25時のトランペッター ~3年遅れのイリス~

資源三世

虚像を追い求めて(脚本)

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〇海

〇海辺の街

〇開けた交差点
辰巳「警戒レベル4の中で火事場泥棒とは、いい度胸じゃねぇか」
火事場泥棒「ご、ごめんなさ──」
隠岐「先輩、やりすぎですよ。また謹慎くらいますよ」
辰巳「別に構わねぇぜ」
辰巳「今回の護衛を、やりたい奴が他にいるならな」
隠岐「いないの分かってて言ってるでしょ。性質悪いなぁ」
隠岐「そもそも、連行する暇ないですよ。その護衛相手との合流時間を過ぎてるんですから」
辰巳「なら本部に連絡入れて、その辺に縛っとけ」
火事場泥棒「お、置いてかないでくれ」
辰巳「あぁ?」
隠岐「いや、置いていけませんよ」
隠岐「何かあったら、僕まで責任取らされるんですよ」
辰巳「あのな、俺だけならいいのか──」
辰巳「伏せろ!」

〇荒廃した街
辰巳「悪いな、一緒に責任とることになりそうだ」
隠岐「それって、生き残れたらの話ですよね」

〇海辺の街
「怪獣だー!」

〇荒廃した街
火事場泥棒「た、助けてくれ」
辰巳「馬鹿野郎が!」
隠岐「あんなデカブツに銃なんて意味ないですよ」
辰巳「ああいうのは目玉ぶち抜きゃいいんだよ!」
隠岐「怪獣にまで喧嘩売らないでくださいよ! 本当に死にますよ!」
辰巳「俺に構ってねぇで、お前はさっさと逃げろ!」

〇海辺の街
「ティコ!」
「イエス、マスター!」
辰巳「今のは──」
「逃げたか」

〇荒廃した街
「まったくもう」
博士「警察が護衛対象に守られてどうするのさ」
隠岐「子供?」
辰巳「久しぶりの再会だ、サービスしろよ」
隠岐「お知り合い?」
辰巳「お前な、資料見てないのかよ」
辰巳「こいつは今回の護衛対象」
辰巳「世紀の大犯罪組織『終焉の13』の残党。怪獣退治の専門家だ」

〇山奥の研究所
  怪鳥臨時対策本部──

〇研究所の中
間宮教授「怪鳥、未だ捕捉できません」
博士「奴は紫外線を嫌う夜行性のギャ〇ス変異種だ。奴が本領発揮する夜が来る前に倒すんだ」
博士「誘導用の餌は?」
間宮教授「確認してきます」
ティコ?「マスター、食事だ」
博士「ありがと・・・って、鮪は嫌いなんだよ。鰻にしてよ」
間宮教授「餌は鰻ですか?」
博士「違う、人工血液」
ティコ?「マスター、餌だ」
博士「早いね。なに? トマトジュース?」
ティコ?「鰻の血液だ」
博士「なんでだよ」
隠岐「あれが『13』に人質にされてた人物? 資料とイメージ違いすぎでしょ。そもそも子供じゃないですか」
辰巳「まあ見た目はアレだが、本物だ。奴は『13』の研究成果を独占し、怪獣退治の専門家の地位を得た」
辰巳「あっちの着ぐるみの中身は怪人だ。周りが怖がるから、普段はああやって姿を隠してる」
隠岐「怪人って、世界中で暴れてた奴ですよね。からかってません?」
辰巳「まあ百聞はなんたらだ。見てな」
  辰巳はそう言って、拳銃を子供へ向ける
隠岐「ちょ、なにやって──」
辰巳「あのガキは『13』への怨恨や利権なんかで常に命を狙われているからな」
辰巳「熱っ!」
辰巳「手を出そうとすれば、すぐに怪人が仕留めに来る」
辰巳「何も知らずに人間爆弾にされた奴とかいたからな、俺達が護衛だろうと遠慮なんてしてくれないぜ」
辰巳「死にたくなけりゃ、油断しないことだ」
博士「粗暴さは相変わらずだね。そろそろ免職されるんじゃない?」
辰巳「お前が『ロストフィルム』を渡すまでは、警視総監を殴ってでも辞めたりしねぇよ」
博士「この人、本当に警察官?」
博士「何度も言うけど、どんなに頑張っても、信じなくても、あれは手に入らないよ」
辰巳「この仕事をしてると、ないと言ってたものが出てくるなんてよくある話だ。お前はいつまで意地をはれるだろうな?」
博士「おじさんが疑うのをやめた時かな」
辰巳「相変わらず食えねぇガキだ」
隠岐「先輩、『ロストフィルム』って、あの都市伝説の?」
  『ロストフィルム』 それは『13』と抵抗組織の最終決戦の映像記録という眉唾物の存在だ
辰巳「あれは実在する。捕まえたハッカーに警視庁のサーバーを調べ上げさせて得た情報だ。間違いねぇよ」
隠岐「先輩、本当に警察官なんですか?」
隠岐「何でそんなに『ロストフィルム』に拘るんですか?」
辰巳「あれは・・・ 抵抗組織に所属していた兄貴の行方を知る唯一の手がかりなんだよ」
隠岐「それって──」

