思い出は六花と火の花と共に(脚本)
〇整頓された部屋(ハット、靴無し)
アカネ「花火したい!!」
トオル「はい?」
今日は12月19日
時刻は午前12時23分
こんな真冬の季節に花火がしたいと言われ、混乱した僕の頭は
やっと言葉の意味を理解することができた
トオル「どうしてこんな寒い季節に?」
トオル「普通花火は夏にやるものでしょ?」
アカネ「えっと・・・」
アカネ「なんとなく?」
トオル「じゃあ却下で」
アカネ「え〜」
アカネ「なんでよ!?」
アカネ「花火やろうよ!!」
トオル「寒いから嫌だ」
アカネ「暖かい服装すればいいじゃん」
トオル「花火なんて売ってないでしょ」
アカネ「もう通販で買ってあるよ」
トオル「近くに花火できる場所ないでしょ」
アカネ「すぐ近くにある河川敷でできるらしいよ」
アカネ「花火やろうよ!!」
トオル「はぁ、わかった」
トオル「それでいつやるの?」
アカネ「そうだな〜」
アカネ「今夜!」
トオル「却下」
〇河川敷
午後10時48分
アカネ「わ〜!!」
アカネ「やっぱりこの河川敷は明かりが少ないから星が綺麗だよ!!」
トオル「寒い・・・」
結局、彼女の押しに負けてしまい
河川敷で花火をすることになった
アカネ「トオル聞いてる?」
トオル「聞いてるよ・・・」
トオル「それより」
トオル「今夜花火することは良いよって言ったけど」
トオル「こんな深夜にするなんて聞いてないよ!!」
アカネ「だって言ってないもん」
アカネ「それより早く!!」
トオル「はいはい」
トオル「流石に花火の準備は手伝ってよ?」
トオル「こんなに沢山あるんだから」
アカネ「は〜い」
僕とアカネは袋に詰め込められた花火を並べていった
袋の中には手持ち花火や回転花火、噴出花火など沢山の種類の花火が入っていた
トオル「なんか花火の種類多くない?」
トオル「ていうかこれ日付変わる前に終わる?」
アカネ「ギリギリには終わるんじゃない?」
トオル「まぁもうここまで来たら気にしないけどさ・・・」
アカネ「寒いから早くやろ」
トオル「この一番寒い時間帯にやろうって言ったのは君だけどね?」
〇河川敷
午後11時30分
アカネ「トオル見てみて!!」
アカネ「すごい綺麗!!」
トオル(なんか子供みたいだな)
花火を持てはしゃぎまわる彼女は
どこか幼く無邪気な笑顔を僕に見せてきた
アカネ「トオルはちゃんと楽しんでる?」
トオル「楽しんでますよ〜」
次の花火を取ろうと並べていた場所に手を伸ばしたが
手持ち花火は今ので最後だった
トオル「手持ち花火終わったけど次はどれやりたい?」
アカネ「あ、終わちゃった?」
アカネ「それじゃあね〜」
アカネ「次は噴出花火やりたい!」
トオル「じゃあ火つけるから離れていてね」
僕は少し離れた場所に花火を置き
火をつけ花火から少し離れた
噴出花火は
僕たち二人しかいない凛とした空気が漂う静かな河川敷に
火花の柱で彩り静かに消えた
アカネ「じゃあ次は連発花火やろ!」
トオル「まったく、人使い荒いな」
〇河川敷
午後11時55分
あんなに沢山あった花火は残り一つになった
アカネ「あと花火何が残ってる?」
トオル「えっと残ってるのは・・・」
トオル「線香花火だけかな」
アカネ「そっか」
アカネ「じゃあどっちが長く持つか勝負しよ!」
トオル「それ二人だけで楽しい?」
アカネ「二人だからやりたいの!!」
トオル「そういうものなの?」
アカネ「つべこべ言わず早く準備して!!」
トオル「わかりましたよ〜」
アカネ「あ、ちなみに」
アカネ「負けた方は罰ゲームで!!」
トオル「罰ゲーム?」
アカネ「勝った方のお願いをなんでも一つ聞くって罰ゲーム!!」
トオル「それで僕に何させるつもり?」
アカネ「それは私が勝ってからのお楽しみ」
トオル「でもまぁ僕が勝負に勝てば大丈夫か・・・」
僕はロウソクに火をつけ線香花火を準備していると
なにか冷たいものが手に触れた
〇河川敷
アカネ「あ、雪だ──」
一時間前まで星で埋め尽くされていた空は
雲で覆われ
雲の間を月明かりで照らされていた
トオル「準備終わったし」
トオル「雪が強くなる前に線香花火やっちゃおっか」
アカネ「は~い」
僕たちは同時に線香花火に火をつけ
雪が降りより一層暗くなった河川敷に小さな明かりが灯された
アカネ「そういえばさ」
トオル「ん?」
トオル「どうしたの?」
アカネ「花火始める前にも言ったけど」
アカネ「”星が綺麗だね”」
トオル「え?」
トオル「星?」
僕は空を見上げた
しかし星はどこにも見えない
今見えるのは
ひらひらと空を舞って降ってくる雪と
パチパチと小さく音を立てながら弾けている二つの線香花火
冬と夏
正反対の季節の風物詩が共になり
どこか幻想的で綺麗な情景だけだった
アカネ「あ・・・」
アカネ「落ちちゃった・・・」
アカネ「勝負は私の負けか〜」
アカネ「罰ゲームは私だね」
アカネ「君は私にどんなお願いをする?」
トオル「そうだな〜」
アカネ「なんでも良いよ!!」
トオル「それじゃあ」
トオル「”月も綺麗だよ”」
アカネ「え?」
僕は線香花火が落ちないよう
優しく彼女の唇を奪った
〇宇宙空間
彼女が放った
”星が綺麗だね”
この言葉には
『あなたは私の気持ちを知らない』
こんな意味がある
この言葉は片思いの相手に
自分の思いを知って欲しいそんなときに
使う言葉だった
そして僕の返答は
”月も綺麗だよ”
この言葉は
『私もあなたのことが好きです』
〇河川敷
12月20日
午前0時
パチパチと音を立てていた線香花火は
唇の温もりとともに静かに消えた
アカネ「言葉の意味知ってたんだ」
トオル「ロマンチックな恋愛が好きな」
トオル「誰かさんのせいでね」
アカネ「──バカ」
アカネ「いつから気づいてたの?」
トオル「ずっと前から」
トオル「というか」
トオル「僕が幼馴染の君の気持ちに気づいてないと思った?」
アカネ「気持ちに気づいてて」
アカネ「告白してこなかった人に文句言われたくないです〜」
トオル「ヴグッ!!」
トオル「ごめんって」
アカネ「まぁ気づいてくれてたのは嬉しかったけどさ」
アカネ「・・・・・・」
アカネ「好きだよ」
アカネ「トオル」
トオル「僕も好きだよ」
トオル「アカネ」
「星が綺麗」に「月も綺麗」と返せる間柄は素敵ですね。こんな二人にもいつか「雨音が響いてますね」(=あなたを愛していたけど今はもう…)と言う日が来るかもしれない。線香花火の儚さに、ふとそんなことも感じました。
純愛ラブストーリーですねぇ。
言葉の意味って色々と隠語があるように、昔から違う意味でも使われることは時代劇とか大河ドラマでもよくありますが、現代人が告白で使うと、すごくロマンチックですね!
花火もキレイなら恋心もキレイですね。状況や空気感が細やかに描かれていて、読み手のほうまでロマンチックな気分にさせられますね!