27/幻覚(脚本)
〇生徒会室
僕はその窓から身を乗り出して下を覗いたが、悪魔の姿はもうどこにも無かった。
恐らくコロンと同じように、瞬間移動の様な事ができるのだろう。
「・・・・・・」
でも、この逃げ去り方・・・・・・。
それに、背もどちらかと言えば高かった気がする・・・・・・。
まさか・・・・・・あいつが久野の言っていた、コクノを撃った犯人・・・・・・?
コロン「お兄様!」
そして悪魔クロコと入れ替わるように、もう一人の悪魔、コロンが生徒会室に飛び込んできた。
宮浦先生の姿ではなく、いつもの金髪のコロンの姿。
しかしナナコさんはコロンの方には見向きもせず、ショウコさんを抱きかかえたまま僕を見上げて叫んだ。
沖谷ナナコ「ハック! とにかく救急車!」
「そ、そうだ・・・・・・」
僕が救急車を呼ぼうとスマホを持つと、なぜかその腕をコロンが掴んだ。
コロン「・・・・・・先輩、そこの人間を撃ったのは悪魔ですね?」
「えっ、うん・・・・・・」
コロン「そうですか。だったらほっといて大丈夫です。それより面倒なことに・・・・・・」
沖谷ナナコ「コロン、何言ってんの? ハック、早く電話・・・・・・」
ナナコさんの震える声がコロンの声を遮る。
するとコロンは、倒れているショウコさんの前にしゃがみこんでため息をついた。
コロン「ああ、ったく・・・・・・」
「コロン・・・・・・?」
コロン「失礼しますよ!」
コロンが、ショウコさんの撃たれたところの服を勢いよくめくる。
しかし銃弾が命中したはずの腹部には傷一つなく、血で染まっていたはずの制服も、染み一つ無くなっていた。
「あれ・・・・・・?」
コロン「これで理解できましたか?」
コロン「悪魔の幻覚を真に受けるなんて、こちらとしては、いい加減そろそろ悪魔慣れしてほしいものですが」
「ちょっとー・・・・・・、今日のキャミ、あんまかわいくないんだけど・・・・・・」
いつの間にか目を覚ましていたショウコさんが、コロンを睨みつけている。
そしてナナコさんが、コロンを無言で蹴り飛ばした。
沖谷ナナコ「ショコちゃん! 本当に大丈夫なの?!」
「うん、生きてるよー・・・・・・」
「でも痛かったのは、本当なんだけどな・・・・・・」
沖谷ナナコ「ちょっとコロン! ショコちゃんはこう言ってますけど?!」
コロン「そう言われましてもね・・・・・・生きてたから良かったじゃないですか・・・・・・」
沖谷ナナコ「責任取ってよー!」
「そうだそうだー!」
調子を取り戻しつつある女子二人が、悪魔を言いくるめている。
コロン「いえ、この私が人間ごときに言いくるめられるなんてことは決してありません、断じて」
コロン「それよりもお兄様」
疲れ切った顔のコロンが、僕の心を読んでから女子二人をほったらかしにして、生徒会室の隅の方へ僕を引っ張っていった。
「・・・・・・で、どうしたのコロン?」
コロン「久野フミカが、消えました」
「・・・・・・え?」
コロン「恐らくこの世界から、存在ごと」
「・・・・・・」
ふと冷静になって思った。
ここ数日、冷静になって考えればおかしなことばかり起きていた気がする。
ゾンビになった久野に襲われたり、久野のアンドロイドになったり、悪魔や天使に会ったりもした。
そしてミウさんの存在が、無かったことになっていたりもした。
だったら久野の存在が無かったことになることも、たまにはあるのかもしれない。
「・・・・・・」
別に思考停止してしまっているわけではないはずだが、僕はコロンの言ったことを思ったよりもすんなり、受け入れてしまっていた。
沖谷ナナコ「ちょっと二人ともー? いつまで隅でいちゃついてんのさー」
するといつの間にか、本調子の女子二人が寄ってきていた。
白津ショウコ「ハックとフミフミって、本当に仲良いよね・・・・・・」
沖谷ナナコ「そりゃそうだよー、さらにこの後遊園地デートなんだからー」
白津ショウコ「ね、ねえ・・・・・・やっぱり二人って、付き合ってるの?」
・・・・・・ん?
沖谷ナナコ「いーなーハックー。ねえねえフミフミとはもうやったの?」
白津ショウコ「ちょっとナコちゃん、フミフミの前で・・・・・・」
「いや・・・・・・ん?」
危うく聞き流すところだった。フミフミの、前で?
沖谷ナナコ「ねえねえフミフミ、やっぱりフミフミから告ったの?」
「・・・・・・」
そしてコロンが、何かに気づいたように自分で自分を指さした。
コロン「まさか、フミフミって私のことですか?」