夏とたまちゃん

在ミグ

夏とたまちゃん(脚本)

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〇古民家の居間
正太郎「た〜まちゃん!」
たま「おお、正太郎」
たま「今年もよう来たなぁ」
たま「また背ぇ伸びたか?」
正太郎「たまちゃんは変わらんなぁ」
たま「ふ・・・・・・」
たま「正太郎、そこはな?」
たま「『去年よりべっぴんさんやで❤』」
たま「って言うんやで?」
正太郎「・・・・・・」
正太郎「たまちゃんは去年よりオモロイな」
たま「なんでやねん!」

〇古民家の居間
正太郎「た〜まちゃん!」
たま「いらっしゃい」
たま「今年もよう来たなぁ」
たま「何して遊ぶ?」
たま「お手玉か?」
たま「あやとりか?」
正太郎「俺男やで・・・・・・」

〇古民家の居間
正太郎「たまちゃんおるか〜?」
たま「おらんで〜」
正太郎「ほな、さいなら」
たま「なんでやねん!」
たま「今年もよう来た」
正太郎「うん。来た」
たま「また大きゅうなったか?」
たま「もう見上げなあかんな」
正太郎「たまちゃんはほんまに変わらんな」
たま「変わらずべっぴんやろ?」
正太郎「このやりとり、毎年するんか?」
たま「挨拶みたいなもんや」
たま「しかしほんまに大きいな」
たま「幾つになった?」
正太郎「十五や」
たま「もう元服か。早いなぁ」
正太郎「いや元服て」
たま「懐かしいなぁ」
たま「お前が産まれたのも、こんな夏の日でな」
正太郎「いつの話やねんな」

〇古民家の居間
正太郎「・・・・・・」
たま「帰らへんのか?」
たま「もう夕方やで?」
たま「おかんが心配する」
正太郎「もう子供ちゃうわ」
正太郎「それに・・・・・・」
正太郎「帰りとうない・・・・・・」
たま「ど、どないしたんや?」
正太郎「たまちゃん・・・・・・」
正太郎「俺、たまちゃんの事が好きや・・・・・・」
たま「にゃ?」
正太郎「自分でもおかしいのはわかっとる・・・・・・」
正太郎「でも・・・・・・」
正太郎「好きなんや」
正太郎「めっちゃ好きなんや」
正太郎「愛しとる・・・・・・」
たま「あ・・・・・・」
たま「正太郎、それはな?」
たま「愛とはちゃうで?」
たま「ただの憧れや」
たま「大体、こんなオバハンのどこがええねん」
正太郎「違う。俺にとって、たまちゃんはたまちゃんや」
正太郎「小さい頃から、可愛くて・・・・・・」
正太郎「優しくて・・・・・・」
正太郎「ええ匂いがして・・・・・・」
たま「あ、あほか・・・・・・」
たま「何を言うとんねん・・・・・・」
たま「百年早いわ・・・・・・」
正太郎「たまちゃん」
正太郎「俺と結婚してくれ」
たま「何で・・・・・・ そんな急に・・・・・・」
正太郎「・・・・・・赤紙や」
正太郎「俺にも赤紙が届いた」
正太郎「お国の為に戦わなあかん」
たま「招集礼状・・・・・・」
たま「・・・・・・」
たま「成程。そういう事か」
たま「・・・・・・」
たま「今日だけやで」
たま「明日になったら全部忘れるんや」
正太郎「嫌や」
たま「あかん!」
たま「わかっとるやろ!?」
たま「儂とお前では生きとる世界が違う」
たま「一緒にはなれんのや!」
正太郎「たまちゃん・・・・・・」
たま「・・・・・・だから」
たま「今日だけや・・・・・・」

〇古民家の居間
たま「それでええ・・・・・・」
たま「ぐっすりお休み」
たま「明日になったら何もかも忘れとるからな」
たま「・・・・・・何もかもや」
たま「そういう術・・・・・・」
たま「ほなな」
たま「元気でな・・・・・・」

