安息の場所(脚本)
〇屋上の入口
はあっ...はあっ...
〇学校の屋上
〇フェンスに囲われた屋上
棚橋ショウタ「...」
〇空
〇フェンスに囲われた屋上
放送の声「おはようございま〜す」
放送の声「9月21日、朝の6時30分になりました」
放送の声「『清水アオイのゆるラヂオ』」
放送の声「好きなことや、日々のちょっとした気になることについて」
放送の声「ゆったりとお伝えする校内ラジオです」
放送の声「この時間は放送部部長、清水アオイが」
放送の声「ゆるく喋ってまいりま〜す」
〇学校の廊下
放送の声「今日のテーマは、「お菓子」」
放送の声「この間、部員のアイちゃんと一緒にお昼ごはんを食べていた時に」
放送の声「好きなスイーツの話になりまして」
放送の声「アイちゃんに「何が好き?」と聞かれたとき」
放送の声「わたしはとっさに流行りのお菓子でごまかしてしまったのですが」
放送の声「実はわたし、おもちが大好きなんです」
放送の声「ちょっと恥ずかしくて、言えなかったんですよね」
〇放送室
清水アオイ「スーパーのレジ前にある大福」
清水アオイ「あれ、つい手が伸びてしまうんです」
清水アオイ「なんであんなところに大福を置いているんでしょうね〜」
清水アオイ「まんまとお店側の策略にハマっている気がします」
清水アオイ「あれ〜?」
清水アオイ「だれか来たみたいですね〜?」
棚橋ショウタ「...」
棚橋ショウタ「...あの」
清水アオイ「もしかしてゲストさん?」
清水アオイ「いらっしゃ〜い」
清水アオイ「こっちに座って」
清水アオイ「一緒におしゃべりしませんか〜?」
棚橋ショウタ「...」
〇放送室
清水アオイ「こんな時間にゲストさんがいらっしゃいました〜」
清水アオイ「はじめまして、清水アオイです」
清水アオイ「お名前は?」
棚橋ショウタ「えっ」
棚橋ショウタ「あ...」
棚橋ショウタ「えっと...」
棚橋ショウタ「棚橋...です」
清水アオイ「棚橋さんですね〜」
清水アオイ「何年生ですか〜?」
棚橋ショウタ「3年生...です」
清水アオイ「じゃあ私と同じですね〜」
棚橋ショウタ「...」
棚橋ショウタ「あの...!」
清水アオイ「うん?」
棚橋ショウタ「な...悩み相談とか...」
棚橋ショウタ「駄目...ですかね...?」
清水アオイ「全然、大丈夫ですよ〜」
清水アオイ「何でも話してみてください」
清水アオイ「じゃあ今回は...」
清水アオイ「清水アオイのお悩み相談コーナー!」
清水アオイ「何か、あったんですよね」
棚橋ショウタ「...はい」
棚橋ショウタ「...」
棚橋ショウタ「その...」
棚橋ショウタ「クラスで...いじめをうけていて...」
清水アオイ「あらら」
棚橋ショウタ「...」
棚橋ショウタ「誰にも...相談できなくて...」
清水アオイ「そうだったんですね〜」
棚橋ショウタ「えっと...その...すみません」
清水アオイ「ちょっとずつで、いいんです」
清水アオイ「ちょっとずつ吐き出してもらえれば」
棚橋ショウタ「...はい」
〇田舎の学校
〇放送室
棚橋ショウタ「最初は、クラスの仕事を率先して引き受けていたんです」
棚橋ショウタ「みんなの役に立ちたいと張り切ってました」
清水アオイ「うんうん」
棚橋ショウタ「でも、特定の人から悪目立ちするようになって」
棚橋ショウタ「次第に、みんなの態度が冷たくなって...」
棚橋ショウタ「居場所がなくなって...」
棚橋ショウタ「逃げ場所を探して...」
清水アオイ「そうだったんですね〜」
棚橋ショウタ「何か行動をするたびに嘲られたり...」
清水アオイ「うん」
棚橋ショウタ「水をかけられたり...」
清水アオイ「それはひどいですね」
〇放送室
清水アオイ「棚橋さん」
清水アオイ「勇気をもって相談してくれて、ありがとうございます」
清水アオイ「わたしからは、具体的なアドバイスはできませんが」
清水アオイ「棚橋さんにとって、この放送室が逃げ場所になればいいなと」
清水アオイ「そう思ってますよ〜」
棚橋ショウタ「...」
清水アオイ「また明日も、喋りにきてくれますか?」
棚橋ショウタ「...はい」
棚橋ショウタ「また...明日...」
〇学校の廊下
棚橋ショウタ「!?」
テスト「ねぇ、聞いた?」
テスト「放送室の噂...」
テスト「ウチも聞いた」
テスト「マジでキモくない?」
テスト「ほんとほんと...」
棚橋ショウタ「...」
棚橋ショウタ「...くそっ」
