天翔ける稲荷さま

オカリ

天翔ける稲荷さま(脚本)

天翔ける稲荷さま

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天翔ける稲荷さま
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〇山間の集落
  かつて狐は
  田の神だった

〇集落の入口
  金の毛並みはもみの色
  穀物神と祀られて
  田畑の側には狐塚
  稲の害敵、鼠をかじり
  霊獣として振る舞った

〇黒
  千年も昔の話だ
  世が進めば願いは変わる

〇神社の本殿
  乱世ならば武運を祈り

〇神社の本殿
  泰平なら商売繁盛

〇古びた神社
  近頃は病魔退散が増えた
  祈願の多様化、困ったものよ

〇古びた神社
  だが、神もまた変生す
  八百万の願いに応え
  鍛え上がった我が神格
  安産、厄除け、縁結び
  なんでもござれの万能神
  稲荷神とは我のこと!
稲荷神(と、思ってた)
稲荷神(今日までは)

〇古びた神社
小僧「お願いします!」
小僧「どうか僕に」
小僧「日本一の・・」
小僧「ペットボトルロケットを 作らせて下さい!」
  神さま働き幾星霜
  人生ならぬ神生初の
  奇天烈な願いだった

〇古びた神社
稲荷神「参った」
稲荷神「小僧め、言うだけ言って帰りおった」
稲荷神「無視しても良いが・・」

〇古びた神社
小僧「稲荷様」
小僧「僕の気持ちです」
小僧「受け取っ・・」
小僧「あ゛っ!?お年玉──」
小僧「──ぼ」
小僧「ぼぐのぎもぢでぇす!」
  うん
  叶えぬのも忍びないか

〇田園風景

〇大きな一軒家

〇木造の一人部屋
  おい
  おい、小僧
  おい!
小僧「うわ不法侵入!」
稲荷神「ふほっ──!?」
稲荷神「阿呆、とくと見よ」
稲荷神「ほら、神社の」
小僧「お稲荷様?」
稲荷神「うむ」
小僧「もしや願いを?」
稲荷神「聞き届けよう」
小僧「日本一の?」
稲荷神「天下無双の」
小僧「ペットボトルロケットを!?」
稲荷神「・・」
小僧「あれ?」
稲荷神「ぺっと・・な、うん」
小僧「まさか知ら──」
稲荷神「神に知らぬものは無い」
稲荷神「だが願いとは口に出すもの 申してみよ」
稲荷神「ただしっ」
稲荷神「・・専門用語ナシで頼む」
小僧「う〜ん」
小僧「見せた方が早いや」

〇田舎の学校
  翌朝
小僧「この石を置けば・・」
小僧「わ、ホントに出た!」
小僧「でも正体が石って・・不便だね」
稲荷神「あなどるなよ小僧」
稲荷神「神体宿る我が霊石」
稲荷神「コレさえ運べば何処にも・・」
小僧「固定確認、射角よし」
小僧「ロケット設置完了!」
稲荷神「神の言葉を聞き流すか」
稲荷神「大体なんだソレは」
稲荷神「ゴミか?」
小僧「へへ、見ててね」
小僧「空気を入れて」
小僧「発射ぁ!」

〇空
「いっけー!」
「空気の力で水を出す コレが僕のロケットだよ!」

〇田舎の学校
小僧「スゴいでしょ!」
小僧「稲荷様?」
稲荷神「・・」
小僧「わぉ尻尾ビンビン!逆立ってる!」
小僧「そんなに驚いたんだ 少し照れる・・」
小僧「じゃなくて稲荷様!」
小僧「ココから本題なんだけど・・」
稲荷神「全国大会?」
小僧「優勝したいんだ だから・・」
小僧「作るの手伝ってくれない?」
  かくして
  神と小僧の共同作業が始まった

〇田舎の学校
「いくよー!」
「稲荷様、飛距離は?」
稲荷神「む、40丈2尺だ」

〇木造の一人部屋
「稲荷様、材料は?」
稲荷神「ん、拾ってきたぞ」

〇田舎の学校
「稲荷様、固定できた?」
稲荷神「ぬ、バルブが・・」
稲荷神「ヨシ!」
稲荷神「──って」
稲荷神「何やらすんじゃ!」
小僧「どしたの?」
稲荷神「どうもこうもあるか!」
稲荷神「雑用ばかり投げおって」
稲荷神「人で事足りるなら神に頼むな!」
稲荷神「そも、なぜこだわる?」
稲荷神「たかがゴミ飛ばし 何の役にも・・」
小僧「これだけ、だから」
小僧「あのね」
小僧「僕、足が遅いんだ」

〇学校の体育館
  ドッジボールでも
  すぐボール渡しちゃうし

〇音楽室
  音痴だから
  合唱は口パク

〇教室
  勉強も九九でダメだった
  7の段って難しいや

〇田舎の学校
  でも
  授業で作ったコレが
  コレだけは1番になれた
  だから

〇田舎の学校
小僧「負けたくない」
稲荷神(なるほどな)
稲荷神(唯一の成功体験か だが・・)
稲荷神「いや、我は神 ただ叶えるのみ」
稲荷神「わかった、助力する」
小僧「稲荷様!」
稲荷神「ただし!」
稲荷神「──途中で諦めるなよ?」
小僧「もちろん!」

〇木造の一人部屋
  大会まで
  残り60日

〇散らかった居間
  30日

〇田舎の学校
  7日

〇広い畳部屋
  前日
稲荷神「まだ起きてたか」
小僧「うん、最終調整だけ」
小僧「瞬間接着剤だよ 大抵コレで直るんだ」
稲荷神「知らん はよ寝ろ」
小僧「・・」

〇大きな一軒家
  ・・降ってきた?

