〇森の中
ハンター「──こんな夜更けに何をしている？」
コチカ「散歩じゃよ。月が綺麗でな」
ハンター「そうか、なら気をつけた方がいい」
ハンター「近くの村では、 夜になると家畜が姿を消すらしいからな」
コチカ「ほお、それは大変じゃな」
ハンター「──とぼけるな！ 貴様の仕業だろう、化け物め・・・！」
コチカ「やんごとなき乙女に向かって、 とんでもない言いがかりじゃの・・・」

〇森の中
コチカ「──貴様をあしらうのも、 これで何度目になるかのぉ・・・」
コチカ「いいかげん教えてくれぬか？」
コチカ「矮小な人間風情が、 どうして諦めずに挑んでくるのじゃ？」
ハンター「・・・わかりきっていることを訊くな」
コチカ「言う気にならんか？ まあよい！　無理には言わせぬよ・・・」
コチカ「さあ、いつも通り逃げ帰るがいい！ ワシは寛容じゃ！」
コチカ「貴様が根負けするまで、 何度だって見逃してやろう！」

〇立派な洋館

〇貴族の部屋
コチカ「・・・のお、リーゼット」
リーゼット「──お呼びでしょうか、コチカ様」
コチカ「あやつの返答、おぬしはどう思う？」

〇森の中
ハンター「・・・わかりきっていることを訊くな」

〇貴族の部屋
リーゼット「率直な意見でも？」
コチカ「かまわぬ。申してみよ」
リーゼット「でしたら──」
リーゼット「もう確定かと思います」
コチカ「──じゃよなぁ!?」
コチカ「絶対にワシのこと好きじゃよなぁ!?」
リーゼット「告白も同然ですよ、あんなの」
コチカ「いじらしいのぉ・・・」
コチカ「『わかりきってること言わないで・・・』」
コチカ「──じゃと！」
コチカ「そりゃ、わかるわ！ 人間が吸血鬼に勝てるわけないじゃろ!?」
コチカ「それでも戦う理由なんて、 接点作り以外あってたまるか！」
リーゼット「人間らしい浅知恵かと」
コチカ「ワシが相手じゃからよかったものの、 バレバレじゃよ、ほんと！」
コチカ「他の吸血鬼にしておったら、 友達全員にバラされて赤っ恥じゃ！」
リーゼット「人間に告白されちゃった、なんて・・・ 一生の持ちネタにされますね」
コチカ「・・・まあ？　ワシはぁ？」
コチカ「二人きりの時に、 からかってやるくらいかのぉ!?」
リーゼット「さすがコチカ様。お優しい・・・」
コチカ「とはいえ、下等な人間なりに 勇気を振り絞ったわけじゃしな・・・」
コチカ「ここは高貴な存在として、 少しばかり報いてやろうと思っておる」
リーゼット「──と、言われますと？」
コチカ「次に会った時──」
コチカ「わ、ワシから名前を訊いてやる・・・」
リーゼット「なんと・・・！ 人間にはもったいない施しです・・・！」
コチカ「そ、そうじゃろう？　そうじゃろう!?」
コチカ「あやつの喜ぶ顔が目に浮かぶわ！ 次の襲撃が待ち遠しいのぉ！」

〇立派な洋館

〇立派な洋館

〇貴族の部屋
コチカ「──にんにくと香草の匂い！」
コチカ「散歩の準備じゃ、リーゼット！ あやつが近くに来ておるぞ！」
リーゼット「お供いたします」

〇森の中
リーゼット「おや、あれは・・・ 厄介な現場に出くわしましたね」
リーゼット「どういたしましょう、コチカ様？」
リーゼット「・・・コチカ様？」
リーゼット「お気を確かに、コチカ様 怒りの持続時間は６秒と言われています」
コチカ「じゅうぶんな時間じゃ」
リーゼット「その意気です」

