フラミンゴ

春島傑郎

フラミンゴ(脚本)

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〇土手
吉沢 美花(よしざわ みか)「・・・」
吉沢 美花(よしざわ みか)「・・・・・・」
田口 風太(たぐち ふうた)「今日もいるね」
吉沢 美花(よしざわ みか)「うん」
田口 風太(たぐち ふうた)「隣いい?」
吉沢 美花(よしざわ みか)「どうぞ」
田口 風太(たぐち ふうた)「・・・」
吉沢 美花(よしざわ みか)「・・・」
吉沢 美花(よしざわ みか)「部活帰り?」
田口 風太(たぐち ふうた)「うん」
田口 風太(たぐち ふうた)「ワールドカップ見てる?」
吉沢 美花(よしざわ みか)「見てない。 サッカーはよく分からないから」
吉沢 美花(よしざわ みか)「そういえばサッカー部だっけ?」
田口 風太(たぐち ふうた)「うん」
田口 風太(たぐち ふうた)「今回の日本代表が凄いんだ」
吉沢 美花(よしざわ みか)「そうなんだ」
田口 風太(たぐち ふうた)「格上のね、相手を倒したんだ」
吉沢 美花(よしざわ みか)「それってどれぐらい凄いことなの?」
田口 風太(たぐち ふうた)「えーと・・・」
田口 風太(たぐち ふうた)「テストで全教科90点取るくらい」
田口 風太(たぐち ふうた)「・・・かな?」
田口 風太(たぐち ふうた)「あっ!」
田口 風太(たぐち ふうた)「俺がだよ?」
吉沢 美花(よしざわ みか)「君のいつもの点数知らないから」
田口 風太(たぐち ふうた)「大体70点くらいとしてくれたらいいかな」
吉沢 美花(よしざわ みか)「じゃあ凄いね」
田口 風太(たぐち ふうた)「・・・」
田口 風太(たぐち ふうた)「いや話変わってんじゃん」
田口 風太(たぐち ふうた)「俺の平均点ばれてんじゃん・・・」
吉沢 美花(よしざわ みか)「ふふっ」
田口 風太(たぐち ふうた)「じゃあ吉沢さんの平均点は?」
吉沢 美花(よしざわ みか)「私は大体90点かな・・・」
田口 風太(たぐち ふうた)「なんだよ・・・」
田口 風太(たぐち ふうた)「ドイツじゃんこいつ・・・」
吉沢 美花(よしざわ みか)「え?どゆこと?」
田口 風太(たぐち ふうた)「は、話を変えよう──」

〇土手
田口 風太(たぐち ふうた)「──話過ぎて遅くなっちゃったね」
吉沢 美花(よしざわ みか)「いいよ。”ここ”は好きだし」
吉沢 美花(よしざわ みか)「でも、そろそろ帰らなきゃ」
田口 風太(たぐち ふうた)「そうだね」
田口 風太(たぐち ふうた)「あのさ・・・」
吉沢 美花(よしざわ みか)「何?」
田口 風太(たぐち ふうた)「あ、いや・・・やっぱりいいや」
吉沢 美花(よしざわ みか)「ふぅん」
田口 風太(たぐち ふうた)「じゃあまたね」
吉沢 美花(よしざわ みか)「うん、またね」

〇シックな玄関
吉沢 美花(よしざわ みか)「はぁ・・・」
  お母さんの靴と、あの人の靴。
美花の母「今日も遅かったわね」
吉沢 美花(よしざわ みか)「・・・」
美花の母「何してたの?」
吉沢 美花(よしざわ みか)「友達と話してたら遅くなっただけ」
美花の母「こんなに毎日遅いと心配よ」
  自分は好き勝手してる癖に?
美花の母「お義父さんも心配してるのよ」
  お父さんはあの人じゃない。
美花の母「ご飯食べるでしょ?」
吉沢 美花(よしざわ みか)「・・・うん」
  1年前、両親は離婚した。
  お父さんと入れ替わるようにあの人が家に来た。
  悪い人ではない。
  でも納得はいかない。
  何よりお母さんに、失望した・・・

〇学校の廊下
  それから私は嫌な人間になったの・・・
美花の友人「何でそんなに機嫌悪い訳?」
吉沢 美花(よしざわ みか)「別に・・・」
美花の友人「最近、本当に感じ悪いよ? わかってる?」
吉沢 美花(よしざわ みか)「・・・」
吉沢 美花(よしざわ みか)「そっちこそ機嫌悪いんじゃない? 模試の点、良くなかったから?」
美花の友人「はぁっ?」
美花の友人「最悪の嫌味だね」
美花の友人「・・・」
美花の友人「そりゃ両親も離婚するわ」
吉沢 美花(よしざわ みか)「・・・」
吉沢 美花(よしざわ みか)「・・・うるさい」
吉沢 美花(よしざわ みか)「うっさい!どっかいけ!」
同級生「えっ!?いまの吉沢!?」
同級生「なんであんな叫んでんの? やば・・・」
吉沢 美花(よしざわ みか)「・・・」
田口 風太(たぐち ふうた)「・・・」

