引退のリング

奥西 隼也

引退のリング(脚本)

引退のリング

奥西 隼也

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引退のリング
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〇格闘技リング
ライラ斉藤「もっと、こいよ!」
パットン木村「プロレス、なめんじゃねーぞ!」

〇劇場の座席
クロエ吉田「年の瀬の女子プロレス、一対一のマッチ戦」
クロエ吉田「その観客席に、私は居た」
クロエ吉田「プロレスを楽しんでいるワケじゃなかった」

〇格闘技リング
ライラ斉藤「痛っ!テメェ!」
パットン木村「弱ぇクセに、強がってんじゃねぇ!」

〇劇場の座席
クロエ吉田「ライラ!」
クロエ吉田「リングで、ぶっ飛ばされてるレスラー、ライラ斉藤は、」
クロエ吉田「かつて私とタッグを組み、共にリングに上がっていた」
クロエ吉田「数日前、レスラー時代の後輩から、久しぶりに連絡がきた」
クロエ吉田「「この試合が、ライラ斉藤の引退試合になる」こと」
クロエ吉田「そして「引退のことは関係者しか知らない」こと」
クロエ吉田「私は「なんで引退すんの?」と返信したが、後輩からの返事はなかった」

〇ボクシングジムのリング
クロエ吉田「入団の頃は、もう6年も前か」

〇ボクシングジムのリング
クロエ吉田「私は”クロエ吉田”というリングネームで、3年間、ライラとタッグを組み、リングに上がっていた」
クロエ吉田「ライラは大学卒、私は高校卒で、女子プロレスの団体に入団した」
クロエ吉田「そのため、ライラと私は4歳の年齢差があった」
ライラ斉藤「て、ことは、私たち2人がタッグってことか」
クロエ吉田「そう・・・ですね。他の人たち、決まっちゃいましたから」
ライラ斉藤「余りモンか」
クロエ吉田「はい」
ライラ斉藤「ま、いいか。なんかやってやろうって気になるもんね」
クロエ吉田「・・・そうですね」
クロエ吉田「よろしくお願いします」
ライラ斉藤「声が小さい!!」
クロエ吉田「あ・・・」
クロエ吉田「よろしく」
クロエ吉田「よろしくお願いします!」
ライラ斉藤「ウソよ。冗談」
クロエ吉田「え」
ライラ斉藤「ため口でいいのよ。4歳離れてても」
ライラ斉藤「同期で、タッグ組むんだから」
ライラ斉藤「えーと、吉田のリングネームは、クロエか。クロエ吉田ね」
クロエ吉田「ハイ、あ・・・」
クロエ吉田「うん」
ライラ斉藤「私は、ライラ斉藤。ライラでいいわよ」

〇広い公園
ライラ斉藤「ほら、走りこむよ」
クロエ吉田「えー練習終わったのに」
ライラ斉藤「ホラ、もう少し!もう少し!」

〇トレーニングルーム
ライラ斉藤「チェストプレス、30回!」
クロエ吉田「ウソでしょ」

〇黒背景
クロエ吉田「期待されていた同期のレスラーたちはどんどん辞めていった」
クロエ吉田「そんな中、余りモノのライラと私は、コツコツと下積みを続けた」
クロエ吉田「そして3年」
クロエ吉田「コンビで少しだけ、試合に出始めた頃、」
クロエ吉田「「事故」が起きた」

〇ボクシングジムのリング
クロエ吉田「偶然だった。試合で、ライラが相手に投げたアルミの箱が、私の顔面に直撃した」

〇綺麗な病室
クロエ吉田「私は顔面にケガを負い、入院した」
クロエ吉田「責任を感じたライラは、毎日のようにお見舞いに来てくれた」
クロエ吉田「そして、退院が近づいた頃」
ライラ斉藤「もう少しで退院だってね」
クロエ吉田「うん」
「・・・」
「あのさっ!」
ライラ斉藤「え、何?」
クロエ吉田「そっちこそ、何?」
ライラ斉藤「このあとって、どうするか、決めた?」
クロエ吉田「実は実家の両親が」
クロエ吉田「「戻って来い」って」
クロエ吉田「実家のクリーニング屋、手伝ってくれって」
クロエ吉田「今、人足りなくて」
ライラ斉藤「プロレス」
ライラ斉藤「辞めるの?」
クロエ吉田「そういうことじゃ」
ライラ斉藤「じゃあ、待ってたら、帰ってくる?」
クロエ吉田「わかんない」
ライラ斉藤「その「わかんない」って、アンタ、帰ってこないつもりでしょ」
クロエ吉田「バレた?」
ライラ斉藤「ねぇ」
ライラ斉藤「ちょっと休んだら、帰ってきてよ」
ライラ斉藤「もう少しやってみようよ」
クロエ吉田「んー」
ライラ斉藤「だってさ、余りモノの期待されてない2人がさ」
ライラ斉藤「ちょっと試合に出て、なんか変わっていきそうじゃない?」
ライラ斉藤「このまま辞めたら「やっぱ辞めたか」って思われて」
ライラ斉藤「悔しくない?」
クロエ吉田「・・・そうだよね」
クロエ吉田「これからだもんね」
ライラ斉藤「あんだけ練習したんだしさ」
クロエ吉田「・・・うん。分かった」
クロエ吉田「ちょっとしたら、戻ってくる」
ライラ斉藤「クロエ、約束だよ!」
ライラ斉藤「今は、キツイかもしれないけど、」
ライラ斉藤「もう少し」
ライラ斉藤「あともう少しやれば、絶対変わるんだよ」
ライラ斉藤「約束だよ」
ライラ斉藤「戻ってきてよ」
クロエ吉田「うん、約束する」
クロエ吉田「・・・」