〇寂れた村

〇寂れた村
たま(これでええ・・・・・・)
たま(儂とおっても幸せにはなれん)
たま(せめて生きて)
たま(帰ってきて)
たま(人間の嫁さん貰って)
たま(幸せになり)

〇荒廃した街

〇寂れた村

〇空き地

〇路面電車

〇新興住宅

〇一軒家

〇病室(椅子無し)
看護師「あのおじいちゃん、何て言ったかしら?」
看護師「正太郎さん?」
看護師「ああ、そうそう」
看護師「今日あたりが山だって」
看護師「ええ? 今日?」
看護師「でも身寄りいないんでしょ?」
看護師「奥さんにも先立たれた?」
看護師「ううん。ずっと独身だって」
看護師「まあ・・・・・・」
正太郎「・・・・・・」
正太郎「ん?」
正太郎「・・・・・・よお来たな」
正太郎「たまちゃん」
ねこ「!?」
たま「何でや?」
たま「全部忘れる術をかけたのに」
正太郎「そら覚えとるわ」
正太郎「初恋やもん」
たま「あほ・・・・・・」
たま「あほか・・・・・・」
たま「何で結婚せぇへんかったんや」
たま「儂の事なんか忘れて、幸せになったら良かったんや」
正太郎「・・・・・・百年早いんやろ?」
たま「え?」

〇古民家の居間
たま「何を言うとんねん・・・・・・」
たま「百年早いわ・・・・・・」

〇病室(椅子無し)
たま「ほんまにあほか・・・・・・」
たま「あんなん真に受けとったんか・・・・・・」
正太郎「・・・・・・もう、ええか?」
たま「・・・・・・」
たま「しゃあないな・・・・・・」

〇病室(椅子無し)
正太郎「ずっと待っとった・・・・・・」
正太郎「こうやって・・・・・・ 手を握ってくれるんを・・・・・・」
たま「うん。もう何処へも行かへんよ」
正太郎「嗚呼、たまちゃん・・・・・・」
正太郎「ごめんな」
正太郎「堪忍してや・・・・・・」
正太郎「俺だけ歳取って・・・・・・」
正太郎「先に逝かなあかん・・・・・・」
たま「うん」
たま「だから言うたやろ?」
たま「住む世界が違うって」
正太郎「うん・・・・・・ うん・・・・・・」
たま「ほんま・・・・・・」
たま「ほんまに・・・・・・」
たま「あほやなぁ・・・・・・」
正太郎「うん。あほや」
正太郎「あほやから・・・・・・」
正太郎「ずっとたまちゃんの事だけ想うて・・・・・・」
正太郎「幸せ・・・・・・」
正太郎「やった・・・・・・」
たま「・・・・・・」
たま「正太郎?」
たま「正太郎・・・・・・ 寝たんか?」
たま「・・・・・・」
たま「懐かしいなぁ・・・・・・」
たま「お前が産まれた時も・・・・・・」
たま「こうやって・・・・・・」
たま「こう、やって・・・・・・」
「うああああああああああああっ!!」

〇空

〇古民家の居間
「さて・・・・・・」

〇墓石
たま「今年も来たで・・・・・・」
たま「正太郎」

コメント

  • たまちゃん…😭正太郎…😭
    なんということでしょうか…
    泣ける純愛で素敵なお話でした…😭✨
    100年早いわが紡ぐラスト…もう…😭
    ありがとうございました✨

  • たまちゃぁぁぁぁん😭✨!!
    「100年早い」のセリフがラストに繋がるところ、とてもよかったです!切ないけど温かさの残る素敵なお話ですね!

  • 時の流れの経過を言葉で語らずとも、シーン転換や見た目の変化でしっかりと表現されていました。tap novelだからできる表現が詰まっている😆😆😆
    切なくも温かい素敵な物語😊😊✨

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