〇研究所の中
辰巳「なんだ?!」
博士「怪鳥の襲撃だ。人の気配に誘われたか? まだ準備が整ってないってのに」
間宮教授「施設の損害甚大、このままでは倒壊します」
博士「ティコ、いくよ!」
辰巳「何するつもりだ?」
博士「応戦に決まってるでしょ」
間宮教授「危険すぎます」
博士「ここにいたって同じだよ。自衛隊の準備が整い次第、作戦をフェーズ2に移るよう伝えておいて」
辰巳「俺達も行くぞ」
隠岐「え? ちょ、先輩? 嘘でしょ? 今度こそ、怪獣に食われますよ」
辰巳「護衛が仕事だろうが」
隠岐「銃もないのに?」
辰巳「あぁ、悪いな。お前の銃、壊しちまった。まあ減給処分くらいで済むだろ」
隠岐「え? あれ、俺の? 何してくれてんですか」
辰巳「いいからいくぞ」
隠岐「この任務を誰もやりたがらないのは、先輩が原因な気がしてきた」

〇山道

〇車内
隠岐「ひぃー! 死ぬ、死ぬ、死ぬ!」
博士「障害物はティコが破壊するから、全力で駆け抜けて」
隠岐「無理無理無理! 怖すぎでしょ!」
辰巳「いいから、アクセルだけ踏んでろ」
隠岐「嫌ー!」
辰巳「で、ここからどうするんだ?」
博士「このまま街へ出て。そうすれば、ビルを利用してティコが怪鳥に飛び移れる。後は自衛隊が到着次第、反撃だ」
隠岐「自衛隊って、いつ来るの?」
博士「最速でも30分」
辰巳「だとよ。頑張って逃げ続けろ」
隠岐「助けてー!」

〇開けた高速道路
隠岐「風が強すぎて、これ以上は無理です!」
辰巳「このままビルの中に突っ込め!」
隠岐「もうやだ、この職場!」

〇荒廃したショッピングモールの中
隠岐「い、生きてる?」
辰巳「あのガキの近くは、怪人に守られてるんだよ。安全地帯ってやつだ」
隠岐「精神的には最悪ですけどね」
博士「自衛隊から連絡が来た。ティコ、作戦開始だ」
ティコ「イエス、マスター!」
隠岐「子供なのにタフですね」
辰巳「この位、日常茶飯事だか──」
博士「ビルが崩れる、逃げるよ」
隠岐「外も危ないよ」
辰巳「瓦礫の下敷きよりはマシだ、いくぞ」
隠岐「うわっ」
辰巳「危ねぇ!」
隠岐「ひぃっ!」
隠岐「へ?」
ティコ「無事か、マスター?」
博士「なんとかね。こっちはこっちで何とかするから、ティコは作戦を優先して」
隠岐「は?」
辰巳「怪人に助けられたようだな」
隠岐「は、ははっははははっ!」
隠岐「か、怪人が助けるの遅れた? はははっ!」
辰巳「しっかりしろ」
隠岐「痛っ」
辰巳「呆けてる時間はねぇ。いくぞ」
隠岐「あー、はい。そうですね」
隠岐「ちゃんと仕事をしないと」