〇土手
  それからここに来るようになった
吉沢 美花(よしざわ みか)「はぁ」
吉沢 美花(よしざわ みか)「酷いこと言っちゃったな」
吉沢 美花(よしざわ みか)「・・・」
田口 風太(たぐち ふうた)「・・・」
田口 風太(たぐち ふうた)「フラミンゴって何で片脚で立つか知ってる?」
吉沢 美花(よしざわ みか)「えっ?」
吉沢 美花(よしざわ みか)「私に言ってるの?」
田口 風太(たぐち ふうた)「吉沢さんしか居ないじゃん」
吉沢 美花(よしざわ みか)「ていうか君、誰?」
田口 風太(たぐち ふうた)「隣のクラスの田口だよ」
吉沢 美花(よしざわ みか)「そう」
田口 風太(たぐち ふうた)「・・・」
田口 風太(たぐち ふうた)「それでフラミンゴの理由は?」
吉沢 美花(よしざわ みか)「知らないし、一人で居たいんだけど」
田口 風太(たぐち ふうた)「まぁ付き合ってよ」
吉沢 美花(よしざわ みか)(隣座るんだ)
田口 風太(たぐち ふうた)「理由はちゃんとあるんだよ」
田口 風太(たぐち ふうた)「片脚で立つなんてさ、奇妙な行動だけど」
田口 風太(たぐち ふうた)「ちゃんと理由はあるんだ」
吉沢 美花(よしざわ みか)「それで理由は何なの?」
田口 風太(たぐち ふうた)「・・・」
田口 風太(たぐち ふうた)「ド忘れしちゃった」
吉沢 美花(よしざわ みか)「なにそれ」
田口 風太(たぐち ふうた)「あ、明日には思い出すと思うから」
田口 風太(たぐち ふうた)「またここで見掛けたら話すよ」
吉沢 美花(よしざわ みか)「別に知らない人と話したくない」
田口 風太(たぐち ふうた)「一応、同級生なんだけど」
  それから彼は毎日現れた。
  家に帰りたくなかった私はいつもここに居たから。
  嫌でも鉢合わせた。
  いつの間にか彼と話すのが、当たり前になっていった。
  でも当たり前にあると思ってたものは・・・
  いつも突然無くなるの

〇土手
田口 風太(たぐち ふうた)「あのさ、この前言いそびれたことなんだけど」
  告白でもされるのかと思ったんだけどな・・・
田口 風太(たぐち ふうた)「転校することになったんだ」
  君もいなくなるのね
田口 風太(たぐち ふうた)「実は母子家庭で、母さんの仕事の都合でさ」
田口 風太(たぐち ふうた)「・・・」
田口 風太(たぐち ふうた)「ねぇ、何か言ってよ」
吉沢 美花(よしざわ みか)「君も大変なんだね」
吉沢 美花(よしざわ みか)「今までありがとう」
田口 風太(たぐち ふうた)「えと──」
吉沢 美花(よしざわ みか)「今日はもう帰るね」
田口 風太(たぐち ふうた)「・・・」

〇土手
  それから彼とは会えなくなった
吉沢 美花(よしざわ みか)「・・・」
吉沢 美花(よしざわ みか)「・・・・・・」
吉沢 美花(よしざわ みか)(一人だと長く感じるな)
吉沢 美花(よしざわ みか)「・・・」

