40(脂重)

72

老いるとOIL(脚本)

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〇住宅街の公園
  とある休日の天気の良かった日、午前中に掃除に洗濯、布団を干して、午後一番に散歩をしていた
  公園の近くを歩いていると、野球ボールと同じくらいのサイズのゴムボールが転がってきた
  公園で野球の真似ごとをしていた子供達のボールだった
  実は小学校の頃、体育は好きな科目で、中でもドッチボールは大好きだった
  私はボールを一人の子供の胸元に投げて、格好良い女性を演じる事にした

〇雷
  右腕にボールを持って、振りかぶって投げる。右腕が頭の横を通り過ぎる瞬間くらいだろうか。肩からその周りの筋肉に痛みが走った
  投げたボールは、その子供のかなり手前で落ちて、ポテポテと転がっていった
子供達「ありがとう、おばちゃん」
  お・ば・ち・ゃ・ん・・・。肩も心も痛かった
トキメ「気をつけて遊びなよね〜」
  相手は子供。本心は必死で抑えて、満面の笑みで子供達とはお別れをした

〇土手
  再びウォーキングを再開。ボールを投げた時の腕の痛み。試しに右腕を何度か回してみると、筋を寝違えたような痛みが生じる
  もちろん左腕は何でもない。久しぶりに物を投げる事をしたので、筋を痛めたのだと思っていた
  しかしそれから数日経っても、湿布をしても、肩の痛みは続いていた。病院に行かなくても大丈夫なくらいの痛みが、ただただ続いた

〇自転車屋
  それから2週間後の休日、私は自転車屋さんに行く事になっていた。ブレーキやギアなどのワイヤー関係の点検のために
店員さん「自転車の調子はどうですか? 乗り心地はどうですか?」
  特に問題なかったが、せっかく知り合いになった人。あえてどーでもいいことを言ってみた
トキメ「自転車は問題ないけど、私に問題があるかも。最近右肩の筋を痛めて。それが全然回復しなくて」
  どーでもいい冗談のつもりだったけど、自分から変な事を言った事が、急に恥ずかしくなってしまった
おやっさん「お嬢ちゃん、もしかしたら四十肩みたいなやつかもよ」
  実は家族経営の自転車屋さん。そこのおやっさんが話しかけてきた
トキメ「四十肩ですか。これ、治るんですよね?」
  おやっさんは何故か自分の右肩、左肩をゆっくり回し、数回行うと首をかしげた
おやっさん「うーん。治んないかもね。おっちゃんも普通に腕立て伏せとかしているけど、もう昔みたいにボールは投げれないしね」
おやっさん「なんか、普段使わない関節周りが固くなっちゃうんだよね」

〇木調
  おやっさんが言うには、若い頃と年をとってからの体は全然違う。でも、その違いに気づく人は少ないらしい
  あるいは気づいたとしても、諸事情からそのまま変化を受け入れる人も多いのだとか
トキメ「諸事情って」
  おやっさんの個人的意見だそうだが、例えば運動部に所属していた人は、卒業後に太る人が多いのだとか
  食事量は同じなまま、運動をしなくなるからだとか。他に新陳代謝の低下や、生活習慣の変化などが原因なのだとか
  同じような理由では、子供が出来た後なども太りやすくなるのだとか。
  子供の食べれる量は少ないので、ついつい残した食べ物を手伝ってしまいやすくなり、結果として自分の体重に蓄積していく

〇時計
おやっさん「ただ、体重が増えたり減ったりするのは分かりやすいんだけど、体が衰えるのは割とわかりにくいんだよ」
おやっさん「だって若いまんまでいたいだろ。だからちょっとしたことなんかは、つい我慢しちゃうんだよ」
おやっさん「でも体は何もしなければ、勝手に老いていくからなぁ。それで急に四十肩やらぎっくり腰なんかをやらかしちゃうんだよ」
おやっさん「俺は自転車屋だからかなぁ、その老いってやつは、体のオイルが足りなくなってサビていくように考えてるんだけどな」
おやっさん「お姉ちゃんもサビてきちゃったのか。まだ若いのに」

