不穏な影(脚本)
〇上官の部屋
ドミナ・メンデス家
パロマ「長年、ドミナ・メンデス家で働けたことを光栄に思います」
ロレンシオ「今までご苦労だった」
エフライン「長年仕えてくれたのに、こうも簡単に解雇するなんて、酷い仕打ちじゃないか!!」
アルテア「そうか?年老いた者をいつまでも使うより、若い人間を使えるようにした方がよっぽど役に立つ」
アルテア「それに、その分の金は払っていた」
アルテア「いくら長年、ウチで働いていたからと言っても、所詮は一人の市民に過ぎんよ」
アルテア「気に掛ける必要などない」
エフライン「少しは人の気持ちを考えろ!!」
アルテア「考えるさ、同じ立場の人間なら。 だが相手はただの市民だ」
ロレンシオ「余り角を立てるようなことを言うなよ。 一つの噂が身を滅ぼすこともあるからな」
パロマ「ドミナ・メンデス家様に仕えて不満などありませんでしたわ」
アルテア「ふん、醜聞などいくらでも作りだせるからな。信用できんよ」
アルテア「兄貴たちからも、よく釘を刺しておいてくれ」
エフライン「まったくアイツは!!」
ロレンシオ「次の仕事の宛はあるのか?」
パロマ「今はまだ・・・・・・」
ロレンシオ「そうか、次も良い働き口が見つかることを願っているよ」
パロマ「では、失礼いたします」
エフライン「いくらなんでも、あの言い方はない」
エフライン「兄さんからもアルテアを注意してやってくれ」
ロレンシオ「私が言っても聞かんよ。 父が言っても同じだろう。 言うだけ無駄だ」
エフライン「アルテアは、もう少し人の気持ちを考えるべきだ」
ロレンシオ「お前のように考えすぎるのも問題だ。 貴族と市民では立場が違う」
エフライン「アルテアの悪評で、家の名声に傷がついたとしてもかい!?」
ロレンシオ「アイツは当主でも次期当主でもない。 そこまでの問題にはならんよ」
エフライン「兄さんも兄さんだ。 市民の反感を買うことの危険さを、もっとよく知るべきだ」
ロレンシオ「それで滅んだ名家もあるのは心得ているさ」
〇城の客室
パロマ「失礼しても宜しいでしょうか、アルテア様」
アルテア「入って来い」
椅子に座るアルテアの側にパロマが歩み寄る。
アルテアは読んでいた本を閉じ、テーブルの上に置くと、パロマに視線を向ける。
アルテア「・・・・・・さっきは済まなかったな。 本意ではないことは分かってくれ」
パロマ「えぇ、存じております」
アルテア「パロマがいなくなると寂しくなるよ」
パロマ「そう言って頂けるだけで、長年仕えてきたかいがありましたわ」
アルテア「これを受け取ってくれ」
アルテア「俺が工面できる分などしれているが、少しでも生活の役に立てて欲しい」
パロマ「そんな、勿体ない」
アルテア「長年、俺の側に居て、支えてくれたささやかな礼だ」
パロマ「・・・・・・その見返りはなんですか? おぼっちゃま」
パロマ「私に何かして欲しいんでしょう?」
アルテア「はぁ・・・・・・ これだから、俺をよく知る人間は嫌いなんだ」
アルテア「俺の悪い噂を流して欲しい」
パロマ「どうして悪い印象を与えようとするのです?」
アルテア「その方が助かるのさ。 俺の周りに寄り付く人間も少なくなる」
パロマ「良縁を逃しますよ」
アルテア「心を許しても、いつかはお前のように去ってしまうだろう」
アルテア「それなら最初からいない方がマシだ」
パロマ「心苦しいですが、噂は流しておきましょう」
パロマ「ぼっちゃまがそう望むのであれば」
アルテア「その代わりドミナ・メンデス家の悪評は流すなよ」
アルテア「お前に危害が及ぶ可能性もある。 それは絶対に口にするな」
パロマ「お気遣い感謝いたします」
アルテア「体に気を付けろ。 元気で暮らせよ」
パロマ「おぼっちゃまも」
〇貴族の部屋
娼館アマリリス
ベガ「ほら、紅茶だ」
ベガ「いつも忙しいだろう? ここに来た時くらいはゆっくりしてくれ」
マルセリノ「すまないな。 気を遣ってもらって」
ベガ「わざわざ訪ねてもらったんだ、これくらいはするさ」
マルセリノ「最近の調子はどうだ?」
ベガ「お金の流れは全て報告している。 聞かなくても知っているハズだ」
マルセリノ「ただの世間話だ」
マルセリノ「君を監視しておけとシプリアノ様に言われたからね」
ベガ「父も相変わらずだな。 娘のことすら信用しないとは」
マルセリノ「それだけ敵が多いということさ」
ベガ「縄張り争いをする敵対組織。 それに寝首を搔こうとする身内の人間」
ベガ「疑心暗鬼になるのも仕方はないな」
マルセリノ「君もその一人では?」
ベガ「私はシプリアノの娘だ。 家業を継ぐ正当性はあるのに、そんな真似をする気はないさ」
マルセリノ「だが女性をボスと認めない人間もいる。 代役は必要だと思うがな」
ベガ「伴侶として君が名乗りを上げると?」
マルセリノ「シプリアノ様の信頼もそれなりにある。 君と同じく将来のボスの候補だと思っている」
ベガ「それなら、私も少しは媚びを売っておかなくてはいけないな」
マルセリノ「その気があるなら、早い方が良いぞ。 アプローチはいつでも受け付けている」
ベガ「忠告しておくが、あまり調子に乗っていると、父から睨まれるぞ?」
マルセリノ「尻尾は振っておくさ。 犬として可愛がられるくらいにはな」
ベガ「その提案は考えておくよ」
ベガ「フリオを失って半年だ。 まだ立ち直れないのさ」
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アルテアの使用人とのやり取り、その裏表にぐっときました。
シプリアノとベガの会話もいいですね。お互いが元々信じ合っていないというベースがあり、その上で謀反の企みを見抜こうとする会話劇がとても素敵です。