エピソード1(脚本)
〇オフィスのフロア
俺の名前は伊藤。
この会社に入って五年目の会社員だ。仕事もそこそこ慣れてきた。
あの人が部長。仕事が出来て若くして部長になったデキる男だ。
部長「うーん・・・」
伊藤「部長。どうしたんです?」
部長「この新製品、コストダウンできないか?販売価格が高すぎる。これでは、お客様は買わないだろう」
伊藤「いやー、難しいですよ。これが限界ですよ。部品は特注だし、輸送費も上がっています」
部長「いや、しかしな・・・。これでは・・・」
部長「なら今回も頼むか」
伊藤「例のあれですか・・・」
部長「うちの会社には、切り札があるからな」
伊藤「良案文書・・・」
良案文書。それは、うちの会社に昔からある謎である。
仕事で困った事が起こると、次の日に部長の机の上に「良案文書」と書かれた書類が置かれているのだ。
その書類には、問題解決の案が書かれている。だが誰が書いたのかは、分からないのだ。
石原さん「煙草吸ってくる」
伊藤「・・・石原さんはマイペースですよね」
部長「ほんと呑気なもんだ。こっちは困ってるってのに、うたた寝するか煙草吸うかのどっちかだもんな」
伊藤「まあでも強く言えないですよね。なんだかんだでベテラン先輩だし、会社の事色々知ってますからね」
部長「まあな。さて仕事だ仕事。この件は良案文書を明日見るってことで、他の事やるぞ」
伊藤「はい」
次の日の朝
部長「おっ、あるある。良案文書」
部長「ふむふむ・・・。なるほど。おお・・・そうか。そんな手が・・・」
伊藤「部長どうです?良案文書。まあどうせいつもどおり、良い方法書いてあるんですよね?」
部長「ああ。特注の部品に関してだが、山田製作所にお願いする。小さな町工場だが、かなりコストを抑える事ができる」
伊藤「ほう。でもまだコストを抑えたいですよね?輸送費はどうにもならないんですか?」
部長「白川配送の市橋常務っているだろ?市橋常務の姪が、うちの会社の事務の女の子なんだ」
部長「市橋常務に直接相談すれば、少し金額を抑えられるかもしれない」
伊藤「凄い。さすが良案文書。人間関係まで把握してるなんて。一体誰が作ってるんでしょうね」
部長「さあな」
石原さん「煙草行ってきます」
部長「あの人も良案文書を見習って欲しもんだよよ」
伊藤「ですね・・・」
〇一人部屋
伊藤「うーん・・・。今日も疲れたなあ」
伊藤「あっ・・・。しまった。スマホを会社に忘れてきた」
伊藤「面倒だけど取りに戻るか」
〇オフィスのフロア
石原さん「・・・・・・・・」
伊藤「あれ?石原さん?」
石原さん「うわあ!!びっくりした。伊藤か。どうしたんだ、こんな時間に」
伊藤「スマホ忘れたんで取りに来たんですよ。それよりも石原さんこそ・・・って」
伊藤「良案文書」
石原さん「ああ、そうだよ。俺が良案文書作ってたんだよ」
伊藤「そうだったんですか・・・」
石原さん「俺は目立つのが嫌いなんだよ」
社長「こんな時間に声がするから来てみれば、なんだお前か」
石原さん「なんだはないだろ。これでも真面目に仕事してんだ」
社長「また良案文書か?」
石原さん「そうだよ」
社長「お前も素直じゃないな」
伊藤(しゃ、社長とタメ口で偉そうに話してる・・・)
社長「今度な、蓬田株式会社との大事な会食があるんだ。お前も来ないか?」
石原さん「なんで俺が?」
社長「うちの会社の隠し玉だってな」
石原さん「ほう。お前が人をそこまで信用するのも珍しいな」
社長「蓬田とは良好な関係を気づきたいからね」
伊藤(蓬田ってあの大手の!?)
伊藤(ってか、石原さんってそんなに凄い人だったの!?)
石原さん「俺は煙草吸って昼寝してたいんだがな」
社長「昔、お前と一緒にこの会社を立ち上げた時が懐かしいよ」
石原さん「お前のノリに付き合ってやっただけだろうが」
伊藤(えっ!?なにこれ怖い!!なんか俺の知ってる会社の情報が一気に崩壊していく)
社長「出世する気はないか?」
石原さん「ねえよ」
社長「まあ聞いてみただけだ」
社長「どうせそう言うだろうと思ってたさ」
石原さん「それでその接待か?俺も出たほうがいいのか?」
社長「頼むよ」
石原さん「しょうがねえな」
社長「伊藤君だったかな?すまないね。驚かせて。彼とは学生時代からの古い友人なんだ」
伊藤「そうだったんですか」
社長「能ある鷹は爪を隠す。そんな言葉を体現したような男だよ、こいつは。とても優秀な奴さ」
社長「何か困ったことがあったらこいつを頼るといい」
石原さん「やめろ。俺は目立ちたくないって言ってるだろ」
石原さん「接待行ってやらないぞ」
社長「ははは。すまんすまん。へそ曲げないでくれ」
社長「伊藤君。今の話は内密に頼むよ」
伊藤「は、はぁ・・・」
こうして俺は、忘れ物を取りに来ただけで、良案文書の秘密を見たのである。
石原さんは、裏で社員を育てている。会社の縁の下の力持ちだったのだ。
〇一人部屋
伊藤「あー、ビックリした。人は見かけによらないな」
伊藤「もう絶対、石原さんの悪口言うのやめよう」
伊藤「ってかむしろ尊敬する。すげえや」
目立たない人が実は超有能だったていう話は読んでて気持ちが良いですね。しかもちゃんと評価してくれる社長がいるのも良かったです👍
現代版の「小人の靴屋」ですね。良案文書の作成者を詮索しないことがこの部署にとっての最善の良案だということなんだ。でも石原さんでも良案が浮かばなくて文書が机になかったら、部長さん「嘘だろ?」ってアワアワしそう。
組織集団にはいろんなタイプの人がいて、目立とうと頑張る人もいれば、目立たずとも貢献する人も。そして、石原さんのような存在を評価する人間もいれば、目立たないことでぞんざいに扱う人も。
どんな集団でも、お互いに尊重し合い、適材適所で頑張れるケースが最もうまくいきますよね!