読切(脚本)
〇川沿いの公園
道を多くの人が行きかっている。
初田 遼「さあ、ご覧ください! 稀代の大魔術師、初田遼のマジックショーでございます!」
遼の声に反応して、多くの人が立ち止まる。
初田 遼(昔から、笑顔が好きだった。笑顔というのは人を幸せにする力がある)
初田 遼(俺は人を笑顔にしたくて、小さい頃から人を笑わせようとする癖があった)
初田 遼(だから、大道芸人になるというのは自然なことだったのかもしれない)
初田 遼(まあ、まだ駆け出しで、全然ダメダメなのだが・・・)
初田 遼「ここに取り出すは五つのボール。このボールが一瞬にして手元から消えます! いきますよ、スリー、ツー、ワン!」
初田 遼「・・・はい、失敗しました!」
初田 遼(ヤバい、やっちまったか・・・?)
橘 美羽「ぷっ、あははははは!」
その笑いが波及するように周りの人たちにも笑いが起こり始める。
初田 遼(危ない、危ない。今のは完全に、あの子に助けてもらったようなものだ)
初田 遼(みんなあの子につられて笑ってくれた。考えてみると、いつもあの子に助けてもらっている気がする)
初田 遼(毎日、欠かさずに俺の芸を、一番前で見てくれるあの子)
初田 遼(その笑顔はとても素敵で、こっちまで本当に幸せになってくるのだ)
〇カフェのレジ
店の中は賑わっている。ドアが開き、遼が店に入ってくる。
橘 美羽「いらっしゃいませ!」
初田 遼(実は、その彼女の笑顔を見る機会は、もう一つある。このハンバーガー屋さんでアルバイトしている彼女の名前は橘さん)
初田 遼(この子がいるから、俺は毎日、このハンバーガー屋に足を運んでいる)
初田 遼(・・・金欠な俺には経済的に堪えるが、それでも、どうしても来てしまうのだ)
橘 美羽「店内でお召し上がりですか?」
初田 遼「はい、もちろん」
橘 美羽「メニューは何になさいますか?」
初田 遼「うーん、そうだな。とりあえず、まずはスマイルをお願いします」
橘 美羽「ニコっ!」
初田 遼(このハンバーガー屋の売りは、スマイル0円というもの。ちゃんとメニュー表にも載っているのだ)
初田 遼「チーズバーガーと、スマイル、それと、ポテトのSと、あとはスマイル・・・」
橘 美羽「ニコっ! ニコっ!」
初田 遼(俺のスマイルという言葉に合わせて、橘さんが笑顔を向けてくれる)
初田 遼(ちなみに、このニコって言うのは、別に店の方針ではなく、橘さんのオリジナルのスマイル商品となっている)
初田 遼(言葉に出すところも、本当に可愛い)
初田 遼「飲み物はコーラーで、最後にスマイルをお願いします」
橘 美羽「ニコっ! かしこまりました。お会計、八百六十円になります!」
〇ファストフード店の席
席につき、ハンバーガーを食べる遼。
初田 遼(橘さんは、この店で結構人気で、彼女のレジの前はいつも人が並んでいる)
初田 遼(おの素敵な笑顔がゼロ円。本当に素晴らしいお店だ)
〇川沿いの公園
道を多くの人が行きかっている。
初田 遼「さあ、ご覧ください! 稀代の大魔術師、初田遼のマジックショーでございます!」
その声に反応して、多くの人が足を止める。
初田 遼「ここにおりますは、先ほどそこで捕まえた鳩でございます。私の奇術を使って、この鳩をしゃべらせてご覧にいれます」
初田 遼「いきますよ、スリー、ツー、ワン!」
???「こんにちは!」
立ち止まっていた人たちが、再び歩き出してしまう。
初田 遼(あの子が、今日はいない。いつも一番前で俺の芸を見てくれる橘さん)
初田 遼(その姿が今日は見えない。そのせいか、どうもお客さんの反応が悪かった・・・)
〇カフェのレジ
ドアが開き、遼が店に入ってくる。
店員「いらっしゃいませ」
初田 遼「・・・・・・」