〇商店街
クロエ吉田「私は、ライラとの約束を守らなかった」
クロエ吉田「私は退院後、実家に戻り、クリーニング屋を手伝った」
クロエ吉田「身体が回復し、プロレスのことも頭をよぎったが」
クロエ吉田「忙しい毎日に、月日が過ぎていった」

〇格闘技リング
パットン木村「オラ、オラァ!」

〇劇場の座席
クロエ吉田「ライラァ!!」
クロエ吉田「・・・ワン」
クロエ吉田「ツー」
クロエ吉田「スリー」
クロエ吉田「ライラの引退試合は、あっけなく敗戦で終わった」

〇劇場の座席
クロエ吉田「試合後、ライラの引退セレモニーなどはなかった」
クロエ吉田「しかし、私には分かった」
クロエ吉田「ライラがリングに別れを告げていた」
クロエ吉田「それは確かだった」

〇展示場の入口
クロエ吉田「試合を見終わり、会場を出た」
クロエ吉田「・・・」
クロエ吉田「・・・」
クロエ吉田「!」
クロエ吉田「やっぱり」
クロエ吉田「ちゃんとライラに会って、話そう!」
クロエ吉田「私は、試合後のライラと話がしたかったんだ」
クロエ吉田「だから、会場をなかなか離れられなかった」
クロエ吉田「このまま、声をかけずに帰ったら」
クロエ吉田「二度と会えない」
クロエ吉田「そんな気がする」
クロエ吉田「約束を守らなかったこと」
クロエ吉田「謝りたい」
クロエ吉田「ライラの引退の理由を」
クロエ吉田「聞きたい」
クロエ吉田「3年間、色々あったことを」
クロエ吉田「話したい」

〇店の休憩室
見習いレスラー「よいしょ」
クロエ吉田「ウッス!」
見習いレスラー「あ、クロエさん!」
クロエ吉田「引退の連絡ありがとう!」
見習いレスラー「ライラさん、もう帰られましたよ」
クロエ吉田「え!」
見習いレスラー「駅の方に行けば、まだ追いつくかも」

〇街中の道路
クロエ吉田「私は駅に向かって走った!冬の寒い雨が顔を打った」
クロエ吉田「人生で、こんなに走ったことがないくらい、走った!」

〇駅前ロータリー(駅名無し)
クロエ吉田「どこ?」
クロエ吉田「どこ??」
クロエ吉田「駅前には人が多く、ライラは見つからない!」
クロエ吉田「もー、ムリだ」

〇黒背景
クロエ吉田「・・・あと少し・・・あと少し」

〇歩道橋
クロエ吉田「私は歩道橋に駆け上がった!」
クロエ吉田「上から探すと、沢山の人の中に」
クロエ吉田「ライラを見つけた!」
クロエ吉田「私は、歩道橋の上から叫んでいた」

〇駅前ロータリー
クロエ吉田「ライラァー!」
クロエ吉田「ライラは、私の声に気付き、試合で腫れた顔をこちらに向けた」
クロエ吉田「試合、観たよー!!」
クロエ吉田「負けちゃって、残念だったけどー」
クロエ吉田「ゴメーン!わたし、約束守らなくって」
クロエ吉田「プロレス、戻らなくて、ほんと、ゴメーン!!」

〇黒背景
クロエ吉田「ライラは笑顔で、両手を挙げ、手を振って答えてくれた」
クロエ吉田「ライラの隣の男の人も、笑っていた」
クロエ吉田「ライラがこだわり続けたプロレスを、去った理由が分かった気がした」
クロエ吉田「ライラの左手の薬指」
クロエ吉田「キラリと光る指輪が見えた」

〇ゆるやかな坂道
クロエ吉田「家に帰る道」
クロエ吉田「雨はすっかり上がっていた」
クロエ吉田「ずっと、自分の中につっかえてたものが、」
クロエ吉田「取れた気がした」
クロエ吉田「なんだか、自然に笑顔になっている自分に気が付いた」
クロエ吉田「冬の夜空、どこまでも、」
クロエ吉田「どこまでも、行ける気がした」

コメント

  • 最後にライラと会話するのではなく、離れたところからクロエ が思いの丈を叫ぶシーンの演出がドラマチックでジーンとしました。登場人物のみならず読者も清々しいカタルシスが得られるステキなラストでした。女子プロレスの世界もきっと悲喜交交のドラマの宝庫なんでしょうね。

  • 過去の後悔ってずっと引きずりますよね。
    それが晴れたときって、すごく清々しく感じたりします。
    きっとお互いに中々言えなかったことが、こういう形にはなってしまったとはいえ無事に伝えられたのは見ていてこっちもスカッとしました!

  • 2人の心の動きが熱を通じて伝わってきました。
    熱いお話をありがとうございました。

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