〇土手
田口 風太(たぐち ふうた)「・・・」
田口 風太(たぐち ふうた)「フラミンゴって何で片脚で立つか知ってる?」

〇土手
吉沢 美花(よしざわ みか)(あの日、皆から白い目で見られてた私を励ましに来たんでしょ)
吉沢 美花(よしざわ みか)(おかしな例え話まで考えて)
吉沢 美花(よしざわ みか)(母子家庭のことも、私に気を使って話さなかったのかな)
吉沢 美花(よしざわ みか)(もっと色んなことを話してみればよかったな)
「美花?」
吉沢 美花(よしざわ みか)「お母さん」
美花の母「いつもここに居たの?」
吉沢 美花(よしざわ みか)「・・・」
美花の母「この場所が好きなのね」
吉沢 美花(よしざわ みか)「全然・・・」
吉沢 美花(よしざわ みか)「虫はいるし」
吉沢 美花(よしざわ みか)「日焼けもするし」
吉沢 美花(よしざわ みか)「こんなとこ別に好きでも何でもない」
美花の母「・・・そう」
美花の母「じゃあ、帰りましょ」
吉沢 美花(よしざわ みか)「・・・」
吉沢 美花(よしざわ みか)「・・・・・・」
吉沢 美花(よしざわ みか)「フラミンゴが片脚で立つ理由知ってる?」
美花の母「えっ?なにそれ」
美花の母「知らないわ。お母さんに教えて」
吉沢 美花(よしざわ みか)「寒いとね・・・」
吉沢 美花(よしざわ みか)「片脚を身体の中に入れて暖めるんだって」
吉沢 美花(よしざわ みか)「奇妙な行動に見えても理由があるんだって・・・」
吉沢 美花(よしざわ みか)「・・・」
吉沢 美花(よしざわ みか)「お母さん・・・」
吉沢 美花(よしざわ みか)「私・・・」
吉沢 美花(よしざわ みか)「寒いんだと思うの・・・」
吉沢 美花(よしざわ みか)「・・・」
吉沢 美花(よしざわ みか)「うぅ・・・」
美花の母「美花・・・」

〇土手
吉沢 美花(よしざわ みか)「・・・」
吉沢 美花(よしざわ みか)「・・・・・・」
吉沢 美花(よしざわ みか)(今でも来ちゃうな)
  あれからお母さんや友達ともちゃんと話せるようになった。
  もう少し時間はかかるけど、前を向けるようになった気がする。
吉沢 美花(よしざわ みか)「・・・」
吉沢 美花(よしざわ みか)「・・・・・・」
吉沢 美花(よしざわ みか)(そろそろ帰ろう)
「今日もいるね」
吉沢 美花(よしざわ みか)「えっ・・・」
田口 風太(たぐち ふうた)「隣いい?」
吉沢 美花(よしざわ みか)「・・・」
吉沢 美花(よしざわ みか)「どうぞ」
田口 風太(たぐち ふうた)「・・・」
吉沢 美花(よしざわ みか)「なんでいるの?」
田口 風太(たぐち ふうた)「転校するっていっても隣町なんだよ」
吉沢 美花(よしざわ みか)「聞いてない」
田口 風太(たぐち ふうた)「話の途中で帰るからだろ」
田口 風太(たぐち ふうた)「新しい学校だとバイトOKでさ、その帰りなんだ」
吉沢 美花(よしざわ みか)「この辺でバイトしてるの?」
田口 風太(たぐち ふうた)「うん」
吉沢 美花(よしざわ みか)「わざわざ隣町から・・・奇妙な行動だね」
田口 風太(たぐち ふうた)「え?あ、まぁね」
田口 風太(たぐち ふうた)「でも自転車で1時間ちょっとだよ」
田口 風太(たぐち ふうた)「運動不足だし」
吉沢 美花(よしざわ みか)「ふふっ、サッカー部なのに運動不足なの?」
田口 風太(たぐち ふうた)「転校してサッカー部は辞めたし、時給が良いんだよ」
吉沢 美花(よしざわ みか)「ふぅん」
田口 風太(たぐち ふうた)「・・・」
田口 風太(たぐち ふうた)「吉沢さん”ここ”好きなんでしょ?」
田口 風太(たぐち ふうた)「バイト帰りとかにまた見掛けたら・・・」
田口 風太(たぐち ふうた)「これからも話そうよ」
吉沢 美花(よしざわ みか)「別に好きじゃない」
吉沢 美花(よしざわ みか)「・・・」
田口 風太(たぐち ふうた)「・・・そうなんだ」
吉沢 美花(よしざわ みか)「・・・」
吉沢 美花(よしざわ みか)「場所は関係ない・・・て意味」
田口 風太(たぐち ふうた)「・・・」
田口 風太(たぐち ふうた)「ははっ」

〇土手
  心の傷を隠すために片脚で立っていた少女
  それでも・・・
  あるがままに立つフラミンゴは
  きっと美しい

コメント

  • 静かだけどじわじわ心にくる素敵なストーリーでした。
    フラミンゴが片足で立つ理由、勉強になりました✨

  • あえて同じ場所でストーリーが展開するのが面白いですね。彼は隣町で良かった。
    一時間かけてわざわざ来るなんてそりゃもう好きに決まってます。素敵なお話でした。

  • 奥深い青春ストーリー、とても良かったです!
    フラミンゴが片足で立つ理由は知りませんでしたが、確かにいつまでも片足で立ってるのって辛いですよね。
    そんな時に支えてくれてたんだなって。いいですねぇ。

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