第3話 進むための一歩(脚本)
〇武術の訓練場
勇者マリー「そりゃっ」
勇者マリー「・・・当たった!?」
騎士団長ヴァレリー「・・・的に到達してもいません」
勇者マリー「マジ?」
騎士団長ヴァレリー「非常に申し上げにくいのですが・・・ 勇者様に武術の才はございません」
宮廷魔導師ユーグ「剣は持ち上げられない 弓もまともに引けない」
宮廷魔導師ユーグ「これでは勇者とは到底言えませんな」
勇者マリー「しょうがないじゃん! 社会人になってから運動なんかしてないし」
第一王子ミシェル「マリー様 気を落とされるのは早いです」
宮廷魔導師リゼット「昼食の後、魔導研究所へ赴きましょう」
勇者マリー「魔法かぁ! あたし、子どものころは魔法使いになりたかったんですよ」
勇者マリー(勇者っぽい属性っていうと、光か雷かな?)
勇者マリー(・・・ま、属性はなんでもいいか)
勇者マリー(日本に戻った後も魔法が使えればいいなあ)
宮廷魔導師ユーグ「・・・・・・」
〇おしゃれな食堂
勇者マリー「おいしい!」
勇者マリー(けど、洋食ばっかりだとそのうち飽きるかも)
第一王子ミシェル「・・・・・・」
宮廷魔導師リゼット「ミシェル マリー様に話しかけたらどうだ?」
第一王子ミシェル「え、けど・・・ なにを話せばいいのか・・・」
宮廷魔導師リゼット「・・・仕方がないな」
宮廷魔導師リゼット「マリー様がいた世界はどういうところなんですか?」
勇者マリー「えーっと 魔法使いは物語の中にしかいなくて・・・」
勇者マリー「あと、娯楽と食には困らなかったですね」
勇者マリー「世界っていうか、あたしの住んでた国の話なんですけど」
宮廷魔導師リゼット「こちらの世界とはずいぶん違うのですね」
第一王子ミシェル「・・・・・・」
宮廷魔導師リゼット「ミシェル! せっかくわたしが話を振ったんだから、会話に参加しろ」
第一王子ミシェル「えっ」
第一王子ミシェル「そ、その・・・ マリー様・・・」
勇者マリー「はい?」
第一王子ミシェル「す・・・ 好きな食べ物はなんですか?」
宮廷魔導師リゼット(・・・まあ、一応話の流れには乗っているか)
勇者マリー「いろいろありますよ! カツカレーとか豚骨ラーメンとか」
勇者マリー「この世界にもありそうなものだと・・・ アップルケーキですかね?」
〇L字キッチン
勇者マリー「昔、あたしの誕生日に妹が作ってくれたことがあって」
〇綺麗なリビング
勇者マリー「それ以来、妹のケーキでお祝いするのが毎年の恒例行事になったんです」
〇おしゃれな食堂
勇者マリー「買ってきたケーキのほうがおいしいって妹は言ったけど・・・」
勇者マリー「あたしは、妹が作ってくれたケーキが一番うれしかった」
宮廷魔導師リゼット「・・・素敵ですね」
第一王子ミシェル「マリー様・・・ その・・・お誕生日はいつですか?」
勇者マリー「あー・・・昨日です」
勇者マリー「でも、こっちと暦が同じとは限らないのか」
勇者マリー(結局ケーキ食べ損ねちゃったな)
勇者マリー「あたし、お茶もらってきますね」
第一王子ミシェル「リゼット・・・ 僕、うまく話せてたかな・・・」
宮廷魔導師リゼット「・・・まあ、それなりには」
第一王子ミシェル「よかった・・・」
第一王子ミシェル「アップルケーキか・・・」
第一王子ミシェル「・・・作って差し上げたら、喜んでくださるかな?」
宮廷魔導師リゼット「ミシェル まさか、城の炊事場を借りるつもりか?」
宮廷魔導師リゼット「気持ちはわかるが・・・ 城の者たちに陰口を叩かれるだろうな」
宮廷魔導師リゼット「以前にもあっただろう?」
