26/二人目の悪魔(脚本)
〇生徒会室
「・・・・・・わ、わかったよ。二人とも、ちょっと」
何だか収拾がつかなくなってきた気がした僕は、ポケットからスマホを取り出してカメラを起動した。
白津ショウコ「ハック? 何する気?」
僕はうさ耳のカチューシャを机の上に置いて、その写真を撮った。
「これを、見てください」
沖谷ナナコ「・・・・・・え?」
二人に見せた画面に写っているのは、何も置かれていない机だけだった。
カチューシャが置いてあるはずの場所には、何も写っていない。
このカチューシャ、このようにスマホなどの人工物を通して見ると、僕にも見ることができなかった。
昼休みに、宮浦先生ことコロンに撮られて気づいたばかりのことだったが。
「これがショウコさんの見ている世界」
「というか、僕とナナコさん以外のみんなが見ている世界」
「だから僕は、今日一日このうさ耳をつけてたけど、誰も気づかなかったし、誰も何も言ってこなかった」
沖谷ナナコ「そう、なんだ・・・・・・」
スマホの写真が効いたのか、ナナコさんは僕の言ったことを思ったよりもすんなり受け入れていた。
「うん・・・・・・」
沖谷ナナコ「で、でもさ、何で私だけ・・・・・・?」
「いや、正確にはナナコさんと僕と、コロンの三人に見えてることになるんだけど・・・・・・」
沖谷ナナコ「・・・・・・コロン?」
「え?」
そしてナナコさんが、予想外の人物の名前に食いついた。
いや、人と呼べるのかは、怪しいところだが。
沖谷ナナコ「コロンって、あの悪魔のこと?」
「そう、だけど・・・・・・」
「何でコロンのことを、ナナコさんが・・・・・・?」
沖谷ナナコ「ハックこそ、何でコロンのこと・・・・・・」
すると確実に話についていけてないショウコさんが、頭の上のサングラスをかけ直して僕とナナコさんの顔の間に割って入った。
白津ショウコ「ちょっとナコちゃん、ハックも、私のこと置いてかないでよ」
白津ショウコ「そのコロン君って、誰?」
沖谷ナナコ「ちょっと待っててねショコちゃん」
沖谷ナナコ「じゃあハック、コロンのこと知ってるってことは、みーぽんのことも覚えてるってこと?!」
そしてナナコさんの口から、さらに予想外の人物の名前が飛び出した。
「みーぽんって・・・・・・」
沖谷ナナコ「みーぽんだって! 星木ミウ!」
沖谷ナナコ「ハックと同じ、副会長だったでしょ?!」
「ミウさん・・・・・・!?」
この世界に、彼女は存在しないことになっていた。
何でナナコさんは、ミウさんのことを覚えてるんだ・・・・・・?
沖谷ナナコ「やっぱり、覚えてるの!?」
「いや、ナナコさんこそ何でミウさんのことを・・・・・・」
沖谷ナナコ「そんなの・・・・・・」
白津ショウコ「ハック、危ない!」
突然横にいたショウコさんに突き飛ばされると同時に、また、銃声が響いた。
ここ数日、毎日のように見聞きしている気がする銃。
しかしその銃弾が、目の前の人間に命中する瞬間を見たのは、これが初めてだった。
白津ショウコ「あ・・・・・・」
僕を押し倒して倒れた彼女の制服が、赤く染まっていくのが見えた。
ナナコさんがショウコさんに駆け寄る。
沖谷ナナコ「ショコちゃん!?」
「・・・・・・」
彼女は完全に気を失っているようだった。
僕は銃声のした方に視線を移す。
「誰だ・・・・・・」
「・・・・・・」
誰かいる。
「いや、その銃・・・・・・!」
クロコ「・・・・・・そうか。私とお前は初対面だけど、この色の銃、お前は見覚えがあるのか」
そこには、見慣れた金色の銃を構えた、少し背の高い悪魔がいた。
「金の銃・・・・・・」
クロコ「そうだ」
クロコ「この銃は私達、悪魔の悪魔のための凶器」
コロンがいつも使っているのも、金色の銃だった。
つまり今ショウコさんを撃ったこいつも、悪魔なのか。
沖谷ナナコ「クロコ・・・・・・!」
ナナコさんが、目の前の悪魔を涙目で睨みつけている。
彼女はこの悪魔とも顔見知りのようだった。
クロコ「久しぶり。ナナコ」
沖谷ナナコ「クロコ、何でショコちゃんを撃った!」
クロコ「私が狙ったのはその人間じゃない」
クロコ「そこのフェイザーもどきを狙ったんだけど、それに気づいたその人間にジャミングされた」
フェイザー、もどき・・・・・・?
僕のことを指しているようだが、どういう意味だ・・・・・・?
沖谷ナナコ「じゃあ何で、ハックを狙ったんだよ!」
ナナコさんが、ショウコさんを抱きかかえたまま声を荒げた。
一方のクロコは涼しい顔で、構えていた銃を腰の赤いホルスターに戻した。
クロコ「それはナナコが、星木ミウのことを口にしたからだ」
沖谷ナナコ「っ・・・・・・!」
クロコ「これは、契約を違反している」
契約・・・・・・?
ナナコさんは何か、この悪魔と契約したということなのだろうか。
でも契約って、一体何を・・・・・・?
沖谷ナナコ「それは・・・・・・。でも、その時は確か、私を食べるって・・・・・・」
私を、食べる・・・・・・?
クロコ「これは警告だからだ」
その悪魔はさながらアンドロイドのように、淡々と話し続けている。
怒っているようにも、楽しんでいるようにも見えない。
沖谷ナナコ「・・・・・・」
クロコ「次は無い」
クロコ「ナナコ」
クロコ「このストーリーに必要無いことは話すな」
沖谷ナナコ「ストーリー・・・・・・?」
そしてクロコという名の悪魔は、一瞬で生徒会室の窓際へ移動するとそのまま窓の外へ飛び降りた。
「えっ! ここ四階・・・・・・」
僕はその窓から身を乗り出して下を覗いたが、悪魔の姿はもうどこにも無かった。