RiversideBaron~最終章~

山本律磨

さまよえる青白い鈍刀(2)(脚本)

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山本律磨

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〇西洋風の部屋
義孝「お早うございます。リバーサイドクイーン」
義孝「新聞もご用意してあります」
義孝「その他御用命とあらば、何なりとこのクルちゃんにお言いつけ下さい」
ダリア「す、凄いわね。さすがエリート。なんでもこなせるようになっちゃうんだ」
義孝「養われている身としては当然です」
義孝「最早、私は日本男児ではない」
義孝「犬」
義孝「つまりは日本犬です」
義孝「柴とお呼びください!」
義孝「秋田或いは紀州でも可!」
義孝「土佐は褒め過ぎです・・・」
ダリア「掃除洗濯に加えて、食事まで出来るようになってくれたのは有難いんだけど」
ダリア「あんまり自分を卑下しないことね」
ダリア「私はアンタの時代錯誤なプライドを買ってるんだから」
義孝「クイーンの命とあらば」
ダリア(組織人の嫌な所出てるなあ)
ダリア「でもまあ、美味しいよ」
義孝「お褒めに預かり」
燕「ふあ~。おはよ~ダリア~」
義孝「遅い!」
義孝「召使いの分際で主人よりも眠りこけるとは何事であるか!」
義孝「切腹ものだぞ貴様!」
燕「ダンサーの仕事って随分早いんだね~」
ダリア「ううん。自主練」
燕「そっか。とってもいいと思うよ」
義孝「ふん。ダリア様に上から目線で偉そうに」
燕「僕も頑張って書かないと」
義孝「ふん。そう言い続けて二ヶ月半、小説どころか詩の一行すら書いてないではないか」
ダリア「文筆は考えてる時間の方が長いものなの」
燕「あと衝動ね」
燕「ダリアとの刺激的な生活が僕に力を与えてくれるんだ。あと少しで降りてくるよ」
義孝「ふん。何が降りてくるというのだ。先祖の霊か?」
「それ、おもしろーい♪」
義孝(・・・馬鹿どもめ)
ダリア「じゃ、いってくるね」
燕「あ、待って。いつもの」

〇ハート
義孝(・・・アホどもめ)

〇西洋風の部屋
燕「さてと、もうひと眠り・・・」
義孝「おい燕」
義孝「掃除のひとつでも手伝ったらどうだ」
燕「まだ大丈夫。天気も機嫌もいいから」
燕「むしろやりすぎは嫌味だよ。小姑じゃないんだから」
義孝「きょ、曲解が過ぎるぞ!おのれの怠慢を棚に上げて・・・」
燕「曲解されないように気を遣うのが、僕達のここでの生活だ」
義孝「・・・」
燕「君、軍でどれほど偉かったか知らないけど誤解され通しの人生だったみたいだね」
燕「今まではそれで通用してたかも知れないがここでダリアに誤解されたら終わりだ」
燕「彼女が求めているものが何かも理解せず、単にル―ティンワークで犬に徹する」
燕「それこそ、女性を馬鹿にしている証左だと思うけど」
義孝「ご、誤解・・・」
義孝「・・・」
燕「ところでクルちゃん。君、夢はあるかい?」
義孝「・・・夢?」
燕「聞き返したか~」
燕「君、近いうちにここを追い出されるよ」
義孝「どういう意味だ」
燕「ヒモ失格。という意味さ」
燕「つまりは『男』失格だ」
義孝「・・・意味が分からん」
義孝「炊事洗濯掃除全て完璧にこなしている俺が追い出されるだと?」
義孝「はっはっは!負け犬の遠吠えであろう!」
義孝「お、窓にホコリが・・・」

