怪異探偵薬師寺くん

西野みやこ

エピソード30(脚本)

怪異探偵薬師寺くん

西野みやこ

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〇古い図書室
  怯えている坂口さんに薬師寺は問いかける。
薬師寺廉太郎「今も見えてるの? そのこけし」
  坂口さんは周りをゆっくりと見渡した。
  ほっと目を瞑って、深呼吸をする。
坂口透「今はいないみたいです」
  そう言いながら薬師寺の方を見た瞬間、坂口さんが固まり、みるみる顔が青ざめていく。
坂口透「あ・・・あ・・・」
  坂口さんは俺を見つめて、震えた指先をこちらに向けた。
茶村和成「?」
薬師寺廉太郎「ふ〜ん」
  薬師寺は不意に俺の頭に手を伸ばす。
  その手には、こけしが握られていた。
茶村和成「え!?」
薬師寺廉太郎「茶村の頭にのっかってたよ」
  バッと、慌てて頭の上を押さえる。
坂口透「あ、あなたたちにも見えるんですか!?」
薬師寺廉太郎「そうみたいだね〜」
  薬師寺は興味深そうに手の内でこけしをいじる。
  坂口さんは少し前のめりになって、こけしを指さし叫んだ。
坂口透「と、とにかくそいつです! 早くどうにかしてください!」
薬師寺廉太郎「ん〜・・・こいつを消すのは簡単だけど・・・」
  頭につけている狐面を外し、薬師寺はこけしを食べさせる。
  坂口さんは驚いて目を見開いた。
  俺は呆れた目で薬師寺を見る。
  そしてちょっと距離を空けた。
  薬師寺は狐面を戻し、肩をすくめる。
薬師寺廉太郎「でもすぐに、別のこけしが現れると思うよ。 どうやら本体は別にいるみたいだし」
坂口透「そんな・・・オレはどうすれば・・・」
薬師寺廉太郎「その村に行ってみないと、今はなんとも言えないかな」
  坂口さんはガタンと勢いよくソファから立ち上がった。
坂口透「じゃ、じゃあすぐに行きましょう!」
薬師寺廉太郎「そうだね」
薬師寺廉太郎「・・・あとどれくらい時間が残ってるか、分からないからねぇ」

〇木造校舎の廊下
  とりあえず今日はこのまま別れて、明日から村に向かうことになった。
  去っていく坂口さんの姿を見つめていると、薬師寺はぽそりと呟く。
薬師寺廉太郎「・・・るね」
茶村和成「え? 今なんて・・・」
  「ん〜」と薬師寺は伸びをすると、俺に向かって笑顔を向ける。
薬師寺廉太郎「なんでもない、いずれ分かるよ」
  笑っている薬師寺に、俺は首を傾げた。

〇集落の入口
  次の日。
  俺は坂口さんとともに、東北奥地の村までやって来た。
  バスを下りて見る景色は坂口さんが言っていた通りの田舎らしい風景だ。
  最初はこの村まで坂口さんの車で行こうと提案した。
  しかし「今は使えない」と言うので新幹線とバスを乗り継いでやって来たのだ。
  もちろん、旅費は坂口さん持ちである。
  俺たちは早速、坂口さんが泊まっていたという民宿に向かい、まずはそこで女将さんに会うことにした。
女将「・・・! あんた・・・」
  女将さんは驚いた顔をする。
  居間に案内してもらい、坂口さんが事のあらましを説明した。

〇古民家の居間
女将「・・・そうかい。つらかったねえ」
  女将さんはとても悲しそうに顔を歪めた。
薬師寺廉太郎「そんなわけで、この村の伝承に関して調査したいことがあってここまで来たんだ」
薬師寺廉太郎「俺はこういったオカルトごとを専門に活動している・・・霊媒師的なものだと思ってもらっていいよ」
薬師寺廉太郎「ねえ女将さん、宮司(ぐうじ)を紹介してもらっていいかい?」
  女将さんが頷(うなず)いて、俺たちはともに宮司が居る村唯一の神社へと向かった。

〇集落の入口
  境内の掃除をしていた宮司は、坂口さんを見てはっとする。
宮司「君は・・・」
坂口透「お久しぶりです」
  坂口さんは宮司にこの村に戻ってきた理由を話す。
  宮司は眉間にシワを寄せて目を伏せた。
  そして、坂口さんの後ろにいた俺と薬師寺に目を向ける。
宮司「そちらの方々は?」
薬師寺廉太郎「初めまして、薬師寺です」
茶村和成「茶村です」
  薬師寺は女将にも言ったのと同じように宮司に自己紹介した。
  ふわふわしている薬師寺を見て、宮司は少し驚いた顔をする。
  しかしすぐに気を取り直して、ぺこりと頭を下げた。
宮司「宮司の榊です。よろしくお願いします」
薬師寺廉太郎「藁置山にまつわる伝承については大体彼から聞いたよ」
薬師寺廉太郎「今までにこういったことは?」
宮司「実際に祟りが起きたという話は、私が知る限りこれが初めてです」
  宮司は辛そうに表情を歪める。
宮司「山に近づいた女性が死んだというのも伝承でしか聞いたことがありません」
宮司「ましてや、男性まで消えてしまうなんて・・・」
宮司「ですからどう対処すればよいのか見当もつかないのです」
薬師寺廉太郎「・・・なるほどねぇ」
  なにかを考えている様子の薬師寺に俺はなにも言えず、黙って見ていた。
薬師寺廉太郎「分かった。 ちょっと藁置山の洞窟に入りたいんだけど、いいかい?」
宮司「ど、洞窟にですか?」
宮司「・・・やめておいたほうがいいと思いますが」
薬師寺廉太郎「大丈夫だよ。女性ならまだしも男だし。 それに・・・俺には呪いは絶対に効かない」
薬師寺廉太郎「もっと強いものが、俺にはかかってるからねぇ」
  不気味に目を細める薬師寺に、宮司は少し身を縮める。
宮司「・・・分かりました」
宮司「なにがあっても責任は取れませんが」
  そう言って、藁置山までの道のりを教えてくれた。
薬師寺廉太郎「ありがとう。じゃあふたりとも、行こうか」
  当然のように俺もついていく流れになっていて、顔をしかめる。
茶村和成(お前がよくても、俺は・・・?)
茶村和成(・・・まあ、いいか)
  いつの間にか「薬師寺がいれば安心」だと思ってしまっている自分がいて悔しい。
  俺はため息を吐いて、薬師寺のあとに続いて山に向かった。

〇けもの道
  1時間ほど歩き、藁置山の洞窟の前まで来た。
  先を進む薬師寺の後ろにいた坂口さんは、洞窟に足を踏み入れるのを躊躇(ちゅうちょ)して入り口の前で立ち止まる。

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