うちの女神は消えたがり

槻島 漱

うちの女神は消えたがり(脚本)

うちの女神は消えたがり

槻島 漱

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うちの女神は消えたがり
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〇学校脇の道
最上清香「はあ・・・」
最上清香「消えたい・・・」
茂野啓介「またかよ」
  俺の幼馴染は消えたがりだ。
最上清香「ああ・・・」
最上清香「私ったらどうして・・・」
  些細なことですぐに消えたがった。
茂野啓介「気にしすぎだよ」
茂野啓介「向こうは何とも思ってないって」
最上清香「どうしてすけりんに向こうの気持ちがわかるのよ・・・」
茂野啓介「すけりん言うな」
最上清香「もうだめ・・・」
最上清香「消えよう・・・」
茂野啓介「はあ・・・」
茂野啓介「ほら、アイス奢ってやるから元気出せよ」
最上清香「アイス!」
茂野啓介「お前、ほんとに現金なやつだな」
最上清香「アイス〜」
茂野啓介「ったく・・・」
  そんな幼馴染は、
  俺たちの住むこの天使村で、
  300年間、忘れられることのない存在となる。

〇教室
  6月某日
「清香、お誕生日おめでとう!」
最上清香「ありがとう!」
友人1「はいこれ」
友人1「プレゼント」
友人2「大事にしてよ〜?」
最上清香「わあっ!」
最上清香「ありがとう!」
最上清香「絶対大事にする!」
  この日は清香の18歳の誕生日だった。
友人1「ついに清香も翼が抜けるのか〜」
友人2「清香の翼、触り心地最高だったのに〜」
友人2「もう触れないと思うとちょっと寂しい・・・」
最上清香「私に大人になるなってこと?」
友人2「そう!」
最上清香「なにー!」
友人2「きゃ〜!」
友人1「ほらほら、怪我するよ」
  ここ天使村の住人には、生まれた時から小さな翼がはえている。
  その翼は、18歳になると自然と抜け落ちるようになっていた。
  この村では、翼が抜け落ちると成人として扱われるようになった。
最上清香「ついに明日、私は大人になるのよ」
最上清香「大人な清香、乞うご期待!」
友人1「はいはい」
友人2「大人はそんなこと言わないぞ〜」
最上清香「いいの!」
最上清香「明日になるまでは子どもだもん!」
友人2「ふふふ」
友人1「清香らしいね」
最上清香「えへへ」
友人1「あ、ほら」
友人1「旦那が迎えに来たよ」
友人2「お〜い!」
友人2「旦那〜!」
茂野啓介「旦那じゃねえわ」
最上清香「あ、すけりん」
茂野啓介「お前はすけりん言うな」
最上清香「それじゃあ、また明日ね!」
友人2「ばいばい!」
友人1「気をつけて帰んなよ〜」
最上清香「はーい!」

〇一戸建て
最上清香「はあ・・・」
最上清香「絶対にあれ言うべきじゃなかった・・・」
茂野啓介「はいはい」
茂野啓介「ほら、着いたぞ」
茂野啓介「じゃあ、また明日な」
最上清香「あ、まって」
茂野啓介「なんだよ」
最上清香「あのさ」
茂野啓介「おう」
最上清香「その・・・」
茂野啓介「早く言えよ」
最上清香「私の翼が抜けるとこ、一緒に見届けてくれない?」
茂野啓介「はあ?」
茂野啓介「なんで俺が?」
最上清香「1人だと少し不安で・・・」
茂野啓介「おばさん達に頼めよ」
最上清香「それはなんか恥ずかしいし・・・」
最上清香「ね、お願い」
茂野啓介「しかたないな・・・」
最上清香「ありがとう!」
最上清香「じゃあ、また後でね」
茂野啓介「はいはい」

〇女の子の一人部屋
  23時55分
茂野啓介「来たぞ〜」
最上清香「もう、遅いよ!」
最上清香「来る前に抜けちゃうかと思った!」
茂野啓介「0時丁度に抜けるんだからいいだろ」
茂野啓介「てか、なんで制服?」
最上清香「な、なんとなく」
最上清香「ちゃんとした服装の方がいいかなって」
茂野啓介「ふーん」
茂野啓介「お、そろそろじゃないか?」
  23時59分
最上清香「き、緊張する・・・」
茂野啓介「なんでだよ」
  0時00分

〇白
  その時、突然部屋が白い光に包まれた。
茂野啓介「なんだ?!」
最上清香「な、何?!」

〇女の子の一人部屋
茂野啓介「ん、んん・・・?」
茂野啓介「・・・はね?」
茂野啓介「さや、か・・・」
最上清香「すけりん・・・」
最上清香「これ・・・」
  ただ1つ、例外があった。
  それは300年に一度、
  抜け落ちるはずの翼が、抜け落ちずに大きくなる少女が生まれることである。
  その少女を天使村の住民たちはこう呼んだ。
茂野啓介「女神・・・」
茂野啓介「だったのか・・・」