〇荒廃した教会
「・・・」
「・・・」
ケン「何やってんの?」
マネ玄人「だから無理なのだ。外側は形を保っていてもゴミはゴミだ」
クラムぼんぼん「こういう時に理系の貧民がいてくれればね」
マネ玄人「数字と科学に強い者が浮浪者になどなるか」
ケン「俺、そういうの直せるよ」
「な、なに?」
ケン「死んだ母ちゃんが、機械直すの得意だったんだ。それ見てたからさ」
ケン「オートバイクでも草刈り機でもチョチョイのチョイさ」
マネ玄人「そう言えば君もダリアやロンと同じ渡来の民であったな」
ケン「親父の顔は知らねーけどな」
マネ玄人「ああいや、すまん」
ケン「気にしてねえさ。見せてみなよ」
ケン「じゃ、直すね」
ケン「どりゃああああああああああああああ!」
ケン「・・・」
ケン「あれ?」
クラムぼんぼん「あれ?じゃない!」
ケン「おかしいな。大体の機械はぶん殴れば直るんだけど」
マネ玄人「確かに『母ちゃんの直し方』ではあるが」
「あっ!」
マネ玄人「直った」
ケン「ありがとう母ちゃん!」
  『うつくし黒髪輝くティアラ。どうか夕日が落ちぬ間に、この恋続けとルルル~願いましょう♪』
クラムぼんぼん「これは松音未来子じゃないか!」
マネ玄人「誰だね?」
ケン「知らないの?歌う女優松音未来子!」
クラムぼんぼん「歌劇マーガレットで披露された『ティアラの歌』だ。あまりの人気にレコード化され飛ぶように売れたのはつい数年前なのに」
マネ玄人「失敬。音楽はクラシックしか嗜まぬもので」
「・・・あっそう!」
ケン「引退したんだっけ?」
クラムぼんぼん「まだ帝都にいるなら無事だといいな」
  『おい!何サボってる!』
トラ「根室先生の講義の時間だろ」
トラ「それが終わったら体力作りだ」
トラ「いつまでも官憲にビビってんじゃねーぞ」
クラムぼんぼん「お、怯えてなどいない・・・」
マネ玄人「そうだ。我々は最早浮浪者ではない。自由を求める闘士である」
トラ「うん?」
トラ「ラジオ・・・どこにこんなものを買う金が」
トラ「私的財産の所有は禁じている。金は組織の為に共有すると約束したはずだ。だから姫の援助を受けているんだろう」
ケン「それ拾ってきたヤツだよ。俺が直したんだ」
トラ「・・・そうか」
トラ「こんなもの・・・!」
クラムぼんぼん「おい!剣で殴っても直らんぞ!」
マネ玄人「君の母ちゃんはそういう直し方かね?」
ケン「アホか!一緒にするな!」
トラ「電波は政府の管轄にある」
トラ「ラジオから流れる情報は全部ブルジョワに都合のいいものばかりだと根室先生に言われたはずだぞ!」
トラ「こんなものを聞いていたら自分の頭で考える力を失ってしまうぞ。ラジオも新聞も、官憲の洗脳装置と思え」
ケン「トラだって・・・」
ケン「全部根室さんの受け売りだろ!偉そうに!」
トラ「・・・このガキ!」
マネ玄人「や、やめぬか!相手は子供だぞ!」
クラムぼんぼん「ぼぼぼ暴力反対!ディベートディベート!」
トラ「・・・チッ」
トラ「組織に従えないなら街を出てもらうからな」
「・・・」
ケン「みんなで歌ってた頃が懐かしいよ・・・」
クラムぼんぼん「そう言うな。姫のおかげでいい服着て腹も膨れてる」
ケン「あんたの腹はいつもそんな感じだろ」
マネ玄人「闘争の時代を経て我らの夢は叶うのだ」
マネ玄人「新しい時代が来たら、またみんなで歌おう」
ケン「そんな時代が来なくたって歌えるよ」
ケン「二人はまだ、絵とか小説、書く気あるの?」
「・・・」
マネ玄人「・・・子供のくせに好き勝手言いおって」
クラムぼんぼん「子供だからだろ」
「・・・」