〇自転車屋
  おやっさんの言っている事は、結構しっくりきていた
  私がこれまで行ってきた事は、いわゆる若作りだ。だけど年齢を重ねていけば、何らかの変化が体に現れる事は当然なのだ
  40手前。時々若く見られるとすごく嬉しい。だけど体の老いは進んでいるのだ

〇駅のホーム
  「負の連鎖」。度々思うが、これほど根拠がないのにしっくりくる言葉は、他にはないかもしれない
  仕事帰りの電車の中で、咳が止まらなくなった。数年前から年に何回かある症状。その都度内科を受診して風邪薬が処方されていた
  食事に気をつけても、運動をしてもあまり変わらない。風邪をひきやすい体質なのかも。子供の頃は真冬も外で元気に遊んでいたのに

〇クリニックのロビー
  翌朝は、時間休をとって通院。しかし病院は割と平日休みのところも多い。その日かかりつけ医のところもお休みだった
  なので今回は初めてのクリニックを受診してみた。ここは呼吸器内科
  いつものところはいわゆる町医者。ここは「呼吸器内科」と看板を出しているクリニック
  場違いだったらどうしようと、不安な気持ちになっていた

〇病院の診察室
  順番になり、診察室に呼ばれた。中には少し真面目そうな年配の男性医師が居た
  先生は私の症状やほの頻度など、細かく質問してきた。その後、機械を使って呼吸の検査を行った
  酸素だか二酸化炭素だかの濃度を測るのだとか。そして十分程すると、再び診察室に呼ばれた
先生「あなた、風邪じゃなくて喘息だよ」
  ビックリした。今迄そんな事は言われた事がない。大人になってからの喘息なんて
先生「子供の頃は何でもなくても、大人になってから発症する人って結構多いんですよ」
  そんな事言われても、正直あんまりピンときていなかった

〇薬局の店内
  受診が終わると、処方箋を持って近くの薬局へ行った
  処方箋にはこれまでもらっていた風邪薬は記載されておらず、薬の名前は一種類だけだった
  処方箋と保険証を窓口で提出。しばらくすると薬剤師さんが私の名前を呼んだ
薬剤師「この薬は初めてかしら」
  軽くうなづくと、薬剤師さんは丁寧に薬について教えてくれた
  それは吸引タイプのもので、1日2回、1回につき2回吸引するものなのだとか
  朝食前と夕食前が良いのだが、今回はそのまま帰宅したらすぐ吸引するよう促された

〇綺麗なリビング
  家に帰ると早速吸引をしてみた
  驚いた。然程時間が経っていないのに、呼吸が楽になっていった
  その日から1日2回吸引を開始。私の呼吸は一気に楽になっていった
  それとは別に、今迄の「風邪」の診断に少し腹が立っていた。大金ではないものの、それなりに使ってきた 「My money」
  ずっと誤診だったのだろうか

〇綺麗なリビング
  でも先生は、大人になってから喘息になる人も多いと言っていた
  これも「おやっさん」の言うオイルと関係あるのだろうか
  考えてみたら、視力も若い頃に比べて落ちてきている。なんとなく老眼なんてものも迫ってきているような気がする
  どんなに意識をしていても、結局のところ体は老いていくのだ

〇綺麗なリビング
  朝、目が覚める。今日もいつもと変わらない体調。ただし薬のおかげで呼吸はだいぶ楽だ
  「風邪」でなかった私は、また運動をするようになり、健康的な生活習慣へと戻していった
  四十肩については、特別な動きをしなければ特に問題を感じなくなり、意識からも外れていった

〇土手
  私は四十手前のおばさんだ。そんな私の目標は再婚。そのために少しでも、ボディーラインが綺麗に見えるように努力をしている
  それに健康的な体質も目指している。肌のハリやツヤも保つため。だから食事にも気をつけている
  年を重ねていくと、逃れられない「何か」と、努力で得られる「何か」がある
  そして、それとは別に「面倒くさい」「今更」等と、悪魔のささやきが年寄りのぼやきのように聴こえてくる
  私を悩ませる四十肩に喘息、少しずつ忍び寄る老眼。それでも私は足掻いてみせる
  この年から幸せになるために。「ごく普通」な幸せを、この年齢からでも手に入れるために

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