〇広い畳部屋
  ・・次は明日の天気です
  海上の熱帯低気圧が急速に発達し
  24時間以内に台風となる見込みです
  気象庁によりますと──

〇黒
  大会当日

〇空港の滑走路(飛行機無し)
稲荷神「空気が重いな」
稲荷神「やるのか?」
小僧「風によるって」
小僧「でも・・」
稲荷神「どうした?」
小僧「運営の話、聞こえちゃった」

〇空港の滑走路(飛行機無し)
  「まず中止だろう」って

〇空港の滑走路(飛行機無し)
稲荷神「そうか」
小僧「稲荷様と作ったのに」
小僧「台風、なんて・・」
稲荷神「はっ」
稲荷神「やっと『らしい』役回りよ」
小僧「稲荷様?」
稲荷神「我は言った 「人で事足りるなら神に頼むな」」
稲荷神「ならば」
稲荷神「人に及ばぬ時こそ神の領分!」
稲荷神「我は本来、田の神ゆえな」
稲荷神「晴れ乞いは得意ぞ?」
小僧「稲荷様!」
稲荷神「のわき雲よ ウカノミタマが命ず」
稲荷神「我が力に伏せよ!」

〇空
  ・・あれ?

〇空港の滑走路(飛行機無し)
稲荷神「あ、圏外だ」
稲荷神「神通力が届かん」
小僧「稲荷様ぁ!?」
稲荷神「仕様なかろう! 普段は山の上なのだ」
稲荷神「高度が足らん! わずかに高さが・・」
稲荷神「高さ・・」
稲荷神「待て」
稲荷神「アレならば届く」
稲荷神「弾頭に我を付けよ! ろけっとで高さを稼ぐ!」
小僧「でも着地は!?」
小僧「もし衝撃で砕けたら──」
稲荷神「案ずるな小僧」
稲荷神「我は神ぞ?」

〇空港の滑走路(飛行機無し)
小僧「ノーズコーン換装 霊石接着!」
小僧「固定確認、射角よし!」
稲荷神「耐圧限界は我が見る 無心で空気を入れよ!」
小僧「了解、充填開始!」
稲荷神「いまっ」
小僧「発射!」

〇空

〇雲の上
  雲よ、散れ
  顔を見せよ天照!

〇青(ディープ)
  なんと
  ろけっとの空が
  かくも美しいとは──

〇空

〇黒

〇空港の滑走路(飛行機無し)
小僧「稲荷様!」
稲荷神「小僧、か」
小僧「そんな、霊石にヒビが!」
稲荷神「うろたえるな」
稲荷神「・・大会は?」
小僧「予定通りやるって」
稲荷神「ならば行け」
小僧「でも!」
稲荷神「小僧、願いを忘れたか」
小僧「日本一の・・」
稲荷神「ああ、それとな」
稲荷神「今後は全力で走れ」
小僧「えっ?」
稲荷神「どっじぼぅるは自ら投げよ 合唱も大声で歌え」
稲荷神「九九は覚えよ、諦めるな」
稲荷神「勝ち気負けん気、大いに結構 その執着は小僧の宝だ」
稲荷神「けどな」
稲荷神「欲深く生きてみよ 命は短いぞ?」
小僧「でもコレしか・・」
稲荷神「人の向き不向きなぞ神にも読めんよ」
稲荷神「可能性を閉じるな」
稲荷神「小僧の行く末は」
稲荷神「蒼空で、見守って──」
小僧「稲荷様?」
「稲荷さまぁ!」

〇高い屋上
  〜20年後〜
小僧「稲荷様・・」
「主任!」
技術職員「もう、探しましたよ!」
小僧「ゴメンよ 良い天気なんで、つい」
小僧「予定通り打ち上げる 時刻は0800から」
技術職員「了解、では管制室で」
小僧「稲荷様」
  聞こえますか──

〇空
稲荷神「うむ」
稲荷神「感度良好よ!」

〇高い屋上
小僧「神通力、届いてますね」
小僧「あの時──」

〇空港の滑走路(飛行機無し)

〇高い屋上
小僧「子供の思いつきだったけど マジで直るとは・・」
小僧「瞬間接着剤ってスゲェや」
稲荷神「な〜にブツクサ言っとる」
小僧「本当に行くんですね? 後悔とか・・」

〇空
稲荷神「ない!思いっきり飛ばせ!」
稲荷神「一度きりの神生 まだ見ぬ空を求めて」
稲荷神「先に行くぞ小僧!」

〇高い屋上
小僧「お任せを!バッチリ飛ばしますよ!」
小僧「あの時と同じく、ね」

コメント

  • 読み終わった後に、とても爽やかな気持ちになりました!!映画をひとつ見終わったような満足感です!!
    凄いです・・・ストーリーも、キャラクターの魅力も、スチルも、効果音やBGMも、凄く綺麗に組み合わさって、天に翔けていった作品でした・・・凄いです・・・

    読んで本当に良かったです!!ありがとうございました!!

  • 稲荷の性格が本当にいそうだと思いました。こんな感じのマジでいそうですね…

  • とってもスケールが大きくてびっくりしました。
    まさかペットボトルがロケットに最後繋がるとは、心打たれました😃

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