〇川沿いの原っぱ
ヒナ「よっ!」
ヒナ「ちくしょう・・・」
ヒナ「はっ!」
ヒナ「くっそう!」
ロン「お、おい!何やってる!」
ヒナ「見りゃ分かるだろ。踊りの練習だ」
ロン「そういうのは足が治ってからにしろ」
ヒナ「うるせーホラーマン」
ロン「誰がホラーマンだ」
ロン「家の中で出来ることだってあるだろ」
ロン「折角桜子姫が援助してくれてるんだ。俺らも頭使って生きるようになんねえとな」
ヒナ「言うじゃねーかゴロツキのくせに」
ロン「ゴロツキは卒業だ。俺は紳士として生きる」
ヒナ「勝手にしろ」
ヒナ「ただ、オイラは姫の援助なんて受けてねーからな」
ヒナ「今まで手前が貯めた金でやりくりしてら。ひとさまの指図受ける義理はねえ。それがオイラの自由ってヤツだ」
ヒナ「せいぜい姫に尻尾振ってな」
ロン「・・・言うじゃねーか」
烏兄「よう、ロン」
ロン「あんたら、何でこの街に・・・」
烏弟「そう驚くなよ。ここは俺達異人にも、随分優しい街だと聞くぜ」
烏兄「ターレンの指示なんだよ。ここで流行ってるデモクラシーってヤツを学んでこいと」
ロン「御堂組に見つかったらどうする?」
烏兄「別に・・・」
烏弟「やってやるよ。ここは自由の街なんだろ?」
烏弟「言っとくが俺達だけじゃねえ」
烏弟「これからも、ターレンの指示を受けた連中がどんどんお勉強にやって来るぜ」
烏兄「お前もそろそろ御堂組に抗う勇気ってヤツを持たねえとな」
烏弟「新たな時代、人種差別はいけないアルネ」
烏兄「仲良くしてくれねえと、殺すアルネ」
烏兄「どけよゴロツキ」
ロン「・・・」
ロン「黒蓮団まで乗り込んできやがった」
ロン「自由の街・・・か」

〇入り組んだ路地裏
「いやいや。巷ではブラックロータスなどとドスの効いた俗名をつけられていますが」

〇組織のアジト
玉大人「私どもはただの宗教団体です」
玉大人「一途に浄土の教えを広め五十六億八千万年後の救済を願う弥勒の門徒に過ぎません」
玉大人「是非デモクラシーの一環として蓬莱街での布教をお許し願いたく存じます」
桜子「そういうお話は帝都知事になさって下さい」
根室「まあまあ。そうツッケンドンに跳ねつけなくても」
根室「ターレンは聡明だ。君を街の実質的指導者と認識してらっしゃる」
玉大人「カリスマ。カリスマ」
桜子「あなたがたの活動を制限する権限など我々にはありません」
桜子「くれぐれも住民に不安を与えるような真似をされぬ事を望むのみです」
玉大人「勿論です。私達は御堂組とは違います」
桜子「御堂組。あそこともいずれ肚を割って話さねばなりません」
根室「みんなが手を携えて暮らせる日が来るといいね」
根室「その為にはまず蓬莱街が団結しないと」
玉大人「お力になりますよ。桜子姫」
玉大人「では本日はこれで」
桜子「はあ・・・」
桜子「実朝おじさまの紹介とはいえ、侠客と渡りあうのは少し・・・」
根室「怖かったかい?」
桜子「当然ですわ!私だって一応は女です!」
根室「一応どころかこの国いちのレディだよ」
桜子「またそういう言葉遊びばかり」
根室「遊びじゃない。真剣だ」
根室「革命も・・・君とのことも・・・」
桜子「私は別に・・・あなた方夫婦を引き裂こうなどと思っていません」
桜子「ただまだ一人だと心細い所もありますのでもう少しだけ・・・」
桜子「私がもっと強くなるまで・・・」
根室「一人にはさせない」
根室「本当のパートナーは君だけだ。桜子・・・」
桜子「倫太郎さん・・・」

〇一戸建ての庭先
「ここでいい。降ろしてくれたまえ」
「これはチップだ。取っておきたまえ」
根室「ただいま。今帰ったよ」

〇おしゃれな居間
根室「いつもいつも遅くなってゴメンね」
根室「だがこれも新しい世を作るため。後ひと息なんだ」
根室「ワルプルギスの夜から五年・・・あと少しで、僕達の望んだ世界が」
根室「ははは。また拗ねて隠れてるのかい?」
根室「どこだい?彩子」
根室「・・・うん?」
根室「なんだとおおおおおおおおおおおおお!」

〇西洋風の部屋
「ごめん下さいませ」
「ごめん下さいませ」
「燕、お客人だ。出ろ」
「読書中」
「俺は料理中だ!飯が焦げてもいいのか!」
燕「はいはい。軍人さんは野蛮だね」
燕「どちらさん?」
未来子「久しぶり・・・」
燕「あ!」
燕「あああ・・・ああああ・・・」
未来子「ジュンさんめっけ♪」
義孝「だ、誰だ?」
  つづく

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