帝都に来たりて(脚本)
〇黒
帝都を護る特殊部隊、そこに咲く一輪の華。
可憐なる乙女は、本人が望む望まないに関わらず事件へと巻き込まれていく。
そう。これは、彼女の出会いと別れの物語──
〇城の会議室
レイカ「帝都東部、問題なしであります!」
上官の男「ご苦労。報告書はそこに置いてくれたまえ」
上官の男「・・・・・・それはそうと、一緒にカフェーでもいかがかね?」
レイカ「本官、未成年でありますゆえ」
レイカ「遅くなると警官殿に、その・・・・・・」
上官の男「なら仕方あるまい。御父上によろしく頼む」
〇路面電車
帝都、東京。
京より少ないとはいえ、ここ帝都でも「外より来たる怪異」による被害は多い。
彼女の所属する部隊は、そんな怪異をいるべき場所に戻すことを仕事としている。
レイカ「今日はどんなお土産買っていこうかな」
レイカ「ハイカラなクッキーにプリン・・・・・・いやいや、そんな高級品買ってたら、いくらお金があっても足りないかも」
レイカ(でも、自分用だけなら・・・・・・ 頑張ったご褒美だもん)
レイカ(高かったけど、自分へのご褒美だからね。仕方ないよね)
レイカ「なっ、なにっ!?」
道路の真ん中に、人ならざる何かが墜ちてきた。
月ウサギ「おなか、すいた・・・・・・」
いきなり少女が墜ちてきたというのに、周囲は一切気にしていない。
これは怪異だ──彼女がそれに気付くのに、それほど時間はかからなかった。
月ウサギ「おなか、すいたの」
レイカ「・・・・・・えっと、食べる?」
月ウサギ「これ、おいしー!」
レイカ(害意は無い・・・・・・か?)
レイカ(いやでも、これは怪異だ。警戒しなければ)
月ウサギ「ところでおねーさん、おねーさんにはあたしがみえてるの?」
レイカ(なっ!?)
レイカ(話しかけられたからつい返してしまったけど、こいつは怪異)
レイカ(不味い、このままだと消される)
レイカ(職務中じゃないから武装もしてないし、応援も呼べない)
レイカ(ここからどうすれば・・・・・・)
月ウサギ「あたしね、おつきさまにかえりたいの」
月ウサギは、怪異にしては珍しく、人間を害しようという意思を持っていなかった。
月ウサギ「もう、こわいのいやなの」
月ウサギ「おねーさん、あたしをつきにかえしてくれる?」
〇黒
月ウサギ「あたしがここにきたのは、ひとつまえのまんげつのひ」
月ウサギ「そのひ、こわいおねーさんにころされそうになった」
〇路面電車
月ウサギ「きゃっ!」
アケビ「こっちも仕事なものでね。許せとは言わんよ」
月ウサギ「あっ、あがっ・・・・・・」
アケビ「じゃあな。これに懲りたら、もう帝都には来ないことだ」
月ウサギ(来たくて来たわけじゃ、ないのに・・・・・・)
運良く生き延びた月ウサギは、月に帰る方法を探すために帝都を彷徨った。
そして空腹で屋根から滑り落ちたところで、レイカと出会ったのだ。
〇路面電車
レイカ(月ウサギが月に帰れば、怪異による被害は確実に減るだろう)
レイカ(でも、怪異を信じてもいいのだろうか)
月ウサギ「たよれるの、おねーさんしかいないの」
月ウサギ「おねがい、あたしをたすけて」
レイカ(でも、ここまで頼まれたら仕方ないか)
レイカ「わかった。あなたが月に帰るのを手伝うよ」
〇路面電車
レイカ「怪異に関する本が家にあったはず」
レイカ「だから、今日は私の家に来ない?」
月ウサギ「おねーさんのおうち? とってもわくわくする!」
レイカ(こう見ると、その辺の子どもと変わらないな。怪異だということを忘れそうだ)
〇屋敷の門
月ウサギ「おねーさんのおうち、すごーい!」
レイカ「ここにはいろんな本があるから、もしかしたらあなたを帰す方法が──」
アケビ「そうだな。ここは対怪異の名家だから、怪異を帰す方法の一つくらいあるだろう」
レイカ「アケビ、さん・・・・・・?」
アケビ「そうだ。レイカが怪異を連れていると聞いてな」
月ウサギ「この、ひと。あたしを」
アケビ「レイカ、まさかこの怪異に情でもわいたのか? 怪異相手に甘さは不要だ」
レイカ「まっ・・・・・・」
レイカ「えあっ、なん、で・・・・・・」
レイカ「なんで、よ・・・・・・」
アケビ「説明が必要か?」
レイカ「・・・・・・いい、え。大丈夫です」
アケビ「こうするしかないんだ。そろそろ、慣れろ」
レイカ「・・・・・・はい」
〇路面電車
ここは帝都。
魑魅魍魎が跋扈する、華の都。
部隊の「見える」者は、見えない民衆のために狩り続けなければならない──そんな世界。
あの月ウサギがどうなったかを知る者はいない。
──ただ、今も月ではウサギがちゃんと餅をついているという。
帝都の雰囲気たっぷりの世界観が魅力的ですね。レイカやアケビの軍服っぽい衣装もかっこいい。月ウサギをどうやって月に返したのか、そこが一番見たかったけれど、あれこれ想像してみるのも楽しいです。
世界設定が構築されている壮大な物語のある日の出来事という感じで、続編が読みたくなります。月ウサギさんへの興味が湧いてきますね!
おとぎ話の現代版ですね! 月のうさぎにまつわるファンタジーって本当に神秘的で、実際ウサギがお餅とついていてほしいと思ってしまうほどです。