読切(脚本)
〇モヤモヤ
――古に天衝く塔ありき
その塔なる鐘響きし時、その者彼の国に還り渡りぬ──
これは、
王立古文書館で見つけた書物の一篇だ。
簡単に言ってしまうと・・・・・・
すっげー高い塔を作って、鐘を据え付けて、それ鳴らしたら異世界から元の世界に帰れるよ
ってことだ
俺の推測だけど
・・・・・・・・・
バベルができたので
~最終日だからちゃんと言わなきゃです~
・・・・・・・・・
〇教会内
ユウト「よし、っと!」
やっとの思いで吊り下げた鐘を見上げる
明日には、宮廷魔術師の偉い人が来て、
鐘の真下に魔法陣を描いてくれる予定だ
それでこの塔(俺はバベルと呼んでいる)は完成する
そしてその後、
鐘を鳴らせば俺はめでたく元の世界に・・・・・・
でもま、それは明日の話だ
ユウト「レヴィアちゃーん!」
ユウト「んっ?」
大事な用事ができたので帰ります。
お菓子、よかったら食べてください。
--- レヴィア ---
ユウト「なんだ・・・・・・ 一緒に完成を祝いたかったのに・・・・・・」
このバベルは、俺がたったひとりで建てはじめたものだ
だけど、
気づいたらそんな俺を手伝ってくれる女の子がいた
それがレヴィアだ
そして、
なんでなのか理由は分からないのだが、俺のことを慕ってくれている
外見は・・・・・・まあ、そこそこ可愛い
〇レトロ
〇教会内
いや、控えめに言って、ものすごく可愛い
だからと言って付き合っているとか、そんなんではない
そもそも俺には、女の子への告白の仕方が分からない
されたことも・・・・・・ない
元の世界に帰ることに躊躇はないけど、
ないんだけど・・・・・・
レヴィアちゃんの笑顔がもう見られない、
それは、さすがに心残りだと思っている
ユウト「宿屋に帰るか・・・・・・」
〇ヨーロッパの街並み
〇西洋風の部屋
宿屋の主人「ユウトさん、お客さん来てるよ」
ユウト「俺に、客ですか?」
宿屋の主人「ほら、イスのとこ」
宿の主人がアゴで指す先には、陰になってよく見えないが、女の子らしき人物が座っていた
宿屋の主人「ユウトさんもすみに置けないねぇ。 ぐへへ・・・・・・」
主人のゲスい笑いを黙殺して、女の子の元へと歩いて行く
ユウト「あっ・・・・・・」
座っていたのはレヴィアだった
何か思いつめた表情でうつむいている
ユウト「レヴィアちゃん?」
レヴィア「あっ・・・・・・」
俺と目が合うなり、顔を紅潮させるレヴィア
そして再び俯いてしまう
ユウト「心配したよ、急にいなくなっちゃうから」
レヴィア「ごっ、ごめんなさい」
ユウト「それで、手紙に書かれてた大事な用事とかいうのは終わったの?」
レヴィア「はいっ!」
レヴィア「あ、いや、まだ・・・・・・」
ユウト「俺のトコ来てる場合じゃないんじゃないの?」
レヴィア「はいっ!」
レヴィア「あっ、ち、違くて・・・・・・」
ぶんぶんと全力で首を振るレヴィア
レヴィア「ユウトさん、明日帰っちゃうんですよね、元の世界に」
ユウト「古文書に書かれてるとおりならね」
レヴィア「きょ、今日は私・・・・・・、その・・・・・・」
ユウト「んっ?」
レヴィア「ええっと・・・・・・」
レヴィア「ユウトさんに大切なお話があって来ました!」
ユウト「そうなの?」
レヴィア「はいっ!」
ユウト「明日でもよかったのに」
レヴィア「ダメなんです!」
レヴィア「明日バタバタしてるうちにユウトさんが異世界に帰っちゃったら私・・・・・・死んでも死に切れませんからっ!」
真剣な眼差しでレヴィアが俺を見つめてくる
レヴィア「だから、ユウトさんのお部屋に行ってもいいですか?」
ユウト「えっ・・・・・・!?」
俺の手を取って、部屋へと引っ張っていこうとするレヴィア
俺は理性を振り絞って、なんとかレヴィアの手を押しとどめる
ユウト「ま、まずいよ・・・・・・さすがに、ほら」
宿屋の主人「じーっ・・・・・・」
ニタニタと笑いながらこっちを見ている宿屋の主人
レヴィア「わっ、私ったら! ごごご、ごめんなさいっ!」
真っ赤な顔をさらに真っ赤にしてあわあわするレヴィア
ユウト「じゃあさ・・・・・・」
ユウト「そうだ。 ちょっと外歩こうよ」
レヴィア「は、はいっ!」
俺はレヴィアを夜の街へと連れ出した
〇ヨーロッパの街並み
レヴィア「・・・・・・」
ユウト「・・・・・・」
宿屋の時とは一転、無口になるレヴィア。
俺は、こういう時にかけてあげる言葉を持ち合わせていない。
そう、俺はとても残念な青年なのだ。
しかし、さすがの俺でも、うすうすは気づいている。
レヴィアが俺に告白しようとしてくれてるんじゃないかということに。
今日は俺が異世界から現実世界へと戻っていく最後の夜なのだ。
つまりレヴィアと俺にとって、今日はお別れ前夜なのだ。
レヴィア「・・・・・・正直に言いますね」
ユウト「(ごくり・・・・・・)」
レヴィア「ええっと・・・・・・私、まだ決心つかないんです」
ユウト「そもそも、俺でいいの?」
レヴィア「もちろんです」
ユウト「でもだって、男なら他に・・・・・・」
レヴィア「やっと見つけたんです。 すっごく探しました」
レヴィア「そして確信したんです。 この人で間違いないって」
ユウト「そうなんだ・・・・・・ それは光栄だな」
俺は冷静を装って答えたが、実はすごく動揺している。
この子を残して異世界から去ってもいいのか?
