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セーイチ

A.子犬を買う(脚本)

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〇ペットショップの店内
  私は・・・
愛依「この子をください」
  ゲージの中からコチラを眺めている子犬を指さした
店長「かしこまりました、グッズなどもご入用ですか?」
愛依「そうですね、初めてなので一通りください」
店長「それでは子犬用を一式、宜しければご自宅までお届け致しますが?」
愛依「はい、お願いします」
  こうして、私は新たな家族と共に帰宅するのだった

〇整頓された部屋
  私は帰宅早々、店長さんが届けてくれたグッズを広げ、子犬を迎え入れる準備を完了させた
愛依「ほ~ら、今日からココがアナタのお家だよ~」
・・・「わん♪」
愛依「気に入ってくれたか~良かった良かった」
  私はネットで情報を仕入れながら、子犬との生活をスタートさせた
  因みに、子犬の名前は茶々にした
  見たまんまだね
  茶々との生活は新鮮で楽しく、新しい発見ばかりで、私は心の底から癒され、そして満たされた
愛依「こんな事なら、もっと早く決断しておけばよかった」
愛依「でも、それだと茶々とは出会えなかったかもだし」
愛依「きっとコレで良かったんだよね」
茶々「わん♪」
  そんな充実した日々を送っていた私だが、ある日から奇妙な現象を目に・・・いや、耳にするようになった

〇部屋のベッド
  それは、私が寝室で仕事をしていた時の事
  茶々の寝ているリビングから、奇妙な音が聞こえてきたのだ
  ・・・・・・・・・・・・・・・
  それは鳴き声のようでもあり、何かを擦り合わせている音ようにも聞こえた
愛依「茶々?」

〇整頓された部屋
  何ごとかとリビングを覗きに行くが、私がリビングに足を踏み入れると音は止まる
  そして茶々はというと・・・
茶々「zzz・・・」
  気持ちよさそうに眠っているだけ
  そんな事が数日続いた

〇整頓された部屋
愛依「もしかしたら、茶々のいびき?」
愛依「子犬っていびきするの?」
茶々「?」
愛依「まぁ、茶々にわかるわけないよね」
  ネットで検索すると、子犬のいびきは病気のサインかもしれないとの事
愛依「茶々、病気なの?」
茶々「わう?」
愛依「そうは見えないけどなぁ」
  とはいえ、やはり気になる
  私はその日、リビングで茶々の監視をする事に決めた

〇整頓された部屋
愛依「コーヒーにお菓子に毛布・・・」
愛依「良し、完璧」
  私は完全装備で夜を迎え撃った
  しかし、こういう日に限って何も起こらない
愛依「おかしいなぁ、普段なら聞こえてきても良い時間帯なのに・・・」
  だんだんとマブタが重くなる
  0時を回り、1時を回り、2時を回り・・・
  そろそろカフェインで眠気を抑えるのにも限界を感じてきた頃、それは聞こえてきた
  ・・・・・・・・・・・・
  慌てて茶々の眠るゲージを覗く
  しかし、茶々は静かに眠っているだけ
  いびきをかいている様子は無い
  ・・・ぅ・・・・・・ぃ・・・
  いや、そもそもこの音は茶々から聞こえてきている訳じゃない
愛依「いったいどこから・・・」
  私は耳をそばだてて音の発信源を探る
  すると・・・
  茶々のゲージ付近に、黒いモヤのような物を見付けた
愛依「なに・・・アレ・・・」
  ・・・ぅ・・・・・・い・・・
  再び耳を澄ますと、音がモヤから聞こえてくる事に気が付いた
  更に目を凝らしていると、靄は少しずつその面積を広げているのがわかる
  ・・・ぃ・・・ゅ・・・ぃ・・・
  そしてモヤが濃くなると同時に、意味不明だった音が鮮明になっていく
  それは・・・
  ・・・ゆる・・・な・・・・・・
  それは明らかに人の声だった
愛依「な、なに・・・何なの・・・」
  瞬時に悪寒が走り、鼓動が高鳴る
  何かはわからない、しかしこの場にいてはいけない、私の本能がそう言っている
愛依「に、逃げなきゃ・・・」
  しかし、立ち上がろうとする私の意思に反して、両足に全く力が入らない
愛依「な、なんで?」
  ・・・さ・・・・・・るさ・・・
愛依「ひっ!」
  そうこうしている内に、モヤはより大きくなり、少しずつ私に近付いてくる
愛依「い、いや・・・」
  モヤは私の眼前で止まると、ひときわ大きく広がり、瞬時に収縮していく
  そして、何かを形作っていった
愛依「ひ、ひぃいいい!!!!」
  それは人だった
  生気のない、女性だった・・・
  ゆ・・・ない・・・さな・・・
愛依「や、やめて・・・こない・・・で」
  モヤから生まれた女性が、はいずる私を追いかけるように、にじり寄って来る
  そして顔を私の鼻先まで近付け、存在しない瞳で私を見つめた
  ゆるさない!
愛依「いやぁあああああ!!!!」
  ゆるさない!ゆるさない!ゆるさない!ゆるさない!ゆるさない!ゆるさない!ゆるさない!ゆるさない!ゆるさない!ゆるさない!
愛依「何よ何よ何なのよぉおおおお!!!!」
  叫び声を上げた瞬間、僅かながら両足に力が戻る
  私は足をもつれさせながら玄関に向かい、ドアノブを回した
  しかし・・・
  ドアが開かない・・・
愛依「何で!カギは開いてるのに!!」
  もたついている間に、女性は私の背後まで迫ってきていた
  私が再び悲鳴を上げた瞬間、女性が右手を高々と振りかざす
  ゆるさ・・・ない・・・
  そして、私に向かいその右手を振り下ろした
愛依「かっ・・・は・・・」
  喉に激痛が走ったかと思えば、急速に全身が脱力していくのを感じる
  私はその場に崩れ落ちた
愛衣「か・・・がっ・・・ぐぼっ・・・」
  喉から熱い液体と空気が漏れ出ているのがわかる
  遠のく意識の中で、女性が茶々へと向かっていくのが見えた
  茶々が危ない・・・
  私は意識を失う直前、せめて茶々だけでも逃がすべきだったと後悔した
茶々「・・・」

〇黒背景

〇ペットショップの店内
店員A「ねぇねぇ・・・ちょっと聞いた?」
店員A「あの子犬、また戻って来たらしいわよ」
店員B「あの子犬って、あの柴の事ですか?」
店員B「ひょっとして、その飼い主って・・・」
店員A「そう、死んだらしいわ・・・喉を切っての失血死だって」
店員B「ええ!またですか?もう三回目じゃないですか!」
店員A「そうなの、しかも死んだ飼い主の死因はみんな同じ」
店員B「なんでそんな子犬を戻すんですか、どう考えたっておかしいでしょ?」
店員A「知らないわよ、今回も店長が引き取って来たって」
店員B「そういえば、あの柴の最初の飼い主って・・・」
店員A「店長の奥さん・・・」
店員B「店長の奥さんって、確か失踪中でしたよね・・・」
店員B「・・・」
店員A「・・・」
店長「・・・」
店長「お帰り・・・留美」
・・・「・・・」

〇黒背景
  END

次のエピソード:B.子猫を買う

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