エピソード29(脚本)
〇古い図書室
坂口透「帰ってきてから数日が経って、突然梨香子と連絡が取れなくなったんです」
〇大きい交差点
夜のファーストフード店で、オレは哲平と雄大、加奈と集まっていた。
3人に見守られながら、オレは梨香子に電話をかける。
坂口透「・・・・・・」
呼び出し音がプツリと途切れ、留守電サービスに接続された。
オレはピッと電話を切る。
坂口透「・・・ダメだ。やっぱり出ない」
清水哲平「なんだよ、梨香子のやつ・・・」
相馬加奈「・・・あんなことがあったから、あたしたちとはもう縁を切りたいのかもね」
オレたち4人は黙り込んだ。
場が暗い雰囲気に包まれる。
雄大は無理にテンションを上げるように、「まあまあ!」と切り出した。
瀬見雄大「無理に構うのもよくないだろ。 そのうちサークルに顔出すかもだし、今日はもう帰ろうぜ」
雄大の言葉に頷(うなず)いて、オレたちは解散することにした。
〇住宅街
帰路で梨香子のことを思い出す。
梨香子は伝承を聞いてから異様に怯えていた。
もしかして梨香子がオレたちの前から姿を消したのは、なにかそうせざるを得なかった理由があったんじゃ・・・。
そこまで考えて、オレはブンブンと頭を横にふる。
坂口透(いくら考えても仕方ない。 早く帰って寝よう・・・)
薄暗い電灯で伸びる自分の影を見下ろしながら、長い息を吐き出した。
〇大きい交差点
数日後。
グループチャットで哲平から「今日大学に集まろう」という呼びかけがあった。
〇おしゃれな大学
急にどうしたのかと思ったが、ちょうど卒論のための臨時のゼミがあったのもあり、オレは久しぶりに学校に来た。
ゆだるような暑さで流れた汗を拭うと、突然背後から声をかけられる。
相馬加奈「あ、いた、透!」
坂口透「ん? ああ、加奈じゃん。おはよ」
相馬加奈「ちょ、ちょっと来て」
坂口透「え、オレ今からゼミなんだけど。 終わってから行くわ」
相馬加奈「先にこっち! 哲平と雄大が変なの!」
加奈はいつも以上に強引にオレの服を引っ張る。
困惑したまま加奈の進む方へ行くと、ベンチに座ってる哲平と雄大がいた。
ふたりはじっと地面を見つめている。
オレと加奈が近づいてきても、手を振ることすらなかった。
坂口透「・・・どうした? ふたりとも」
雄大はゆっくりとオレを見上げる。
ぼんやりとした目だった。
瀬見雄大「・・・俺ら、変なんだよ」
坂口透「変って、どうしたんだよ。 詳しく教えろよ」
雄大はオレから目を逸してごにょごにょとなにかを言っている。
清水哲平「こけしが見える、っつってんだ」
坂口透「・・・こけし?」
清水哲平「あの洞窟で見た、目のないこけしだよ」
言い終わると、哲平は再び顔を膝に埋める。
意味が分からず、オレは首を傾げた。
瀬見雄大「・・・どこに行っても、気づくとこけしがいるんだ。 他の人間には見えてない」
雄大はポツリとこぼしてから、人さし指でとある方向を指す。
瀬見雄大「今も・・・そこに・・・」
雄大が指差した方を振り返った。
しかし、そこには廊下があるだけでこけしの姿はない。
雄大に向き直ると、指は降ろされたまま視線は地面を見つめていた。
オレはわけが分からず混乱する。
加奈は首を横に振って、肩をすくめた。
〇黒
その日以降、哲平と雄大はどんどん情緒不安定になっていった。
どうやら、こけしが見え始めて以来不眠の日々が続いているらしい。
オレと加奈はふたりの気を紛らわすように明るい話題を振ったり、心配いらないから眠るように促したりした。
しかし、ふたりは日に日にやつれていった。
〇おしゃれな大学
そんな日々が続いて気が重くなっていたある日。
今までの不安が嘘のように穏やかな表情をしている哲平と雄大がいた。
驚いて、ふたりになにがあったのか尋ねる。
清水哲平「昨日は、夢の中に梨香子が出てきたんだよ!」
瀬見雄大「梨香子が俺たちを手招きしてたんだ!」
笑顔で話すふたりは、ひどく嬉しいことがあったように口を開いた。
「夢の中で梨香子が出てきた」
「目の部分が真っ暗になっている梨香子が自分を手招きしていた」
「梨香子の周りには目のくり抜かれたこけしがそこら中に並んでいた」
飛び出すのは不穏な言葉ばかりで、なぜこんなにも笑顔で話すのかオレには一切理解ができなかった。
背筋がぞわりと冷える。
あまりに気味が悪く、適当な理由を作ってオレはその場を後にした。
〇黒
そして、その日を最後に哲平と雄大は姿を消した。
〇大きい交差点
残されたオレと加奈は、なにか対策を取ろうと色々調べてみた。
お祓いにも行ってみたが、効果があるのかは分からない。
ついには加奈までこけしが見えると言い出した。
〇一人部屋
オレは加奈を守るために、加奈のアパートに荷物を持って泊まることになった。
加奈は常に怯えた様子で部屋の隅を見つめては、毛布にくるまっている。
そしてなにもない空間を指差して、「あそこにこけしがいる」と訴えた。
しかしやっぱり、オレには何も見えなかった。
憔悴(しょうすい)しきった加奈が眠りにつく。
オレはその間、おかしなことが起きないようにずっと見張っていた。
〇一人部屋
朝になって加奈が目覚める。
「おはよう」と声を掛けると、加奈がオレの方を向いた。
その表情に、ギクリと背筋が凍る。
相馬加奈「おはよう透! あのね聞いて!」
相馬加奈「夢の中で梨香子と会ったの! 隣に哲平と雄大もいたよ」
昨日まで怯えていたのが嘘のように、加奈の表情は晴れ晴れとしていた。
哲平と雄大のふたりが失踪したのを思い出す。
そして、これから加奈に起こることへの予想がついてしまった。
坂口透(このままだと、加奈までいなくなる)
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