第一王子ミシェル「・・・・・・」
宮廷魔導師リゼット「やめておけ お祝いをしたいなら、別の形でしよう」
第一王子ミシェル「・・・そう・・・ですね」
第一王子ミシェル(あのときは、リゼットにも迷惑をかけてしまったし)
勇者マリー「ただいまー ふたりの分ももらってきましたよ!」
宮廷魔導師リゼット「ありがとうございます 呼んでくだされば取りに行きましたのに」
第一王子ミシェル「・・・・・・」
〇城の廊下
第一王子ミシェル「魔導研究所は突き当たりを左です」
第一王子ミシェル「午後はわたしもリゼットも用事がありまして、ご一緒できずにすみません」
勇者マリー「いいえ それより、魔法が使えるといいんですけど」
第一王子ミシェル「マリー様は魔法を使ってみたいとおっしゃってましたものね」
勇者マリー「それもありますけど なんの力もないと、ふたりの助けになれないですから」
第一王子ミシェル「・・・・・・」
勇者マリー「もし魔法の才能がなくても、あたしの世界の知識でなんとかします!」
勇者マリー「・・・あ、けど、その場合はさすがに再召喚するのかな」
勇者マリー「そしたらあたしは必要なくなるのか・・・」
第一王子ミシェル「そんなことはさせません!」
第一王子ミシェル「マリー様を切り捨てるなんて絶対にありません!」
勇者マリー「ミシェル様・・・」
第一王子ミシェル「わたしたちのために力を尽くしてくれるマリー様は、まぎれもなく勇者です」
第一王子ミシェル「そ、それに・・・ わたしは・・・あなたを・・・」
勇者マリー「・・・・・・」
勇者マリー「ありがとう、ミシェル様!」
勇者マリー「あたし行きますね また後で報告します!」
第一王子ミシェル「ええ、お気をつけて・・・」
第一王子ミシェル「・・・・・・」
勇者マリー(ミシェル様、いい人だなあ)
勇者マリー(初対面で殴ったあたしに、あんなこと言ってくれるなんて)
勇者マリー(なんであそこまでしてくれるんだろ)
勇者マリー「・・・・・・」
勇者マリー(・・・いや あたしが異世界人で勇者だからだよね)
勇者マリー(嫌な予感がして遮っちゃったけど 自意識過剰だったかな・・・)
勇者マリー「・・・よし! 魔導研究所はあっちだったっけ」
〇空
〇城の廊下
宮廷魔導師リゼット(マリー様はまだ魔導研究所にいらっしゃるだろうか)
「ミシェル様がまた妙なことをされているんですってね」
「王子の自覚がないんだろ? やっぱり次の王はクレール殿下だな」
宮廷魔導師リゼット「ミシェル殿下がどうしたと?」
リュテス兵「リゼット様!? いえ、その・・・」
宮廷魔導師リゼット「質問に答えてください ミシェル殿下がどうしたのです」
侍女「そ、それが・・・」
〇広い厨房
宮廷魔導師リゼット「ミシェル!」
第一王子ミシェル「あ、リゼット・・・」
宮廷魔導師リゼット「ミシェル、どうして・・・」
第一王子ミシェル「・・・うん」
第一王子ミシェル「やっぱり、マリー様のお祝いをして差し上げたくて」
宮廷魔導師リゼット「だが・・・」
第一王子ミシェル「マリー様は、僕たちのために頑張ってる」
第一王子ミシェル「たった一人で異世界から来て、不安なはずなのに・・・」
第一王子ミシェル「僕にできることがあるなら・・・ 少しでも力になりたいんだ」
宮廷魔導師リゼット「・・・・・・」
第一王子ミシェル「リゼットが僕の心配をしてくれてるのはわかってる」
第一王子ミシェル「けど、たとえ誰かに悪く思われても・・・ マリー様が喜んでくれるなら僕は・・・」
宮廷魔導師リゼット「・・・そうだな では、わたしも手伝おう」
