亜人たちのレクイエム

樹 慧一

美しい歌(脚本)

亜人たちのレクイエム

樹 慧一

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〇荒地
「〜〜♪」
  それはある荒野での出来事──
セシル「歌?こんな荒野で?」
セシル「誰だろう、きれいな声だけど──」
少女「!!」
  瞬間、歌がぴたりと止む
セシル「あっ・・・・・・待って!」
セシル「行っちゃった・・・・・・」

〇ファンタジーの学園
セシル「あれは、亜人の女の子だった──」
セシル「・・・・・・」
男子生徒1「おい、昨日亜人がこの界隈に出てきたらしいぜ!まあすぐに駆除されたらしいけどよぉ」
男子生徒2「はあ?気色わりいー!卑しい亜人種が人間様の生活圏に入ろうなんざ、分をわきまえろって話だよなあ」
セシル「・・・・・・・・・・・・」
セシル(荒野とはいえ、あそこも人間の生活圏──)
セシル(もしまたああやって歌いに来て・・・・・・人間に見つかれば、あの子は八つ裂きに──)
セシル「──今日行って、居なければいいんだ」
セシル「大丈夫、きっと居ない。だから確認、もう一度確認だけ・・・・・・」

〇荒地
少女「〜〜♪」
セシル「・・・・・・いた」
少女「!」
セシル「待って!!」
セシル「僕は君の敵じゃない!ほら、武器も持っていないだろう」
セシル「ここは危ない。そのきれいな歌は、別の所で歌ったほうがきっといい」
セシル「それだけ、言いに来たんだ」
少女「・・・・・・」
少女「・・・・・・・・・・・・」
少女「シータの、ためにか」
セシル「シータ・・・・・・それが君の名前かい?」
シータ「・・・・・・ん」
シータ「・・・・・・人間」
シータ「シータ、ここでうたう、やめない」
セシル「えっ」
シータ「おまえ、見張れ」
セシル「何だって!?」
シータ「ここでうたう、シータにとって特別」
シータ「見張りいれば、シータあんぜん」
シータ「おまえ、まぬけだが悪いやつじゃない」
シータ「シータ、感じた」
セシル「・・・・・・」
セシル「ええ・・・・・・!?」

〇荒地
  シータは、毎夜歌い続けた
  風の日も
  雷の日も
セシル(どうして、ここまで──)
シータ「〜〜♪」
シータ「・・・・・・」
セシル「聞いて、いいかい」
セシル「どうして君は、ここで歌うことにこだわるのか」
シータ「・・・・・・」
シータ「・・・・・・おしえてやる」
セシル「!!」
シータ「見張りの、おれい」

〇荒地
シータ「ちちうえ、ちちうえ!」
「こらこらシータ、そんなにはしゃいでは転けてしまうよ」
シータ「大丈夫、ちちうえが助けてくれる」
シータ「あっ!」
シータ「あうう、ちちうえ・・・・・・」
「言わんこっちゃない。ほうら、痛いの痛いの・・・・・・飛んでいけ!」
シータ「!!」
シータ「いたくない、ちちうえ、すごい!」
「はは、シータのやんちゃには困ったものだな」
  シータが歌う荒野──ここは元々亜人たちの憩いの場だった
シータ「ちちうえ、大好き!」

〇荒地
  だが──
「亜人だ!!殺せー!!」
シータ「どうして、襲う?シータたち、おまえたちに何した!?」
「危ない、シータ!!」
シータ「ちちうえーー!!」

〇荒地
セシル「・・・・・・」
セシル(そうか、シータはここを追われて、その時に父親を──)
セシル(あの歌は、きっとレクイエムだ)
セシル(彼女から、お父さんへの)
セシル「・・・・・・シータ」
セシル「俺、来るよ」
セシル「明日も、明後日も、その先もずうっと」
セシル「君に危険が、及ばないように」
セシル「だから・・・・・・お父さんに、君の歌をたくさん、聞かせてあげて」
シータ「・・・・・・ん」
シータ「ありがとう、・・・・・・ええと」
セシル「セシルだよ」
シータ「セシル!!セシル!!」
セシル「ははっ、こんなに元気な子だったんだなあ、君」

〇荒地
セシル「シータ!」
シータ「セシル!」
セシル「ほら、今日はごはんを持ってきたんだ。お腹空いたろう?」
シータ「わあ!はぐはぐ、はぐ・・・・・・」
セシル「ふふっ、おいしいかい?」
シータ「うん!」
シータ「ちちうえにも、食べさせたい」
セシル「──」
セシル「じゃあ、お供えをしようか」
シータ「オソナエ?」
セシル「亡くなった人に食べ物をあげるんだ」
セシル「お供えをすれば、きっとお父さんにも届くよ」
シータ「シータ、する!」
セシル「よしきた!じゃあ、まずは──」
  危なげだけど、穏やかな時間
  ずっと、ずっと続けばいいと思った
  けれど──
「・・・・・・」

〇荒地
男子生徒1「あそこです!あそこに亜人のガキが!」
シータ「!!」
シータ「セシル、セシル・・・・・・たすけて!!」
「助けを呼んでも無駄だ、亜人種!!駆除してくれる!!」
シータ「あ・・・・・・!!」
「セ・・・・・・シル・・・・・・」

〇ファンタジーの学園
セシル「くそ!先生に捕まって遅くなった!シータ、きっと待ちくたびれてる・・・・・・!」
男子生徒2「シータ・・・・・・へえ、それが亜人のガキの名前か、セシル君」
セシル「何!?」
男子生徒2「はは、アイツのこと、ダチと一緒に通報してやったんだ!!今頃蜂の巣だぜえ、あのガキ!」
セシル「こ、の・・・・・・!!」
男子生徒2「ほげえ!!」
セシル「シータ、無事でいてくれ・・・・・・!!」

〇荒地
セシル「シータ!!」
セシル「シータ、どこにいるんだい!?」
シータ「セ、シル・・・・・・」
セシル「シータ!!シータ!!ああ、酷い傷だ・・・・・・!!」
シータ「シータ、もう駄目」
セシル「!!」
シータ「シータ、わかる」
シータ「だから、きいて」
シータ「シータの、さいごの、うた」
セシル「そんなこと、言うなよ・・・・・・」
シータ「・・・・・・・・・・・・」
セシル「シータ・・・・・・シータ!!」

〇荒地
  それから、いくばくかの月日が経った
  シータは、もういない
セシル「シータ・・・・・・俺、決めたよ」
セシル「何年、何十年かかろうと・・・・・・君達亜人が虐げられない世界を作って見せる」
セシル「──だから、見守っていて」
セシル「君の、お父さんと一緒に」
  そして俺は、今日も歌う──
  彼女たちへの、レクイエムを

コメント

  • 切なくて好きです! 可愛い亜人のキャラクターに、美しい歌とひたむきな思いが描かれることで、より魅力的に感じました!

  • つ……つらい。人種差別の愚かさを感じます。
    シータの耳しっぽが感情により動くのが可愛かったです。

  • どうにもならないこともある。だからこそ、その瞬間、瞬間を大事にしたい。そう思わせてくれる美しい物語でした。  …シータぁぁぁーっ(ノ_<)

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