互い、空気のように過ごしましょう」
綾斗「ああ」
綾斗(こうして、名も知らない同士が屋上で一緒に過ごすという奇妙な習慣が始まったのだった)

〇学校の屋上
  ガチャっとドアが開き、綾斗が屋上にやってくる。
綾斗「よう」
  女生徒は読んでいる本から目を離さずに返事をする。
女生徒「ん」
  そんな素っ気ない女生徒を気にすることなく、綾斗が寝転ぶ。
女生徒「・・・・・・」
綾斗「・・・・・・」
  読んでいる本からチラリと綾斗に視線を移す女生徒。
女生徒「ねえ」
綾斗「ん?」
女生徒「屋上に幽霊が出る噂、知ってる?」
綾斗「ああ、その噂を聞いて、屋上に人が来ないだろうって思ったんだ」
女生徒「・・・怖くないの?」
綾斗「そういうの、信じてないんだよ。それに、幽霊なら昼には出ないだろ」
女生徒「最近の幽霊は昼間でも出るのよ」
綾斗「なんだよ、そりゃ。嘘くせー」
女生徒「じゃあ、こっちの噂は知ってる? この学校の一階に、一つだけ鍵が壊れている窓があるのよ」
綾斗「へー。そっちは知らなかった」
女生徒「つまり、この学校には簡単に入れるのよ」
綾斗「学校に不審者がいるって話か?」
女生徒「・・・屋上から飛び降りた女の子。この学校の生徒じゃなくて、その窓から忍び込んだ、他校の生徒だったみたいよ」
綾斗「へー」
女生徒「あんまり興味なさそうね」
綾斗「言っただろ。幽霊は信じてないんだ」
女生徒「・・・そう」
  綾斗の言葉に、面白くなさそうな顔をして、女生徒は再び本に目を落とす。
綾斗(時々話すことはあるが、基本的にはお互い干渉しないというルール)
綾斗(この絶妙な距離感を、俺は気に入ってたんだと思う)
綾斗(だから、約束してるわけじゃないのに、毎日、屋上に通っていた)

〇学校の屋上
  ガチャっとドアが開き、綾斗が屋上にやってくる。
綾斗「よう」
女生徒「ん」
  相変わらず、女生徒は本から目を離さずに返事をする。そんないつものやり取り。
  綾斗はごろりと寝転がる。これもいつものこと。
女生徒「あなたって、イジメられてるの?」
綾斗「は? なんだよ、急に」
女生徒「・・・毎日、ここに来てるから。教室にいるのが嫌なのかなって」
綾斗「確かに教室にいるのは嫌だけど、別にイジメられてるわけじゃない」
綾斗「最初に言っただろ? 単に人付き合いが面倒ってだけさ」
女生徒「・・・そう」
綾斗「そういうお前は? お前もいつも、ここに来てるよな?」
女生徒「イジメられてるわ。教室内にいたくなかった」
女生徒「だから、屋上に来ていたの。屋上は避難場所で、いつも逃げ込んでた」
綾斗「え?」
女生徒「それである日、屋上から飛び降りたわ」
綾斗「は?」
女生徒「それが、屋上に出る幽霊の正体よ」
綾斗「なんだよ、幽霊の話かよ」
女生徒「気を付けなさい。屋上の幽霊は怨念をまとった悪霊かもしれないわよ?」
綾斗「はいはい。精々、気を付けるよ」
綾斗(屋上に通うようになってから、3ヶ月が経った頃、俺はふと、あることに気が付いた)

〇学校の屋上
  ガチャっとドアが開き、綾斗が屋上にやってくる。
綾斗「よう」
女生徒「ん」
  ゴロンと寝転がる綾斗。
綾斗「なあ、お前、何年なんだ?」
女生徒「・・・どうして?」
綾斗「いや、学校内で一度も見かけないからさ」
綾斗「いくらこの学校が広いからって、3ヶ月以上、会わないっておかしいって思ってな」
女生徒「・・・お互い、干渉しないルールよ」
綾斗「・・・ああ、そうだったな」

