秘密屋(脚本)
〇階段の踊り場
初めてできた親友が泣きながら言った。
高瀬彩「お願い。 植田先生の弱みを見つけて」
高瀬彩「私、あいつに学校を追い出されそうなの」
〇理科室
佐々木つばさ「あのー」
私は怪しげな科学部の部室に足を踏み入れた。
佐々木つばさ「誰かいますか?」
日影直人「君は入部希望者かな?」
佐々木つばさ「ひっ」
部屋の奥から、突然人が現れた。
佐々木つばさ「あ、あなたは」
日影直人「科学部部長の日影直人だ」
彼は無愛想に名乗った。
ウワサでは、友達がひとりもいない変人だという。
佐々木つばさ「ここに来れば、誰の秘密でも教えてもらえると聞きました」
日影直人「取引に来たのか・・・」
日影直人「その通り。僕は校内の秘密を集めて売り買いしている」
日影直人「君は秘密を買いに来たの? 売りに来たの?」
佐々木つばさ(ウワサは本当だったんだ)
佐々木つばさ「買いに来ました。2年生の数学教師、植田の弱みを教えてください」
佐々木つばさ「バレたら学校を首になるくらいの秘密を」
日影直人「なぜ?」
佐々木つばさ「植田はえこひいきをする悪い先生らしいんです」
佐々木つばさ「特定の生徒だけ呼び出して、理由もないのにしつこく叱るって」
日影直人「又聞きしただけで、首にしたいとまで思ったのか?」
佐々木つばさ「いいえ。実は、違うクラスの親友が、植田のせいで学校に来られなくなったんです」
佐々木つばさ「だから、私が助けてあげたいの!」
日影直人「事情はわかった」
日影直人「で、代わりに君は、どんな秘密を提供してくれる?」
佐々木つばさ「え?」
日影直人「秘密を買うのはただじゃない」
日影直人「僕が扱う秘密には、シークレットポイント、通称Spという値段がついている」
佐々木つばさ「お金じゃダメですか?」
日影直人「ダメダメ。金銭のやり取りは校則違反だ」
佐々木つばさ(秘密のやり取りの方がよくない気がするけど)
佐々木つばさ「じゃあSpって、どうすれば稼げるんですか?」
日影直人「僕に誰かの秘密を提供すること。そうすれば、査定して買い取るよ」
佐々木つばさ「誰かの秘密・・・」
勝手に教えてしまうのは、悪いことだ。
佐々木つばさ「私の秘密でもいいですか?」
日影直人「もちろん。ただし、僕がすでに知っている秘密と被らないようにね」
佐々木つばさ「わかりました」
佐々木つばさ「あの、私の好きな人なんですけど──」
日影直人「同じクラスの山崎和也でしょ」
佐々木つばさ「!?」
佐々木つばさ(どうして)
日影直人「その秘密はすでに売られている」
佐々木つばさ「嘘よ。信頼できる友達にしか教えてないのに」
日影直人「・・・・・・」
佐々木つばさ「いったい、誰が!?」
日影直人「悪いけど、取引相手の情報は教えられない」
誰かが裏切ったということ?