初田 遼(これで三日目。店に橘さんの姿はない。・・・心なしか、店の客も少なく感じる)
初田 遼(彼女がいない影響は、ここにも出ているようだった)
〇川沿いの道
道を歩く、遼。
初田 遼「・・・あれ? 橘さん?」
初田 遼(彼女は川沿いの土手で一人、ポツンと座っていた)
橘 美羽「あ・・・初田さん」
初田 遼「え? 俺の名前、憶えてくれたの?」
橘 美羽「はい、ファンですから」
初田 遼(彼女に、俺の名前を憶えてもらっていることは正直嬉しかった)
初田 遼(けど、橘さんはどことなく、表情が暗い。そのことが俺の心をじんわりと締め付けた)
初田 遼「えっと、その・・・お店、最近、いないね」
橘 美羽「・・・はい。店長に行って、休ませてもらってます。正直、辞めようか迷ってて」
初田 遼「ど、どうして!?」
橘 美羽「実はその・・・恥ずかしい話なんですけど失恋してしまって」
初田 遼「・・・・・・」
橘 美羽「小さい頃からずっと好きだった、お兄さんみたいな人がいたんです。その人が、結婚するって・・・」
初田 遼「そ、そうなんだ・・・」
橘 美羽「私、もう笑える自信がないんです。だから、お店にも立てないんです。・・・ううん。立っちゃダメなんです」
初田 遼「別にそこまで考えなくていいんじゃない? ほら、どうせスマイルはタダなんだしさ」
橘 美羽「ダメです。お客さんは笑顔を見たくて、スマイルを注文するんです」
橘 美羽「それなのに、無理に作った笑顔を出すなんてお客さんに失礼ですから」
初田 遼(驚いた。橘さんは俺なんかよりも、ずっと笑顔に対してのプライドを持っている)
初田 遼(・・・確かに、俺も、この子の笑顔を見る為に、あのハンバーガー屋に通っているようなものだ)
初田 遼「本当に辞めちゃうの?」
橘 美羽「はい。私、もう笑うこと、できませんから・・・」
初田 遼「・・・ここに取り出すは、1つの石でございます!」
橘 美羽「初田さん?」
初田 遼「この石が私の奇術により、しゃべり始めます。いきますよ、スリー、ツー、ワン、はい!」
橘 美羽「・・・・・・」
???「こんにちは!」
橘 美羽「・・・ぷっ、あはははははは!」
初田 遼(彼女が笑った。・・・それは、今まで、誰を笑わせるよりも嬉しかった)
初田 遼「橘さん・・・いや、美羽ちゃん」
初田 遼「もし、君が笑えないくらい落ち込んだときがあったとしても、俺が君を笑わせてみせる!」
初田 遼「だから、その、笑えないなんて言わないでくれ。俺は君の笑顔が見たいんだ」
橘 美羽「・・・初田さん、うっ、うえーん!」
初田 遼(彼女はそれからしばらく、ずっと泣いていた。俺は隣にいることしかできなかったのだった)
〇川沿いの公園
道を多くの人が行きかっている。
初田 遼「さあ、ご覧ください! 稀代の大魔術師、初田遼のマジックショーでございます!」
その声に反応して、多くの人が足を止める。
初田 遼「今から、この手元のボールを一瞬で消して見せます! いきますよ、スリー、ツー、ワン!」
初田 遼「・・・うわっ! うまくいっちゃった!」
橘 美羽「ぷっ、あははははは!」
美羽が笑い始めると、波及するように周りの人たちにも笑いが起こり始める。
〇カフェのレジ
ドアが開き、遼が店に入ってくる。
橘 美羽「いらっしゃいませ! ご注文はお決まりですか?」
初田 遼「えっと、じゃあ、スマイルで」
橘 美羽「ニコっ!」
終わり。
読んでいる側も笑顔になる作品ですね。元気や笑顔って見事なまでに好循環しますよね!みんながスマイルになる社会で暮らしたいものです(←愚痴
起承転結がしっかりしていて、読んでいてもっと長い作品を読んでいたかのように感情移入してしまいました。
笑顔って素晴らしいですよね。橘さんのような人がいたら私もイチコロです。