〇教室
  翌日
友人1「清香・・・!」
友人2「嘘・・・」
最上清香「・・・うん」
「おめでとう、清香!!」
友人1「まさかあんたが女神だったなんて」
友人2「凄いよ、清香!」
最上清香「・・・ありがとう」
  女神となった少女は、村をあげて盛大に祝われる。
  そして8月31日、23時59分
  女神はこの村の平和と繁栄を願い、
  村の中心にある女神の塔で眠りにつくのだ。
茂野啓介「おーい、清香ー」
茂野啓介「練習行くぞー」
最上清香「うん」
友人1「ちょっと旦那〜」
友人1「丁重に扱いなさいよ?」
友人2「そうよ!」
友人2「清香は女神様なんだからね!」
茂野啓介「わかっとるわ!」

〇川沿いの道
茂野啓介「・・・もう準備始めたのか?」
最上清香「え?」
最上清香「ああ、うん・・・」
茂野啓介「・・・そっか」
最上清香「・・・すけりんは?」
最上清香「眠りの儀式はすけりんがやるんでしょ?」
茂野啓介「まあ、な」
茂野啓介「一応、用具の点検は始めたかな」
最上清香「そっか」
茂野啓介「おう」
最上清香「・・・ねえ、すけりん」
茂野啓介「なんだよ」
最上清香「・・・練習、頑張ろうね」
茂野啓介「・・・おう」

〇お祭り会場
  そして、8月31日
最上清香「わあっ!」
最上清香「凄い!」
茂野啓介「はしゃぎすぎて転ぶなよ」
茂野啓介「300年語り継がれるぞ」
最上清香「わかってる!」
最上清香「すけり〜ん、早く〜!」
茂野啓介「だから、すけりん言うなって」
茂野啓介「まったく・・・」

〇地下に続く階段
  女神の塔内部
最上清香「は〜あ!」
最上清香「楽しかった!」
茂野啓介「お前、しっかり楽しみすぎだよ」
茂野啓介「俺の今月の小遣いが・・・」
最上清香「あはは!」
最上清香「ごめんごめん!」
茂野啓介「お前ねえ」
茂野啓介「少しも謝る気ないだろ」
最上清香「うふふ」

〇殺風景な部屋
  23時50分
茂野啓介「・・・よし」
最上清香「祝詞、長すぎ〜」
最上清香「聞いてるだけで疲れちゃった」
茂野啓介「しょうがないだろ、必要なんだから」
茂野啓介「ほれ」
茂野啓介「これ飲んで」
最上清香「うん」
  ゴクッ
最上清香「うわ、苦っ」
茂野啓介「薬だからな」
最上清香「最期くらい美味しいのがよかったな」
茂野啓介「10分後、完全に眠りにつくからな」
最上清香「うん」
最上清香「・・・あのさ、啓介」
茂野啓介「・・・なんだよ」
最上清香「・・・ありがとね」
茂野啓介「・・・急だな」
最上清香「いつも一緒にいたのに言ったことなかったな、と思ってさ」
茂野啓介「・・・そうかよ」
最上清香「・・・あーあ!」
最上清香「私、ずっと消えたいって言ってたのにね!」
最上清香「まさか、300年間も消えられないなんて」
茂野啓介「清香・・・」
最上清香「変なこと、後世に残さないでよね!」
茂野啓介「・・・ははっ」
茂野啓介「考えとく」
最上清香「もう、バカっ!」
最上清香「・・・そろそろベッド入るね」
茂野啓介「・・・おう」
  23時55分
最上清香「・・・ねえ、啓介」
茂野啓介「・・・なんだよ」
  23時56分
最上清香「・・・ばいばいだね」
茂野啓介「・・・ああ」
最上清香「私が眠るまでそばに居てね」
茂野啓介「ああ」
  23時57分
最上清香「啓介」
茂野啓介「・・・なに」
最上清香「手、握っててくれない?」
茂野啓介「・・・ああ」
  23時58分
最上清香「・・・啓介」
茂野啓介「・・・なに」
最上清香「名前、呼んでよ」
茂野啓介「・・・清香」
  23時58分
最上清香「・・・けいすけ」
茂野啓介「・・・なんだ」
  23時59分
最上清香「・・・ずっと、だいすき」
茂野啓介「・・・俺も」
  0時00分
  こうして清香は静かに眠りについた。
  俺に小さな呪いを残して。
茂野啓介「清香・・・」
  これから300年間、
  彼女は天使村の平和と繁栄を見守り続けることだろう。

コメント

  • すけりんが「すけりん言うな」って言うたびにニマニマしてたら、最後のシーンで清香が「けいすけ」って呼んでてしんみりしちゃいました。高校生男女のごくありふれた日常の会話や風景と、神秘的で残酷な天使村の掟のシュールな世界観のミスマッチがなんとも形容しがたい余韻を残すストーリーでした。

  • 女神の最後に残した呪い…300年の祝福の代償としては、余りにもささやかですね。しっかりと呪われて、彼女を祀ってあげて欲しいです……

    この切なさは好きです。

  • 女神ちゃんのキャラクターが個性的で活き活きしてて終始可愛いです✨
    ラストへの演出の持っていき方が上手で、テンポ良く読めました🤗

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