第一王子ミシェル「けど、リゼットに迷惑をかけるわけには・・・」
宮廷魔導師リゼット「ミシェルに迷惑をかけられるなど、今に始まったことじゃない」
第一王子ミシェル(誰になにを言われても自分の道を進むリゼットのこと、強いと思ってた)
第一王子ミシェル(けど、心のどこかで・・・ 僕とは全然違うと思ってた)
第一王子ミシェル(リゼットも、マリー様も・・・ 強いんじゃなくて、強くあろうとしてる)
第一王子ミシェル(だから・・・ 弱くて臆病な自分に甘んじるのは、もう終わりだ)
第一王子ミシェル「これからは、リゼットとともに戦いたい」
第一王子ミシェル「そして・・・ マリー様を守れたらって・・・」
宮廷魔導師リゼット(・・・やっぱりな だが、マリー様はおそらく・・・)
第一王子ミシェル「さ、やろう! リゼット、食材を加熱してくれないか?」
宮廷魔導師リゼット「あ、ああ・・・」
〇空
〇華やかな裏庭
勇者マリー「魔法! 魔法! あたし、魔法が使えるんだ!」
勇者マリー(魔力を引き出して、実際に魔法を使えるようになるにはまだまだかかるみたいだけど)
勇者マリー「炎の魔法かあ・・・」
勇者マリー「・・・フレアテンペスト!」
勇者マリー「なんちゃってね!」
宮廷魔導師ユーグ「・・・・・・」
勇者マリー「げっ、ユーグさん」
勇者マリー「あのー 今の聞いてました?」
宮廷魔導師ユーグ「ええ この耳でしっかりと」
勇者マリー「うわっ、最悪」
宮廷魔導師ユーグ「ずいぶんな浮かれようですが 勇者殿の魔力量はいたって平凡です」
勇者マリー「ユーグさんはどれぐらいあるの?」
宮廷魔導師ユーグ「・・・勇者殿よりは多いですよ」
勇者マリー「どれくらい?」
宮廷魔導師ユーグ「・・・ティースプーン一匙程度は多いですよ」
勇者マリー「ユーグさん、いたって平凡なのに宮廷魔導師なんだ」
宮廷魔導師ユーグ「わたしと勇者殿では状況が違う」
宮廷魔導師ユーグ「わたしはリュテス人の男で、貴殿は異世界人の女だ」
勇者マリー「それのなにが問題なの?」
宮廷魔導師ユーグ「なにを非常識な・・・」
宮廷魔導師ユーグ「男を押しのけて魔法を使う女と、女みたいな趣味をお持ちの王子」
宮廷魔導師ユーグ「リュテスの常識から外れたおふたりが貴殿を気に入るのも頷けますな」
勇者マリー「あたしからすれば非常識なのはユーグさんなんだけど」
勇者マリー「あたしのいた国なら、ユーグさんの発言はネットでボコボコに叩かれますよ」
宮廷魔導師ユーグ「ねっと?」
勇者マリー「じゃ、あたし行きますね」
宮廷魔導師ユーグ「・・・・・・」
〇城の廊下
宮廷魔導師リゼット「マリー様!」
勇者マリー「リゼットさん? どうしたんですか、慌てて」
宮廷魔導師リゼット「夕食はお済みですか!?」
勇者マリー「まだですけど・・・」
宮廷魔導師リゼット「よかった 実は・・・」
宮廷魔導師リゼット「・・・いえ 来ていただいたほうが早いですね」
勇者マリー「えっと、どこへ?」
宮廷魔導師リゼット「ミシェル殿下の部屋です」
勇者マリー「え・・・!?」
勇者マリー(まさか・・・さっきの話の続き!?)
勇者マリー「ちょ、ちょっと待ってください! まだ心の準備が・・・」
あっーー!不穏もしっかり残しつつ、イイ話でした……😢
マリーさん、早く何か役に立たないと……!
「洋食ばかりだと、そのうち飽きるかも」そんな🤣
でもリアルで好きです(笑)。
ミシェル殿下がどんどん愛おしくなってきます。とっても可愛くて純真で!そして支えているリゼットさんの芯の強さも魅力的ですね!