そんなはずは・・・。
日影直人「ちなみにその秘密は、100Spで買った」
日影直人「学校を首になるほどの秘密なら、10000Spはもらうよ」
佐々木つばさ「高い!」
佐々木つばさ「誰かの好きな人を100人分教えないと、植田の弱みを買えないってこと?」
日影直人「そうなるね。無理なら、諦めてくれ」
突き放すような言い方だった。
佐々木つばさ「・・・生徒を登校拒否に追い込むような先生を許していいの?」
日影直人「僕は正義の味方じゃないんだ」
佐々木つばさ(どうしよう・・・)
〇教室
入学式の日
佐々木つばさ「えっと、あの・・・」
佐々木つばさ(友達を作りたい。でも、私は・・・)
高瀬彩「ねぇ」
佐々木つばさ「!?」
高瀬彩「まだ仲いい子いないの? だったら私と友達になろうよ!」
佐々木つばさ「・・・うん!」
──彩は、初めてできた友達だった。
〇理科室
佐々木つばさ「助けるって決めたもの」
佐々木つばさ「彩は私の・・・親友だから」
日影直人「!!」
そう。彩を助けるためなら何でもすると、誓った
佐々木つばさ「私の秘密を教える」
そして私は、一方的に話し始めた。
佐々木つばさ「私、実は男なの」
日影直人「・・・・・・」
日影直人「──え?」
佐々木つばさ「性同一性障害って、聞いたことくらいはあるでしょう?」
佐々木つばさ「生まれつき、体は男だったけど、心は女の子だった」
日影直人「いやいやいや、ちょっと待って」
佐々木つばさ「あ、証拠? あるよ」
「ほら」
日影直人「!!」
佐々木つばさ「ね?」
日影直人「つ──」
佐々木つばさ「中学までは男子の制服を着せられてた。でも、それが嫌で、高校は遠くに来たの」
佐々木つばさ「昔の私を誰も知らないところに」
そして、初めてできた女友達が、彩だった。
私が男であることは、彩にも言っていない。
万が一にも引かれたらと思うと、怖くて言えなかった。
佐々木つばさ「これが私の秘密。ねえ、これで植田の秘密も教えてくれる?」
日影直人「・・・ごめん」
日影直人「そんな重い秘密を打ち明けさせるつもりはなかった」
佐々木つばさ「いいよ。私の知りたい情報を知ってるなら」
日影直人「・・・君にとっては不都合な真実だ。それでも聞きたいのか?」
佐々木つばさ「もちろんよ」
日影直人「──わかった」
日影直人「植田先生は、まっとうな教師だ。えこひいきなんかしていない」
佐々木つばさ「そんなはずない! 彩が言ってたもの!」
日影直人「3組の高瀬彩のことだろう?」
日影直人「彼女は、万引きの常習犯だ」
佐々木つばさ「えっ──」
日影直人「ここに証拠もある」
表示された写真には、コンビニにいる彩が写っていた。
人目を気にしながら、商品をバッグに隠そうとしている。
佐々木つばさ「そんな・・・」
日影直人「植田が彼女を叱ったというなら、万引きの件だった可能性が高い」
佐々木つばさ「じゃあ彩は、植田の弱みを探らせるために私を騙したの?」
佐々木つばさ「親友なのに」
日影直人「君の好きな人の情報を僕に売ったのも、彼女だよ・・・」
佐々木つばさ「彩が──」
たしかに彩は、私の好きな人を知っていた。
佐々木つばさ「信じられない」
日影直人「──人はすぐに裏切る」
日影直人「僕が秘密屋を始めたのは、小学校のときに、いじめっ子と戦うためだった」
日影直人「でも、いつの間にかその深みにはまっていた」
日影直人「人は目的のためなら、簡単に友達を売るんだなって」
日影直人「それをわかってしまったから、僕は友達を作れなくなった」
佐々木つばさ「だから彩が秘密を売ったことを黙ってたのね。私が傷つかないように」
日影直人「そのせいで君の秘密を暴いてしまった。本末転倒もいいところだ」
佐々木つばさ「優しいのね」
佐々木つばさ「・・・・・・」
佐々木つばさ「女の子は難しすぎるよ」
日影直人「君の秘密は絶対に売らない。約束するよ」
佐々木つばさ「もうひとつ」
日影直人「ん?」
佐々木つばさ「私の好きな人の情報も削除しておいて」
佐々木つばさ「もう変わったから」
日影直人「・・・・・・」
日影直人「どういう、意味?」
佐々木つばさ「ふふっ」
上目使いで見上げると、日影直人は真っ青になって後ずさりした。
秘密を買うには、他の秘密が必要…ってこの方法だといっぱい秘密が手に入りますね。頭がいいです。
彼女もまさかの秘密だったですが、なんだか恋の予感がしていい感じの終わり方でした。
教師…ではなく親友の秘密が暴かれる…と思ったらまさか主人公の!?二転三転する展開が面白かったです😆
秘密の売買とは、他にもいろんなドラマが生まれそうなシチュエーションですね!
"悪役"(ひみつやさんの男の子)だと思っていた人物が実は"いいもん"だったりするお話は読んでいて気分爽快になりますね。そのギャップで恋におちてしまった主人公の気持ちがわかります。おもしろかったです♪