28/福の神(脚本)
〇生徒会室
コロン「まさか、フミフミって私のことですか?」
沖谷ナナコ「え? うん」
白津ショウコ「そうだよ?」
ナナコさんもショウコさんも、特に引っかかることなく当然のように話を続けている。
沖谷ナナコ「フミカのフミを取ってフミフミ」
沖谷ナナコ「ていうかフミフミさんよー。敬語はいらないっていっつも言ってるでしょー。同い年なんだからさー」
二人は明らかに、コロンのことを久野だと思って話しかけていた。
でもナナコさんは、確かコロンのことを知っていたはずだ。
「いや、ナナコさん、コロンと会ったことがあるんでしょ?」
「コロンって、この人のことじゃないの?」
沖谷ナナコ「コロン? えっと・・・・・・それって、人の名前?」
「え・・・・・・じゃあ、ミウさんのことは?」
沖谷ナナコ「ミウさん?」
沖谷ナナコ「ちょっとハック、まさかフミフミの前で他の女の子の話? さすがにそれは・・・・・・」
話が通じているようでどこかずれている。何だこの違和感・・・・・・。
まさか、さっきの悪魔の仕業か・・・・・・?
「コロン・・・・・・これって・・・・・・」
コロン「仕方がありません・・・・・・」
するとコロンは落ち着いた様子で、咳払いを一つした。
「コロン・・・・・・?」
そしてコロンの見た目のまま、久野の声でこう告げた。
久野フミカ「あー・・・・・・、いや、ごめん二人とも」
久野フミカ「それでちょっと相談なんだけど、今日の生徒会、先帰らせてもらっても良い?」
久野フミカ「私この後、コハクとデートだから」
「ひゅー!」
二人の声が被った。
久野フミカ「お願い!」
久野フミカ「宮浦先生に何か言われたらごまかしといて!」
沖谷ナナコ「そんなのいいに決まってんじゃんよ!」
沖谷ナナコ「フミフミってばいっつも素直でよろしい!」
白津ショウコ「先生には、私達がうまいこと言っとくから!」
ナナコさんとショウコさんは、二つ返事で快諾してくれた。
ていうか宮浦先生の正体も、何ならここにいるコロンなんだけど。
久野フミカ「二人ともありがと! コハク、行こ?」
「え、あ、うん・・・・・・」
「ナナコさんショウコさん、後よろしく・・・・・・」
沖谷ナナコ「オッケー、楽しんでらっしゃい!」
〇渡り廊下
久野の真似をしたコロンに連れ出され、僕はうさ耳のカチューシャを持ったまま生徒会室を後にした。
「コロン、これって一体・・・・・・」
コロン「はい。詳しくは帰ってからお話ししますが」
コロンは僕の腕を引っ張ったまま、校内を淡々と進んでいく。
「うん・・・・・・?」
コロン「簡単に言えば、私が久野フミカから生まれた悪魔だからです」
「久野から生まれた・・・・・・?」
コロン「はい」
コロン「久野フミカとコクノが消えた今、この世界で次に一番久野フミカっぽい存在は、久野フミカから生まれた、私なんです」
「久野フミカっぽい存在・・・・・・?」
〇学校の下駄箱
下駄箱に到着する。
ミウさんの靴箱と違い、久野の靴箱はまだちゃんと存在していた。
それは恐らく、この世界で次に一番久野フミカっぽい存在、コロンがここにいるからなのだろう。
僕達はそのまま学校を出る。
〇土手
コロン「はい。それで・・・・・・」
「いや、それより何で今、コクノの名前が出てくるんだ?」
コロン「それは勿論、私が久野フミカから生まれた悪魔だからです」
「え?」
コロン「そしてコクノが、久野フミカから生まれた天使だからです」
「待った。その流れで行くと、前言ってたこの世界の神って」
コロン「はい。彼女です」
コロン「彼女こそが今回のサンプルであり、彼女のためにこの温室は作られました」
「サンプル・・・・・・、温室・・・・・・?」
コロン「我々の実験には、サンプルと温室は必須項目ですから」
実験・・・・・・。
コロンは僕が理解できないことを見越してか、難しい単語を並べて自慢気にしている。
いや、単語自体は難しいものではないが、コロンの言っていることが、やっぱり僕にはよくわからない。
「よくわからないけど、この世界が久野のために作られたのだとしたら」
「そんなにすごい久野が消えるって・・・・・・」
コロン「はい、ありえません」
「・・・・・・え?」
〇一軒家の玄関扉
ようやく辿り着いた馴染みの一軒家を、コロンはゆっくりと見上げる。
コロン「つまり、その名前の力を失った彼女がいるとしたら・・・・・・」
コロン「恐らくここに」
僕は家の鍵を開けようとして、既に鍵が開いていることに気づいた。
そして扉が勝手に開く。
中にいた何者かが、僕が帰ってきたことに気づき開けてくれたようだった。
〇シックな玄関
「おかえりなさい、オーナー」
「・・・・・・え」
そこには、久野とミウさんがいた。
二人とも、手が白い。
続けて二人の声が被る。
「ご飯にしますか? お風呂にしますか?」
「それとも・・・・・・」
「・・・・・・」
僕は、ついに思考停止していた。