レヴィアは俺のコトが好きなんだぞ。
レヴィア「どうかしましたか、ユウトさん」
ユウト「いや・・・・・・なんでもないよ」
答えの出ない問答が頭の中を駆け回って、レヴィアに気のきいた言葉を返してあげることすらできない。
レヴィア「明日帰っちゃうんですよね・・・・・・」
潤んだ瞳で見上げてくるレヴィア
ユウト「(いっそこのまま異世界に残って、レヴィアと2人で・・・・・・)」
レヴィア「うんっ! よし! 決めた!」
ユウト「(ドクンドクン・・・・・・)」
レヴィア「ユウトさんっ!」
ユウト「は、はいっ!」
レヴィア「私、ちゃんとやり遂げますっ!」
よしっ!
気合を入れるレヴィア
その瞬間・・・・・・
ふぁさーーーっ!
レヴィアの背中から翼がが生えてきた
レヴィア自身も気づいたようで・・・・・・
レヴィア「きゃっ!」
レヴィアは、地面にうずくまってしまう
レヴィア「見ないでっ! こっち見ないでくださいっ!」
ユウト「(見ないでって言われても・・・・・・)」
レヴィアは背中をこちらに向けてうずくまっている。
だからむしろ、レヴィアの翼は俺の目の前に、ということになり・・・・・・
けどここは異世界だ。
翼が生えた異種族がいたっていい
ユウト「んっ?」
その時、俺の脳裏にふとある情景が思い浮かんだ・・・・・・
〇城門沿い
それは俺が、この異世界に来てまだ間もない頃だった
幼い女の子のヴァンパイアがドラゴンと向き合っていた。
いや、ドラゴンに立ちふさがれて、震えていた
少女「ぐすん・・・・・・」
ドラゴン「諦めろ、小娘。 お前に残された道などない」
少女「・・・・・・」
少女の純真そうな瞳が、不安に押しつぶされそうになっていた
ユウト「(こんな年端もいかない幼い女の子を・・・・・・)」
ユウト「もう、平気だよ」
少女の小さな手が、必死に俺の服の裾を掴んでくる
ユウト「大丈夫だから、ねっ。 俺にまかせて」
少女「・・・・・・うん。 ありがと」
俺はそっとヴァンパイアの少女の手を離した。
そして剣を振りかざしドラゴンへと斬りかかっていったのだった
〇ヨーロッパの街並み
ユウト「(レヴィアはあの時の少女・・・・・・きっと、いや、絶対にそうだ!)」
あの時のヴァンパイア少女とレヴィア。
どことなく面影が似ている
レヴィア「・・・・・・」
恥ずかしそうに立ち上がるレヴィア
レヴィア「ユウトさん」
ユウト「・・・・・・」
レヴィア「憶えてませんか? 昔、ヴァンパイアを助けてあげたこと」
ユウト「俺も今それを思い出してた」
レヴィア「よかった・・・・・・ 憶えててくれたんですね?」
安堵のため息をつくレヴィア
なんでこんな俺のことを、って思ってたけど・・・・・・
なるほど、それで俺のことを好きに・・・・・・
ユウト「あれって俺がまだ、異世界来て間もないころだったんだよね」
今でも憶えている。
ドラゴンの首を斬り落としたあの時の感触を
レヴィア「私、あの日のこと、ずっと忘れてません」
ユウト「俺も倒せるか自信なくてさ。 でもよかったよ」
ユウト「あいつ、俺でも倒せるくらいのくっそ弱いドラゴンだったから」
レヴィア「くそ弱い・・・・・・」
ユウト「そう、ザコ弱レベル!」
レヴィアが泣き出しそうな目で、俺の目を見つめている
レヴィア「ユウトさんが倒したドラゴン・・・・・・」
レヴィア「私のお兄ちゃんだったんです!!」
ユウト「なっ!」
ユウト「まじか・・・・・・!」
レヴィア「だから困るんです! 勝手に元の世界に逃げ帰られちゃ!」
レヴィア「私、決めたんです。 お兄ちゃんの仇は絶対に取ってやるんだって!」
そして一転、にこやかに笑うレヴィア
レヴィア「ふぅ・・・・・・ちゃんと言えました」
レヴィア「えへん、です。えへへ」
ユウト「・・・・・・まじか」
レヴィア「では、覚悟してくださいっ!」
ごごごごご
ユウト「えっ?!」
気付いた時、目の前にはドラゴンになったレヴィアが翼を大きく広げていて・・・・・・
ユウト「レ、レヴィアちゃん・・・・・・」
その直後・・・・・・
俺の視界はレヴィアが吐く真っ赤な炎に包まれた──
( お わ り )
まさかの展開で読んでてびっくりしました。
それにしても、明日元の世界に帰れるというのに、ついてないというか…いや、彼女からするとこれしかないタイミングだったわけですよね。
まさかの展開にびっくりして思わず初コメントしてしまいました!!!
すっごくドキドキしながら読ませてもらいました😂
ヒロインちゃんかわいいですっ🥰
これは素敵な恋愛モノだ、とドキドキしながら読み進みていたところの想定を裏切るラストにしてやられた気分です。ですが大満足の楽しい作品でした。