〇海辺の街
「全部隊、怪鳥を海へ追い込むように行動せよ」
「怯むな! 敵の弱点である紫外線を照射し、誘導せよ」

〇荒廃した街
「全部隊に通達。怪獣は海に向かって移動を開始した。残りの任務に集中せよ」
博士「上手く、海へ誘導してくれたね。これで奴が墜落しても、被害は抑えられる」
辰巳「本当に倒せるのか、あんなデカブツを」
博士「ティコの毒針<パイルバンカー>の破壊力なら、怪鳥の強度を上回れる」
博士「ティコの毒は『13』の毒鼓怪人『ニガヨモギのバジリスク』と同じ、様々な生物を殺してきた猛毒だ。怪鳥の再生速度すら上回る」
博士「ただし、発射時の反作用を抑えるためには、怪鳥がマッハ3で飛行しているときの・・・って、興味ないか」
辰巳「聞いてもわからねぇよ」
隠岐「んー、とりあえず怪人は遠くにいっちゃったってことだよね」
博士「かはっ・・・」
辰巳「おい、どうした! 大丈夫か?」
辰巳(呼吸が浅い、顔色は紫、体は僅かに痙攣しているが外傷は見当たらない)
辰巳「毒か?」
ティコ「マスター、救援は必要か?」
博士「いらん! 作戦に専念しろ」
辰巳「そんなこと言ってる場合か? 死ぬぞ!」
隠岐「いいんじゃないですか?」
辰巳「お前、何をした?」
隠岐「そういう命令じゃないですか」
辰巳「あぁ?」
隠岐「やだなあ、怪人の隙をついて、その子を殺す作戦じゃないですか。あー、怪人なら心配いりませんよ」
辰巳「一体、何を言ってるんだ?」
隠岐「怪人の護衛には穴があってですね」
隠岐「まず想像力が足りないんですよ。攻撃の意志がなければ、毒を持っていても関心すら示さない」
隠岐「加えて機動力の限界もある。如何に怪人であろうと間に合わない距離はあるんです」
辰巳「何なんだよ、お前は!」
隠岐「何言ってるんですか、僕は・・・? あれ、僕は・・・」
辰巳「目を覚ませ!」
隠岐「その子の脳が『13』に関わる全てを手に入る。そのために僕達は、国のために、死を捨てる命? あれ?」
博士「Neuron Memory Systemか・・・」
辰巳「なんだそりゃ」
博士「記憶の改ざん装置・・・けほっ! 暗殺の条件が揃うと発動する暗示をかけられたって言えばわかる?」
辰巳「つまり?」
博士「あーねー、新人さん、洗脳されてるってこと。苦しいんだから、あんまり説明させないでよ」
辰巳「要はぶん殴れば、治るってことだな」
博士「なにそれ怖い」
辰巳「研究所に戻るまで、持ちこたえろ」
博士「作戦終了まで守ってくれれば・・・かはっ!」
辰巳「あぁ? なんだ、そりゃ? ガキが自己犠牲のつもりか?」
博士「頭に響くから、怒鳴らないでよ」
辰巳「いいか、死んでも死ぬんじゃねぇぞ! お前にはまだアレの在処を吐かせてねぇんだ」
博士「『ロストフィルム』なら、前に言った通りだよ。あれはもう──」
辰巳「黙ってろ!」
隠岐「さあ、怪人が来る前に殺しましょう」
辰巳「ふざけるな!」
辰巳「兄貴も、自衛隊も、お前も、ガキも!」
辰巳「どいつもこいつも任務、任務優先で死のうとしやがって、丁度むしゃくしゃしてたんだ」
隠岐「なんでその子を守るんです? 殺せば『ロストフィルム』の在処も分かるのに」
辰巳「うるせぇ!」
隠岐「らしくないなぁ。『13』は負けそうになったら、抵抗部隊を道連れに自爆した奴らですよ。そんなの死んで当然ですよね」
辰巳「てめぇ・・・!」
隠岐「その子を殺して、『ロストフィルム』を手に入れれば、お兄さんの復讐も出来て、一石二鳥じゃないですか」
辰巳「黙れ・・・」
隠岐「さあ、復讐を」
辰巳「黙れって言ってるんだよ!」
辰巳「面白いことを教えてやるよ。『ロストフィルム』は、『13』の自爆でぶっ壊れたんだとよ」
隠岐「え?」
辰巳「あーあ、遂に認めちまったか」
隠岐「え? な、なんで?」
辰巳「なんでないものを追いかけてたか分からないか?」
辰巳「んなもん、追いかけていないと、兄貴が死んだこと認めるしかねぇからだろうが!」
隠岐「ぅ・・・!」
博士「ティコも決着がついたみたいだ」

〇荒廃したショッピングモールの中
博士「ボクのいうことを信じなかったのは・・・」
辰巳「信じたくなかったんだよ。犯罪者のたわ言にしておけば、兄貴は行方不明として探していられるからな」
辰巳「けど、もうそれも終わりか」
博士「・・・」
辰巳「お前は騙すような奴じゃないって分かってたのによ」
博士「ようやく、『イリス』の任務を遂げられそうだ・・・」
辰巳「イリス?」
博士「抵抗部隊の人たちがボクにくれたコードネーム。伝令の神様の名前だってさ」
博士「ボクは、彼らの家族への言伝を頼まれてるんだよ」
博士「3年遅れだけど、やっとおじさんにも伝えられる・・・」

〇研究所の中
辰巳「なんで毒が効いてねぇんだよ、お前」
博士「『13』の作った猛毒ニガヨモギは、見ただけで死ぬんだよ。そんなもの扱うんだから、毒を無効化する改造くらい受けてるよ」
辰巳「苦しんでたじゃねぇか」
博士「あーねー、毒の分解が終わるまではきついんだよね」
辰巳「ったく、食えねぇガキだぜ」
辰巳「まあ、礼は言っておく。お前のおかげで隠岐も元に戻ったしな」
辰巳「怪人が怖くて、顔は見せられねぇらしいがな」
辰巳「次の護衛のときは、縛って連れてくるからよ」
博士「それじゃあ、またね」
辰巳「あぁ、またな」
辰巳「・・・またな、か。やれやれ、まだあいつらのお守りは続くのか」
辰巳「・・・」
辰巳「さてと、3年もかかっちまったが」
辰巳「兄貴の墓参りしてやらねぇとな」

コメント

  • 子供なのに博士という設定が始めは違和感を感じながらも、読み進めるうちになんだかしっくりしてきたのが不思議です・・。辰巳が彼女に信頼を置く気持ちが伝わりました。

  • 場面転換と音響効果が非常に巧みで、アニメ作品を見ているようでした。それにしても、隠岐はいかにも軽薄そうな後輩として描かれていただけに、記憶の改竄装置の暗示が発動した瞬間はゾッとしましたね。タイトルの「3年遅れ」の意味は最後に分かって切なくなりましたが、辰巳と博士に信頼関係ができたみたいでよかった。

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