怪異探偵薬師寺くん

西野みやこ

エピソード28(脚本)

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〇けもの道
  走って洞窟を出てからは、振り返る気さえも起きなかった。
  オレたちは全員無言になる。
坂口透「・・・とりあえず、早く山を下りよう」
  もうじき日が暮れる。
  オレたちは来た道を急いで帰ることにした。

〇集落の入口
  少し息を切らしながら歩いたので、完全に日が落ちる前に宿に着くことができた。

〇古民家の居間
  宿の玄関を開けると、奥から女将さんが顔を出す。
  笑顔で迎える女将さんに、オレたちはひきっった笑みを浮かべた。
女将「おかえり。楽しんできたかい?」
坂口透「え、ええ」
女将「そりゃよかった! ご飯はもう少しかかるから、先にお風呂に入ってきなさい」

〇古めかしい和室
  女将さんの言葉に頷(うなず)いて、オレたちは手早くお風呂を済ませた。
  やっぱり、あれから皆口数が少なくなっている。
  それもそうだろう。
  まさかあんなものがあるなんて誰も思っていなかっただろうから。

〇古民家の居間
  女将さんに居間に呼ばれ階段を下りた。
  昨夜と同じように美味しそうな料理が人数分並んでいる。
  オレたちは手を合わせてご飯を食べ始めた。
  しかし昨夜と同じように会話が盛り上がることはない。
  女将さんは静かなオレたちを見て不思議そうにしている。
  オレはどうにかして山で見たものを忘れたくて、ヤケになって酒を煽った。
  哲平も雄大もつられて酒を飲む。
  食欲は湧かなくて、おかずを流し込むように酒を身体に入れた。
  加奈と梨香子も食欲はないようだ。
  梨香子にいたっては、全然食べられずにかなりの量を残してしまった。
女将「あら、お腹すいてないのかい?」
鈴木梨香子「ごめんなさい、ちょっとお腹の調子が悪くて・・・」
女将「・・・・・・」
  女将さんは、なにかを察したように真剣な表情でオレたちの方を向いた。
女将「あんたたち、あそこへ行ったね?」
坂口透「!」
  女将さんの言葉に全員が固まる。
  オレたちは気まずい気持ちで顔を見合わせた。
坂口透「・・・はい。すみません」
  オレがそう言うと、女将さんが長い息を吐いた。
女将「まさか、祠には近づいてないだろうね?」
  祠らしい祠があった記憶はない。
  もしかすると洞窟のことだろうか。
坂口透「こけしが並んでいる場所のことですか?」
女将「・・・!!」
  女将さんの目が見開き、顔が固まった。
  慌てた様子で立ち上がる。
女将「ちょっと待ってな。 ここから動くんじゃないよ」
  女将さんはそう言ってから、どこかへ行ってしまった。
  残されたオレたちはお通夜のように静かに黙り込むことしかできない。
  オレたちは、なにか大変なことをしてしまったんじゃないか。
  緊迫した雰囲気に梨香子は泣き出した。
  正直、オレも泣きたい気分だ。
  それから10分ほど経つと、宿にふたりの男性がやってきた。
  高齢の男性と壮年の男性はオレたちの前に出る。
  怒鳴られるのではないかと身構えていたが、意外にも口調は穏やかだった。
村長「私はこの村の村長、山河だ。 こっちは宮司(ぐうじ)の榊(さかき)さん」
  会釈するふたりにオレたちも会釈を返す。
  山河と名乗った男は、じっとオレたちを見つめる。
村長「・・・それで、君たちが藁置山(わらおきやま)に入ったのかね」
坂口透「はい。すみませんでした!」
  オレはばっと頭を下げた。
女将「私も悪かったわ。 あんな言い方したら興味を持って当然だもの」
女将「もっと詳しい説明していれば・・・」
坂口透「本当に、すみません・・・」
村長「いや、別に怒っているわけではないんだ。 ただ君たちが心配で・・・」
  怒っているわけではないと聞き安心したが、同時に言いようもない不安がオレたちを襲う。
相馬加奈「心配・・・ってどういうことですか?」
村長「・・・少し、この村にまつわる昔話をしよう」
  そう言って、村長は静かに語りだした。

〇集落の入口
  江戸時代の頃。
  日本のいたるところで飢饉が起こっていた。
  この村も例外ではなく、常にギリギリの生活を送っていた。
  そしてある日、日照りが続いて例年にない大飢饉がこの村を襲った。
  生きるために村の衆が議論を重ねた末、それぞれの家から出てひとりずつ子供を口減しすることになった。
  もちろん反対を訴える声もあった。
  しかし反対した住人は家族ごと処刑すると言うと、泣く泣く子供を差し出した。

〇けもの道
  それぞれの家から出された子供たちは村の近くの山に置いてくることになった。
  登るときに目隠しをしてから捨てたが、それでも次の晩には子供達の大半が戻ってきてしまった。
  これでは口減らしができない。
  男衆が集まり、もう一度子供たちを山へ捨てに行った。
  そしてもう二度と戻ってこられないように、子供たちの目を鎌でくり抜いた。

〇集落の入口
  くり抜いた目は持ち帰り、村の神社に集めてお祓いが行われた。
  それから1年ほど経ち、飢饉がおさまり村には平穏が訪れたかのように見えた。
  村では減った子供の数を元に戻すための対策が為され、積極的に子供を産むようなことが決まった。

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