心臓の音が聴こえる

ユーキ

居間にて 14:30(脚本)

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ユーキ

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〇明るいリビング
  人とハグをするという行為はリラックス効果があるらしい
  人の体温を感じられるというのはそれだけで安心できるよな、と納得する
柏木 マコト(・・・あと心音がなんか作用するんだっけ?)
  胎児の頃母親の心音を聞いていたから無意識下でそれが安心できるものだと認識しているからだというが、本当なのだろうか?
  なんて、現実逃避せざるを得ない状況に俺を陥れた元凶は俺の膝の上で俺の身体に体重を預け読書に勤しんでいる
柏木 マコト「なあなあユーキさん」
柏木 ユーキ「なんだいマコトさん」
柏木 マコト「俺という椅子は居心地がいいのかい?」
柏木 ユーキ「強いて言うなら硬い。もっと柔らかくして」
柏木 マコト「人の膝を占領しといて酷い言い草だな!」
  硬いと言うなら退けばいいものを何故か頑なに退こうとしないユーキ
柏木 マコト「はーあ・・・」
  諦めて両膝の自由を明け渡した
柏木 マコト「その小説面白い?」
柏木 ユーキ「面白いよ。 空想と現実がいい感じに混ざり合ってるし、ちゃんと設定が作り込まれている、いいSF」
柏木 マコト「ふーん・・・」
柏木 ユーキ「ちなみに今、はちみつを塗ったパンを食べてます」
柏木 マコト「SFどこいった? しっかりと美味しそう!」
柏木 ユーキ「食べ物の描写なんてなかったのに急に丁寧に描写しだした ずるいと思う」
柏木 マコト「なんか想像したら俺も食べたくなってきた・・・」
柏木 ユーキ「・・・ちょうど食パン切らしてるけど」
柏木 マコト「買い物行くしかないかぁ・・・」
柏木 ユーキ「ですねぇ・・・」
  また荷物待ちに駆り出されるんだろうな・・・と何とはなしに考えながら、読者に勤しむユーキを眺める
柏木 ユーキ「・・・・・・」
  ゆっくりと、一定のリズムで上下する胸元。生きている証だ。
柏木 マコト「なあ、ユーキ・・・」
柏木 ユーキ「んー?」
柏木 マコト「・・・なんか俺さ、すげぇ幸せ」
柏木 ユーキ「・・・・・・」
柏木 マコト「起きたら隣にユーキがいて、ご飯一緒に食べて、一緒にだらだらして、一緒に買い物に行って、また寝床について・・・」
柏木 ユーキ「どうしたの、急に・・・らしくもない」
柏木 マコト「いや、なんか急に、幸せだなあって・・・ もう、これ以上は何も、いらないなって・・・」

〇白
  ふと、目の前にいるユーキが水面に反射したようにゆらりと揺れる
柏木 マコト(なんだ・・・?)
  視界がぼやけ、何も見えない
柏木 マコト「・・・・・・!」
  瞬きをして瞳から雫がぽとりと零れ、自分が涙の膜を張っていた為に歪んで映っていたことにやっと気付いた
ユーキ「・・・マコト?どうしたの?」
柏木 マコト「わかんね・・・わからねぇけど、なんか・・・幸せ、なんだなって・・・」
ユーキ「・・・マコトはさ、一体、何を後悔してるの?」
柏木 マコト「後悔・・・?俺が?」
ユーキ「別になんでもいいけどさ・・・ 言えないようなものなら、さっさと供養してあげたほうがいいと思うよ」
柏木 マコト「よくわかんねぇんだけど・・・」
  この線が歪んだ世界のなかでユーキが今どんな顔をしているかなんて視認できるわけがない
  そのはずなのに、なぜかユーキが、どんな顔をしているか手に取るようにわかる気がした
ユーキ「マコト」
マコト「なに?」
ユーキ「胸貸して」
マコト「・・・それ好きなの?お前・・・」
ユーキ「別に、それほどでも」
マコト「ソウデスカ・・・」
ユーキ「ただ・・・生きてるみたいでひどく安心する」
マコト「?生きてるだろ」
ユーキ「・・・そっくりそのまま返すよ、その言葉・・・・・・」
  そう言いながら俺に抱きつくユーキは、きっと───

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