〇黒背景

〇森の中
コチカ「──どういうつもりじゃ、貴様」
ハンター「それは俺のセリフだ」
ハンター「なぜ俺を助けた？ そこの死体はお前たちの同胞だぞ」
コチカ「同胞じゃと？ 気高き吸血鬼と泥棒猫を一緒にするな」
コチカ「それよりも、質問に答えよ・・・」
コチカ「なぜワシ以外と戦っておる!?」
ハンター「はぁ？」
コチカ「何度も一夜を共にした仲じゃろ!? それを誰とも知らぬ女とも過ごしおって！」
コチカ「・・・わ、ワシとは遊びじゃったのか!?」
ハンター「──遊びなわけがあるか！」
コチカ「え・・・？」
ハンター「なにを言ってるかわからんが、 お前たち化け物を追うのは俺の使命だ」
ハンター「お前の心臓が手に入るなら、 命だって惜しくはない！」
ハンター「この覚悟を聞いてなお、 遊びと一笑できるか、化け物め！」
コチカ「・・・なんと、陳腐な言葉じゃ」
ハンター「お前──」
コチカ「ワシ以外なら、 そう笑っておるじゃろうよ」
ハンター「・・・お前は違うのか、化け物」
コチカ「・・・”コチカ”じゃ」
ハンター「なに・・・？」
コチカ「ぜい弱な人の身で ワシを欲するその覚悟、認めてやる」
コチカ「化け物などと、他人行儀に呼ぶな コチカ様──いや、コチカと呼ぶがいい」
コチカ「・・・お、おぬしの名も教えよ」
ハンター「化け物に名乗る名前などない」
コチカ「なっ・・・！」
ハンター「──だが、コチカ 今宵、貴様に助けられたのは事実だ」
ハンター「今、この瞬間だけ、恩人のお前に名乗ろう」
チェイス「──”チェイス”だ」
コチカ「チェイス・・・」
チェイス「コチカ、貴様の心臓を討つ男の名だ！ 忘れるなよ・・・！」
コチカ「チェイス・・・」

〇立派な洋館

〇貴族の部屋
リーゼット「──冷めない内にどうぞ、コチカ様」
コチカ「・・・のお、リーゼット」
コチカ「あやつ──チェイスのこと、どう思う？」
リーゼット「率直な意見を？」
コチカ「うむ、申せ」
リーゼット「べた惚れですね」
コチカ「──じゃよなぁ!?」
コチカ「なんじゃあいつ、 急に積極的になりおって!?」
コチカ「『きみのハートを掴めるなら、 命だって惜しくない！』」
コチカ「──弱者の分際で生意気じゃぞ！」
リーゼット「身分を忘れるほど、 コチカ様に心酔したのでしょう」
リーゼット「今宵のあなた様は、 ナンパを撃退したヒーローですから」
コチカ「あー・・・それがあったからか・・・！」
コチカ「まあ、ワシとしては？　 下僕候補などいくらでもおるし？」
コチカ「チェイスのことなど、 放っておいてもよかったんじゃが・・・」
コチカ「あやつの助けを求める顔に、 ついつい足が動いてしまったのぉ！」
リーゼット「ご立派です、コチカ様・・・！」
コチカ「おおかた家畜とやらも、 あの泥棒猫が盗んどったんじゃろ」
リーゼット「・・・家畜、ですか？」
コチカ「ん？　あの時、おらんかったか？」
コチカ「チェイスがそんなことを 言っておったのじゃよ」
コチカ「まったく、そんな卑しいことを するわけないじゃろうに！」

〇外国の田舎町

〇貴族の部屋
リーゼット「・・・」
コチカ「──お、この鳥は美味いのぉ！」
リーゼット「こ、光栄です」
コチカ「・・・あやつにも食わせてやりたいの」
リーゼット「えっ」
コチカ「決めたぞ、リーゼット チェイスにもこれを食わせてやろう！」
コチカ「きっと泣いて喜ぶぞ！　 楽しみじゃのぉ！」