〇綺麗な図書館
  ペラペラと本のページをめくる綾斗。
綾斗(・・・やっぱり、生徒名簿一覧の中にいない。・・・もしかして、あいつ)
  写真付きの生徒名簿一覧を閉じる綾斗。そして、カウンターへと向かう。
  カウンターにいる受付係に話しかける綾斗。
綾斗「すいません。この学校で飛び降りした人のことを聞きたいんですけど・・・」

〇学校の屋上
  ガチャっとドアが開き、綾斗が屋上にやってくる。
綾斗「よう」
女生徒「ん」
  ゴロンと横になる綾斗。
綾斗「俺さ、思うんだけど、学校に無理して行かなくていいじゃねえか」
女生徒「・・・なに? 急に」
綾斗「お前、前にさ、屋上に逃げ込んでるって言ってただろ?」
綾斗「別に逃げることは悪いことじゃないと思うぞ。イジメだって、耐える必要はないんだ」
女生徒「・・・ああ。屋上の幽霊の話?」
綾斗「いや、お前の話だ」
女生徒「ふふ。私が幽霊だって言うの?」
綾斗「・・・お前、他校の生徒だろ? だから、校内でも見かけなかったんだ」
女生徒「・・・・・・」
綾斗「前に言ってた、一階の窓の鍵が壊れている場所から忍び込んでるんだろ?」
女生徒「・・・よく、気づいたわね」
綾斗「ちなみに、屋上の幽霊の噂もお前が広めたんだな? 屋上に誰も来ないように」
女生徒「驚いた。そこまでバレてたんだ」
綾斗「屋上の幽霊の噂は、屋上から飛び降りた生徒がいた、っていうものだった」
綾斗「けど、お前は女の子だって言ってた」
女生徒「そんな小さなミスで答えに辿り着いたってわけ? 凄い推理力ね」
綾斗「いや、これは後付けだ。普通に調べただけだよ」
綾斗「この学校で飛び降り事件があったか。で、そんな事件はなかった」
  つまり、飛び降りはあったが男子生徒で、しかもこの学校の生徒だった。
女生徒「ふふ。さすがに事件をでっちあげることは出来なかったわ」
綾斗「嘘ってのは、本当のことを混ぜるとホントっぽくなるからな。お前は、自分のことを混ぜて話してたんだ」
  本当なのは『飛び降り事件』と『1階に壊れた鍵があること』。女生徒が嘘を付いたのは『飛び降りたのは女の子』だったこと。
  女生徒は『イジメられていた』ことと『他校の生徒』という自分のことを、幽霊の話に織り交ぜたのだ。
女生徒「・・・全部、お見通しってわけね」
綾斗「・・・・・・」
綾斗(こうして、この奇妙な習慣は終わりを告げたのだった)

〇学校の屋上
  ガチャっとドアが開き、綾斗が屋上にやってくる。
女生徒「・・・・・・」
綾斗「あれ? なんで、お前いるんだよ?」
女生徒「はあ? 逃げていいって言ったの、あんたでしょ?」
綾斗「・・・あ、ああ。そうだな」
  ゴロンと寝転ぶ綾斗。
綾斗「うーん・・・。やっぱ、晴れの日の屋上は気持ちいいよな」
女生徒「そうね・・・」
綾斗(俺はこれからも屋上に通うだろう。名も知らない女生徒に会いに行くために)
  終わり。

コメント

  • 日常を変化させるのって中々勇気がいりますよね。
    特にこうして、意図しない形で知らない方が良いことを知ってしまったときとか…。
    でも結果としてよかったのかもしれませんね!

  • 屋上という学校内では”非日常”の場所で出会う謎の女生徒、そんな彼女と過ごす”日常”の時間。とってもステキな設定ですね!
    ”子供”と”大人”の間の2人が、”噂”と”真相”により作られた空間で過ごす仮初めの”日常”、そんな世界の空気感が伝わってきて心に響きました。

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