〇学校の昇降口
〇学校の廊下
清水アオイ「ふんふ〜ん♪」
〇放送室
清水アオイ「あれ?」
清水アオイ「棚橋さん、早いですね〜」
清水アオイ「ゲストさんに先を越されちゃいました〜」
清水アオイ「ラジオを楽しみにしてくれて」
清水アオイ「すっごく嬉しいです」
棚橋ショウタ「...」
清水アオイ「棚橋さん...?」
棚橋ショウタ「もう、やめようよ」
棚橋ショウタ「ラジオ」
清水アオイ「えっ」
棚橋ショウタ「...」
清水アオイ「あはは...楽しくなかった...のかな?」
清水アオイ「なーんて...」
棚橋ショウタ「ちがうんだ」
棚橋ショウタ「アオイちゃん」
清水アオイ「...?」
棚橋ショウタ「いじめにあってたのは、僕じゃない」
棚橋ショウタ「君なんだ」
〇教室の教壇
〇個室のトイレ
〇放送室
清水アオイ「...」
清水アオイ「...」
清水アオイ「...何を言ってるの?」
棚橋ショウタ「アオイちゃん」
棚橋ショウタ「君は、先月」
棚橋ショウタ「屋上から飛び降り自殺を図ったんだよ」
〇屋上の入口
〇フェンスに囲われた屋上
〇放送室
棚橋ショウタ「幸い、君はギリギリのところで警備員さんに止められたけど」
棚橋ショウタ「それ以来、君は記憶を消してしまい」
棚橋ショウタ「誰もいない早朝の学校で」
棚橋ショウタ「この放送室に籠もって」
棚橋ショウタ「ずっと同じラジオを繰り返している」
清水アオイ「...」
清水アオイ「...ちがうよ...わたしは...」
清水アオイ「毎日...放送部の...活動で」
棚橋ショウタ「放送部なんて」
棚橋ショウタ「うちの学校にないんだよ」
清水アオイ「...なに...いってるの...?」
清水アオイ「だってアイちゃんが...」
棚橋ショウタ「放送部も、部員の友達も」
棚橋ショウタ「君が全部作り上げたんだよ」
清水アオイ「...うそだ」
清水アオイ「うそうそうそうそ...」
清水アオイ「だって君は...ゲストの棚橋くんで...」
清水アオイ「悩みがあって...放送室にきて...それで...」
棚橋ショウタ「僕はお医者さんと相談したんだ」
棚橋ショウタ「僕がいじめられ役として相談しにいけば」
棚橋ショウタ「君が正気に戻るんじゃないかって」
〇公園の砂場
アオイ「遅いよショウタくん!」
アオイ「早く帰らないとモケモン始まっちゃうよ!」
ショウタ「はぁっ...はぁっ...」
ショウタ「僕じゃなくて...」
ショウタ「アオイちゃんが足速いんだよ...」
アオイ「頼りないなぁ、ショウタくん」
アオイ「男の子なのに」
ショウタ「うぅ...」
アオイ「でも大丈夫!」
アオイ「ショウタくんが一人前になるまで」
アオイ「アオイがいつでも助けてあげるから!」
ショウタ「...ほんと?」
アオイ「ほんと!約束!」
ショウタ「やったぁ...えへへ...」
〇放送室
棚橋ショウタ「いい加減、戻ってきてよ」
棚橋ショウタ「アオイちゃん」
清水アオイ「いや...」
清水アオイ「...聞きたくない」
棚橋ショウタ「ずっと...謝りたかったんだ」
棚橋ショウタ「怖くて...声をかけてあげられなくて...」
清水アオイ「聞きたくない...」
清水アオイ「聞きたくない...!!」
棚橋ショウタ「助けてあげられなくて」
棚橋ショウタ「ごめんなさい...」
清水アオイ「ひっ...ぅ...」
清水アオイ「うぁああ...」
清水アオイ「うあぁああぁあーーーーーーーーん!!!」
〇田舎の学校
〇学校の昇降口
〇学校の廊下
放送の声「10月1日、朝の6時30分になりました」
〇放送室
清水アオイ「『清水アオイのゆるラヂオ』」
清水アオイ「好きなことや日々のちょっとした気になることについて」
清水アオイ「ゆったりとお伝えする校内ラジオです」
清水アオイ「あ、いらっしゃーい!」
清水アオイ「はじめまして、ゲストさん」
清水アオイ「お名前は?」
棚橋ショウタ「...!?」
棚橋ショウタ「...」
棚橋ショウタ「棚橋ショウタです」
棚橋ショウタ「よろしくお願いします」
最初のほのぼのとした始まり方から中盤のギャップにやられ、決して円満に終わらない内容でとても面白かったです!主人公はいつか報われてほしい!
印象がひっくり返る物語の構成に、やられました。たしかに、一朝一夕で解決できる問題では、ないですものね。
ショウタくんを、応援したいです。
これだけの短編ストーリーでこんな胸が痛くなるなんて…圧巻です。すごい。いい刺激をありがとうございます!